Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
上で制圧戦が行われている中、地下特別区画の下層にあるオペレーションルームではISを展開したクロエが膨大な数の情報処理をたった一人で行っていた
それは地上の人間のオペレーションであったり、防壁の開閉による誘い込みであったり、同時に仕掛けられたハッキングへのプロテクトであったりと一人でこなすものではないのは明らかな量だった。
ただ、これこそが黒鍵の得意分野であり、戦闘などは2の次にすぎない(それでも第3世代を凌駕する性能を持つのが束クォリティ……)。それもあって自体は収束に向かいつつあるようだ。
地上では寮に突入した部隊を楯無と亡国の2人が制圧。地下でも千冬が予定通り敵を罠に誘い込んでいる。
――ファイアーウォールを組み直す羽目になったのは想定外でしたが、こちらも後は放置でいいですね。櫻さまは……
イメージインターフェースを用い、自由自在に複数のモニターを切り替えていく。それらの情報をすべて処理できるのも機体とヴォータンオージェがあってこそと言えよう。
『終わったぞ。全員生かしてな』
最初はオータムだ。アラクネに乗っていただけあって対処が早い。
それに、ちゃんと命令を守っているようだ。
『こちらでも確認しました。パイロットとISは後でこっちに持ってきてください。工作員は縛り上げて置いて来てもらって構いません。今用具庫の防壁をあげます』
『スコールと更識の嬢ちゃんは?』
『スコールは敵部隊を鎮圧済み、楯無さまは現在交戦中ですが彼女1人で問題ありません』
『オーケー。あぁ、あの部屋か。終わったらまた連絡する』
『了解です』
オータム、スコールともに誰も殺さずにいるようだ。今のところは
『片付け終わったわ』
次はスコール。こちらはISが居ないが不殺生と成れない機体に手間取ったと見ていいだろう
周囲にはひとまとまりになった生命反応が5つ。
『了解です。楯無さまと合流して待機』
『了解』
意外にも時間を掛けたスコール。恐らくは手加減して敵を甚振っていたのだろう。それん、機体の調子を見る意図もあったと見受けられる。
『状況終了。死者5人。パイロット確保』
次に届いたのは楯無の声。パイロット以外は皆殺しということだろう。一応アフターケアを考えておくか。といろいろ思考しつつも迅速に次の指示を出す
『そうですか……。スコールとオータムの2人と合流してその場で待機』
『わかったわ』
これで後は千冬が交戦している隊長機のみ。そう思った矢先に視界の片隅でアラートが表示された
オータムの"首輪"が発したアラートは近くでの生命反応の消滅。オータムが誰かを殺した。ということになる
『クロエ。パイロットを殺ろうとしてたのを一人殺した。わかってるよな』
『ええ。あなたの周囲で1つ、生命反応が消えましたから。まぁ、これは不可抗力でしょうけど、処分は追って』
『分かった』
今回は彼女に否はないが。きちんと報告した、ということは彼女なりに責任を感じたのだろう。
変わったと言えば変わった――亡国機業に居た頃の彼女を知らないが――オータムに言葉にならない情を感じつつも千冬からの報告を待った
----------------------------------------
「全員無事ですね。敵パイロットも全員拿捕。数人意識はありませんがまぁいいでしょう。では、デブリーフィングを始めます。報告事項があれば挙手して発言してください」
防衛戦に参加した9人はオペレーションルームに集まり、デブリーフィングを始めていた。
その後ろには6人のISスーツを着た女性が縛られている
櫻が手を上げると、クロエが発言を促した
「全員察してると思うけど今回学園を襲ったのはアメリカ。国にあるコアの内、軍事用コアの半分以上を使ってきたからこの熱の入り用は異常だね。最初から隊長機を中に入れるためだけに囮として用意したみたいだよ」
「追加事項だ」
そう口を開いたのは千冬。隊長を相手にしていた為に何か情報を仕入れたらしい
「狙いは地下にある無人機のコア。これは年度初めのクラスリーグマッチを襲った機体のものだ。それと各国専用機の情報もついでに、だな」
「分かりました。それで、今回のアメリカの行動に対する制裁を実行することを束さまが決定しました。先日の委員会との会談の通り、アメリカに振り分けられたコアの全停止ですね」
楯無が気の毒そうな顔をしていたが自業自得もいいとこだ。国力の半分をつぎ込むほどの価値はこのコアにはない。
結局、世界はISに頼り続ける限り束の手のひらの上で踊るしかないのだから
「では、他になければ各自損害報告をしてから自室待機。スコールとオータムは千冬さまの部屋におじゃましましょう」
「おい、クロエ何を言って――」
「束さまが『ちーちゃんの部屋に居候しなよ!』と」
「はぁ……。寮監室とは言え、そんなに広くない。とりあえずは櫻の部屋に行ってくれ、空き部屋を用意する」
「ですが、それでは束さまのお願いが――あっ……」
「ほう、束のお願いねぇ……。聞こうか」
「い、いえ……、幾ら千冬さまでも言うわけには……」
いまクロエの目の前にいるのは第六天魔王。先の戦闘では一切発せられなかった殺気をいま開放するかの如くクロエにぶつけている。すでにクロエは涙目だ
「ち、千冬さん後で直接お姉ちゃんに聞けば……」
「ふむ。それもそうだな。では解散!」
千冬の恐ろしさを知る学園生4人はもとより、何故かスコールとオータムも妙にいい姿勢でくるりと回れ右をしてダッシュで寮にもどった
「只今をもって防衛体制を解除します。生徒は全員自室に戻ってください。30分後、各学年寮監の先生は点呼確認をお願いします。繰り返し、生徒、及び先生方に連絡します――」
クロエの放送で学園防衛戦は幕を閉じた
わけでは無かった
「学園長。これはどういうことでしょうか?」
その日の丑三つ時。すでに世間は眠っているがIS学園から明かりは消えてない。
学園長室、と書かれた札の下がるドアから漏れる光はLEDライトの強烈なものでは無いにしろ、未だに仕事が残っていることを如実にあらわしていた
「いやぁ、1年のテルミドールくんから『いい人材がいるから雇わないか』と言われましてね。書類上の経歴は完璧。それに所属はポラリス。これ以上ない条件でしょう? 委員会からの風当たりは強くなりそうですが今はその委員会すら篠ノ之博士の手の内。学園の独立性を保つため、もっと言えば今日のようなことに対応するためにも採用しようかと思いましてね」
そういう学園長の手元には2人分の履歴書。方や金髪の、方や橙色の髪の美しい女性が映る写真が添付され、内容はすべて英語で書かれている
「ですが、ポラリスの面々は過去に何かしらの目立つ経歴が――」
「ええ、わかっています。おそらくこの経歴は虚偽のものでしょうね。ですが、問題はそこではありません。いかなる国家、団体からも干渉されない、と言う題目があるにも関わらず他国の侵略を受けた。今はそれに対応する力が必要なのです。目には目を歯には歯を、ではありませんが、今は彼女の。篠ノ之博士の手の上で踊らざるをえないのですよ」
ISに関わる限りはね。
そういって苦い顔をする教頭をなだめすかすと「さて、委員会にはどう言い訳をしましょうかね。仮にもいかなるものからの不干渉を謳う以上はポラリスとて例外ではありませんし……」
まだまだ世界に大問題を投下してくれる篠ノ之束。そして彼女の浮かべた指標、ポラリス。
彼女は何を考え、世界はどう解釈して行動するのか。
人類最大の敵であり、人類の希望である彼女の機嫌を撮り続けなければならないことを世界は否応無く理解することになる