Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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櫻乱心

 IS学園アリーナにある整備科整備室。元の彼女の職場であり、放課後だけあって、生徒の声と金属同士のメカニカルな音が絶えない。

 櫻が何をしに来たかといえばここの1室を借りきって作ってきた夢見草の追加武装の仕上げだ。ついでに白騎士の進捗状況の確認もある。年が明けてから作り始めたコレを一月で作り上げたのは脅威が迫っていることと、単純に夢見草の専用武装が無かったからだが、それ以外にも思うところがあった。

 

 バシュッ、と音を立てて開いたドアを抜けると白く輝くソレが櫻を出迎えた。美しく磨かれたボディを撫でてからラップトップを機材につなぎ、エネルギーを通せば一層輝きを増した"翼"が大きく瞬いた。

 

 

「最後の仕上げ、君に名前を。私の最大の目標であり、最愛の人の名を」

 

 プログラムコードの最後、本来ならば適当なコードで済まされるそこにわざと文字列を組み込んだ

 

 

<name>

  <name set="Flügel von Leonhardt"/>

  #Ich Tribut anbieten, um spät Ritter

</name>

 

 

 キーボードを叩いていた手を止め、そっと翼に歩み寄りながら夢見草を展開させるとパッケージインストールに入る。

 

 獅子の翼、そう名付けられた2対4枚の翼。4枚と言いつつも上部は片側3本のハイレーザーキャノンで構成され、ソレが1対、計6門。下部は追加ブースターとなっており、第3世代のメインブースター相当の推進力を誇る2つのブースターが世界最速クラスの機動力を与える。

 

 そう、この翼は櫻の父親、レオハルトのネクスト、ノブリス・オブリージュに装備されていた EC-O307AB破壊天使砲をモチーフに作られた"第4世代"兵器なのだ。櫻の元専用機のノブリス・オブリージュに装備されていたソレとも比較にならない高負荷高火力の一発屋で、そのために繊細なエネルギー制御を可能とした"第4世代"として作られたのだ。

 

 

「ははっ、あははっ! 出来た、ついに出来たよファーティ! これで、コレで私は騎士(Ritter)になる!」

 

 完全に悪役じみた笑いをあげるところにエアドアの音が響く。とっさにドアの方を見れば簪とマドカ、本音の3人が「ヤバいものを見た」と言う顔で櫻を見ていた。

 

 

「み、見てた?」

 

「ばっちり」

 

「櫻さん、今のは完全に悪役かな?」

 

「いいネタが手に入った。今度姉さんと笑ってやろう」

 

 三者三様の反応にISを纏ったままうなだれる櫻。紅眼白髪の女がISを纏ってのけぞるように笑っていればそれは"堕ちた"ヒロインか、マッドサイエンティスト以外の何者にも見えなかっただろう。

 地面を精細に映し出す視界の一角にインストール完了の文字が出ると操り人形のように起き上がり、そっとISを量子化させるとふらふらと3人の方へ向かう。

 

 

「さ、さくさく? 今のはそっと心の中にしまっておくから、ね?」

 

「闇堕ちヒロインも好きだよ?」

 

「じょ、冗談だ! 姉さんもさすがにお前が悪役じみた笑いを浮かべていたところで『いつものことだ』とか言うだけだって!」

 

 背後に薄暗いオーラを纏った(ように見えた)櫻がふらふらと向かってくるさまは恐怖そのもので、現場仕事の経験のあるマドカですら冷や汗をかいてたじろいでいた。櫻はその3人の脇を抜けるとそのままふらふらとアリーナピットへ消えていった。

 慌てて3人が追えば年度始めに本音に禁止されたカタパルトから飛び降りての展開をまさに実行しようとしており、飛び降り自殺を決めた女子生徒にしか見えない櫻をマドカが内部に放り込んだ。

 

 

「ははっ、見られた。見られちゃったよ。ワタシオヨメニイケナイ……」

 

「大丈夫だ。姉さんもお嫁に行けないような経歴の持ち主だから、高笑いの数回なんてノーカンだって!」

 

「さくさくが時々狂っちゃうのは今始まったことじゃないしね~」

 

「きっとソレほどの傑作ができたってことでしょ?」

 

「ははっ、見ていろ貴様ら。この世に生まれた事を後悔させてやる……」

 

 3人が「あー、スイッチ入っちゃった」と残念な子を見る目で櫻を眺めているとISを展開、ふわりと浮き上がるとPIC制御でそのままカタパルトにセット。ISからの制御で飛び出していった。

 

 

「追うか?」

 

「ここまで来ちゃったら、ねぇ?」

 

「何を為出かすかわからない」

 

 そう話すやいなや、アリーナで悲鳴が上がった。慌てて見ればアリーナの真ん中で純白の蝶が羽ばたいていた。

 

 

「嘘だろ……」

 

「何アレ……」

 

「IS用の、武装……?」

 

 そう、IS本体の3倍はあるかという大きさの翼は一度に4枚作ることは不可能で、一枚ずつ作られていたのだ。最後の1枚を昨日完成させ、最後のプログラムだけを残していたのだ。

 だが、人望もある櫻がどうして悲鳴を上げられているのか。単にその雰囲気であろう。

 

 普段ならばうさぎのように愛らしくもある見える赤い目も今は生気の抜けた濁った色に見える。全身からは殺気を放ち、長い白髪は心なしか逆立っている。

 その背後では反対側のピットから5機が飛び出したのが見えた。

 

 

「アレはウチのクラスの奴らか」

 

「だね」

 

「コレは一荒れあるかな~」

 

「どうして楽しそうにしてるの?」

 

「え~、だってコレってきっとおりむーが下手なこと言ってさくさくがキレて瞬殺するやつでしょ~?」

 

 そう言ったそばからズガン! と何かが地面にたたきつけられる音が響く。地面には白式が転がっていて、セシリアと鈴が傍で櫻を見て何か怒鳴りつけているのが見えた。

 

 

「早くいかないとマズいやつだ」

 

 マドカがそう言うと3人はISを展開、アリーナに向かってかけ出すと縁を蹴ってブースターを吹かした。

 

 

 

「櫻! どうしたの!? こんな感情的に力を振るうなんてらしくないよ!」

 

「うるさい、今はただ虫の居所が最悪なだけだよ」

 

「自分でいいますの……?」

 

 シャルロットの呼びかけもボケ流され、背中の翼を大きく羽撃かせると一夏を見下ろす。

 

 

「さぁ、一夏。三途の川を見に行く覚悟は出来たか?」

 

「なんだよ覚悟って、ソレよりそんな物騒な翼早くしまって話を聞けよ!」

 

「物騒? コレが? やっぱりお前はそんなだから……」

 

 翼の上半分が折りたたまれ、両肩から飛び出す6門が一夏を捉える。エネルギーが収束し、高周波音が響くと

 

 天に向けて6条の光を放った。

 

 

「助かった……のか?」

 

「マドカ、なんで……」

 

「お前な、たかがアレだけでコイツ殺すか? 見ろよアレ、エネルギーシールドぶち破ってんぞ」

 

 今までの襲撃の教訓から多層構造になったはずだが、内側からいくつかのレイヤーを貫通、アリーナは警報が鳴り始めていた。

 周囲の生徒は圧倒的威圧感を放つ櫻からさっさと離れていたためにいつのまにか逃げていて、当番の先生の「全員退避」の放送が全館に響いていた。

 

 

「死なない。ISが守ってくれるから。絶対に……」

 

「死なないから殺していいのか?」

 

「…………」

 

「おい、一夏。おまえ櫻に何言ったんだ?」

 

「いや、ただ、その物騒な翼を仕舞えって……」

 

「ソレだな」

 

「は?」

 

 周りが疑問符を浮かべるなか、マドカは本音に聞いた。

 

 

「本音。あのシルエット、どこかで見たことないか?」

 

「えぇ~? ちょうちょ?」

 

「はぁ…… ラウラ、お前なら解るだろ」

 

「前に乗ってた第2世代の背部武装だな」

 

「その通り。それをわざと、今、このタイミングで作ったんだ。理由が無いわけない」

 

「で、櫻があの羽にこだわる理由って何なの?」

 

「ファーティの、ファーティの翼だから……」

 

 いつの間にか翼も消え、力なく浮かぶ夢見草に支えられるように櫻が消え入りそうな声でつぶやいた。

 全員が櫻に視線を送る中、マドカが続けた。

 

 

「"こんなとき"だからこそ、今持てる技術を全部突っ込んで父親の剣を取ったんだろ? それがこのザマか、お前の親も泣いているだろうな。コレじゃ箒と変わらないじゃないか」

 

 箒と変わらない、と言う言葉にカチンときた箒だったが、グッとこらえてマドカを睨むと気にも掛けない様子でさらに捲し立てる。

 

 

「恥ずかしいところを見られ、自慢の翼を馬鹿にされ、ふんだり蹴ったりで腹が立ったから逆ギレか、大層なご身分だな」

 

「あぁ、まったくもってそのとおりだ。織斑妹」

 

 同じ声、だが、発せられた場所は自分たちの真下。油の切れた機械のようにマドカが視線を落とせば我らが織斑先生がIS用ブレード片手に立っていた。

 

 

「ふん。アリーナに化け物と聞いたが、やはりお前か」

 

「私は力に負けました……」

 

 ゆっくりと高度を落とすと、地面に着地と同時にISを解除した。周囲もそれに続く。

 

 

「みたいだな。全く、紫苑さんが見ていたらなんというか……」

 

「ムッティにも、ファーティにも顔向けできませんよ」

 

「自分でわかっているならまだいい。そうだ、布仏、更識」

 

「「はいっ」」

 

 突然呼びかけられて背筋を伸ばす2人。向き直った織斑先生はイタズラっぽい笑みを浮かべながら言った。

 

 

「第3整備室に白い機体が置いてある。そいつを7割にして持ってきてくれ」

 

「え?」

 

「2度も言わせるな。第3整備室に置いてある機体のコアを7割開放して持ってこい」

 

「「はいっ!」」

 

 慌てて駆け出した2人を見送ると残った面々を前にして千冬はこう言い放った。

 

 

「どうやらテルミドールはストレスがたまっているらしいな。友人の悩みは私達の悩み、そうだろう? ボーデヴィッヒ」

 

「はい、そうであります!」

 

「ふふっ。そこで、だ。友人のストレス発散に少し付き合ってやろう。この先こんな調子だと困るからな」

 

「何をすれば?」

 

「テルミドール対全員でISバトルなんてどうだ?」

 

「先生正気ですの!?」

 

「教師に向かって正気か? とは失礼だな、私はいつでも正気だ」

 

「ですが千冬さん、今の櫻にそれは……」

 

「織斑先生だ。何があったか知らないが、折れた心を戻すには時間をかけるか、力で荒療治のどちらかと相場が決まっている」

 

「それって先生が面倒だからなんじゃ……」

 

「何か言ったか? 鳳」

 

「なんでもありません!」

 

 当人を置いてけぼりで話が進む櫻の折れた心を叩き直す作戦だが、肝心な櫻はすでに地面にぺたんと座ってただ千冬を眺めていた。

 

 ――あぁ、私はなんてことをしてしまったんだろう。たとえこの翼を貶されてもその力に物を言わせては……

 

 ――武器を扱うということは人を殺せるということだ、人を殺せるということは自分も殺せるということにもなる。浮ついていると殺されるぞ。武器にも人にもな

 

 何時かの父の言葉が思い起こされる。浮かれていた。沈んでいた。今の自分はきっと武器に殺される。父の翼に


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