Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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閑話: やまやうきうき

「はい。今日の授業は終わりですね。連絡事項もないのでSHRなしで帰っていいですよ~。あぁ、テルミドールさん、この前のヨーロッパ旅行のことを色々聞きたいのでいいですか?」

 

 普っ通ぅの1日も一段落、6時間目の授業が終わった。

「うぅ~ん!」と唸って伸びをするクラスメートの間を抜けて山田先生の元に寄る

 

 

「この前もらったヨーロッパ旅行ですけど、日程とか決まってますか?」

 

「あぁ、それですか。日程は冬休みは2日目、26日から1月の14日までの20日間。まぁ、冬休み丸々つかう感じですね」

 

「うぅ……。それは先生も仕事を溜めないように今のうちから頑張らないといけませんねぇ。それで、プランとかも決まってるんですか?」

 

「いいえ?」

 

「えっ?」

 

 普通のパック旅行のように決められたプラン通りに過ごすのだとばかり思っていた先生が思わず面食らう。

 

 

「決まってませんよ?」

 

「えぇ~!? ど、どうするんですか?」

 

「いや、折角だから当てた人が行きたいところに行ってもらおうかなぁ、と。先生も何かあるでしょ? 冬のアルプスでスキーとか」

 

「そんな急に言われても困りますよ。それに後1週間位で決めないと天草さんも色々困るでしょうし……」

 

「そうですね~。人気スポットは今から予約入れても間に合わないでしょうね」

 

「なおさらダメじゃないですかぁ……。織斑先生ならなにか知ってますかね?」

 

「どうでしょう? ドイツで1日飲み続けとか言いそうですね。あまり浮かばないならこっちで決めちゃいますし、ウチのクラスの留学生に聞いてみたらどうですか?」

 

「ソレはソレで……。って、そうですね。オルコットさん達に聞いてみます」

 

「じゃ、1週間後にはまとめておいてくださいね。そしたら私達でプラン立てるので」

 

「わかりました。お願いしますね」

 

 

 

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「それで、やまやはヨーロッパ20日間をなんだかんだで楽しみにしてそうだよね」

 

「だね。帰りもサクにいろいろ聞いてたし」

 

「ごめん、待った?」

 

「いんや、全然。山田先生はなんて?」

 

「日程とプランは~? って。自分で決めてください。って言ったらいつもみたいにふぇぇ~ってなってたよ」

 

 放課後の食堂でケーキをつまむのはリアーデ、田嶋、櫻の仕掛け人3人集。

 リアーデはスキーの方のプランをまとめ、田嶋は温泉のプランをまとめた張本人だ。

 それぞれ当選者に伝達済みで、楽しみにしてもらっているとのこと。櫻も上機嫌だ

 

 

「ヨーロッパの地理とかさっぱりだからリアーデとサクにお任せ~」

 

「えぇ、りっちゃんも考えてよ。日本人から見てここがいいとかさぁ」

 

「えぇ~? 冬のヨーロッパでしょ? そうだなぁ、雪の降る町並みとか?」

 

「「あぁ~」」

 

「え、そんなにしっくり来た?」

 

「ま、ね。外国人観光客が冬の金閣寺を見たくなる感じと似てるのかも、って」

 

「そう? その例えだと祇園の町並みくらいな感じだと思うけど」

 

「あの~、おふたりさん? 話がぶっとぶのも結構ですけど、ほかに何かありません?」

 

「ないね」

 

「無いかなぁ」

 

 即答するジャーマン。呆れるジャップ

 

 

「二人共ドイツ人でしょ~? ドイツのイイトコ何かないの~?」

 

「りっちゃんや、それは『おめー日本人だろー、京都のイイトコ教えろやー』って言ってるのと同じ感じだよ? 正直有名ところくらいしかわかんないでしょ?」

 

「あ、ハイ。ワカラナイです」

 

「それに、地元って馴染みすぎてたり、国内でも南と北で全然違うから何も言えなかったりね」

 

「だね~。リアーデって実家は何処なの?」

 

「私はブレーメンだよ。櫻は?」

 

「あぁ、真逆だね。コンスタンツ」

 

「国境じゃん。さすがに行ったことないなぁ」

 

「だよね~」

 

「あの~、おふたりさん? 地元トークも結構ですけど、話進めません?」

 

 

 結局、地元トークやあーでもないこーでもない、と唸り続け、面倒なんで今日はコレで、とお開きになったのは日が傾き始めた頃だった

 

 

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「うまうま。さくさく~。食べる~?」

 

「ん~? あぁ、それかぁ……」

 

 時刻は9時。夕食も終わった櫻と本音。しっかりと食べておきながら、本音はどこから手に入れたのか、タイヤの味がすると有名?な不味いグミ、シュネッケンをパクパクと口に放り込んでいく

 

 

「ハマる人が一定の割合でいるとは思ってたけど、何で本音まで……」

 

「なにふぁいっふぁ?」

 

「口にもの入れて喋らない」

 

 うんうん。と首肯する本音。そこに扉がノックされる音が響く

 

 

「は~い。どなたですか~?」

 

「私だ」

 

 よく通るこの声、織斑先生しかいない。校則違反も犯した記憶が無いのになぜ部屋に? と本音に目線を送るも首を振られてしまう

 

 

「どうぞ~」

 

 とりあえず部屋に通すとまずベッドでシュネッケンを食べる本音に少し驚いてから櫻のベッドに腰掛けた

 

 

「こんな時間にすまないな。わりとどうでもいいことなんだが……」

 

「まさか山田先生から『ヨーロッパのいいところありませんか~?』って聞かれたとか?」

 

「そのまさかだ。だからドイツで数日好きなようにぶらぶらしてみたらどうだ。って言ってみたら『それもう他の人から勧められました』みたいな目で見てくるものでな……。布仏、それ美味いか?」

 

「美味しいですよ? 先生も食べますか~?」

 

「いや、やめておこう」

 

 苦笑いする櫻を横目にシュネッケンのリコリス臭が充満しつつある部屋で織斑先生――いまは千冬さんだろうか――はいつものような少しつかれた顔をしていた。

 とりあえずお茶を出してから櫻も机に戻る

 

 

「私も今日の帰りにプランとか決まってるんですか? って聞かれたものですから、ご自分の好きなところをどうぞ。って言ったらこのザマで」

 

「だからって私に聞くか? 軍の教官時代なんて週末のバー以外はほとんど外に出てないんだぞ?」

 

「ソレを察してくれるのはラウラくらいかと……」

 

「ともかく。櫻がガイドとして着くんだろう?」

 

「いえ。一部の国ではその国の子に任せようかと。すでにセシリアとロッテとは話がついてますよ?」

 

「ふむ。それは面白そうだな。どうせだしお前の実家でも行くか」

 

「――っ! ゲホッゲホッ!」

 

「大丈夫か?」

 

「いま布巾持ってくるね~」

 

「んんっ! それ結構冗談じゃないですよ? ムッティなら喜んで家に泊めるでしょうし」

 

「いいじゃないか。面白そうだ。季節外れの家庭訪問と行こう」

 

「この流れはマズい……」

 

「仕方ないだろ。どうせお前のことだ、往復のチケットだけ取ってあるんだろう? それもチューリッヒ着ロンドン発と見た」

 

「どこまで鋭いんですか、千冬さんは……。あぁ、ありがと本音。あとはやっておくから」

 

 吹き出したお茶を拭くと布巾をキッチンに投げておく

 

 

「お前のことだ。大体見当はつく。束はどうするんだ?」

 

「そこでどうして束お姉ちゃんが?」

 

「あいつと一緒に帰らなくてもいいのか、と思ってな」

 

「それは追々。どうせ冬の間は家かクレイドルに籠るでしょうし」

 

「あー。束さんなら冬はくーちゃんと一緒にお家帰るって言ってたよ~?」

 

「え、マジで? あといつの間にかくーちゃん!?」

 

 えへへ~と笑う本音は人しれぬ所で何をしているか分からない。

 故にこんなことが起きたり起きなかったり

 

 

「これもくーちゃんから送ってもらったんだ~」

 

 シュネッケンをポイ、と投げると見事に口に吸い込まれた

 

 

「ってわけだ。これは家庭訪問だな」

 

「仕方ない……。そういえば、本音はどうする? 一緒に来る?」

 

「ん~。行きたいのは山々だけど更識の家のことがいろいろあるから無理かな~?」

 

「なら仕方ないね。ってことは簪ちゃんや楯無先輩も?」

 

「ってことだね~。お姉ちゃんはお城巡りに未練があるみたいで、卒業したら1ヶ月ヨーロッパに行くんだ! って意気込んでるよ~」

 

「虚先輩も意外と熱い人だよね」

 

「お姉ちゃんは昔から好きなものにハマると周りが見えなくなるタイプだよ~」

 

「あの成績も納得だな。妹とは違って」

 

「うぐっ……」

 

 千冬の必殺の一言が本音にクリティカルヒット。精神的HPをがりっと削った

 ベッドにダウンした本音を放置して続けた

 

 

「まぁ、真耶にもそれとなく伝えてみよう。あとは真面目に食べ歩きだな。1日飲むのもいいな」

 

「ま、全ては山田先生の好みってことで」

 

「そうだな。――真耶なら私の言うことにノーとは言えまい」

 

「あれれ~? お姉さん少し悪い顔してるな~?」

 

「どこぞの少年探偵みたいなことは止めろ。そうだ、向こうでの費用はお前が持つのか?」

 

「飲み歩き、食べ歩きの飲食費は持ちませんよ?」

 

「ソレくらいは自分で出すさ。ってことはほとんどお前持ちか」

 

「ええ。交通費、滞在費、飲食費。私とセシリアが自分の小遣いを削って……」

 

「お前らの小遣いがいくらか知らんが、痛くも痒くもないんだろ?」

 

 すこしいたずらっぽく千冬が言うも、貴族カッコガチには本当に痛くも痒くもないようでさらっと流される

 

 

「セシリアは知りませんけど、私のは給料数カ月分が吹き飛びそうです」

 

「そうか……」

 

「あれ、なにかマズいこと言ったかな」

 

「多分織斑先生はさくさくと自身の経済的格差に愕然としてるんだよ」

 

「本音が漢字を並べるなんて……」

 

「酷いな~。私だってすこしは真面目にできるもん!」

 

「と、とりあえずは分かった。オルコットも出資者ならイギリスには長居しよう。ウォルコットはフランス担当か?」

 

「ですね。ってことは……。ドイツでビールを飲み、フランスでワインを飲み、スコットランドでスコッチウイスキーをのみ、イングランドでワインを飲み、機内では日本酒を飲む、と」

 

「まぁ、そうだ……。いや、断じて違うぞ。それに、主役は真耶だ。アイツの事だから童話の舞台めぐりとか言い出すんじゃないか?」

 

「まぁ、その時はその時で」

 

「よし、大体は分かった。あとは真耶に決めさせよう」

 

 ちらりと時計を見るとすでに9時を過ぎていた。

 

 

「長居したな。おやすみ」

 

「「おやすみなさい」」

 

 千冬が出て行ったのを確認すると

 

 

「ねぇ、山田先生だけじゃなくて千冬さんもなんだかんだで楽しみにしてない?」

 

「だよね~。多分お酒だね」

 

「だね。今度鈴と箒ちゃんに冬休みは一夏くん一人だよ、って教えてあげよ」

 

「せっしーもイギリスだしね~」

 

「また一荒れ起こりそうですなぁ」

 

「ですなぁ~」


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