Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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不穏な音

時は現在に戻り、IS学園の整備室。そこで背中にランドセルの様なものを背負ったパワードスーツをバラバラにしているのは櫻と本音だ

 

数日前に『そっちにブツが届いたら全バラで総点検よろしく』という 上司束のありがたいお言葉を頂いた2人はその指令どおりにコンテナ3つで届いた総勢18機の外骨格攻性機動装甲、EOS(Extended Operation Seeker)を一機一機ネジ単位までバラして怪しいパーツがないか、欠けているパーツがないかなど、束の指定した総勢数百項目もあるチェックシートに指定されたどおりに中身の確認を行っていった。それも、織斑先生からの『今度の授業で使うから最低4機は3日以内に』と言う無茶振りに答えるため、名目上仕事、ということで授業を休んで1日中整備室に篭っていた日もある。

 

いまは2つ目のコンテナに入り、放課後の時間を使って少しずつ仕事を片付け、あと9機がコンテナの中に背中のPPB(Portable Plasma Battery)を取り外されて身体検査を待っている。

 

8機目に当たる作業中の機体に怪しいプログラムが走っているのを見つけたのは眠い目をこすって作業をする本音だった。

プログラム自体は束の作ったソフトで中を確認するだけだったが、それが今アラームを出しているのだ

 

 

「ほえっ!?」

 

なんとなくモニターを流し見ていた本音が突然のアラームに素っ頓狂な声を上げた

 

 

「なにかあった……みたいだね」

 

「え~っと、バッテリー制御プログラムが一部書き換えられてるみたい。コレじゃバッテリーの温度が上がって爆発だ~」

 

「うわ、あんな高エネルギーが一気に放出とか操縦者殺す気だね」

 

「わざと、だよねぇ?」

 

「まぁ、それを決めるのは上に任せよ。確認済の機体も一旦起動禁止を通達してもらおう。通信でパッチが送られてたりするかもしれないし」

 

「だね~」

 

「うし、システムは一旦放置。機体を再度組み立てて寝よ。さすがに毎日コレはつらすぎる……」

 

「らじゃ~!」

 

 

この時、ロッカールームにある櫻のプライベート用携帯に立て続けに「本国に帰る」と言うメールが入っていることに気づいたのは次の日の朝の事だった

 

 

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翌日のSHRは妙に空席の多い状態で始まった

 

 

「おはようございま~す。えっと、織斑君、ウォルコットさん、ウォルコットさん、ボーデヴィッヒさんは公欠。それ以外はみんな居ますね~」

 

「専用機持ちがほとんど休みなんてね~」

 

誰が言ったかは分からないが、そんな声を上げると山田先生はその理由をあっさりと教えてくれた

 

 

「えっと、専用機持ちの皆さんが休みなのは一度所属企業や国に戻って先日のトーナメントの結果とISの確認、アップデートを行うためです。本当なら1学期のトーナメントの時にもあったはずなんですけど、まぁ、いろいろありましたからね」

 

なるほど~、といった様子で数人が頷いた

 

 

「では、1時間目始めますよ~」

 

そんな山田先生のゆるい声で1日が始まった。

 

淡々と教科書の内容を少し砕いて読み上げる山田先生の声を聞き流して櫻は束とメールをしていた

 

 

《専用機持ちが居ない。来るとしたら今日明日》

 

《たぶんね。土砂降りから連絡は?》

 

《まだ。でも来るなら真っ昼間は選ばないはず》

 

《それもそうだ。一応くーちゃんを送るよ》

 

《了解。千冬さんにも話を通しておいてね》

 

《えぇ~、さくちんに任せた。以上、通信終了!》

 

一方的な終了宣言で会話は打ち切られ、気がつけば山田先生がこっちを見て涙目になっている

 

 

「あ、あの、テルミドールさん? 教科書の274ページに有るコアネットワークによる通信の概論を読んで欲しいんだけど都合悪かったかな?」

 

「いえ、えっと。コア・ネットワークを用いた通信は本来――」

 

 

時刻は昼前、ちょうど4時間目、織斑先生による戦術論の時間のことだ。櫻のポケットの仕事用携帯が緊急用の電話が入った事を告げるアラームを鳴らした。

 

 

「なので、この際は――テルミドール、授業中は携帯の電源を切るのが常識だろう」

 

「すみません。先生、少し出ていいですか?」

 

真面目なトーンと目線で緊急事態を告げると、「束絡みか……」とつぶやいて首で出ろ、と示した

 

 

 

「私です」

 

「秋雨前線が太平洋に居座ってるらしいから気をつけて。夕暮れから夜には土砂降りになりそう。ごめんね。今ちょっと手が離せなくて」

 

「分かりました。少し情報が少ないですが、冬の備えも整えておきます」

 

「お願いね。あと、ノートを取ったってさっき先生から」

 

「はい。今揺りかごはここから東1000km付近にとどまってるみたいですから」

 

「なるほど、じゃ、ちゃんと支度を整えておいてね」

 

「そちらも、気をつけて」

 

廊下の片隅で手短に会話を終えるとポケットからメモ帳を取り出して適当に書き殴ると教室に戻った

 

 

「すみません。不出来な上司のせいで」

 

「ヤツなら何度でも掛けてくるからな。一回で出たほうが手早く済む」

 

そっと教卓にメモを置くと櫻は自分の席にもどった。

そして本音に《作戦行動は10時から。クロエが応援に》と要件をメールして授業に意識を向けた

 

 

 

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「それで、櫻。これはどういうことだ?」

 

昼休みに職員室横の会議室に呼ばれた櫻は千冬にさっきのメモについて聞かれていた。その内容は

 

「本日夜中に襲撃。内偵あり」

 

櫻はドアの方をちらりと見やってからホログラフィックディスプレイを投影した

 

 

「4時間目にオフィサーから連絡がありました。太平洋上に特殊部隊が展開中。夕方から夜にはこちらに襲撃の予定とのことです。一応こちらからは私、マドカ、本音、クロエの4人が防衛戦力として学園防衛に当たります。クロエの到着は昼過ぎの予定です。放課後作戦会議を」

 

「だが、学園としてはそんな不確かな情報で動くわけには……。お前の言うことだから事実なのだろうが……」

 

「だと思ったからこうして千冬さんに直接言ってるんです。専用機持ちもほとんど居ないし、敵戦力の具体的情報もありません。学園の正規戦力は実際に事が起こるまで動かない前提で作戦行動を起こさないと」

 

「お前の想定する双方の戦力は」

 

「コチラはポラリスの4人、それと楯無先輩。千冬さんと山田先生の7人。それとオフィサー2人の9人。相手はおそらく1個小隊規模の人数の特殊部隊員、それと数機のISで構成されると思われます」

 

「ふむ……。ISが未知数だな。こっちは8機。それも布仏とクロエはどちらかと言えば空中官制だろう?」

 

「クロエはオペレーションルームで学園のシステム保持などをやって貰うつもりなのでISは動かしません。本音も機動戦には向いてないので固定砲台ですね。それで」

 

「真耶か」

 

「はい。この前学園に納入されたアレ、出してもらえますか?」

 

「仕方ないな。どうにかしよう。しかし、それだと動けるのは3機だけ。どうするつもりだ?」

 

「え、3機でももう一人隠し球がありますし」

 

そう言って櫻が千冬を舐めるように見ると面食らった様子でため息をつくと

 

 

「なにをさせようって言うんだ?」

 

「大したことじゃありませんよ。ただ――」

 

 

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「1年、テルミドール、布仏、織斑。2年、更識。至急、職員室織斑のところまで来なさい」

 

放課後の学園に織斑先生の呼び出しが響いた。


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