Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
10月も終わりに差し掛かったある日、国連本部には緊張が走っていた。
今日はIS委員会とポラリスとの定例会議の1回目だ。この定例会議も先日のポラリス存続の是非を問うた際に決められたことであり、技術供与や世界のISの状況などの意見、情報交換の場として設けられた。束は(そんなもの自分で見れるから)いらない、と言っていたが、さすがに世間の目が痛くなりかねないので櫻が気を利かせて設けたこの会議。1回目というのに荒れそうな予感が委員長の女性の胃を襲っていた。
カチッ、と音がすると7つ星のエンブレムがモニターに映し出される。
そして画面が切り替わるとクロエが写され、一礼した。
「本日は第1回、定例会議にご参加いただき、ありがとうございます。本日はポラリスからの案件は2件。技術公開は25件です」
「わかりました。委員会からの報告は1件のみです。記念すべき1回目、実りあるものとなることを期待しています」
「ではまずこちらから。代表のテルミドールより」
再び画面が切り替わるとIS学園の制服に身を包んだ櫻がすました顔で佇んでいる
「あ、もうつながってるのか。委員会の皆さんこんばんは。ポラリス共同代表のキルシュ・テルミドールです。本日は初回にもかかわらず重要案件を提示させていただきます。良い話と悪い話、どちらから聞きたいですか?」
堅苦しい場に似合わぬ質問に一部の委員が顔をしかめるも、委員長は何事もないかのように「では、いい話から伺いましょう」と言った
「そうですね。本日の公開技術にも関わる話ですが、ISでの大気圏突破、再突入に成功しました。今後、宇宙空間での活動実験も行う予定です。詳細は終了後に送信する書面で確認頂くとして、ISを用いた大気圏突破に伴うパイロットへのダメージはゼロ。真空中に置いても生命維持に問題は無し。一部装甲が焦げる等はありましたが、耐熱素材等で対応可能です」
ISの宇宙進出への1歩を踏み出したポラリスに感嘆の声が上がる。
これで安心してISで宇宙に行ける。そう世界に確信させた。
「では、悪い話と行きましょう」
櫻が声のトーンを落として言ったために開場の空気が一気に冷える。
「国連では新型のパワードスーツを開発しているそうですね。それは上手く動いたみたいですよ? おめでとうございます。ですが、私達は失望しました。ISの存在を未だに認められない一部の人間の手でそれが裏の世界に流れているようです。先日我々が行った治安維持の際にパワードスーツと交戦、破壊した際に破片を持ち帰り検証した所、国連のデータベースとマッチしました。あ、ハッキングだなんて言わないでくださいね。世界のデータはすべて我々の手中にありますから。それで、この件について国際連合としての釈明があればどうぞ。――無いならさっさと落とし前をつけろ」
最後のドスの利いた声に委員長がビクリと背筋を震わせるが、毅然とした態度で向かった。
そこは褒めてもいいかな、と櫻は思ったがその後の発言で再びその評価は地に落ちる。
「我々は新型パワードスーツに関しては関係がありませんので釈明しようがありません。そこはご承知おき頂きたくおもいます。ですが反IS派のそうした行動が事実ならば国際司法裁判所で、厳正な裁判を行って裁かれるべきだと考えます」
「はぁ……」
わざとらしいため息をつくと「期待してたのに」とつぶやいて言葉を続ける。
「君たちに犯人探しはできるの? 国際司法裁判所の裁判員に反IS派が含まれてる可能性は? そもそもこっちは何処の国のアホがこんな真似をしたかまで調べがついてる。わざわざ君たちに反省のチャンスを与えてるのになんてざまだ。初めての会議だというのにこんな苛立つなんて思わなかったよ、心底君たちにはがっかりだね。私は篠ノ之束と違って常識人だ、なんて幻想をいだいていたんだろうけど、私だってバッサリ切るところは切るから。次に変な行動を起こした時はその国のISを全部止める。いいね」
おおっぴらに犯人を晒される可能性を提示して櫻は画面から消えた。
代わりにクロエが画面に戻ると先ほどの人間と同じ組織なのかと思うほどの温度差で会議を進行させた
委員会からの報告は世界のIS開発の進捗状況という内容で、ポラリスの面々は再び落胆。ある意味、彼女ら委員会、及び国連という組織の評価はすでにマイナスに振り切った。
だが、言ったことをしっかりとやるのが束らしく、終了後の技術公開は予定通り行われ、世界中のIS関連企業で実証実験が行われることとなった。
今回公開された技術の目玉は3つ。
・ISの大気圏突破に伴う各種情報
・省エネルギー技術
・適性検査の詳細化技術
それ以外は各種企業から寄せられた質問等に答えただけにすぎず、クロエは最後に「企業からの技術供与要請の一切をお断りすることを宣言します」と言って会議を締めた事を記しておく。
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「さくちんおつかれ~」
「本当に疲れた。なんなのあいつら。ホント馬鹿なんじゃないの?」
会議の最中から苛立ちを隠さない櫻に束が電話をすると案の定キレている様子だった。
もっとも、期待していたのに裏切られるような真似をすれば相手の失望を買う意外にない。
「まぁ、想定の内だよ。どうせ何十億もいる人間だもん。ひとまとまりになんて成れないよ」
「そうだけどさ。せめて100人ちょっとなんだから意見まとめとけ、とは思うわけよ」
「人間は欲の塊だからね。私達も含めて。自分の要求を通す事以外はほとんど考えてないさ」
「だからってアレはないよ。ただの逃げじゃん!」
「次に何かしでかしたら止める、って宣言したんだからそう簡単には動かないでしょ」
「どうだか。あの国なら逆恨みして私とかマドカを襲いそうだけど」
「学園だよ? あそこを襲うなんて馬鹿だね。大馬鹿だよ」
「まぁ、バカを見せてやりたいけどね。あ~ぁ、先輩可哀想。関係ない大人の失策に巻き込まれてIS止められちゃってさ」
「止めること前提なんだね、さくちん……」
かなり熱くなっている櫻を冷静に俯瞰する束。普段とは立場が逆だ。
「ったり前じゃん。あいつらなら絶対やってくる。そのためにスコールとオータムに首輪つけて泳がせたんだし。専用機まで与えてさ」
「それにしても、クーちゃんがあんなに押しが強いなんて思わなかったよ」
「オータムと何かあったの?」
「さぁ? でもクーちゃんには少なからず影響を与えてくれたみたいだよ?」
「へぇ~。クロエがあの女に学ぶところがあったんだねぇ」
「どうやら女性同士の交際について真面目に考えたみたい」
「…………」
「え、そんなに意外?」
「いや、なんか一気に冷めたっていうか……」
「クーちゃんが幸せに気づく日も近いのかなぁ」
「お姉ちゃんもそんなこと考えるんだね。意外だな」
「束さんだって人間だもん。人のことを考えたりするよ。ましてやクーちゃんのことだよ? 親としては放っておけないじゃん」
「束お姉ちゃんが親、ねぇ……」
「なにさ」
「いや、なんでもないよ」
「その意味深な感じは絶対良くないことだね! ほら、言っちゃいなよ!」
「本当にどうでもいいことだからさ」
「どうでもいいなら言えるよね! ね!」
その後もしばらくくだらない話をして通話を終えるとまた別の番号にダイヤルした
「どうしたのかしら、マリー」
「慣れないなぁ、その呼び方」
「仕方ないでしょう? 普通に名前を呼ぶわけに行かないんだから」
「まぁいいよ。それで、会議は見てくれた?」
「ええ、もちろん。今頃ベッドの中で歯をガタガタ言わせてるんじゃないかしら?」
「あら、スコール・ミューゼルの口からそんな言葉が出るなんて」
「私だって人間ですもの、それくらい言うわ。それで、要件は?」
「動きがあったら連絡を。と言うのは言うまでもなく、学園に仕掛けるようならあなた達も動いて欲しいの。まぁ、内部から壊滅?」
「もちろんいいわ。久しぶりにISにも乗れそうだし」
「でも首輪付きなのは忘れないでね」
「わかってるわ。人は殺さない。はぁ、いつぞやのMの気分よ。わたしが言われる側なんて」
「ふふっ。まぁ、それだけの事をした、ということで」
「私も甘くなったわね。それで、もういいかしら? オータムがベッドで待ちぼうけなんだけど」
「あぁ、最後にそのオータムに伝言をお願い」
「いいわ、なにかしら」
「ウチのクーちゃんになに吹き込んでくれたんだ。次に戻ってきたら束お姉ちゃんと折檻。って伝えて」
「オータム……この前のアレね。わかった。伝えておくわ」
「思い当たる節でも?」
「ええ。まぁ、ね」
「この場で話してもいいんだよ?」
「ふふっ、乙女の秘密よ」
「何を言うかこの年m……」
いきなり通話が途切れたが、リダイヤルもせず携帯をベッドに放り投げるとカバンを手に教室へ向かった。時刻はまだ午前10時。2時間目の授業の最中なのだ。あまり遅れると山田先生が涙目で「あまり遅れないでくださいね」と訴えてくるし、織斑先生の出席簿アタックがあるかも知れないのですこし早足で校舎棟に歩いて行った 。