Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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窮地

 関係各所に片っ端から連絡を取り、放課後に合わせて会議室に集合したのは会議をしよう、と言った3日後丁度だった。

 

 

「お集まり頂きありがとうございます。一応緊急事態ということで、いきなり本題に入らせてもらいます」

 

 この場に集ったのはポラリスの全員と千冬、楯無。そしてモニタ越しに紫苑とオッツダルヴァ。突然集まれ、と言われてこれだけ集まったのだから立派なものだ。

 

 

「先日報告したネクストですが、海上輸送が先週始まりました。今のところ北極周りで現在東シベリア海東沖およそ380海里を航行中、5日後には太平洋沖に到着見込みです。それまでに学園の防衛設備、及び周辺のコジマ汚染対策が必要です」

 

 そう、課題は学園防衛だけではない。ネクストが戦闘を行うことで発生するコジマ汚染への対策も必要になる。だが、"防衛"という建前上、十分に引きつけ、攻撃を受けて脅威判定をした上でないとこちらから反撃するわけにはいかなくなる。そうなると周辺への汚染は確実になってしまうのだ。姑息な手段としてはポラリスが喧嘩を撃った、流れ弾が学園へ飛んだ、と言う事で戦闘を行うことも出来なくはないが、世界を脅して今の立場を得た彼女らとしては更に貶めることはできるだけ避けたいところだ。

 

 

『喧嘩を売るわけにはいかないけど、売られるまで待っているわけにもいかない。難儀なものね』

 

 サクッと要約した紫苑も唸っている。いっその事沖合で実技演習でもすればいいか、と櫻がひらめいた時には束が先に言葉を発した。

 

 

「それじゃ、いっその事沖合で演習でもしたら?」

 

 ぐっ、まさに言おうとしていたことを…… と思ったか思わなかったか、苦い顔をする櫻。話をフラれた千冬も顔を顰める。

 

 

「突然言われても私だけではなんともできん。それこそ学年演習の形を取らないと――」

 

「いいんじゃありませんか? 織斑先生」

 

 立入禁止の札を下げた扉を開けて入ってきたのは学園長、轡木十蔵だった。櫻からすれば予想外の来客。そして、ある意味最強の援軍でもある。

 彼からある程度の行動を許されれば作戦自由度は大幅に上がることは間違い無いからだ。

 

 

「これはこれは、ポラリスの皆様、そして、天草さん、そちらの男性は……」

 

「彼は私の特別顧問、みたいな人です。小さい頃から色々と教わっていまして」

 

 オッツダルヴァが名乗ると轡木も会釈して返し、改めまして。と一息すると

 

 

「皆様、お初にお目にかかる方もいらっしゃるでしょう。IS学園長、轡木と申します。この度は当学園の為に尽力してくださる事をまず、感謝致します。そして、それに付きまして、私からもできるだけのお手伝いをさせて頂ければと思いまして、突然ではありますが、参りました」

 

 学園の長とは思えぬ腰の低さ。まぁ、この事態を思えば当然ではあるが……

 昨年のアメリカによる学園への侵入もポラリスによって事前に察知され、生徒の身分の複数人と一部の教師によって鎮圧されたことを鑑みるに彼も学園の防衛体制は弱いと認識しているのだろう。

 

 

「学園長」

 

 まず口を開いたのは紫苑。先ほどと変わらない調子で言葉を発していく。

 

 

「企業連をまとめています、天草です。同時に、学園に娘を預ける親でもあります。まず、私からお聞きしたいことが幾つか、よろしいでしょうか?」

 

「もちろん構いません」

 

 そう頷いたのを見ると続ける。

 

 

「学園長から見た学園防衛体制は十分なものでしょうか?」

 

「率直に申しますと不十分なものでしょう。我々は彼女らのように予測して対処、ということは出来ません。第一撃があってから動き始めますので、どうしても体制構築に時間がかかってしまいます。ですが、立場上、何処かから事前に情報を得て動く訳にも行きませんので……」

 

「では、学園長も今の問題点は把握していらっしゃるのですね」

 

「上げればキリが無いでしょうが、大まかには把握しているつもりです」

 

「そうですか。次に、万が一、現在恐れている事態が起こった場合に学園の防衛戦力をポラリス、及び企業連からの鎮圧部隊に加える事はできませんか?」

 

 この場にいる誰もが無理だとわかってはいるが、仮にもプロ集団。ヴァルキリーレベルの実力者が揃う鎮圧部隊が来ればまだマシといえる。一縷の望みを掛け、轡木の答えを待つ。

 

 

「お察しかとは思いますが、出来ません。たとえ学園沖で戦闘が発生したとしても我々に出来るのは学園施設への直接的損害を抑えることですから」

 

 まぁ、わかってた。みたいな顔で続けられれば少しは腹も立つだろうが、轡木は飄々とした表情のままドア付近に立っている。今更櫻が余っていたパイプ椅子を回すと広げて座った。

 

 

「こちらからも幾つか、よろしいですか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 促したのは進行と今回の発起人でもある櫻。彼女を見て基本的なことから抑えていく。

 

 

「今回の仮想敵、と言いましょうか。学園の危機はアーマードコアによる攻撃の可能性ですか?」

 

「そう予想しています。相手は元リンクス。IS至上主義に近い世界への報復が目的と思われます」

 

「なるほど…… それでは、最終目的は、撃墜。ですか?」

 

 彼からすれば一番の重要事項であろう質問が来た。"人殺し"が目的なら防衛体制に組み込まれる専用機を持った生徒を入れるわけにはいかないだろうからだ。さらに言えば、教員による防衛体制すら危うくなる。

 

 

「そうなりますね。無力化、が作戦目標になると思います」

 

「君は、それでいいと?」

 

「ネクストをエネルギー切れさせるまで飛ばした頃には学園周囲数十kmは人が住めないほど汚染されかねません。そうなる前に、撃墜するのが最善手かと」

 

「たしかに、理にかなっています。ですが、教師としての立場からは一旦止めなければなりません。それを振り切るかはあなた次第ですが」

 

「これもみんなのためです。本音……布仏にも言ったことですが、手を汚す人間は最小限であるべきなんです。ですから、すでに汚れきった私達が――」

 

「櫻、もういいわ。コレ以上は言わないで」

 

 唐突に紫苑が話を遮る。見れば束も少し目が赤い。事情を知らない数人が疑問に思う中で束が言う。

 

 

「先生。私達はすでに世界の半数を敵に回しています。何も言わないけれど、定期的にミサイルも飛んでくるし、ISが周囲を警戒飛行することもあります。世界がうまくいくためには必ず嫌われ者が必要だと思うんです。だから、それを私達が引き受けます。それだけなんです」

 

 何か察したような顔をした轡木だが、ふと目を閉じて窘めるように言う。

 

 

「コレはあくまでも私個人の考えですが、この世に悪やヘイトなんてものは無いと思っています。誰かは誰かの正義の為に行動しているはずです。それがまた違う誰かの正義とぶつかった時、初めて正義と悪、という対立に準えられるのでは無いでしょうか。でも、実際は正義と正義のぶつかり合いで、それぞれ良かれと思ってなすべきことをしているに過ぎないはずなんです。こう言ってしまうとこうして集まって対策を練る意味がなくなってしまいますがね。テルミドール君や博士はそう言いますが、あなた方の正義の為に、その行動は必要なのでしょうか? 自分を殺してまで、悪である必要はありますか?」

 

「学園長。彼女らにもなにかあってのことだと――」

 

「織斑先生、それは教師としての言葉ですか? それとも、彼女達の友人としての言葉ですか?」

 

 押し黙る千冬を見てから続けた。どこか悲しそうに。

 

 

「私は教師です。そして、あなた達の人生の先輩でもあると思っています。未来ある若者を、教え子を、危険だと分かる場所に進んで放り込むわけにはいかないのです。その一方で、学園を預かる者として、あなた達のちからを借りなければこの脅威に対応出来ないこともわかっているつもりです。ですから、一つだけ、協力するにあたって条件を出します。飲んでいただけないようでしたら、正式な協力はできかねます」

 

 ある意味脅しともとれるが、彼だって自身で言ったとおり、ポラリスに頼らなければ学園が守れないこともわかっている。その彼がいったいどんな条件を出すのか。

 全員が息を飲んだ。

 

 

「全員、必ず学園へ帰ってきてください。身体も、機体も怪我のないように、帰ってきてください。それだけです」

 

「その条件、飲んだよ」

 

 真っ先に反応したのは意外にも束だった。櫻、クロエ、マドカ、本音。スコールとオータムさえも頷き、全員が束を見ると彼女もまた大きく頷いて大きな声で宣言した。

 

 

「我々、ポラリスはIS学園の協力要件を受諾! 正式に協力を要請するものとします!」

 

「束……」

 

「分かりました。IS学園としても、皆様のお役に立てるよう、出来る限りサポートさせていただきます」

 

「それじゃ、具体的に詰めて行きましょう」

 

 全員が机上のホロマップに視線を集めた。

 

 

 

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「しかし、船旅もいいものだ。寒いのがたまにキズだがな」

 

「1週間は晴れて海も荒れないそうです。作戦遂行にも支障ありません」

 

「うむ。いいことだ。被験体は?」

 

「出港後更に5人が脱落。残こりは42です」

 

「大分減ったな。達成確率は?」

 

「戦術レベル1で9割、2で7割、3で3割です」

 

「レベル1で済むことはありえないだろう。高くて7割か。低いな」

 

「ですが……」

 

「ああ、わかっているとも。今はその7割に賭けるしか無いんだ」

 

 

 

 ――ある男の手記

 

 海に出て約1週間。何もない風景にも慣れてきた。双眼鏡を覗くと自然の芸術が見えることもあり、心が洗われる。

 ただ、檻の中の被験体が時折発狂する様を見るのには慣れない。また、使い物にならなくなったのを捨てるのもまた、慣れることはないだろう。

 今まで何人をも手にかけたとは言え、私も所詮甘い人間だということか。

 久しぶりのネクストが近い。懐かしい感覚に身を預けられるかが心配でならない。最悪、逆流してしまうだろう。私もまた、彼らと同じように薬で適正を得た身。いつ使い物にならなくなるか……


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