Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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悩みは尽きない

1月も半ば。イタリア半島のとある海沿いの都市。

 

 

「ほう、アイツが……」

 

「ああ。危うく殺されるところだった。幸いにもコイツのお陰で助かったがな」

 

 そう言った女はそっと自分の(シリエジオ)のチャームが付いたネックレスを撫でた。

 

「桜、か……」

 

「どうした? お前が花を見るとは」

 

「いや、彼女のことを思い出してな」

 

「彼女……? あぁ、レオハルトの娘か。何度か顔を合わせたくらいしか無いが、どうなんだ? 実際」

 

「どういう意味だ?」

 

「漠然としすぎたか。人間として、開発者として、そして、戦力としての評価だ」

 

「ふむ……。人間性は極めて普通。オールドキングのような狂い方もしていなければ、メノ・ルーほど純粋でもない。そうだな、一番近いのはウィンだ」

 

「あの堅物に似てるのか? 面倒そうだな…… アイツ、ウチのトップになってからもう10年は経つが、堅実経営過ぎてな……」

 

 少し笑うとカップに注がれたお茶を一口飲んだ。彼女の脳裏に浮かんだ年下の社長の姿に少し苦味を覚えたが、カップを置くと続きを急かした。

 

 

「開発者としては文句なく優秀だ。今は知っての通り篠ノ之束の下にいることだしな。更に言えば、彼女はネクストも造れるだろうな。それを考えるならば篠ノ之束以上に厄介かもしれん」

 

「ほう。それで、AMS適正は?」

 

「不明だ。シミュレータに乗せたことがあるからローゼンタールのデータを漁ればあるかもしれんが、まだレオハルトが生きていた頃だ。残っているかどうか」

 

「なるほどな。ネクストの腕は?」

 

「MOON-LIGHTでレオハルトのノブリス・オブリージュを真っ二つだ」

 

「は?」

 

「言葉通りだが? 先ほど言ったシミュレータに乗せた時のことだ。1週間の訓練でレオハルトを真っ二つに斬った。機体の上半身と下半身を綺麗にな」

 

「嘘だろ……」

 

「本当だ、今でも覚えている。ウィンも見たことがあるはずだ、気が向いたら聞いてみればいい。もし、AMS適正があったならばカラードランク1桁は固いな」

 

「嘘だろ……」

 

「2度も同じことを言うか」

 

「リンクスNo.4が斬られた、なんてそんな簡単に信じられるか」

 

「はぁ……。インテリオルに学生が居ればな。さっさと学園でぶつければ済んだのと言うのに……」

 

「だからウチのトップは頭が固いんだ。6個もコアがあるってのに乗ってるのはみんな私みたいな時代遅ればかり。それで、コアを余らせてるってんだから驚きだ」

 

「頭が固くて悪かったな、セレン」

 

 うげっ、と年甲斐もない声を出すセレンを一瞥すると、堅物ことウィンはその隣に腰を下ろした。

 

 

「ははっ、いいタイミングだったな。それで、お前は企業の機体を学園でテストする、と言う気は無いのか?」

 

「数カ月前から学園と話をしていた。機体はシリエジオのコピーを作ったわ。エイ・プールが学園に向かってる、数日後にはテストね」

 

「そんなの聞いてないぞ?」

 

「今はじめて言ったから。紫苑には話を通してある」

 

「これで学園にテストパイロットを持っていないのはオーメルだけか」

 

「肝心なテストパイロットが"死んでしまった"からな」

 

「そうだな。彼女はしばらくパイロットを取らないだろう」

 

「でしょうね。彼女とローゼンタールの2人で事足りるもの」

 

「グループの強みか」

 

「ああ。それに、オーメルにはもともとコアが少ないから仕方ない」

 

「さて、話を本題に戻そう――」

 

 

 ――これから現れる我々の敵に

 

 

 

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 イギリスの一件から早くも3週間、季節はすでに2月に入ってしまった。どうしてこれだけの時間が経ってしまったかといえば、それは単にコジマ粒子の試験場の確保に少しばかり時間がかかったからだ。

 紫苑経由でオーメル持ちの試験場を取ってもらったとは言え、連絡から4日掛かり、試験に5日、結果の分析に1週間掛け、それから武装の試作に入ったのだからペース自体は驚異的だが、ポラリスの面々にはすこしばかりの焦りが現れていた。

 

 

『対PA用エネルギー武装、試作品が出来たからまた明日からオーメルでテストをしてくるよ』

 

「うん、分かった。お願いね。お姉ちゃんもクロエも、無茶はしないでね。いざとなれば通常武装でもなんとかなるから」

 

『わかって入るけど、非効率的だからね。出来る限り急ぐよ。本当ならさくちんも居れば7日は早く完成しただろうけど……』

 

「ごめん、こっちもこっちで学園の事が……」

 

『うん、わかってるよ。今はポラリスの全員がそれぞれの仕事に当たってる。わかってる』

 

「最小限の人数でこなしてるからこそ、こういう時にね」

 

『でも、今はそんなことを愚痴る時間じゃないよ。じゃ、次は完成品を量産したらね』

 

「頑張ってね」

 

『それだけで束さんは元気3倍だよ!』

 

「お、おう……」

 

『冗談だよ、もっとやる気出た。じゃ、ちーちゃんにもよろしくね』

 

「そうだ、千冬さんで思い出した。そろそろ白騎士が出来そうだよ。整備科は朝から夜まで整備室に詰めっぱなし」

 

『頑張ってるね~。最終調整はさくちんとのほほんちゃんでね』

 

「もちろん。そこでコア開放も一緒に」

 

『よろしい。じゃ、お休み』

 

 こっちはまだ昼なんだけどなぁ、と思いつつも通話を終えて携帯をしまうと櫻は整備科、制作室に向かった。そこにあるものを取りに行くために。


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