Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
2年寮の廊下をそっと歩く1人の少女。
もちろんここは教育施設なのだから制服の女の子が歩いていても不思議ではない。
こんな緊急事態で無ければ。
「女の子に夜更かしは大敵なんだけどなぁ。あなたもそう思うわよね?」
楯無がそう言って振り向きざまにISを展開するとなにもないところから鉛弾が篭った音を伴って飛んできた。
「あら、海の向こうではそんな挨拶が当たり前だったのかしら。私も勉強しなおさなきゃ駄目みたいね」
グッと足に力を込めて踏み出す。これだけで数mを一気に駆け抜けるとそこには化けの皮を剥がされた男たちがミステリアス・レイディを纏った楯無に銃を向けている。どうやらISには無力とわかっていても逃げられない理由があるらしい
「そんな男気あふれるタイプもきらいじゃないけど、引き際がわかる利口さも欲しいわね」
いくら防壁が降りてるとはいえ、ISを使えばどうなるかわからない。そのためにクリアパッションなんてご法度だ。ならば、直接突き刺すしかない
幾ら戦場慣れした手練ともいえど、せいぜい数mの幅しかない廊下ならばISで面制圧が出来る。そう踏んで槍を横に構えて突撃、金属棒が男たちをなぎ倒す
おそらく骨の数本は逝っているであろう地面に伏す5人を縛りあげると階段の踊場に転がしておく。すると案の定上層階から降りてきたISスーツを着た人物と目があってしまう
「「あ……」」
出会った2人は一瞬でISを展開し距離を取ると足元に生身の人間が転がっているにも関わらず実弾の撃ち合いを始めた
「一応ここは他所からの干渉は禁忌なんだけど。引く気はないのかしら?」
「…………」
「だんまり、ね。交戦の意思ありと見るしかなくなっちゃうんだけど……。最後通告よ? 国家代表に勝てると思うなら来てもいいけど、そうでもないなら早く帰りなさい」
返答は気持ち悪い複数の足から打ち出される多数の鉛弾。
楯無はそれを気化させたナノマシン水で塞ぎ止める
『敵のアラクネと交戦開始。幽霊さん達は?』
交戦開始を司令塔のクロエに伝えるとオータムのいる1年寮にもう一機いるようで、そちらも交戦中とのこと。
ならば自分は目の前の8本足をさっさと片付けるだけだ
「終わらせるわよ」
総宣言すると楯無の手元から伸びた蛇腹剣が片側の足を数本絡めとり高圧水流で切り取っていく。
アラクネの操縦者も少し焦りの色が見えるものの、攻撃の手は緩めてくれない
動きが止められれば御の字だが、セックヴァベックで機体は止まったとしてもあの複数の足で撃たれては近寄れない。そのためには真っ当な方法でアラクネを弱体化させなければならない
「次」
自分に言い聞かせるように。ステップを踏んでいくように少しずつ確実にアラクネを陥れていく楯無。
気がつけば2機は2階の廊下の端。いとも簡単に壁際に追い込んでいた
生徒会長としての彼女しか知らない一般生徒が見たら印象を一変させるであろう悪い笑みを浮かべた楯無は足をもがれた蜘蛛をジリジリと追い詰める。
硬いものにぶつかる音とともに後がなくなったアラクネ。
月明かりに照らされた水色は限りなく白に近く、まるで天使の迎えのようでもある。
それが手に持つものが槍でなければ
「終わり」
高周波振動する水を纏う槍はいとも簡単に軍用ISを具現化限界まで追い込んだ。
そしてダメ押しの一突で足のない蜘蛛は量子化して消えた
「さて、どうしましょうか?」
楯無は足元にへたり込むパイロットの処遇をどうするか、階段に置いてきた男たちをどうするかを考えた。
カチッ、カチン! と装甲を銃弾が掠めたのに気づいて背後に意識を向けるとファイバーロープでしばったはずの5人組が銃をこちらに向けているではないか。
「ぬかったか」
ここであの男たちは死んでも構わないが、このパイロットに死なれるのは少し困る。
一応この中で一番使えそうなのは彼女だ
「きゅっとしてドカーン」
手を握り、ソレをぱっと話すと5人の頭は季節外れの赤い花を咲かせた
『状況終了。死者5人。パイロット確保』
自身の手で人を殺めたにも関わらず飄々と状況終了をクロエに伝えるその様に一応軍属であるアラクネのパイロットは先に増して恐怖を覚えた
目の前にいるのはスクールガールではない。と
『そうですか……。スコールとオータムの2人と合流してその場で待機』
『わかったわ』
そして先とは違う温度のある笑みで手を伸ばすと、パイロットを引き上げた
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――コレまた面倒なことを言ってくれやがる。
心のうちで櫻にさんざん悪態をつきながらスタンバトンを両手に舞うような3次元機動を見せるのはオータムだ。
武装がスタンバトンなのも単に櫻の命令によるもの。IS相手には容赦しなくてもいいが、誰も殺してはならない。と命令された上にナノマシンを仕込まれて監視されては従わざるを得ないだろう
最後の一人に打撃を叩き込むと天井から弾丸が貫通してきた
「お出ましか」
天井に穴を開けると鉛弾の雨を降らせて降り立つ8本足。
以前扱ったことあるからこそ解る立ち回り
不殺生の中で見出した弱点。それは――
「知ってるか? アラクネの真後ろは足の可動範囲外ってな」
狭い廊下で行われる一瞬の攻防。
アラクネが落ちてきた穴に跳び上がり上階へ。そして追ってきたところで後ろに抱きついた
「ふむ、悪くない身体だな」
片手で首に抱きついたオータムの開いた手には
オータムはソレを的確に相手のISに叩き込むと、紫電に包まれ、目を見開いて叫ぶ侵入者をを以前と同じような笑みで見ていた
数十秒経っただろうか。電流が止むとリムーバーを取り外し、そのまま量子化。
そして深い黒の塊を手に握り、もう一度アラクネのパイロットを見やると地に手をついて肩で息をしている
「ガハッ、はぁ……はぁ……」
「さて、終わりだな」
スタンバトンを叩きつける前に見た顔は恐怖に染まっていた。
『終わったぞ。全員生かしてな』
『こちらでも確認しました。パイロットとISは後でこっちに持ってきてください。工作員は縛り上げて置いて来てもらって構いません。今用具庫の防壁をあげます』
『スコールと更識の嬢ちゃんは?』
『スコールは敵部隊を鎮圧済み、楯無さまは現在交戦中ですが彼女1人で問題ありません』
『オーケー。あぁ、あの部屋か。終わったらまた連絡する』
『了解です』
パイロットを傍らに担ぐと廊下に開いた穴を飛び降りる。
そして物陰にパイロットを寝かせると無様に転がった工作員を拾い上げてファイバーロープで縛り上げていく
「おかしい、一人足りねぇ……。チッ」
そして黙ってライフルを廊下の先に向けて引き金を引いた
何かが倒れる音、それと、血だまり
『クロエ。パイロットを殺ろうとしてたのを一人殺した。わかってるよな』
『ええ。あなたの周囲で1つ、生命反応が消えましたから。まぁ、これは不可抗力でしょうけど、処分は追って』
『分かった』
その後、4人を束ねると用具庫に放り込んで防壁をおろした。
再びパイロットを抱き上げ、2人との合流場所に急いだ
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薄暗い廊下をPICによる浮游だけで音もなく進んでいくファング・クエイク。
暗闇に同化するようなネイビーの機体は自分の真正面に人影を捉えた
「参る!」
ハイパーセンサーで捉えた人影は人間の速度とは思えぬスピードで自分に迫り来るが所詮人間。そうたかをくくり正面を向け続けると鈍い金属音と火花を伴ってシールドエネルギーが少し削れた
「何っ!?」
そして廊下の電気がつき、金属質な空間に似合わぬ漆黒のボディースーツを着込んで対峙するのは――
「ブリュンヒルデ!」
千冬は1対の刀を手にし、切っ先をファング・クエイクに向けた
生身でISに立ち向かうことが正気とは思えないがシールドエネルギーが削られた以上は警戒せざるを得ない。
「そんなに私にエネルギーを削られたことが意外か? 私は腐ってもブリュンヒルデだぞ?」
ニヤリと笑う千冬には圧倒的なカリスマと、自身の能力からくる余裕が滲んでいた
『交戦開始だ。真耶、あと5分でそっちに行く』
『了解。再度システムチェックをしておきますね』
『布仏、万一にもお前の出番はないが、気を締めておけ』
『は、はいっ!』
さぁ、楽しませてくれるだろう?
次の一撃は的確に関節を狙い、相手のエネルギーを削っていく。
そうでもしないとすべて物理装甲の前に無と帰る
時折響く金属同士を叩きつける音と刀の折れる音。そんな応酬が数十秒続くとついに痺れを切らしたファング・クエイクのパイロットが苛立たしげに声を出した
「いい加減に諦めたらどうだ。ブリュンヒルデ」
「ふん?」
千冬も立ち止まりその顔を見る
どうやら言葉の続きは無いらしい。ふっ、と一息吐くとすこし馬鹿にした調子で言った
「アメリカは恐れ知らずと言うか馬鹿というか。世界だけでなく、篠ノ之束まで敵に回してでも地下に眠るコアを奪いに来るか。それに世界中の最新鋭機のデータもあわよくば、か。そんな大雑把なことをするからいつまでも日本に技術レベルで負けるんだ」
「…………」
あからさまな挑発だが、相手は上手く乗ってくれたらしい、下唇を噛みしめる姿はどう見ても怒っているようにしか見えない
「おや、図星だったのか。すまないな、教師が人を陥れるようなことを言うんじゃなかった」
「ッ……」
もうひと押し、それで相手は吐く。そう踏んで更に言葉を紡いでいく
「どうした? こっちは謝っているんだ。なにか言ったらどうだ。私だって少しは良心が痛むんだ」
「く、どこまで我々を侮辱すれば……!」
ニッ、と口角を上げると迫り来る打撃をひらりと躱し、そのまま刀を叩きつける。
コレも鈍い音を立てて刃の一部を欠けさせるが構わずに絶対防御の働く場所を狙いつけて次々と刀を立て続ける
「どうしたんだ? 私はISもない、只の人間だぞ? 今こそブリュンヒルデを倒すチャンスだというのに」
ファング・クエイクの手元に現れたのは少しながいリーチのナイフ。ここで銃器を選ばなかったのは正しい選択といえる。さすがは特殊部隊の隊長だろう
「ほう。私に近接格闘を挑むか。ISが無いのが悔やまれるな」
音を立てずに地面を蹴りだすと頭と腰を狙って横に刀を振るう。
だが、当たる直前で刃を掴まれ止められる。そして千冬は刀を手放すと勢いそのままに相手に絡みつく。
そして右手を振り上げると手首から伸びるワイヤーが相手の首を締め上げる
「グッ――!」
「コレは対人戦だぞ。それに、ISは無敵の衣ではない」
だが、その細いワイヤーは絶対防御のエネルギーシールドに焼き切られ、相手の呼吸が戻る前に千冬は体制を整えて相手に体重を載せたミドルキックを叩き込んだ
そして互いに向き合ってタイミングを伺う。
だが、落ち着き払う千冬とは対照的にファング・クエイクを操る隊長は焦っていた。
追い打ちを駆けるように言葉で攻め立てる
「ほら、やってみせろ
「うるさいぞ、
千冬が刀を構えるともうお構いなしと言わんばかりにブースターを噴かして突貫してくる。
クロエに渡された
「終わりだ」
言うが早いか反転再接近してきたファング・クエイクが鋭いブローを放つ
が、炸裂音とともに千冬の姿が消える。希薄な手応えに隊長が手を見るとそこにはわずかに煤がついていた
「終わり、とは行かないな」
地面に膝を着く千冬は意味深な笑みを浮かべると
「木っ端微塵!」
「――!」
魔法の言葉を叫ぶと地面に突き刺さる数本の刀が一気に炸裂。廊下に大穴を開ける。
「クソがぁぁぁ!!!」
逃げ去る千冬をブースター全開で追いかけるも狭い廊下を縫うように走る影にはあと一歩届かない
だが、事前に伝えられた地図によればこの先は行き止まり。そう考えたかは分からないが千冬は行き止まりで消えていた。
扉を蹴破りその部屋に突入してきたファング・クエイクを見ると
「出番だ、真耶!」
そう言って部屋の電気を付けた
「はいっ!」
部屋の大半を占める砲台。ラファール・リヴァイブ拠点防衛パッケージ、クアッド・ファランクスがそこにあった。
途切れない銃声を響かせて秒間数千発の鉛弾がファング・クエイクのシールドエネルギーを一瞬で削り取ると鉛弾の雨を浴びたネイビーの機体はあっさりと崩れ落ちた。
具現化限界を迎えた機体が量子化するのを確認するとパイロットの後ろ手に手錠をはめてから意識を刈り取り、クロエと本音の待つオペレーションルームに向かった。