Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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新たな脅威

「アーマードコアが? 今更?」

 

『その可能性があるんだよ。衛星画像を見た限りではわからなかったけど、コジマが検知されたからにはね』

 

 イギリスでコジマが検知されたとの情報を得た櫻からアーマードコアが新規に製造されている可能性を示された束の最初の考えは『なんで今更そんな古い兵器を?』と言う当然の疑問であった。

 細かい話をこうして学園に戻ってきた櫻としているのだが、やはり論点はそこだった。

 

 

「すこし整理しよ、ACが持つ対ISの利点ってなに?」

 

『高い生産性、使う兵器を選ばない……他には……なんだろ?』

 

「実際そんなに無いんでしょ? 数が揃えられても乗り手をIS以上に選ぶわけだし」

 

『それなんだよね。AMS適正をもつ人間なんてIS適正Aの人間より少ないだろうしね。少なくとも私が知ってる限りはAMS適正を向上させる技術は無い。擬似AMS技術はあったけど、実際のネクストを動かすことは出来ないしね』

 

「さくちんの知らないところで技術が進んでる可能性もあるけど、数ヶ月でそんなに変わるものかな?」

 

『無いな。断言できる。それに、ムッティも何も言ってこないしね。だからなぜいまさら? としか』

 

「あぁぁ、よくわかんないよ。でも、とりあえずは絶対防御がコジマを防げるかってことと、IS用エネルギー兵器でプライマルアーマーを貫通できるか、または減衰させられるのかの実験ね。コレは箱を用意しないとなぁ」

 

『さすがにいきなり人体実験ってわけにはいかないしね。それに、コジマ物質を生成するのにも時間がかかるし、多分、ムッティに裏でお願いしたほうが早いよ』

 

「だね。企業連ならコジマ技術試験用の施設もあるだろうし」

 

『ムッティには私から頼んでおくから、お姉ちゃんは実験機器の製作を』

 

「言われなくても。日程も追々ね」

 

『あいよ~。じゃ、またね』

 

 電話が切れると携帯をエプロンのポケットに仕舞い、椅子をくるりと回すとすっかり人の少なくなったデッキでパンパン、と手を打った。最多時でも6人しか同時にいた事のないこの 揺りかごクレイドルだが、クロエと2人きりよりもずっと人の気配があるだけ気が楽とだったと思う。

 振り返ったクロエにこれからの仕事を伝えると2人で研究室へと消えていった。

 

 

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 IS学園でも櫻が学園のシェルターの耐久性や対ABC性能を基準にコジマ粒子に耐えうるのかを調べ、学園に配備されたISとその装備から対ネクスト戦を想定したウエポンパック策定などを行っていた。

 何処の誰かは知らないが、今更骨董品を持ちだされてはこの周囲が使い物にならなくなる可能性も出てくる、それだけはなんとしても避けなければならないのだ。

 

 

「さくさく~、頼まれてた資料、持ってきたよ~」

 

「ありがと。それにしても機密資料多すぎでしょ。それを取ってくる本音も本音だけどさ」

 

「えへへ~。織斑先生にさくちんが『学園の設計資料と備蓄装備の資料が欲しい』って言ってた~。って伝えたらこれ全部渡されて絶対に無くすな見せるな、って念を押されちゃったよ」

 

「なるほどね、千冬さんのおかげか。にしても、何? この未使用区画の数は。どんがらの区画だけで教室数の倍はあるんじゃないの?」

 

「そういうのはよく分かんないけど、何に使うの?」

 

「あれ、本音には言ってなかったっけ? 対アーマードコアを想定した防衛策の立案」

 

「なんでアーマードコア? ISに取って代わられちゃったじゃん」

 

「でも、コジマ反応がイギリスで検知されちゃったから、最悪を考えないと」

 

「さくちんはオーバーだなぁ。でも、リスクマネジメントは大事だよね~」

 

 リスクマネジメントとは無縁そうな本音からそんな横文字が出てきたことで手を止めて口を開ける櫻、そんな事を知ってか知らずか頭にはてなを浮かべて「どうしたの~?」といつもの調子で聞いてきた。

 

 

「いや、まさか本音の口からリスクマネジメントなんて言葉が出てくるとは……」

 

「この前お姉ちゃんがそんな話をしてたからね~」

 

「虚先輩はきっちりとこなしそうだしね。本音も少しは気をつけなよ? テストで赤点を取って説教される、というリスクを避けるために今から勉強するのもリスクマネジメントだよ?」

 

 少し悪い笑みを浮かべてそう言うと、本音は苦い顔をして台所へ向かった。

 

 

「さてさて、お仕事お仕事っと……」

 

 久しぶりの仕事らしい仕事にスイッチを切り替えると、机に向かった。

 

 

 

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「それで、計画の方は」

 

「確実に進行中です。約7割といったところかと」

 

「いいペースだ。春には間に合いそうだな。諸国の反応は?」

 

「何処にも気づかれていないかと。特にこれといった動きはありません」

 

「あの女が余計なことをしなければ予定通りに進みそうだな。よろしい。猫は」

 

「現在72人を薬剤投与で飼育中です。現時点での失敗は28例。50は確保できそうです」

 

「少し育ちが悪いな、仕方ないか……」

 

「薬の改良は続けているので、もう少し数字は改善するかと。それで、犬ですが……」

 

「釣れないか」

 

「はい。どうしても学園内は監視の目が強く、学園外から連れてくるしか……」

 

「まぁ、想定内だ。よろしい、手を広げろ。使えるメス犬は使え」

 

「はっ」

 

 窓の外には数々のビル、眼下には夜だというのに休むこと無く動き続ける人々と川のように連なる車の光。そっとスイッチを押してカーテンを閉めると、男はテーブルから葉巻を拾い、火を付けた。

 

 

「さぁ、覚悟していろ、もう一度、今度こそISを世界の中心から引きずり下ろしてやるからな」

 

「それはどうだろうな?」

 

 男がつぶやいたところで背後からの声に遮られる。はっきりとしたトーンの女性の声だ。

 

 

「来たか、セレン」

 

「どうして今更呼び出した。古い知り合いからの呼び出しだと思えば、なんだ、その格好は」

 

「ふふっ、いいだろう? こうしているとまるで悪の組織の主領みたいだね」

 

「お前が何を考えているのかは知らんが、要件を手短に話せ、私も忙しいんだ」

 

「そうか、なら単刀直入に聞こう。またネクストに乗る気は無いか?」

 

「は? 寝ぼけてるのか?」

 

「私は正気さ。またネクストに乗って欲しい。今度は企業ではなく、自分たちの為に」

 

「わかってると思うが、私はインテリオルの人間だ。今更会社を裏切るようなことは出来ん」

 

「どうしてだ、リンクスであるお前が、新しい兵器にすべてを奪われたお前が、どうしてそんなことを言える?」

 

「はっきりと答えることは出来ないな。ただ、私はISを動かせる。より実戦に則した形で。それが要因の一つかもな」

 

「そうか。堕ちたな、お前も。やはりお前に声をかけたのは間違いだったか。仕方ない……」

 

 腰に手を掛けると、そっとホルスターから銃を抜き、眼前に構えた。

 

 

「脅しのつもりか?」

 

「いや違う、始末だ」

 

 パン、と乾いた発砲音が響くと同時に男の横を一陣の風が吹いた、窓が割れ、高所の突風が部屋を荒らす。

 目の前にいたはずのセレンはおらず、ただ、吹き飛ばされた男が一人、壁にもたれかかっていた。

 

 

「専用機……。想定外だ……」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ああ。ただ吹き飛ばされただけだ、少し休めばいい」

 

「交渉決裂、でしょうか」

 

「そうだな。始末するつもりだったが、ISを持っているとは……」

 

「申し訳ありません、私のミスです」

 

「いや、仕方ない。機体とパイロットの情報は国はともかく、企業はトップシークレットだ。それこそ、篠ノ之束ほどのクラッカーでも用意しないと……」

 

 グッ、と呻くと顔をしかめる男。秘書の肩を借りて立ち上がると穴の開いた部屋を後にした。


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