Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
とは言いつつ、暁版より、1話当たりを長くして、話数は少なくなる予定です……
「さて、今日は昨日の応用だ、くるくる回るだけじゃつまらないだろ」
「そうだよ、もっとビュンビュンして、スパーンってやりたいの!今日は時間あるし、いっぱい練習するんだからね!」
「ビュンビュンしてスパーンとしたいなら、私の言うことをよく聞き、理解しなさい。サクラ、できるな?」
「もっちろんさーっ!」
「よし、その意気だ」
日付変わって再びシミュレータ。父と娘が相対する構図は昨日と変わらない、だが。
マップは昨日より格段に広くなり、オブジェクトも幾つか設置されている。
「まずやることはクイックブーストの練習だ。コレを使えば複雑な動きができるようになる」
すこし見せてやるから離れていなさい。というとふわりと浮き上がり――
QBを6連射、空中に光の五芒星を描く。
「おぉ、ファーティすごいね」
「あれをできるようになってもらうぞ。まぁ、まずは簡単な練習からだ。ガフナー、頼む」
そう言うと地面から赤いポールが数本生えた。
「この間をジグザグに飛んでみろ、まずはQBを使わずにな」
「簡単だよーぅ」
そう言ってスイスイと動いていくさまはまだ未熟さを感じさせるものの、非常に安定した機動だった。
「よし、では次だ。まずはその場で左右にQBで動いてみろ」
左、右、と確実に一発づつ、QBで動く櫻。
「ほぉわぁ、速いねぇ! 楽しくなってきたよぉ」
「速いだろ、だが、あまり動いていないことに気づかないか?」
「言われてみれば、あんまり離れたところには行かなかったかも」
「QB自体は前に進むものじゃない。次は旋回しながらQBをやってみろ」
くるくる~と言いながら旋回している櫻はどこか上機嫌だ。
「くるくるからのぉ、ドーン!」
旋回しながらQBを噴くということは、
「うわぁぁ、なにこれぇ! クルってしたよ、クルッて!」
「そのクルってすることをクイックターンって言うんだ。QBを使った基本テクニックだな」
「もっかいやっていい?」
「ああ、反対にもやってみろ」
先とは逆の方向に回りながら、QBを一発。
左右で角度が変わっている。やはり加減はしなかったらしい、櫻らしいといえばらしいが。
「まだコントロールは難しいか、自分の思う角度に向けられるように少し練習しなさい」
「やったね!」
その後も櫻は練習を重ね、機体を思うがままに操ることへ着実に近づいていた。
「じゃあ、最初の課題だ。最初に言ったとおり、あの棒の間をジグザグに抜けるんだ、QTの角度をあまりつけないことが重要だぞ。やってみろ」
「あいあい!」
ブースターの轟音が響く中で時折、QBの炸裂音が目立つ、
首尾は上々、合格だろう。
だが、本人はそうでもないらしい。
「う~ん、これね、クルってできるのはいいんだけど、その後遅いよね」
「ほう、そう思うか、ならどうすればいいと思う?」
――やはりな、そう来るとおもったさ。さすがだな我が娘よ。
「クルってした後に、もう一回ドーンってすれば、速いと思うんだけど、どうなんだろう」
「実際にやってみればいいじゃないか」
――この子は理論ではなく、実践して覚えるタイプだ。だから、どんどんやらせよう。
「そうだよね! やってみればわかるもんね!」
再びスラロームに入る、ただし、今回は鋭い炸裂音が2回連続で。
2段QBもあっさりと習得してしまったようだ。
――うむ、そうこなくてはな。できると信じてたぞ、サクラ
「よし。では、私が最初に見せた星を書いてみろ。さっきの2段QBができるのなら、難しくはないぞ。」
「うん! ファーティにできると言われたならできる!」
その仮想空間に、無数の星が光り輝いた 。
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その後も高起動練習はそつなく進み、レオハルトは娘のセンスに改めて驚かされていた。
ACのブースターすべてを使ったコンバットマニューバ。彼女はそれを誰に教えられるでも無く舞っていた。
「よし、お昼の前に軽く午後やることをさわりだけやってみよう。ガフナー、ウエポンパックを」
ウエポンという響きに反応したか、櫻が満開の笑顔で詰め寄る。
「なになに? 撃てるの? 撃てるの?」
「お前が頑張ればな、まずはブレードからだ」
「ちぇ~っ、バンバンできると思ったのにぃ」
「刃物が使えなければ銃も使えないさ、銃は刃の長い剣だからな」
「は~い」
そう言っている間に機体にレーザーブレードとアサルトライフルが装備される。
「よし、では軽く振ってみろ」
「ほわぁ、剣だぁ、銃だぁ。楽しそぉ」
レーザーブレードを一閃、櫻の眼前で止める。
「浮かれるな、死ぬぞ」
少し低めの声で言ったためか櫻は。
「は、はぃぃ」
若干ビビっていた。
「武器を扱うということは人を殺せるということだ、人を殺せるということは自分も殺せるということにもなる。浮ついていると殺されるぞ。武器にも人にもな」
「はいっ!」
「いい返事だ、その気が返事だけでないことを期待するぞ」
このシミュレータでのレオハルトは櫻の父であるが、どちらかと言うと教官として接していた。
まだ小学校に入ったばかりの娘に酷なことだと解ってはいるが。真剣にならざるを得ない。
「では、左腕のブレードを振ってみろ、剣は鋭く、だ。方法は自分で考えろ」
「はいなっ」
そう言ってまず一振り、真っ直ぐな唐竹。太刀筋は悪くない、だが、良い太刀筋でないと生きてはいけない。そういう世界を生き抜く術の第一歩なのだ。
――う~んよくわかんないなぁ、適当に振ってるだけじゃダメなんだろうなぁ。
二振り、コレも真っ直ぐな唐竹。
――腕の力だけじゃ早く振るのにも限界あるし、どうしようかなぁ。
ブレードをいろいろな振り方をする櫻、やはり刃物の扱いの基本、力に抗わない、というのに気づけないらしい。
振り下ろすならば重力を活かし、切り上げるならば反動を活かす、初動さえ掴めば刃物は自然と流れるのだ。
――おや、気がついたか。
見れば櫻はブレードを装備した腕を上げては落とし、上げては落とす動作をしている。
そして落とした腕の反動で元の高さまで持ち上げる。
「ファーティー、なんとなくわかったよ! なにか切るもの出して!」
「そのようだな。ガフナー、マンターゲットを出してくれ、射撃用で構わん」
目の前に的のついた人型の板が出現する。
「試しにやってみろ、的があるからどう切れたか見やすいだろう」
「うん!」
そして櫻はブレードを勢い良く振り上げ、頭上から振り下ろした。
真っ直ぐな唐竹、自然の力を使った鋭い一振り。
マンターゲットは中央部を上から下までまっすぐに切り分けられていた。
「ほう、いいじゃないか。どうやってブレードを振るんだ?」
「そうだなぁ、なんていうか、剣を落っことす感じ? 無理やり切るより楽なんだよねぇ」
「そのとおりだ、自然の力を使って斬るんだ。さっきは斬り下ろしからの斬り上げもやっていただろう、見せてみなさい」
「うん!」
同じように振りかぶり、一閃、さらに下から跳ね上がった刃は元と同じ軌道をたどって頭の上へ。
マンターゲットには一筋のみ、なんという芸当だろうか。
「な……」
「どうどう? すごいでしょ?」
「あ、ああ。あとでムッティに見てもらいなさい、きっと驚くだろう」
「うん! ムッティ褒めてくれるかな?」
「私と同じような反応をするんじゃないか?」
「えー、ただ斬って上げただけなのに?」
ただ斬って上げただけ、そんな単純な表現でここまでやってしまったら世の剣士達のプライドなんてズタボロだろう。
幼心ならではの純粋さがひたすらに真っ直ぐな太刀筋を描かせたのだろう。
「次は斜めに切ってみなさい、肩から、脇腹をね」
俗にいう袈裟斬りだ。斜めに剣尖が走る分、力を抜く加減が難しくなる。
「コツを掴んだサクは強いぞぉ!」
「ほう、ならばどんどんやってみなさい」
マンターゲットがずらりと並ぶ、その数15。
「はぁっ!てぇぇぇい!」
どこか気の抜けた掛け声とともに端から斬りかかる。
フッフッと呼吸のリズムもできている。心技体が一致してこその剣だ。それを自然と身につけ、刃を振る姿は剣士のそれだった。
「最後ぉ!!」
総仕上げと言わんばかりに剣が走る、走る。
残されたターゲットには五芒星が刻まれていた。
「ファーティ、サクの本気どうだった?」
「やはりところどころ詰めが甘いが、大筋は合格だろう。最後のアレは、やめておけよ?」
「えー、かっこいいじゃん! 朝のヒーローの必殺技みたいでさ!」
「かっこいいことと強いことはイコールじゃないんだ、みんながヒーローにはなれない。よし、ではお昼にしようか」
「えー、レッドが言ってたよ、心に正義があるかぎり、みんなは誰かのヒーローだッ!ってさぁ」
「私は正義はあるが、ヒーローではなく、騎士だからな。さぁ、ご飯が待ってるぞ」
「騎士? あー、ごはん~!!」
――私はヒーローではなく、騎士なのだ。大切なモノを守ることに変わりないかもしれない、だが、ヒーロー達は守るものに忠誠を誓わない。純粋な正義のみで動く。騎士は守るべき主に忠誠を誓い、偏った正義で動くのだ。だから私は、ヒーローになれない。
――ヒーローになれないって言って、自分を騎士だって言ったファーティは、何処か寂しそうな、でも強い顔をしてた。絵本に出てくるナイト様は、お姫様を守るために必死で戦っている。
ファーティもそうなのかな? ムッティを守るために全力で戦ってるのかな? ファーティがお仕事から帰ってきた時、ムッティは帰ってきたナイト様を見るお姫様みたいだったなぁ。多分それが答えだと思うな。ファーティはムッティのナイト様。でも強くてかっこいい、私のヒーローなんだ。
それぞれ思うところはあれど、ゆく結論は1つ。愛する者のために。
少女はまず親に憧れ、世界に憧れを抱く。
その憧れを自分の手でつかむのかどうか、それは彼女なら……