Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
フランスで色々と有意義な数日間を過ごした一行が最後にやってきたのは予定通りイギリス。この国で最後の1週間を過ごす予定だ。何はともあれ、パリを始発のユーロスターで発って3時間ほど。電車はロンドン都心部のセントパンクラス駅に到着した。
駅で入国審査を済ませると広々としたアーケードへ。するとシャルロットの携帯が鳴った
「あ、お母さんだ。もしもし」
リリウムがシャルロットの携帯の位置情報でも見ていたのだろう。そういう所は過保護というか、なんというか……と櫻がリリウムの娘の溺愛っぷりに嘆息したところでシャルロットが話を終えて携帯をしまった
「お母さんこっちにくるって。多分30分位かな」
「リリウムさんに帰るって言ってたの?」
「一応ね。けどいつ帰るかは言ってなかったから」
「こりゃ夕飯が豪華になりそうだね」
「い、イギリスのご飯、ですか……?」
心配そうに言ったのは山田先生。その口調に一抹の不安が乗っているのに気づかないほどセシリアは鈍感ではなかった
「失礼ですが山田先生、一口にイギリスのご飯とおっしゃっても一流レストランの料理はちゃんと美味しいものですのよ?」
「日本人のイギリス料理への偏見が見えたね」
「だね……」
「リリウムさんが来るまで時間を潰すか。上にカフェがあるが、どうする?」
「構いませんわ。今日明日はロンドンで過ごす予定ですし。幾つかルートも考えてありますので」
「生粋のイギリス人のオルコットさんですから、きっと良い所を案内してくれると期待してますね」
「もちろん、山田先生にもう一度と言わず、何度でも来たくなるように選りすぐりのスポットをご案内いたしますわ!」
「すごい気合だな」
「ね。私もイギリスに関してはほとんど触ってないしね……」
「え、ホント? でも、セシリアだし、大丈夫だよね?」
「ま、英国貴族様御用達スポットを巡れると思えば」
「ハズレはなさそうだね」
「うん」
セシリアがこそこそと内緒話をする3人に目を向けると
「なにかありまして?」
「いや。セシリア気合入ってるな、ってさ」
「もちろん。祖国を案内するのに適当なんて申し訳が立ちませんわ。それに、わたくしは国家の顔としての役割も一応ありますし。お客様をきっちりともてなすのは貴族の礼儀でしてよ」
「ノブレス・オブリージュ。って誰に教わったんだっけなぁ?」
数年前のパーティーが思い出される。まだ垢抜けない少女であったセシリアに貴族として、最低限の心得としてノブレス・オブリージュを説いたのはだれでもない櫻だったのだから
それを思い出したのか、顔を赤くすると「これも櫻さんの一言故ですわ!」と言ってくるりと身を翻すとエレベーターに向かって歩いて行った
「ふふっ、空回り気味なのがセシリアらしくていいね」
「笑っちゃダメだよ。彼女は真面目なんだから」
「それもそうだね。僕もシティしか知らないから楽しみだな」
「私はそもそも国外がだな……」
「いいじゃん。いろんな国に行って、色んな物を見るのもまた経験だよ」
「そのつもりだが、いかんせんこんなペースでいろんな国を回るのは初めてで、少しつかれたな」
「ラウラがつかれたって言うなんてね。明日は雨かな」
「ロンドンでそれは洒落にならないなぁ」
「?」
頭に疑問符を浮かべるラウラの手を引くと、櫻とシャルロットはセシリアと大人2人の後を追った
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コーヒーを一杯飲みながら溜まった仕事を片付ける櫻やシャルロットは高校生にして早くもキャリアウーマンの風格が見え隠れしている。それに対する真耶は……
「にがっ! 少し濃い目ですねぇ……」
「そうか? 私はこれくらいが好みだが」
「先輩はいつもいつもブラックで飲んでるから感覚が狂ってきてるんですよ~。普段コーヒーを飲まない私には苦いんですっ!」
とまぁ『コーヒーが飲める=大人』な構図をあっさりとぶち壊していた
シャルロットと同じように一企業に務めるラウラはノートパソコンを広げるようなことをせず、甘めのコーヒーをすすりながら窓の外を眺めていた。
「あ、着いたみたいです。下のパンクラスロード側にいるって」
「そうですか。これで冬休み最後のイギリス旅が始まるんですね」
期待に胸を膨らませる真耶を始め、一行はアーケードを抜け、駅の東側、キングスクロス・セントパンクラス駅との真ん中を通るパンクラスロードに出た。
するとまっていたのは黒塗りのセダンが3台。リリウムは真ん中の車に寄りかかって携帯を見ていたが、こちらに気づくと大きく手を振った。
「おかえり、ロロット。みんなもようこそ、イギリスへ。とりあえずまずはお昼かしら。さ、乗って」
「えっと、おばさま。お昼は予約をとったレストランがありますので、そこで」
「あら、そう? じゃ、そこに向かいましょうか。何処にしたの?」
手短に場所を伝えると「ああ、そこね。わかったわ」と返事をして2人共車に乗り込んだ
セントパンクラス駅から車で20分ほど、ソーホーの一角にある少し古めかしい見た目の建物の前に車を停めると、ドライバーが慣れた手つきでドアを開けた。思いがけない待遇の良さに少し挙動不審な真耶以外は慣れた様子でレストランに入っていく。
そしてセシリアが受付で2言3言話すとテーブルに案内された
「それで、ここでは何を食べられるんでしょうか?」
「ローストビーフですわ。定番のイギリス料理ですの。だからまずはそれを食べて頂いてからイギリス料理をゆっくりと楽しんでいただければ幸いですわ」
「ローストビーフですかぁ。楽しみですね~」
しばらく待つとそれぞれの前に美しく盛られたローストビーフと付け合せのプディングが出てくる。
「いただきます」の一声で食べ始めるとふっつうに美味しいのだ。グレイビーソースと合わせて口の中でふわりと広がる香り。プディングも一緒に食べてしまえば大満足だ。
そうして初っ端から美味しいイギリス料理を味わった一行は再び道路に出ると
「次の行き先はベイカーストリート221Bですわ」
「妙に具体的だな。何があるんだ?」
首をひねる千冬と対照的に、少し悩む素振りを見せた真耶はすぐに答えを出したようで
「ああ! アレですね! ふふっ、楽しみです!」
「山田先生は読書家だとお伺いしてましたので、読んだことがあるかと思っていましたが、正解だったようですね」
「はい! ミステリーの中では大好きなものの一つですね」
「では、行きましょうか」
妙にテンションの高い真耶と、頭に疑問符を浮かべる数人。リリウムは笑顔を浮かべたまま頷いていた
また車で10分ほど、新旧さまざまな建物が立ち並ぶベイカーストリートを行くと、少しして車が止まった。道が混んでいるので手早く、というドライバーにしたがってそそくさと車を降りると「221b」のプレートを眺めて目を輝かせる真耶とそれを見てなるほど、と頷く千冬だった
「さて、もうお分かりでしょうが、このベイカーストリート221bと言う住所は名探偵、シャーロック・ホームズがワトスンとともに下宿していた住所ですわ。いまは博物館になってますの。ですから、そこを見学しようかと」
「こ、これがホームズの……」
「頼めば帽子とマントを被って記念写真も撮らせていただけますわ。それは帰りにしましょうか」
「はいっ!」
入館料を数ポンド支払うと17段の狭い階段を抜けて居間に出る。どうやらここでも帽子を被って記念写真を撮れるようで、ホームズの被っていた帽子をかぶると千冬相手に「これは事件だよ、ワトスン君」とわざとらしく言うのだった。
まるで子どものようにはしゃぐ真耶を見た千冬はいつもの様に呆れた笑顔を浮かべ、学生たちはあまりの豹変ぶりに少し引くのであった。
ひと通り見て回り、お土産を買うと玄関先でワトスンに扮する紳士と共に記念写真を取り、もう満足です、と言わんばかりの顔で一行は今夜の宿へと向かうのだった