Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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秋女が一晩でやってくれました

これはスコールとオータムの2人を放す少し前の話だ。

 

オータムへの尋問を通じて何か得るものがあったらしいクロエは最近すこしおかしい。

束が気がついたのはついさっき。普段は仕事をきっちりこなす彼女がふと彫刻のように固まってボーっとしている。最初は最近忙しいから疲れたのかな。くらいにしか思わなかったが、近くによってみるとなにかボソボソとつぶやいているようなのだ。

 

「ラウラ……。お姉ちゃんはコレでいいのかな……」

 

 

束は考えた。クロエが妹を思って何を考えているのか。「これでいいのか」とは一体何なのか。まさかポラリスを離れてしまうのか……などなど。

だが、姉として絶対的に何かが欠けている束はひと通り考えた末に自身の知る最高の姉(千冬)に頼ることにした。

 

思い立ったら即実行は相変わらずで、自室に駆け込むと時差も考えずにダイヤル、3コールほどで千冬が出たのを確認すると捲し立てるように話し始めた。

 

 

「ちーちゃぁぁぁん! くーちゃんが、くーちゃんがぁぁぁ!!」

 

「なんだ束……こんな真夜中に……」

 

「くーちゃんが! くーちゃんがぁ!」

 

「クロエがどうした、まさか親離れか?」

 

「一人虚空を見上げて『お姉ちゃんはこれでいいのかなぁ』ってぇ!!」

 

うわぁぁ、と声をあげる束に千冬はため息を一つ吐くと呆れた様子で言い放った

 

 

「それは、アレだ。妹絡みだろ。クロエとラウラは育ちが違いすぎた。今はかなり仲がいいようだが、戸惑うことも多いんだろう」

 

「ちーちゃんも?」

 

「そうだな。私もまだマドカにはどう接するべきかわからないことがある。そういうお前も妹がいるだろ」

 

「箒ちゃんはしっかりしてるからなぁ。束さん心配してないよ。それに時々メールくれるし」

 

「そういう事なのか……? まぁいい。私からも少しラウラと話してみよう。お前も組織を纏める人間だ、部下は大事にしろよ?」

 

「うん、わかったよ。話は変わるけど、そっちに楽しいおもちゃ(E.O.S)が送られてないかな?」

 

「おもちゃ? あぁ、国連のパワードスーツか。来たぞ、ご丁寧に性能評価をしてくれとな」

 

「それ、実際に動かす前にさくちんとのほほんちゃんに一回オーバーホールさせておいてよ。念のため、ね」

 

「お前がそう言うならそうさせよう。"念のため"にな」

 

「お願い。また会えるといいな」

 

「前もって連絡をしろ。突然来るから騒ぎが起こるんだ」

 

「えぇ~、いいじゃん。ちーちゃんと私の仲だしぃ」

 

「そういう所が駄目なんだ。それに、櫻もお前の影響かしらんがこの前のアレはなんだ?」

 

「アレって?」

 

「委員会との会議だ。あそこまで感情的な櫻は久しぶりに見たぞ」

 

「アレはねぇ……。私が出たらもっと酷い。ってさくちんに言われたから見てたんだけど、人のこと言えないよねぇ」

 

小さく笑う束に千冬が「笑い事じゃないだろ」と言ってやわらかな声音で言った。

 

 

「もしこのまま関係が悪化したら、と考えなかったのか? お前らが世界を敵に回す覚悟をしていたとしても犠牲が大きすぎるだろう」

 

「まぁ、ね。もしそうなった時には世紀の逃亡劇だよ。でも直に解る。だれが私達を怒らせたのか。身を持ってね」

 

「はぁ。その時は櫻だけじゃなく、私にも言ってくれ。コレでも学園の防衛は私の責任なんだ」

 

「だれもIS学園が脅威に晒されるなんて言ってないよ?」

 

「そうか。まぁ、万が一の時は最強(ブリュンヒルデ)の名に賭けて、学園の1つや2つ守ってやるさ」

 

「やっぱりちーちゃんだね。安心したよ。じゃ、またね」

 

「ああ。次からは時間も気にしてくれ? 真夜中に起こされたんじゃ仕事に響く」

 

「いやぁ、今何処らへんなのかちっとも分かんなくてさ。それにずっと飛んでるしね」

 

「はぁ……。何が世紀の大天才、だろうな?」

 

「天才は私じゃなくてさくちんだね。私は所詮天災さ」

 

「そう言うな。じゃ、また飲みに行こう」

 

「ちーちゃんお酒飲むことしか考えてないの?」

 

「そういう訳じゃないんだがな。はぁ、こうして話が終わらないから睡眠時間が減るんだ」

 

「あははっ。まぁ、これもお友達同士の電話の醍醐味だよ。じゃね、ちーちゃん」

 

「ああ。またな」

 

 

そのままベッドに倒れこむと、頬を伝う涙もいつの間にか乾き、少し嫌な感触を残している。

一つ伸びをするとふんっ! と足を振り上げ、反動で起き上がる

 

 

「よし、ポラリス本部はこれより休暇に入ります!」と宣言し、洗面所に向かった。

 

 

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「お休み、ですか?」

 

「うん! 忙しかったからパァーッとどっか行こうよ!」

 

思いつきで決めた休暇をクロエに伝えると少し戸惑った様子で少し首を傾げたのち、分かりました。と言って再びモニターに向かった。

 

 

「え、お休みって言ったよね?」

 

「はい、聞こえましたよ? とりあえずこれだけ片付けてからオータムのところに行こうかと」

 

「またあの女のところに行くの?」

 

「はい。彼女から学ぶことも多いですよ」

 

「はぁ……。まぁいいけどさ」

 

そう言って黙々と作業を続けるクロエを束は黙って見守ることしか出来なかった。

 

 

そして数十分経つと一区切り付いたようで、席を立つとオータムのところへ向かったようで、束はクロエの追跡を開始する。

 

 

長い廊下を歩き、幾つか角を曲がるとオータムの部屋にあてがわれた部屋の前に着いた。チャイムを鳴らし、「クロエです」と短く告げると部屋の中に入っていった。

完全防音の部屋での会話を盗み聞くのは至難の業だと言うのは設計者である束が何よりわかっている。そこで悪知恵を働かせた束はコントロールルームにダッシュで戻ると、監視カメラの映像を見ることにした。

 

 

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「んで、どうしたよ」

 

部屋に入ると部屋着をだらしなく着崩したオータムがお茶を入れながら聞いてきた。

そこで意を決して口を開く。

 

 

「私、好きな人がいるんです」

 

「ほぉ」

 

「できればその人と一緒に居たいと思うんですけど、やっぱりそれぞれの立場とかを考えるとそうも出来なくて。どうしたらいいですかね?」

 

オータムは紅茶で満たされたカップをクロエのテーブルに置くと目で座るように促してから腕を組んだ。

 

 

「それを私に聞くか。まぁ、一緒に居たいとお前が願うなら、叶えるために動いてもいいんじゃねぇか? 私とスコールもそれぞれ立場に差があるが、察する所上司と部下とかそういう間柄じゃなさそうだしな」

 

「はい、その通りです」

 

「う~ん。私もそんなにあーだこーだといえるほどの経験は無いが、やっぱり大事にするべきは自分がどう思うか。それに限るだろうな。いまのクロエが彼か彼女かは知らんが、好きな人に会いたい、って思うことは少なくとも自分はどこか足りないと思ってるってことだ。なら自分に正直になってもいいんじゃないか? 人間無理すれば必ずどこかが狂っちまうからな」

 

「はぁ……。自分に正直に、ですか」

 

「ああ。少なくとも私は自分の欲望に正直だったからな。スコールが欲しい、と思った時には傍に寄るし、彼女に愛されてる、って実感があった瞬間はその感覚に酔いしれたさ」

 

「私には誰かを愛したり、愛されたりと言うのがわからないんです。自分が抱くこの感情がなんなのか、はっきりとはわかりません。でも、あなたのいうことを信じてこの感情に流されてみようかと思います」

 

「まぁ、感情なんてそんなもんだ。愛とか恋とかなんて所詮は自分が満たされる感覚だったり、欲しくてたまらない感覚だったり、そういうもんだ。コレが愛です。なんてはっきり決まってるわけじゃねぇよ」

 

「それで、ものは頼みなんですけど――」

 

キンコン、とチャイムがなるとオータムがドアを開ける前に艷のある声で「入るわよ」と言ってスコールが入ってきた。どこから手に入れたのか、白いブラウスにロングスカートという出で立ちだ。

 

 

「あら、先客が居たのね」

 

「まぁな。それで、なにか用か?」

 

「さっき束が部屋に来ていきなり『休暇だよ!』って言ってどこかに行ってしまったから、久しぶりにどこか行こうかと誘おうとおもったのだけど。お邪魔みたいね」

 

「いえ、私はオータムに相談してただけですから」

 

「あなたがオータムに?」

 

「まぁ、な。アレだ、ティーンエージャーの恋愛相談的な?」

 

「悪いことは言わないわ。オータムに聞くのはやめておきなさいな」

 

「そうですか? 先ほどの結論では『自分に正直になる』ということに至ったのですが」

 

「確かに、悪いことではないわ。でも、時と場所を選ばないといけないのはどんなことでも同じよ」

 

「やっぱりそうですか……」

 

「お、おい。スコール。折角勇気を出して行動に移そう、ってとこだったのによぉ」

 

「あら、ごめんなさいね。それで、あなたの想い人って誰なのかしら。良ければ教えてくれない?」

 

「えっと……。い、妹……です」

 

「「…………」」

 

「変、ですか?」

 

なんとも言えない顔の2人を見て少しおどおどとしてしまうクロエ。

だが、少しするとスコールは表情を柔らかくしてクロエを撫でると。

 

 

「そんなことないわ。あなたの妹と言うと、IS学園のラウラ・ボーデヴィッヒよね? 確かにお互いの立場もあって悩んだでしょうね」

 

そう言ってスコールはクロエを後ろから抱きしめると耳元で囁いた。

 

 

「でも、家族の繋がりは他の何より強いものよ。たとえ敵同士であっても、絶対に切れることのない繋がりだもの。いまはその強いつながりに、甘えてもいいんじゃないかしら?」

 

「ほ、ほら。スコールもこう言ってるし。な? すこし頑張ってみようぜ?」

 

「はい……。なんだか、ホッとしますね。束さまとも違う温かさといいますか……」

 

ふわぁ~。とあくびをすると胸元に回ったスコールの手を握り、そっと解くと紅茶を一口飲んで立ち上がった。

 

 

「妹をお出かけに誘おうと思いますっ!」

 

「「おぉ~」」

 

一人の少女が立ち上がった瞬間だった。

 

 

 

「それで、おすすめのスポットとかありませんか?」

 

「ふふっ、任せなさい」

 

「お、おい。スコール? なにか悪い企みの顔だぞ?」

 

 

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「くーちゃんも少し、成長したのかな? 誰かを想えるようになったんだから、きっと良いことだよね」

 

途中で覗き見を辞めてスコールに休暇を伝えた後、自室に戻ってベッドで大の字になった束はおそらくひとりぼっちであろう休暇をどう過ごすかを考えることにした。


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