Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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動揺

ニューヨークは国連本部。束はわざわざ直接委員会に出向いて今回の一件の対応を決めるつもりだ

議場に入るとそこにはすでに委員会の面々が揃い、束の到着を待っていたようだ

 

 

「あれ、10分前に来たつもりだったんだけどな」

 

「ええ、予定時刻はまだです。ようこそ、篠ノ之博士。直接お会いできて後衛です」

 

委員長と社交辞令的挨拶を交わすとオブザーバー席についた

 

 

「では、時間には早いですが、全員揃いましたので始めてもよろしいでしょうか?」

 

特に反対も無いことを見届けると、「始めます」と言って紙を手にとった

 

 

「本日の緊急招集の案件は、先日のIS学園襲撃に関してです。学園からの報告によると、アメリカのIS6機と、特殊部隊員が25人学園に侵入。パイロットを全員拿捕、隊員は5名死亡。20名が拿捕されており、現在送還の手続きを行っているとのことです。それに関し、アメリカの内部調査の結果を報告してもらいます」

 

全員の視線がアメリカの代表に向く。

代表のふくよかな女性は表情が引きつり気味だが、震える口を開いた

 

 

「今回の学園襲撃は国防総省の決定ではなく、現場での判断だった事が判明しています。しかし、国内のISを過半数投入した事を鑑みるに、上層部の何者かの手引があったものと思われます。合衆国は使用されたISコア6個の返還を学園側に要求するとともに、損害賠償を行うものとします。現在判明していることと決定事項は以上です。引き続き調査を進めてまいります」

 

それを無表情で聞いた束だったが、内心は3日もあったのにどうしてコレしかわかってないのか。さらになぜそこまでコアにこだわるのか。など疑問が湧き上がったが、こらえた

 

 

「では、委員会での採決事項に移ります。今回の米国の行いに対し、本委員会はアラスカ条約に定めるIS運用規定の違反とし、罰則金と今後3年間の査察を与えることとする。賛成は挙手願います」

 

当事国のアメリカにはもちろん拒否権などない。ここは国連安保理では無いのだから

多数の手が上がった議場を見渡し、一つ頷いた委員長は

 

 

「賛成多数で罰則を適用するものとします。では、ポラリス。篠ノ之博士より、今後の処理を伺います」

 

 

やっとか、と言わんばかりに気持ちを切り替え、一つ咳払いをすると要件だけを手短に告げた

 

 

「ISの製作者、管理者としての決定事項は1つです。すべての米国籍コア18個を停止。コアの再稼働は委員会での採決と、ポラリス内部での採決を持って決定する。以上」

 

 

その後はぐだぐだとくだらない内容が続き、解散したのは始まって2時間半が経ってからだった

 

 

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委員会での決定とほぼ同時にアメリカに使われているコアはすべて停止した。

もちろん、軍用コアも、研究開発用コアも。

 

この決定は世界に動揺を与えた。

 

「篠ノ之束はすべてのコアを管理下においていた」

 

「不可侵の学園に手を出した罰はあまりにも大きかった」

 

「世界一の大国を持ってしても篠ノ之束には勝てなかった」

 

など散々な言われようで、ポラリスに批判的な意見ももちろんあったが、それ以上に学園に直接手を出したアメリカはIS委員会以外の場でも批判の的になっていた

 

 

 

「うわぁ……。大胆なことするなぁ」

 

「やはりポラリスを敵に回すべきではないな」

 

ニュースを見ながらつぶやくのはシャルロットとラウラ。

襲撃の時には本国に居たため、学園に戻ってきた時は驚いた

 

 

「しかし、条約を破ってまでこの学園に手を出す意味があったのか?」

 

「どうだろうね。ポラリスの技術が欲しかったとしても、篠ノ之博士や櫻が公開してるから大きな理由にはならないだろうし……」

 

「地下特別区画、か」

 

「地下特別区画?」

 

「名前の通り地下にある立ち入り禁止の区域だ。何があるのかは知らないが、危険な橋をわたってでも欲しくなるような何かがあってもおかしくないと思わないか?」

 

「確かに、おかしくはないけど信ぴょう性には欠けるよね」

 

「むぅ~。ならシャルロットはどう思うんだ? アメリカが中隊を結成してでも欲しくなる何かは」

 

「ポラリスのメンバーの身柄、かなぁ?」

 

「それはわざわざ学園を襲うまでもない。外に出た時に襲えばいいんだからな」

 

「だよねぇ~。なんだろう? わからないよ」

 

「予測を立てるには情報が少なすぎる。多分櫻や織斑先生に聞いても何も教えてくれないだろうしな」

 

「だね。でも、いつまた襲われるか分からないから警戒するに越したことはないね」

 

「そうだな。主任に暴徒鎮圧パッケージでも作ってもらうか……」

 

「室内戦を想定して取り回しやすいサブマシンガンみたいなのも欲しいね」

 

「今月の報告書は厚くなりそうだ」

 

「くくっ。そうだね。さ、ラウラ、お風呂入って寝よ?」

 

「また一緒に入るのか?」

 

「いいじゃんいいじゃん」

 

 

うら若き乙女の嬌声が聞こえたり、聞こえなかったり……

 

 

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「嘘でしょ……」

 

 

翌日の朝、SHRに現れた金髪に楯無は驚いていた

もちろん、担任のセレンでは無い。彼女は黒髪の持ち主だ

 

問題はその隣の金髪に見覚えがあることだった

 

 

「本日付でオーメル・サイエンス・テクノロジーから赴任されたスコール・ミューゼル先生です」

 

セレンが隣に立つミューゼルを紹介すると、お前は一体何ものだ、と言いたくなるような別人ぶりで無難な挨拶を始めた。

 

「オーメルより参りましたミューゼルです。今日からここで皆さんとともに過ごすことになりました。担当は科学とIS運用論、実技です。どうぞよろしくお願いします」

 

気品ある所作で自己紹介を終えると、拍手で迎えられた。

楯無と目を合わせて微笑んだのは絶対にわざとだ

 

 

――厄日だわ……

 

楯無は心のうちで自分の不幸を嘆いた

 

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1年は2組。ここにも新任の先生がやってきた

 

 

「おら、お前らたまには黙れ。新任の先生もいるんだ」

 

 

SHRで担任の木戸先生からありがたい罵りを受けながら少し目付きの悪い女性が教室に入ってきた

 

 

「オーメルから来たミューゼル先生だ。では、先生、軽く自己紹介を」

 

こちらも担任から挨拶を促されると、普段のオータム様はどこへやら、緊張がありありと見て取れる様相で無難な自己紹介を始めた。

 

「は、はい。オーメル・サイエンス・テクノロジーより参りました、オータム・N・ミューゼルです。担当教科は体育。実技補佐もさせていただきます。まだ不慣れなことも多いですが、よろしくお願いします」

 

そして、一礼し、顔を上げると頬をひきつらせた

本人は笑ってるつもりだが、普段から笑わないこともあって不自然に頬を釣り上げるだけになった

 

 

「連絡事項は無いから1時間目の準備な~。お、初っ端から体育か、じゃ、ミューゼル先生。よろしくお願いしますね」

 

「はい」

 

 

――ここで上手くやっていけるのかぁぁぁ!!!

 

 

一抹の不安がオータムを襲った

 

 

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そんなこんなで昼休み。

食堂にはポラリスのメンバーが勢揃いのほか、楯無までいる

 

 

「それで、櫻ちゃん、コレはどういうことかしら?」

 

「どうもこうも、アメリカがきな臭い動きを始めた頃に学園長に『先生にいい人材がいるんですけどどうですか~』って言ってあったんです。それでこの騒ぎだから……」

 

「防衛力強化も兼ねて2人を、ってこと?」

 

「じゃないですか? それで、どうよ、先生やってみて」

 

「なかなかおもしろいものよ? と言っても、今日は3,4限しかなかったし、他の先生の授業補助みたいなものだったけれど」

 

「スコールはなんでも出来そうだしね。オータムは?」

 

「辞めたい……」

 

「オータムが燃え尽きてる……」

 

「クククッ。慣れないことをするからだ。聞いたぞ? SHRの時に引きつった笑みを浮かべてたってな」

 

「ああ。そうだな……」

 

「嘘だろ、オータムがからかっても反応しないなんて……」

 

「あらあら。まぁ、そのうち慣れるでしょう」

 

「そういえばさ~」

 

オムライスを飲み込んだ本音が口を開いた

 

 

「スコールって何歳なの~?」

 

「「「…………」」」

 

「ふ、ふふふっ……。いいこと? 本音、人には触れてはならない場所があるものよ?」

 

妖気にもにた邪悪な気を発しながらスコールは本音の口にそっと指を当てた

本音はひたすらに首肯するしかないようだ

 

 

「こんどオッツダルヴァおじさんに聞いてみようかな……」

 

「櫻、やめなさい」

 

余談だが、オッツダルヴァとスコールは拷問以来なぜか仲がよく、休みになると2人で出かける様子も度々目撃されている。はために見るとソレこそ夫婦にも見えなくはないが、2人がどういう関係なのかは誰も知らない

 

 

「いやぁ、オッツダルヴァおじさんと仲いいじゃん? 付き合ってんの?」

 

「どうでしょうね? 私も彼も誰かを愛したり愛されたりなんてことを出来ないから」

 

「なんか大人の女、って感じだね~」

 

復活した本音がそうまとめるとスコールは微笑んでパスタを口に運んだ

 

 

「オータム、ほら、しっかりしろ。お前なら出来るさ。ファントムタスクのオータム様だろ?」

 

隣に目をやればマドカがオータムの魂を呼び起こしている。

初日からこれでは先が思いやられるが、なんとかなるだろう

 

 

「しかしまぁ、櫻ちゃんはなんでもするのね」

 

「ええ。目的のためには手段を選びませんから」

 

「それで巻き添え食らうのはゴメンよ?」

 

「その時はすみません」

 

「巻き込む予定でもあるのかしら……?」

 

「ええ、まぁ……。コレ……」

 

櫻が胸ポケットから一枚の紙を取り出し、楯無に渡すと、楯無は明らかに肩を落とした

 

 

その紙には

 

 

生徒会顧問 山田真耶,スコール・ミューゼル

 

そう、書いてあった 。

 

 

――厄日だわ…… 本当に……


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