Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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英国淑女の憂鬱

 寒い寒い日本の冬。もう少し暖かい島国出身の彼女もまた、他の留学生同様、制服の上に更に羽織ものを追加して氷点下ギリギリの外を歩いていた

 

 

「それにしても、リアーデさんも田嶋さんも酷いですわ。私と櫻さんをスポンサー代わりにして……。お陰でチェルシーに怒られてしまいました……」

 

 ことは数日前の騒ぎ。彼女と櫻でくじ引きの景品を揃えたが為に2人合わせて数万ユーロをクラスメートと先生のために吹き飛ばしたのだ。

 それも、ヨーロッパ旅行の案内人を任されてしまい、彼女の冬休みの計画はパーである。

 

 さらにさらに、計画を詰めるとかなんとかで田嶋に呼び出されたのが数分前。

 日暮れ前の寒さが痛い外に出たのが30秒ほど前、すでに心が折れそうである

 

 

「やはり、日本の冬は堪えますわ……。スコットランドもこんなに寒くありませんのに……」

 

 なんだかんだでイギリスは温帯の国。冬も朝の気温が氷点下、なんてことは多くない。日本に来て8ヶ月が経つが、夏はそれほどでもなかったにしろ、冬がこれ程に辛いとは想像外であった。

 事前に調べて対策を打ったとはいえ、コレではまるでスキー場、と思ったのは彼女だけではなさそうだ

 

 

「セシリア~!」

 

 呼ばれて振り返れば白い息を吐くシャルロット。白いロングコートがよく似合っている

 

 

「シャルロットさん。こんな時間にどうしましたの?」

 

「律に呼ばれてね。セシリアもそうじゃないの?」

 

「ええ。本当、彼女も人使いが荒いですわ」

 

「だね。いきなりメールが来たと思ったら、アリーナ集合! ってね。慌てて上着着て飛び出してきたよ」

 

「わたくしもそうですわ。まさかこんなに寒いとは思いませんでしたけど」

 

「ほんと、日本って寒いよね。僕もこの前持ってるジャケットじゃ寒くなってコレ買ったんだよ。でもフィンランドとか、寒いとこ出身の娘たちは平気そうだから、環境の違いって大きんだな、って思うね」

 

「そうですね。夏にダウンしていた方が輝いて見えますわ」

 

「くくっ、そうだね。あ、櫻が待ってる」

 

 アリーナの前で待っていた櫻に手を振ってかけ出すシャルロット。セシリアも続く。

 それにしても、なぜ食堂や部屋でなく、アリーナなのだろうか?

 

 

「ごめんね、こんな時間に呼びだしちゃって」

 

「いえ、わたくしもプランナーの一人ですから。田嶋さんたちは?」

 

「上の小会議室だよ。大きな3Dホロマップが使えるのがそこしか無くてさ」

 

「なるほど。それで」

 

「2Dなら部屋でもできたんだけどね。ま、行こうよ、寒いしさ」

 

 そう言って歩き出した櫻に2人も続いた

 

 

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「おっす、セシリア、シャルロット。わざわざご足労頂きありがとさん」

 

「やっほ~」

 

「それで、どうして僕まで?」

 

 暖房の効いた暗い部屋で1畳以上あろう大きさの3Dマップを囲んで待っていたのはリアーデと田嶋。

 机上の地図には赤い点がいくつか輝いている

 

 

「セシリアはイギリスの、ロッテにはフランスでのプランを担当してもらうからね。私はスイスとドイツ。ソレ以外はみんなでやろう、ってことにしたんだ」

 

「したんだ、って。決定事項ですの?」

 

「もちこーす」

 

「はぁ……。それで、この点が山田先生の希望したスポットですの?」

 

「そだよ。見事に有名な場所ばかり、あと時々田舎町に付いてるけど、どうしてだろ」

 

「多分、お酒が有名なところじゃないかな?」

 

 地図を眺めながら答えたのはシャルロットだった。

 

 

「なんで?」

 

「いや、多分だけど、フランスのボルドーとか、ブルゴーニュとか、ワインで有名なところにポイントがついてるから、なんとなくね」

 

「なるほどね~。櫻にもわからなかった謎を一発で解くとは、さすがだね」

 

「ってことは、呑んだくれ旅、ですか」

 

「多分。こりゃ酷いことになりそうだね。織斑先生も一緒だからなんとかなるかな?」

 

「山田先生お酒弱そうだもんね~」

 

「じゃ、大きなヒントが出たとこで、プランニングと行こうよ。ヨーロッパは任せた!」

 

「言い出しっぺがやらないでどうするの、りっちゃん!」

 

 

「はぁ、大変なことになりそうですわ……」

 

 イギリスのあちこちに散在するポイントを見つめて、セシリアはため息をついた

 

 

 

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 プランニングに頭を悩ませた翌日は幸いにも土曜日、来週からは冬休みとあってわざわざ外にでる人は多くない。

 セシリアは珍しく1人で駅前に来ていた

 

 

 ――ここに一人で来るのは初めてですね。普段と違って少し、寂しいですわ

 

 昨日より寒さは和らいだものの、相変わらず冷たい風が吹き抜ける

 特にやることもなかったために出てきたはいいものの、これといって目的もないために目についた喫茶店に入ることにした

 

 

「ホットティーを、ストレートで」

 

 店員に短く注文を告げ、荷物を下ろすと周囲の喧騒と相まって頭が回り始めた

 

 思うことは今までの様々な出来事。

 2年、いや、3年前の冬に櫻と出会い、翌年には念願の代表候補生になることが出来た。数多のライバルを破ってBT実証機のパイロットになることが出来たのは去年の夏だった。そして今年、なんの事無く学園へ入学、櫻と再会を果たし、また、強い 人一夏とも会うことが出来た。そこで出会った仲間たちもまた、自分をより高みへと引き上げてくれた。

 

 そして、春先のお高い雰囲気は何処へやら、クラスメートの為にとパーティーで初めて仮装をした。その時見た数多くの笑顔は彼女の記憶の何処にもないものだった

 

 

「ホットティーでございます」

 

 目の間に置かれた紅茶にも気づかず、彼女は思案を続ける。

 

 良い出会いの一方で、春、夏、秋、と季節毎に招かれざる客がやってきた。それは無人機であり、暴走したISであり、奪われた姉妹機であった。

 そこでの経験は自身のおごった心を叩きのめすには十二分。だからこそ、フレキシブルを会得する為に毎日アリーナに篭った。今までにないくらい無心にレーザーを放ち続けた。知らない間にやつれていたようで、鈴やシャルロットに止められもした。その甲斐あって、今では低かった専用機持ちの間での勝率も上がってきている。相性の悪い一夏にも、勝ち星の割合が増えてきた

 

 そう考え続けるうちに紅茶の湯気は消え、ぬるくなったダージリンに思い出したように口をつけると、砂糖も入れてないストレートティーはなぜか、心が暖かくなる甘さを含んでいた

 

 

「たまには一人も、いいかもしれませんね」

 

 ――ですが、誰かと一緒に居たほうがいいのは、当たり前ですわね

 

 

 冬休みに一夏の家に突撃する計画も大事だが、友達と一緒に過ごすのもいいな、と改めて思い直したセシリアだった




アイデアが浮かばなかったんだ。許せ。

セシリア回。珍しく主人公のセリフが片手の指で足ります。それに、地の文が多い←これ重要

恐らくは文字が稼げる海外回をやって、新年を迎えさせてからクライマックスですかね。
自分の考える物語なのに全く予定が立ってないっす。プロットも何も立てずに勢いで書くとこうなるから困る。

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