Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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事後

 翌日。一部の学園施設に被害があったものの、通常授業に支障なしということで普段通りの1日が幕を上げた。

 先生の多くに疲労の色が見え隠れし、山田先生が普段以上にふわふわした雰囲気で教室に入ってきた

 

 

「おはようございま~す。HR始めますよ~」

 

 先生とは対照的に生徒は夕方以降自室や教室に篭っていたのがほとんどであったためにしっかりと羽伸ばしではないが、休息を取ったようで若者の気力があふれている

 

 

 

「ふわぁ~。え~っと、お休みは専用機持ちの4人、っと。連絡事項が3点あります。まず1点、先日の襲撃事件で校舎の一部が崩れていたり、もろくなっているので近づかないように。次に――」

 

 いきなりあくびをかました山田先生の目の前で船を漕いでいるのが1人……

 

 

「1時間目は織斑先生が担当の予定でしたが、昨日のこともあるので今日は私が担当しますね。では、授業の準備をしてください」

 

 そうして少しよれた服の山田先生が教室から出ると心優しいクラスメートが船の船頭を呼ぶ

 

 

「さく。ねぇ、さく?」

 

「5分、5分で終わるから……」

 

「隊長! 完全に熟睡中であります!」

 

「了解。織斑砲、発砲許可!」

 

「織斑砲発砲許可、了解!」

 

 そうして尖兵、鏡ナギが耳元に何か機械をセット。スイッチを入れその場を離れた

 

 

「発砲準備よし!」

 

「総員退避!」

 

 そして教室の隅に逃げると……

 

 

 

「起きろこの馬鹿者が!!!!」

 

「は、ハイッ! すみませんッ!」

 

 櫻の耳元で織斑先生の声が鳴り響いた

 

 

「作戦成功! よくやった!」

 

 イェイ! とハイタッチするのはナギと理子。そしてその後ろでほくそ笑む本音とマドカだった

 状況が把握できずにキョロキョロと辺りを見回す櫻をみてクラスが笑いに包まれた後、授業の為にやってきた山田先生の一声で全員が席に戻った

 

 

 

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「いやぁ、朝のアレは何事かと思ったよぉ……」

 

「普段の仕返しだよ~。見事に驚いてくれて面白かったぁ~」

 

「ホント、サクのあんな顔普段は絶対見れないしね」

 

 デザートのケーキを一口食べると先程までの楽しげな口調から一転、仕事モードの冷たい声で櫻は言った。

 

 

「本音。報酬は言い値を出すから次のナギと理子の訓練機貸出予定を。その時は付き合ってね」

 

「それは出来ないよ~。さすがの私でも仲間を売ることはしないからね~」

 

「期間限定ミラクルドルチェ」

 

「よし、分かった。明日までに調べておくね!」

 

「安っ!」

 

 期間限定甘味(2週間限定。\12,500-)の前にあっさりと陥落。思わず普段はボケの梨絵がツッコミを入れている

 

 表面はニコニコと普段通りの櫻だが、目が笑っていないことに気づかないほど付き合いは短くない。ソレに気づいた周囲の数人が思わず数歩下がったが、櫻の前の2人はそのまま会話続行のようだ

 

 

「でも昨日はポラリスの皆々様は大活躍だったみたいだね?」

 

「大活躍って。でもまぁ、ポラリスの人員をほとんど当てたね。昨日学園に居なかったのはソレこそ束お姉ちゃん位だよ」

 

「え、本音も行ってたの?」

 

「酷いよえりり~ん。私だってポラリスのメンバーだもん!」

 

「ハイハイ。技術部布仏殿~」

 

「ぜったい馬鹿にしてるよね~。怒っちゃうぞ~!」

 

 ダボダボの袖を振り回して言われても威圧感ゼロなどころか微笑ましくもあるが、それを言うと更に怒らせかねないので心のなかに仕舞ってから残りのケーキを平らげた

 

 

 

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「あら、マドカちゃん。お疲れ様」

 

 放課後の廊下で聞き慣れた声で呼ばれたマドカ。

 振り返れば跳ねた水色の髪が揺れていた

 

 

「先輩もお疲れ様でした。後始末とかあるんじゃないですか?」

 

「ええ。虚ちゃんが悲鳴を上げそうよ。放課後は生徒会役員総動員ね。櫻ちゃんには更にムチを打つことになりそうだけど」

 

「今朝なんかHRからこっくりしてましたから。この調子だと明日はダウンですかね?」

 

「さすがにそこまではさせないわ。と言いたいけど難しそうね。一夏君も居ないし。もともと人手は足りないけど、更に居ないもの。まともな戦力は……虚ちゃんと櫻ちゃんね」

 

「仕事してくださいよ会長……」

 

「聞こえない聞こえな~い。じゃ、ゆっくり休んでね」

 

「ええ。先輩も」

 

 

 心のなかで櫻に合掌しつつ、マドカはつかの間の休息を得るために自室へ急いだ

 

 

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「クーちゃん、2人は?」

 

「うまくいきそうです。学園長は乗り気なので直に」

 

 クレイドルでお仕事をするのは束とクロエだ。

 アレだけのマルチタスクをこなしながらも作業能率は普段と遜色ない。

 

 

「仕掛けてくるだろうとは思ったけど、まさかアレだけの数で来るとは思わなかったよ。コレは言い逃れできないよねぇ」

 

「ですね。拿捕したパイロットは地下の拘置所に」

 

「その始末はちーちゃん達の仕事だよ。じゃ、私はちょっとニューヨークに行ってくるね!」

 

「はぁ、お気をつけて。発言にも」

 

「クーちゃん変わったね。束さんは悲しいよ!」

 

「そうでしょうか? 束さまが危ない発言をするのはいつものことですので、それにお気をつけて、と」

 

「さくちんより悪質だよ!」

 

 うわ~ん! とわざとらしい声を上げて束は廊下を駆け抜けていった

 

 

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「さて、どうしたものか……」

 

 地下特別区画で胃を痛めるのは千冬の他学園の中でも重要な役職に付いている数人の教員。

 もちろん彼女らの悩ませるのは拿捕した6人のパイロット。ヒラはさっさとアメリカに送り返す事を決めたが、貴重なパイロットをこのままのがして向こうで始末されては寝覚めが悪い。そこで、IS学園で匿おうと言う案も出たが、ソレはそれで学園に対する風当たりが強くなりかねない。だからこそ頭を悩ませているのだ

 

 

「それでは、現時点での結論を、教頭」

 

 議論も行き詰まり、教員たちの出した結論がコレだ

 

 

「委員会の定例会議に議題として提出することとします」

 

 

 如何にも責任逃れが大好きな人間――特に重要な役職に就いた人間だ――が好きそうな結論に至ったことを千冬は呆れてため息すらでない。

 コレでまた束や櫻がキレる原因が増えたと更に胃をキリキリとさせるのだった

 

 

「織斑先生」

 

 結論も出て、やっと担任に戻れると思った矢先、教頭に呼び止められた。

 嫌な予感しかしないが、なけなしの良心でいつもどおりの対応をする

 

 

「何でしょうか?」

 

「一つ頼まれて欲しい、と言うよりも命令に近いのだけれど……。このパイロットの監視、管理を任せるわ。ISが無いとはいえ、軍人ですから何かあっては困るので」

 

「はぁ……」

 

「先生にも授業等あるでしょうから、基本は機械警備で構いませんが、朝と夜の様子見をお願いします」

 

「わかりました。はぁ……」

 

「いつも面倒事を押し付けるようで申し訳ないけれど、みんな期待してるのよ、ブリュンヒルデに」

 

 

 ブリュンヒルデ。世界最強の称号だが、千冬はそう呼ばれるのはあまり好みではない。

 それこそ、世界最強はISを作った束であり、櫻であると思うし、自身の人間的にも紫苑に優るところは無いだろう――家事スキルも無いし。

 そもそも、自分の身すら守れずに何が世界最強だ。

 

 と、いくら悔やんだところでキリが無いことは重々承知。仕事は請け負った以上はしっかりとこなすのが千冬のポリシーだ。少し書類仕事を山田先生に回す量が増えるかもしれないが、基本的には変わりなく過ごせるだろう。

 

 

 

「しかしまぁ、世界最強も落ちぶれたな……」

 

 

 一人金属質な廊下を歩きながら、ファイルケースで肩をトントンと叩く千冬だった

 

 

 

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「なぁ、スコール」

 

「なぁに?」

 

「やっぱりここに来るのはまずかったんじゃないか?」

 

「いいじゃない。今は忍び込む側じゃなく、協力要請が来たからここにいるんだし、もっと堂々としたらいいのよ」

 

「はぁ……。慣れねぇなぁ、こっちがわ(表舞台)は」

 

 

 亡国組の2人がいるのは放課後のIS学園食堂。

 学園の寮で一夜を過ごした2人は普段通り6時に起き、スコールがISのバススロットに入れていた服――束曰く、ある意味世界で一番平和的なISの利用方法――に着替え、久しい学び舎の空気に触れた。

 季節が季節だけに、朝はかなり冷えたが、日が昇ればそこそこ過ごしやすくもなり、部屋で事務仕事を片付けた2人は息抜きに、と学内散策に繰り出したのだ

 

 

「にしても、何でバススロットに服なんて入れてたんだ?」

 

「レディーの嗜みよ。それに、中途半端に余ったバススロットは有効活用しないと」

 

「だからって服ねぇ」

 

「現に役立ってるじゃない。お陰でスーツケースからも解放されるし、いいコトずくめよ?」

 

 普段着、と言わんばかりにビジネスカジュアルを着こなすスコールと、若干服に着られてる感が否めないオータム。コレばかりは普段の立場の差だろう。

 2人の胸元には6つの星が描かれたピンバッジが輝いていた

 

 

「やっぱり若い子は活力があっていいわね」

 

 辺りを見回すスコールはどこか感慨深げで、まだ20代のオータムは数年前の自分と照らしあわせて『こんなガキだった記憶はねぇ……』と心のうちで吐き捨てた

 

 やはり目立つ2人とあって、放課後の人が少ない食堂とは言え、結構な数の視線が集まっていた

 

 

「なんとなく櫻やマドカ、それに織斑一夏の気分が解るわ」

 

「だな。この視線に毎日晒されるのは正直つらい」

 

「若さに身を任せて何か声を掛けてくるような子は居ないのかしら」

 

「居ますよ、ここに」

 

 あぁ……と言う顔をするオータムを見て、スコールは声の主を見た

 

 

「あら、生徒会長様じゃない。放課後のティーブレイク?」

 

「食堂に目立つ美人が2人いると聞いてね。隣いいかしら?」

 

「ええ、もちろん。美人なんて言われて喜ばない女は居ないわ」

 

「そうかしら? 少なくともあなた方のトップはそんな言葉とは無縁そうだけど」

 

「ふふっ、そうね。あの子達は素直にやったことを褒めたほうが喜ぶ質ね」

 

「それで、どうして2人はこんなところに?」

 

「見てわからない? アフタヌーンティーよ。午前中は仕事漬けだったし。お昼もまともに食べてないのよ」

 

「まぁ、昼に来られた時には軽いパニックになったでしょうね……」

 

「それで、更識の嬢ちゃんは私らのお目付け、ってとこか?」

 

「更識の嬢ちゃん、じゃなくて楯無でいいわ。こう見えても更識家の当主なんだから」

 

「まぁ、知ってるがな」

 

「なら最初からそう呼びなさいよ。秋女」

 

「チッ、その減らず口は相変わらずだな」

 

「やめなさい、オータム」

 

 声を荒らげたオータムを落ち着かせると、自分にも言い聞かせるよう言った。

 

 

「私達ももう首輪付きの身。前みたいに変な行動は出来ないから安心なさい。このケーキを食べ終わったらもう少し校内をウロウロするわ」

 

「はぁ……。ま、あんまり目立つことはやめてね。私が櫻ちゃんに怒られるから」

 

「善処するわ」

 

「それってお断り……」

 

「ふふっ、どうかしらね。さ、楯無もお茶くらい飲んでいきなさいな。結構美味しいわよ」

 

「そりゃ当然。特にそのザッハトルテはデザートメニューの中でも人気があるわ」

 

「そうだったの。オータムのフルーツタルトも美味しかったわね」

 

「おやおや、オータムさんは意外と乙女な好みをしていらっしゃるようで……」

 

 ニヤニヤと笑う楯無を睨みつけるオータム。

 

 

「んだよ、私がそんなもん食ったら悪いか!」

 

「いえいえ~。ただ、ちょっと意外だなぁ~って思っただけですから~」

 

「クッソ、このガキぃ……」

 

「オータム」

 

「あいよ……。ったく……」

 

 

 まるで子供同士がじゃれるようにオータムを煽る楯無。ソレで怒ったオータムをスコールが窘めるということをこの後も数回繰り返し、楯無が彼女をを探しにやってきた虚によって怒られたのはこれから1時間もしないうちだった


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