Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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年明け一発目(追記 暁に年明けに上げた話です)は山田先生のヨーロッパ紀行、ドイツ編です。

ヨーロッパでの話は文字数が稼げるからありがたい……

数話続けてからまた最後の事変にはいります。


ドイツの朝食

 冬休みは4日目。山田先生のヨーロッパ紀行はスイスでのスキーを終えてコンスタンツに来ている。

 移動の初日とスイスでの2日間は天気にも恵まれ、絶景と最高の雪でスキーを楽しめたが、今まではよかった天気が一変、目が覚めると辺りは一面の雪に覆われていた。それも数日間は雪が降ったりやんだりするという。

 そのせいか、屋敷の主人は不在で、誰もいない静まった夜の館に入るのは少しの勇気を必要とした、と申し添えておく

 

 フュルステンベルク邸の客室で目を覚ました真耶は凍りついた窓から景色を見て驚いた

 

 

「すごい雪……。まるで絵本みたいですね……」

 

 庭は雪で覆われ、森の木々は雪をかぶってさながら映画のワンシーンのような景色を見せていた。

 どこかの誰かと違い、少女の心を忘れない真耶はこんな中で王子様でも来たら本当に絵本だなぁ、とか考えつつ、窓の外に夢を託していた

 

 

「真耶、起きてるか?」

 

 ノックとともに聞こえた声は王子様ではなく、千冬のもの。だが、彼女の少し低めの声が逆に真耶の夢を加速させた

 

 

「は、はい。大丈夫です!」

 

「何をそんなに慌てている。入るぞ」

 

 小さく笑いながら入ってきた千冬。慌てて現実に意識を戻した真耶は余り見ることのない寝起きの千冬をまじまじと見るとソファに腰掛けた

 

 

「どうした、そんなに見て。あぁ、寝ぐせか?」

 

「え、ええ。先輩のこんな姿見たことないなぁ、って」

 

「私だって休日は気を抜くさ。それより、少し散歩しないか? 美味いパンを出す店があるんだ」

 

「いいですね。ドイツのパンってライ麦が多いんでしたっけ?」

 

「北の方はそうだな。まぁ、今となってはあまり関係ないだろうがな」

 

「パンが星の数ほどあるって聞いたことあるので楽しみですね」

 

「そうだな。じゃ、20分後に玄関でな」

 

「はい!」

 

 ふふっ、もっと気を抜け。と言って千冬は部屋を出た。

 千冬と休日を"まとも"に過ごすなんて何年ぶりだろう、と思い出しつつ身支度を始める。

 

 

「久しぶりにしっかりとお休み出来そうです!」

 

 休むのに気合を入れるのが真耶らしいかもしれない

 

 

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「ラウラ-、朝ごはん食べに行こー」

 

「また外にでるのか? さっき走ってきた時にはくるぶしくらいまであったぞ」

 

「別にいいじゃん。湖畔のカフェでさぁ。セシリアとロッテも誘って」

 

「はぁ、分かった。付きあおう。お前のおごりだぞ?」

 

「はいはい。ミルヒブレートヒェンとココアでしょ~」

 

 すたすたと階段を駆け下りて行く櫻をラウラはため息で見送った

 

 

 

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「先輩」

 

「ああ、来たか。行くぞ。コンスタンツ湖のほとりだ。20分位で着く」

 

「はいっ」

 

 そうしていつぞやと同じ道を通って森を抜け、白く染まった湖までゆっくり歩くとちょうどいい感じにお腹もすいてきた

 

 湖畔に佇むモダンな店からは白い湯気がもくもくと上がり、ここまでパンの匂いが漂ってくる

 

 

「あのお店ですか?」

 

「ああ。夏にラウラに教えてもらってな。ミルヒブレートヒェンがお気に入りらしい」

 

「ミルクパン、ですか?」

 

「まぁそんなとこだ。他にもいろいろあるから悩むといいぞ」

 

 店に入るとパンとコーヒーの匂いに満たされ、いるだけでお腹いっぱいになりそうだ。

 千冬がそっと真耶の手を引いてショーケースの前に行くと「さぁ、散々悩め?」とからかうようにいった

 

 本当に多くのパンが並ぶ中で白いパンを見つける。札には"Milchbrötchen"と書いてある。どうもコレがミルヒブレートヒェンらしいと目星をつけ、他には……と見回す

 

 

「本当にいっぱいあって迷っちゃいますね。先輩のおすすめはなにか無いんですか?」

 

「そうだな。シンプルにブレートヒェンをジャムやマーガリンで食べるのがいいな。後は自分が美味しそう。と思ったものを食べればいい。ハズレは無いからな」

 

「そうですか……、じゃぁ、そうしましょうか」

 

 そう決めると拙いドイツ語で注文を告げていく。千冬はそれに続いて3種類ほどを頼むと、最後に小さいジャムを頼んだ。

 

 頼んだパンの数々が乗ったトレーを持って席に着くと、ほぅ、と思わず息を吐く

 

 

「さ、食べるか。どれもライ麦が日本のパンに比べれば多いからマーガリンをつけるといい」

 

「ほぅ……」

 

 千冬の見よう見まねでブレートヒェンを上下に切り分け、マーガリンを塗って一口囓る。

 するとパンの匂い、味が口全体に広がった。今まで食べたパンは何だったのか、と思ってしまうほどの美味しさに思わずにやけてしまう

 

 

「う~ん。美味しいですねぇ」

 

「だろう? そしたらいろんな付け合せで食べればいい。ミルヒブレートヒェンはそのままでいいぞ」

 

 そしてゆったりとした時間を過ごすと、少し騒がしい面々がやってきた

 見慣れた金髪、目立つ銀髪。千冬は見て見ぬふりをしてコーヒーをすする。

 

 

「私がテキトーに頼んじゃうから席取って~」

 

 耳なれた声もスルー。どうもまだ気づかれてないらしい。千冬にとっても真耶と過ごす久しぶりの休暇だ。ゆっくりしたい。

 

 バスケットいっぱいのパンを持った櫻が千冬の隣を通ると

 

 

「あ、千冬さんに山田先生。おはよう御座います。朝ごはんですか?」

 

 あっさりとバレた

 

 

「ああ。久しぶりにゆっくりできるからな」

 

「天草さん達は何を頼んだんですか?」

 

「ブレートヒェンとかそこら辺と付け合せを適当に。千冬さんは本当に無難なのが好きですねぇ」

 

「シンプルイズベストだ」

 

「山田先生のそれは……。千冬さんの勧めですね? ここのミルヒブレートヒェンはラウラのお気に入りなんですよ。甘くて美味しいです」

 

「みたいですね。さっき先輩から聞きましたよ」

 

 立ち話をしていると「櫻ぁ、早く~」と急かす声が聞こえたために、じゃ、家で。と櫻はテーブルに向かった

 

 

「すごい量でしたね。バスケットいっぱいで」

 

「ここの店は持ち帰りもできるんだ。その時はさっきのバスケットでもって帰れる。なにかおやつに買って帰るか?」

 

「そうですね。プレッツェルとか食べたいです」

 

「いいな。それなら――」

 

 

 やはり美味しいものに目がないのは何歳になっても変わらないらしい

 

 

 

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 朝食を済ませ、湖畔に出た真耶と千冬。雪は止んでいるが、積雪は多い。湖も凍っているようで、湖が雪で覆われている様はなかなか幻想的であった

 

 

「凍ってるな。真耶、立ってみろ」

 

「え、えぇっ!? いきなり割れてずぶ濡れとか無いですよね?」

 

「雪がつもるほどだ。飛んだりしなければ平気だろう」

 

 恐る恐る水面に下りる真耶を見守る千冬。

 それを見守る千冬の口角が少し上がってた

 

 

「それっ!」

 

「ひぇっ!?」

 

 ちょうど千冬の方に向いた真耶を待っていたのは手のひら大の雪玉。まともに食らった真耶はあっさりと転んでしまう

 

 

「わ、割れて……ない。何するんですか!」

 

「いや、凍った湖でやることと言ったらコレだろうと思ってな」

 

「もう! 子どもじゃあるまいし……」

 

 少しすねたように唇を尖らせてそっぽを向いた真耶、その目に飛び込んだのは白い世界から浮かび上がる対岸、メールスブルグの古い町並み。うっすらと見えるソレは朝霧に霞んでまるで絵本に出てくる魔法使いの街であるかのように映った

 

 

「きれい……」

 

「だろう? 夏は夏で緑が鮮やかでな。町並みとのコントラストがいいんだが、冬もまた雰囲気があっていいな。映画のワンシーンみたいだ」

 

 いつのまにか隣に並んでいる千冬が言う。彼女らしからぬセリフにクスっと笑うとすぐにいつもの口調で「行くぞ」と言って踵を返すのを追う。いつもどおりの2人がここにあった

 

 

 

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 また少し歩いてフュルステンベルク邸に戻ると前庭を抜け、大きく重い扉を開ける。

 広間の真ん中まで歩くとふと、人の雰囲気を感じた。

 

 

「まて、誰か居る」

 

「えっ? 天草さん達じゃ?」

 

「ん? そもそもあいつらはカフェにいた。どうして扉が開いてたんだ?」

 

「あ……」

 

「ゆっくり下がれ、そのままな」

 

 考えられるのはひとつ。泥棒だろう。ここはひとまず屋外に退散、櫻に連絡を取るのが得策だと判断して2人はゆっくりと後退る

 

 

「Freeze. raise your hands」

 

 冷たい声で告げられたソレは背中に感じる固い物体とともにその場での有利が失われたことを意味していた。

 

 

「はぁ……」

 

 ため息とともにおとなしく両手を上げ、振り返……りざまに相手の腕を捻り上げ、銃口を上に向ける。それとともに足を払って相手の首に手を回す。一瞬の芸当に真耶は唖然としていた

 

 

「Don't move」

 

 地面に転がる拳銃を真耶が蹴飛ばしたのを見ると、千冬は相手の顔を見た。

 

 

「ん……? お前は……!」

 

「ち、千冬さまっ!?」

 

 慌てて手を放すと、千冬に銃を向けた相手、クロエは軽く咳き込みながら

 

 

「千冬さま、どうしてここに? 山田先生も」

 

「櫻から聞いてないのか?」

 

「家には帰る、としか。それに今湖畔のカフェに居るようですし」

 

「はぁ……。今回は真耶がクラスのパーティーでヨーロッパ一周をプレゼントされてな。それでだ」

 

「なるほど、それで」

 

「クロエさんがいるってことは……」

 

「だな……」

 

 目線を向けられた千冬は階段を駆け下りてくる駄兎を視界に捉えると肩をすくめて首を振った

 

 

「ちーちゃぁぁん! 会いたかったよ!」

 

「お前はいつもっ! ものの表現がオーバーなんだ」

 

 アイアンクローをかましながら束が飛びついてきた衝撃を往なす光景はすでに見慣れたものとなっていた。

 思わず真耶もクロエもため息をついてしまう

 

 

「どうしてちーちゃんと無駄乳が?」

 

「無駄乳っ!?」

 

「櫻だ」

 

「あー。さくちんと他に3つ、コアの反応が湖畔で固まってるからてっきり友達連れて帰ってきただけかと思ってたけど、思わぬお友達だね。まるで家庭訪問……」

 

「いうな。私だって仕事したくはない」

 

「時々目に余りますけどね……」

 

「ま、さくちんらしくていいや。2人は朝ごはん済ませてきたの?」

 

「ああ。誰もいないから外でな」

 

「この天気だしね。ママさんはさっきチューリッヒに着いたって言ってたから昼には帰ってくると思うよ」

 

「天草さんのお母さんって、企業連の?」

 

「現CEOだな。顔くらいは見たことあるだろ」

 

「ええ。それはもちろん」

 

「実際は結構フランクな人だ。安心しろ」

 

「はぁ……」

 

 そう言って話しているうちに櫻達も戻ってきて騒がしさを増す。

 ラウラはクロエに抱きつき、シャルロットとセシリアは束を見て苦笑いを浮かべた

 

 

「あ、お姉ちゃん。帰ってたの?」

 

「おかえり、さくちん。まどっちは一緒じゃないの?」

 

「あぁ、マドカなら一夏君と一緒に織斑家に」

 

「本当か? 冗談だろう……」

 

 思わず声を上げたのは2人の姉たる千冬。マドカがいないことは疑問に思っていたがクレイドルに戻ったのだとばかり思っていた。それに一夏からも何も聞いてない

 

 

「あぁ、どうも思いつきみたいですよ? ドイツに帰るけど一緒に来る? って聞いたら「私はわたしの家に帰る。」って」

 

「あいつら、上手くやってるのか?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ? って無責任な……」

 

「何とかやってるでしょ。姉弟ですし」

 

「不安でならん。後で電話してみよう」

 

「面白いことになってることを期待しときます」

 

 後ろではセシリアとシャルロットが束に捕まり、食堂へ連行される姿が目に入ったが気に留めずに真耶を食堂へ案内する

 

 

「じゃ、暇ですしまったりしましょうか。まだ主がいませんけど」

 

「ええ。そうさせてもらいます」

 

 

 真耶のヨーロッパ紀行はまだ半分も過ぎていない。


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