Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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カウンターカウンター

「それで、あっさりと6機もやられたわけか」

 

「いかんせん相手がポラリスと国家代表、更にはスパイも居たようで……」

 

眼下に広がる夜景。それをバックに重厚な椅子に腰掛け、机で手を組む男はいかにも不機嫌な顔をしていた。

 

 

「それで、そのスパイは割れているんだろうな?」

 

「ええ、もちろん。元は亡国機業の2人です。現在は表上はIS学園の教師のようです。その裏はもちろん――」

 

「ポラリスの、篠ノ之束の手か」

 

「その通りかと。これで篠ノ之束の言葉を信じるなら、ポラリスの戦力は7人ということに……」

 

「全員揃ってワンオフの最新鋭機。最悪だな」

 

「武力で手中に収めることは難しいかと」

 

「だから代表候補生が少ないタイミングを選んだというのに。それで、テルミドールの交友関係は?」

 

「彼女は俗にいうクラスの委員長的ポジションのようです。学年クラスを超えて幅広い生徒と関わりが。さらに学園長や委員会、企業連にもパイプがあるようで」

 

「本当にハイスクールのティーンエージャーなのかね……?」

 

「それが恐ろしいところです。下手に動けば彼女のアンテナのどこかに触れてしまう可能性が」

 

「そうだな。ここは焦らず、ゆっくりと準備を進めよう。無理は絶対にするな。春までにもう一度、今度はアレを使う」

 

「アレ、ですか。時代の流れを逆行するようですね」

 

「だからこそだ。スペックは現在でも十二分に通用する。あの馬鹿女に言って用意させろ」

 

「わかりました。その時はあなたも?」

 

「ああ、3度めは無いぞ」

 

「次はお互いの全力ですから。こちらも数だけは用意しましょう」

 

「適性がある人間は片っ端から使え。狂ったら捨てて構わん」

 

「はっ。では、失礼します」

 

「君にも迷惑をかけるな」

 

「いえ、仕事ですから」

 

 

 

――――ある男の手記

 

 本格的に冬に入った。この辺りは日本と違ってまだ温暖だが、帰ったらまた寒いビル風に吹かれるのかと思うと気が滅入る。

 今日は彼に先日の報告と次の作戦の大筋を立ててきた。次は前のような下手は踏まない。相手は30のIS。こちらはどれだけの数を用意すればいいのだろう。あの女が後数ヶ月で100を用意できるとは思わないが、せめて2倍、60は用意してもらいたいところだ。幾らあの技術があるとはいえ、エネルギーは無限ではない。飽和攻撃されては手も足も出ないだろう。

 我々に追い風が吹くことを願うばかりだ 

 

 

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「束、用意はできてるのか?」

 

『もちのろんだよ~。でも、なんで設計データだけなの? 言ってくれれば全部作るのに』

 

「それだと困るんだ。学園にある 無人機のコアお前の忘れ物をどうにかしない限りは学園は狙われる可能性を抱え続ける」

 

『なるほどね~。言ってくれればそれをただの石ころにできるのは知ってるでしょ?』

 

「なに、あるものを有効活用しようと言うだけだ。コレはいい整備科の教材になる」

 

『うそ、生徒に作らせるつもり? 無理だよ? ちーちゃん専用のつもりで作ったんだもん』

 

「お前が言うならそうなんだろうな。だが、こっちには櫻がいる」

 

『さくちんなら……。でも、それこそ危ないんじゃないの? 生徒にコアのことがバレたら』

 

「ああ、だから表面上は学園所属の打鉄の改修ということになっている。パーツごとのテストなら問題ないだろう」

 

『そ、そうだけど……』

 

「心配ならお前も来ればいい。出来るのにやらないだけだろ」

 

『――!』

 

「なんだ、私がそんなことを言うのが意外か? 今のお前に不可能はない。委員会を手懐け、世界を手のひらの上で転がすお前なら、もっと面白くすることだって出来るだろ?」

 

『は、ははっ。あははははは! そうだ、そうだよちーちゃん! 束さんに出来ないことなんてない! くーちゃん! 進路を253へ。学園に行くよ!』

 

「そうだ、そうして振り回してくれないとな。最近のお前はおとなしすぎる」

 

『さくちんにもっと大人になって、って言われちゃったからね。委員会でもおとなしくしてたし』

 

「アイツもまだまだだな。私より一緒にいる時間は長いはずなのに何もわかってない。束を大人にしたら何も残らないだろ」

 

『ふふっ。でも、さくちんやママさんから学ぶことも多かったんだよ?』

 

「まぁ、そうだな。前よりかずっと普通の人間らしくなった。だが、お前らしさを捨てろと言われた訳じゃないだろ?」

 

『もちろん。束さん自重しすぎたのかな?』

 

「かもな。それだけ大人になったということだろ。だが、折角ポラリスも立ち上げたんだ、もっとお前らしくしてもいいと思うぞ?」

 

『だね。よっし、楽しみになってきたよ。そうだ、くーちゃんも転入させたり出来ないかな?』

 

「普通に転入試験を受けさせればいい。過去最高得点で突破してくれるだろ」

 

『だね。ママさんと相談するよ』

 

「ああ、そうしてくれ。楽しみにしてるぞ」

 

『うん! じゃ、学園でね!』

 

 

――ふっ、やはりあの駄兎の相手は疲れる。だが、飽きないな

 

 

0度に近い気温に夜風が吹く量の屋上。寝巻き姿の千冬がベンチで一つ息を吐くと白く染まって虚空に消えた。

後ろから消しきれていない気配を感じ、意識をやると2人の影

 

 

 

「今は生徒が出歩いていい時間じゃないぞ、テルミドール、布仏」

 

「バレましたか? 千冬さんが携帯片手にどこかに行くようだったので」

 

「はぁ。どうせ聞いてたんだろう。アイツもここに来るぞ」

 

「いいんですか? もっと面倒なことになりますよ?」

 

「計算の上だ。どうせカウンターが来る。カウンターのカウンターを用意しておかないとな」

 

「おおっぴらに動く気満々そうでしたけど」

 

「アイツの後始末は今はお前の役目だ。委員共を黙らせておけ」

 

「はぁ。クラスメート黙らせるのとは訳が違うんですよ?」

 

「どうせお前なら脅しネタの100や200持っているだろ」

 

「そんなにありませんよ。まぁ、善処します」

 

「それで、どうして布仏も連れて歩いてる?」

 

「こっそり起きたら本音も起こしちゃったみたいで」

 

「なるほどな。布仏。わかっているとは思うが、必要以上に自分を晒すな。目立つのはあいつらでいい」

 

「大丈夫ですよ~。慣れっこですから」

 

「私が目立つ分やりやすいんじゃない?」

 

「だね~。さくさくがあんなことやこんなことをしてる間に色々と美味しくいただきま~す」

 

「私がハニトラ仕掛けるとでも言うのかおみゃーは」

 

「冗談も結構だが、まじめに頼むぞ。上手く行ったら布仏、お前の単位は保証してやる」

 

「えっ!? 本当!?」

 

「ああ。少なくとも私の教科で取った赤点は無くせる」

 

「さくさく、本気出すよ」

 

「はぁ……」

 

「ほら、部屋にもどれ。明日も通常授業だぞ」

 

「はぁ~い。おやすみなさい」

 

「おやすみなさ~い」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

階段に消えた2人を見送り、携帯を再び見つめる。その画面には在りし日の千冬。

青白く煌めく刃を振りかざす瞬間が切り取られている

 

 

「さ、また忙しくなる」

 

自分に気合を入れるように頬を数回叩くと部屋に戻った

 

 

 

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「それで、久しぶりに電話をかけてきたと思ったらクロエちゃんを学園に行かせたいって? もっと他にいうことがあるでしょう?」

 

トルコはアンカラ郊外。オーメルの社長室で呆れる女性が一人

 

 

「クロエちゃんを学園に行かせることは反対しない。本人が希望するならね。その時の手続きもちゃんとやるわ。でも、もし、嫌だというならその時はわかってるわね?」

 

『わ、わかってるよ、ママさん。後でくーちゃんに聞いて見てからまた電話するから……』

 

「わかったわ。それで、今何処にいるの?」

 

『クレイドルだよ。今は……北極辺りかな。オーロラがすごく綺麗に見えるよ』

 

「ポラリスの代表様も大変ね」

 

『特に最近はどこかのおバカさんが勝手な事してくれたおかげでね』

 

「聞いてるわ。櫻があんなに怒ったところを見るのは久しぶりよ」

 

『そうかもね。やっぱりさくちんもISの事を大事に思ってくれてる。それに学園に手を出した、っていうのが大きいね。クレイドルだったらあんなに怒らなかったと思うもん』

 

「でしょうね。櫻はいろいろと背負い込むから。意地でも守らなきゃ、とか思ってるんでしょうね。多分、櫻じゃ全部抱えきれない。その時は、お願いね」

 

『わかってるよ。だからポラリスって言う檻の中で囲ってるんだ。良くも悪くもね』

 

「ま、クロエの件はわかったわ。千冬ちゃんには言ってあるの?」

 

『ちーちゃんにはさっき電話して言った。だから転入試験を受けて、パスすればオッケーってさ。ともかく、また一段落ついたら電話するよ。その時は手続きとかの話もちーちゃんから聞いておくから』

 

「わかったわ。冬休みは帰ってくるの?」

 

『今のところはそのつもり。さくちんはどうかなぁ』

 

「わかった。それじゃ、体に気を付けて。冬休み、楽しみにしてるわ」

 

『ばいに~』

 

携帯を置くと、ほっ、と息を吐いて椅子に深く身を預ける

ちょうど湯気を立てるティーカップが机に置かれた

 

 

「篠ノ之博士ですか?」

 

「ええ。久しぶりに電話だと思ったらコレよ。いかにもあの子らしくていいけれど」

 

「声を聞くのは就任の挨拶の時以来ですか?」

 

「そうね。長かったわ」

 

「学園がらみの出来事も多かったですしね」

 

「この前の襲撃の一件もあったし、あの子達も苦労が絶えないわね」

 

「もう世間は誰も彼女に逆らえないも同然。博士は何をしたいんでしょう?」

 

「わからないわ。でも、絶対につまらないことはしない。それだけは言える」

 

 

母の確信は未だに続く束との"契約"と同義だった


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