Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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生徒会の1日

放課後のIS学園は高等教育機関らしい若者の活気に満ち溢れている。

校内を歩けばグラウンドからは運動部の掛け声が聞こえ、校舎からは金管楽器の甲高い音が抜けてくる。

図書室には多くの生徒が分厚い専門書を傍らに据えて勉学に励み、生徒会室、と書かれた大仰な札が下がる立派な扉の奥からは書類をまとめたり、判子を押す音が漏れていた。

 

 

今日はそんな生徒会に所属する少年少女のお話。

 

 

 

「虚ちゃ~ん、休憩にしようよ~」

 

「先程からまだ15分しか経っていないんですが……」

 

 

部屋の中央奥に位置する机で緩慢に書類にサインをしては横に積み上げているのは生徒会長、更識楯無だ。

そして、壁際に並ぶ机の一つでテキパキと仕事をこなしていくのが会計、布仏虚。

 

その2つ隣の机で寝息を立てているのは書記の布仏本音だ。

 

 

「ふぇぇ~、もう疲れた~。ここしばらく先生から回ってくる書類も増えたしぃ~」

 

「それはお嬢様に限った話ではありません。あの本音ですら仕事をする次元で忙しいんですよ?」

 

「もうスイッチが切れたみたいだけど……」

 

楯無が視線をずらすと『重要』と判子の押された書類によだれを垂らしながら寝る本音。その隣を見やれば書類の束と一定のリズムで聞こえる判子を打つ音。

 

 

「あぁ、もう……。本音、起きなさい」

 

「ふぁ。まだ食べられるよ~。デラックスぅ~」

 

「はぁ……」

 

虚はため息を漏らすと適当な量の書類をつかみとると本音の頭に振り下ろす。

 

ズガッ! と出席簿とはまた違う鈍い音が響き、本音が跳ね起きた。

 

 

「敵襲!」

 

「そうね、あなたは大盛りのパフェと戦っていたみたいだし」

 

「あ、お姉ちゃん……」

 

「おはよう。そのぐっしょりした書類は何かしら?」

 

「え~っと、『学園訓練機のアップデート予算執行書』って書いてあるけど」

 

「へぇ。とても大事そうね」

 

「う、うん……」

 

本音の視線が『重要』の2文字で止まると、再び虚に視線を戻し、死を覚悟した。

奥では楯無が机の上で伸び、本音の後ろでは櫻が機械的に判子を押し続けている。

 

虚が仕事とは何たるかを妹に肉体言語で教えこもうとすると、コンコンと扉がノックされた。

 

 

「どうぞ」

 

楯無が入室を促すと、入ってきたのはスコールだった。

 

 

「あら、姉妹喧嘩? おじゃまだったかしら」

 

「スコールナイス! 助かったよ~」

 

「先生ですか……。いま本音の性根叩きなおそうかと思っていたのですが」

 

「虚、あなた意外と直情的ね……」

 

スコールが虚の評価を修正すると楯無が要件は? と切り出した

 

 

「顧問がいちゃいけないのかしら?」

 

「はぁ……。ま、いいけど」

 

「ちゃんとお土産もあるわよ」

 

そう言うと持っていたビニール袋からロールケーキを取り出した

 

 

「虚ちゃん、お茶」

 

「はぁ。分かりました。櫻さんも、休憩にしましょう」

 

ポンポンと判子を押し続ける櫻。その目に正気はない。

 

 

「櫻さんも櫻さんで大変ね……」

 

「お茶入れてから呼んで上げなさい」

 

スコールは判子を押す機械とかした櫻を憐れみの目で見ていた。

 

 

 

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数分して、部屋の真ん中に置かれた応接セットに集まるとスコールの持ってきたロールケーキと虚の入れたお茶がテーブルに並び、書類仕事で疲れた乙女たちを誘惑していた。

 

 

「おぉ……、これは購買で見たことない~……」

 

じゅるり、と言わんばかりに切り分けられたロールケーキを眺める本音。彼女のお菓子を見る目は確かなようで、スコールが笑っていった。

 

 

「最近レゾナンスに入ったっていうケーキ屋さんのものよ。気に入るといいけど」

 

「どうりで本音も見たことないわけだ」

 

「最近は忙しかったみたいだし、女の子には休息も必要だと思ってね」

 

「そろそろ櫻さんを起こさないと……」

 

「おぉ、そうだ~。さくさくが死んでたんだ~」

 

「ISでは無敵の櫻ちゃんを殺す程の単純作業……」

 

「さくさくはこういう単純作業よりももっと身体と頭をつかうほうが好きだもんね~」

 

「ほら、本音。早く正気に戻してあげて」

 

「はいな~」

 

肩を揺すりながら声をかけること数十秒……

 

 

「し、書類は……」

 

「あ、生き返った」

 

「櫻。大丈夫?」

 

「さくさく~、生きてる~?」

 

「生きてる……。はず。書類の束は?」

 

「残念ながらまだ残ってるわ。でも、今は一休み、ね?」

 

そしてやっと目の前のケーキと紅茶に気づくと一気に脱力し、ソファから滑り落ちた

 

 

「うぁぁぁぁ、やっと休めるぅぅぅぅ」

 

「じゃ、いただきましょうか。せっかくのお茶も冷めちゃうし」

 

「「「いただきます」」」

 

一斉にケーキを口に含むと頬を緩ませた。スコールも満足げだ。

 

 

「ん~~!! 生き返るぅぅぅ~!」

 

「さくさくの目が輝きを取り戻したよ~」

 

「ま、ゆっくりおやつ食べて、さっさと片付けちゃいましょ。だから今は全力で休憩!」

 

「若いっていいわねぇ」

 

夕暮れのIS学園にスコールのつぶやきが消えた。

 

 

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スコールも強制的に駆りだされ、糖分も補給し作業効率を上げた楯無たちはどうにか時計の短針が真横を向く前に書類の束を片付けきった。

まさか1日で終わるとは思っていなかった面々は各々の机で脱力し、だらしない姿を見せている。

スコールもソファの背もたれにより掛かり、スーツのポケットから小さいボトルを取り出すと一口煽った。

 

 

「終わった……」

 

「嘘みたいですね。まさか今日中に終わるなんて……」

 

「だが事実。これで明日の仕事はなさそうだね」

 

「休み~?」

 

「そうね。明日も一応ここに来てもらって、何もなければ休みってことで!」

 

「やった~! 久しぶりにお昼寝出来る~」

 

「今日だって寝てたじゃん」

 

「ちゃんとお布団でお昼寝するのがいいんだよ~」

 

休み、という単語に目を輝かせる本音とは対照的に、ソファで足を組むスコールは普段見せない疲れた顔をしている。

 

 

「どうして私まで……」

 

「スコールは顧問だから」

 

「はぁ……。あのババア、恨んでやるわ」

 

「他人の……。ま、まぁ、今日はさっさと部屋に戻ってシャワー浴びたいなぁ」

 

――他人のこと言える歳か、とツッコミかけて飲み込んだ櫻。幸いにもスコールはあまり聞いていなかったようだ

 

 

「そうね。私も部屋に戻りたいわ。教員寮は1人部屋だし」

 

「そうなの~? てっきりオータムと一緒にいるかと思ったよ~」

 

「ふふっ、さすがに四六時中一緒にいるわけじゃないわ。まぁ、オータムが求めるなら付き合うけど」

 

「え、スコールとオータムってそういう関係……?」

 

「"そういう関係"って何かしらね、ねぇ、櫻?」

 

「だね~。具体的に言ってもらわないと」

 

完全に2人は悪人面で、普段自分たちを言葉で手玉に取る楯無に仕返しをしてやりたいようだ。

 

 

「こ、恋人、とか……」

 

「ごめんなさいね、もう一回言ってもらえる?」

 

「恋人同士なの!?」

 

「少し違うわね。別にお互いを慰めることはあっても決して恋人だ、といえる関係じゃないわ」

 

「さくさく~、向こうでお姉ちゃんが爆発してる~」

 

「あ、ホントだ。虚先輩は初心だね」

 

「まぁ、良くも悪くもお硬いから~」

 

「あらあら。ま、楯無も何れこういうことがあるかも知れないわよ?」

 

「な、無い! ……きっと」

 

「どうだろうね。楯無先輩だもんね」

 

「おじょうさまだからね~」

 

「そこの2人、どういう意味かしら?」

 

「別に~? ただ、楯無先輩モテるからなぁ~って」

 

「さぁさ、そういうのも青春らしくていいけど、もう9時よ、早く部屋に戻りなさい」

 

「は~い。本音、行こ」

 

「あいあい!」

 

「ちょっ! 櫻ちゃん! 本音!」

 

「虚のことも、お願いね。じゃ、戸締まりもしっかりして、よろしく~」

 

「スコール!」

 

あっさりと逃げられ、頭から湯気を噴出する虚と部屋に残された楯無。

 

 

「女の子同士でも、いいのよね……?」

 

 

生徒会長は廊下を走る背中を、少し紅潮した顔で見つめていた


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