Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
ここのシミュレータを使い始めて1週間、櫻はだいぶ、と言うよりかなり強くなっていた。
そして、今日も総合演習ということで実践形式の訓練を行う予定だ。
「おっちゃんたち、お願いね」
「ああ、わかってるよサクラちゃん、始まったら、機体のデータを書き換えよう」
「あの機体はもはや何でもあり、ですからね」
「うん、だって"みんなでかんがえたさいきょうのねくすと"だよ? いくらファーティが強くても―」
「操縦者の実力差以上の機体性能差を出せば―」
「勝てる。ローゼンタール最強に」
「そして言うなら、サクラちゃん、君はファーティとの実力差があまりない。コレは君の努力で埋めたものだ―」
「さらに、君には才能がある、まだまだ強くなれるんだ。さぁ、超えていこう」
「「「「我社の
盛り上がる技術者陣、その理由を知らないレオハルトは、
―今日で最後だし、別れを惜しんでるのだろうか
くらいにしか考えていなかった。
やはり、小さい女の子、さらに自社最強のリンクスの娘ともなれば社内の至る所で可愛がられ、その上、ソコにあるものに片っ端から興味を示すのだから、技術者達は懇切丁寧に説明して回った。
それもあってか、櫻はローゼンタールの社員によくなついていた。
もともと人懐っこい子ではあったが。
「よっしゃぁ! やる気120%だよ! ガフナーのおっちゃん、ファーティの天使も準備してるよね?」
「もちろんだ、やるからにはどちらも本気でぶつかってもらわねばな」
「よし、ありがとうおっちゃん! じゃあ、みんなの期待にこたえなきゃね!」
「ああ、頼んだぞ。サクラちゃん」
そうして櫻はベッドに横たわり、ヘッドセットを被った。
技術者達にウィンクをし、
「がんばってくるからね」
技術者たちも頷き返すと、戦場へと繋がった。
「遅かったじゃないか、サクラ」
「いやぁ、ガフナーのおっちゃんたちとおしゃべりしてたらねぇ」
「人に懐くのはいいが、あまり迷惑かけるなよ? 彼らにも仕事があるんだ」
「わかってるよ、じゃぁ、最後の練習。楽しもう!」
「そうだな」
櫻がニヤリと笑い、
「ガフナーのおっちゃん、アレお願い!」
そう言うと2人の視界は白で埋められ……
晴れた視界には天使と、桜が居た。
「どういうことだ、サクラ。そしてガフナー、お前もだ」
「最後にどうしてもファーティと本気でやってみたかったんだよ! いっつも余裕だし、だからガフナーのおっちゃん達にお願いして、サクの専用機、作ってもらったの」
『ということだ、レオハルト。可愛い子に頼まれては、なぁ? お前ら』
ガフナーに振られ、部屋にいるのであろう技術者達が
『おう』『よっしゃみしたれ!』『一世一代の親子喧嘩だ!』
など口々に言いたいことを言っている。
「そういうことか。ならば娘だからと情けはかけない、この空間なら死なんしな―」
それに、
「―全力で向かう者に情けを書けるのは騎士道精神に反する」
ならば行こう、娘の全力に、全力で答えてやらねば。
それが父親の優しさだろう。
「さらに、サクラの父親だからな。娘のわがままに応えるのも父の仕事だろう」
「そうこなくっちゃ!」
『では二人共、準備はいいかね?』
「「応ッ!」」
「ローゼンタール所属、リンクス、レオハルト・フュルステンベルクとノブレスオブリージュ。全力でお相手致そう」
「櫻・天草・フュルステンベルクと桜吹雪。負けないんだからね!」
そうしてここに、親子の戦いの火蓋が切って落とされた 。
「行くぞ」
「いつでもかかってこいっ!」
レオハルトの短い言葉から始められた親子対決、何も知らない人間ならば、レオハルトが娘を瞬殺して終わらせると考えるだろう。
だが、そうも行かなかった。
螺旋を描き放たれた光の矢を真横にQBで回避する櫻。
そしてお返しと言わんばかりに
「いい反応だ、だが、狙いがわかりやすいな」
だが、いとも簡単に避けられてしまう。
「ならっ!」
背中のシリウスを畳み、左腕の
弾幕を張られ、少しはPAが削れているのか、緑のスパークを放つ。
だが、レオハルトも馬鹿ではない、こんな弾幕の中でいきなりQT、2段ブーストで一気に距離を詰め、
「私の武器はアレだけではないぞ?」
そう言って
「私だっていっぱい持ってるもん!」
歯には歯を、と言わんばかりに櫻も
「装備は一級品を集めたな。だが、前に行っただろう、使いこなせなければ武器に殺されると」
事実、月光は発動間隔がながいため、連続で振れないだからこうして―
「間合いを詰めれば勝てる」
「させないっ!」
爆発。この規模は背中の
「面妖な、変態技術者どもめ……ッ!」
いくらPAによる威力減衰があるといえども、ほぼゼロ距離で放たれた大口径グレネードは大きくノブレスオブリージュのAPを削っていた。
爆炎と煙で視界も悪い。
――まずいな、今のでかなり削られた、だが、あの距離ならサクラも同じはず。
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「サクラちゃん、ノブレスオブリージュの強みは何だと思う?」
それは櫻の専用機、桜吹雪のアセンを考えていた時のことだ。
「なんでもできる、こと?」
「そうだな、なんでもできる。距離が離れていようとも、近くにいようとも、確実に相手を倒せる」
「だから困ってるんだよぉ」
そう、ノブレスオブリージュの最大の特徴は汎用性、遠距離ならばレーザーキャノン、中距離ならアサルトライフル、近距離ならレーザーブレードとありとあらゆるレンジで戦える。それがノブレスオブリージュの強みだ。
「だがな、サクラちゃん、なんでも出来る人に勝つ方法が1つだけある」
もったいぶった笑顔を櫻に向け、
「なになに? 早く言ってよおっちゃん!」
「自分の得意なことで勝負することだ。それなら勝てる可能性が生まれる」
「得意なこと、ねぇ……おっちゃん、サクの得意なことって何だと思う?」
「そうだなぁ、サクラちゃんは剣の扱いが上手じゃないか?」
「そうだね、ブレードは大好きだよ!」
「なら、それで勝負しようじゃないか。」
「でも、どうやってブレードの届くところまで近づくの?」
「なに、簡単だ、自分が見られなければいい」
「なるほど! おっちゃん頭いい!」
「伊達にここの偉い人してないぞぉ。だからな、こういう作戦で行こう―」
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――おっちゃん、本当に作戦通り行ってるよ。さすがだね!
開幕とともにシリウスで牽制、そしてモーターコブラで距離を保ち削るように見せかける。そうすれば必ずレオハルトは突っ込んでくる。そしたら月光で相手のブレードをとりあえず防ぎ、その間に雄琴を展開、発射とともに反動とQBで後退してダメージを抑え、相手の視界を奪う。
その隙に
「行っけぇぇぇぇ!!!!」
OBで加速し、威力をました月光で叩き切る。
レオハルトの戦い方を知り抜いた、ガフナーならではの作戦だった。
白金の天使の真横を、桜吹雪が舞った。
「っしゃぁ決まったぁ!」
確実にあたった手応えから、決まった、と確信していたが。
「浮かれるな、と言っただろう?」
「―ッ!」
螺旋を描く光の矢が2条、桜色の機体を貫いた。
「だが、いい筋だった。さすがは私の娘だ」
月光に引き裂かれ、脚部まるごと吹き飛ばされたノブレスオブリージュ。
櫻の太刀筋が良すぎるがために、綺麗に真っ二つになるだけで終わってしまったのだ。
もう少し上を斬られていれば。
――危なかったな、胴をあの威力で抜かれていれば、コアごと吹き飛んでいた。やはり私の娘だけある。
苦笑いしながらインジケータを見るとAPは残り――39
――サク、ってか。くくくっ。いい戦いだった
「うにゃぁぁあ負けたぁぁあぁ!!!!」
シミュレーターから帰還した櫻を迎えたのは彼女の機体や作戦に携わった技術者達。
紫苑も壁際で少し呆れた笑みを浮かべていた。
「でもいい戦いっぷりだったよ、サクラちゃん。ほら、ジュース持ってきたから機嫌直してよ」
「そうだぞ、あのNo.2の下半身ぶっ飛ばしたリンクスなんて居ないんだからさ」
「それでも負けは負けなのぉ! うわぁぁ、やっとファーティーに勝ったと思ったのにぃ!!」
最後の一太刀で勝負が決まったと思い込んでいた。
それは外から見ていた彼らもまた同じで、櫻の雄叫びと同時に彼らもまた叫んだものだ。次の瞬間には静寂が包んでいたが。
「お疲れ様、櫻。ファーティーに一矢報いたのは事実なんだから、めげない。また次来た時にやればいいでしょ」
「ムッティぃぃ、でもぉ」
「でももなにもない、確かに負けたけど、それでまた強くなれるのよ。人はそういういきものなんだから」
「うぅぅ」
「サクラちゃん、お疲れ様、実にいい戦いだったねぇ。まさに作戦通り。最高だったぞ」
今回の作戦参謀、ガフナーがガシガシと雑に櫻の頭を撫で回す。
「おっちゃぁん、ごめんなさい、負けたぁ」
「なに、謝ることはない。本気でぶつかって、この結果だったんだ。実際レオハルトも厳しかっただろうに」
あえて父ではなく、レオハルトと呼んだのは、櫻に相対したレオハルトは、父親であるだけでなく、騎士として向かっていたからだ。
彼もまた、言葉通りに本気で攻めていた。
「噂をすればなんとやらだな?」
部屋に入ってきたレオハルトに、先ほどのような殺気はなく、櫻の父であり、教官のそれをもって入ってきた。
「よくやったな、サクラ」
「うぅ、でもまた負けたもん」
「だが、今までで一番いい試合だっただろう」
「そうだけど――」
「サクラ、結果にだけ縛られてはいけない。重要なのはその中で何を得るかだ、勝ち負けではなく、自分の成長する糧になる―そうだな、自分が学べることを学び取ったものが勝ちだ」
「ムッティにも同じようなこと言われたぁ」
「そりゃ、な」
レオハルトは紫苑をみると、同じように紫苑もレオハルトを見て、
「それは、ね」
「「私達夫婦だし」」
ガダッ、と周りが崩れ、
「うわぁ、ムッティとファーティーの馬鹿ぁぁぁ」
ローゼンタール本社の休憩室は、いつもはない笑い声と暖かい雰囲気に包まれていた。