Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
ご理解の上、これからも拙作をお楽しみ頂ければ幸いです。
タッグトーナメントも終わり、一段落ついたある日の放課後。剣道場には見慣れない顔ぶれが数人剣道部員に混じっていた
「織斑。私に剣の稽古を付けてくれ」
全ては箒の一言から始まる。
トーナメントでフルボッコにされ続けた箒は自身の未熟さを嫌というほど思い知り、まずはIS以前に自身の身体を動かすことから、とマドカにこうして頭を下げた。
突然の箒の頼みにマドカは挙動不審になりつつ、櫻が「やってあげたらいいじゃん」とさらっと言ったためになし崩し的に首肯してしまった
そしてそれに便乗するように一夏も櫻に指導を頼み、剣道部部長に
パンパンと竹刀同士がぶつかる小気味いい音が響く
マドカは箒に一言「私に打ち続けろ」と言い渡してひたすらに自分を打たせ続けた。ただ、すべて往なされ防がれ、もう10分以上経とうとしている
「なぁ、櫻。俺はさっきから何をしてるんだ?」
一方の一夏は小太刀をひたすらに振り続けている。それも相手はなく、ただ空を斬る
「なに、って小太刀を振ってるんだよ?」
「いや、ソレは解るんだが……」
「ほら、剣尖が下がってる。小太刀でもきちんと振らないと。それに、それを選んだのは雪片のリーチに近いからだよ」
「なんとなく予想は付いたがやっぱりか。そろそろ一試合してくれないか?」
「ん? そんなに私にボコられたいの? 一夏くんってマゾ?」
「なんで俺が負ける前提なんだ……」
「ほら、ぶつくさいわずにあと5分!」
一夏のため息を聞かぬふりして櫻は傍らに置いた竹刀を手にとった
そのまま中段に構えると深く息を吸い。鋭く面を放った
「よし、もういい。分かった」
マドカはすでに肩で息をする箒に言って剣を降ろさせる
「だが、まだ……」
「肩で息をするほどに真剣に打ち込んだんだ。コレ以上は身体を壊すぞ? 手早く言うと、お前の剣は美しすぎる。美しいまでに無駄がない。だから読めない域を通りすぎて逆に読みやすくなっている」
人殺しの刃を見た人間には。と付け足してマドカは防具を取った。
「無駄がなさすぎる……」
今まで無駄のない剣を褒められたことはあれど、こうしてそれが欠点だといわれたことは無かった。箒は予想斜め上の指摘に顔をしかめていた
すると防具の上から軽い衝撃。
「ほら、今日はもう終わりにしよう。ゆっくり休め。一夏が櫻に打たれるのを見ながらな」
「すまない」
慣れた手つきで防具を取り、スポーツドリンクを受け取って一口煽った
「よし、あっちは終わったみたいだし、始めようか」
「おう!」
「やっぱり体力だけはばかみたいにあるね……」
「聞こえてるぞ。10年前の雪辱、晴らさせてもらうぜ!」
「はいはい。出来るものならどうぞ-。箒ちゃん、審判お願い」
「ああ、今行く」
試合場に向きあいって座る一夏と櫻。そして真ん中に立つ箒。懐かしい感覚が3人を包む。
「試合時間は10分。突き技は禁止でいいな。では、礼」
頭を下げ、剣を片手に立ち上がる。数歩前にでると小さく一礼。剣を抜く
「始めッ!」
箒の一声で空気が一層硬くなる
カンカンと剣尖が当たる音が時折鳴るが、2人は動かない
気がつけば他の部員は各々の手を止めて一夏と櫻の試合に見入っている。そして窓から差し込む光を背に櫻が一瞬気を強めた。そして一閃
「めぇぇん!!!」
大きな踏み込みと長いリーチ。反応する隙も与えずに一瞬で一夏の頭頂部に竹刀を叩き込んだ
「一本!」
何時ぞやのように渋い顔の一夏と再び向かい合って一礼。蹲踞の姿勢を取るとそのまま下がった
「また一本。それもちゃんと面でね。相変わらずだなぁ」
面を取りながら一夏に言う櫻はどこか嬉しそうに見えた
それに対する一夏も頭をさすりながらも顔は笑っている。また審判を任された箒も目が潤んでいるようだ
「初っ端から殺気全開なのも10年前と同じだな。俺も少しは成長したつもりだったんだけど、やっぱり剣を振る前にやられちまったな」
「まぁ、試合時間は伸びたからさ」
「箒、ってお前、泣いてるのか?」
「泣いてなどいない! 目にゴミが入ったのだ!」
「素直じゃないなぁ」
「だから、コレは……」
櫻が箒を抱きとめると胸の中で箒は泣きだした。声は上げずに、噛みしめるように
「みんな、変わってしまった。ぐすっ……。でも、やはり変わらないものもあったんだな……」
「形あるものはすべて姿を変える。でも、形のないものは変わらないことだってあるんだよ。思い出とかね」
雰囲気に耐え切れなくなったマドカがそっと剣道場から出ると出口には千冬が立っていた
「さすがに空気を読んだか」
「私はあの中にいるべきじゃないから。姉さんこそ、行かなくていいの?」
「あの時は傍から見てただけだからな。今回もこうしてそっと見るだけで十分さ」
「姉さんは私を恨んだりしないの?」
「どうして恨む必要がある」
「私は一夏を殺そうとした上に、櫻をあんな姿にしてしまった。それに、あいつらも……」
「過ぎたことを恨んでも戻ってこない。両親が居なくてもお前らは私がちゃんと守ってやる。それに、今の私は一人じゃないからな」
千冬が言い切るとマドカは黙って抱きついた。ゆっくりと頭を撫でると少し赤くなった目で見つめてきた
「大丈夫だ。お姉ちゃんにまかせておけ。今は自分の望むこと、好きなこと、できることに全力でぶつかれ。今しか出来ないことだからな」
「うん……」
「すこし甘いモノが食べたいな。すこし付き合ってくれないか」
千冬に手を引かれて2人は夕暮れに消えた
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「ねぇ、虚ちゃん」
「なんでしょう」
「私、この前負けたわよね」
「そうですね。それも、1年生に」
「生徒会長変わらなくていいのかしら?」
時間は少し遡って生徒会室。いるのは楯無と虚だけだ。一夏と櫻は剣道場。本音はアリーナで簪と白鍵の調整だろう
「でも、シャルロットちゃんと櫻ちゃんの両方にやられちゃったのよね。いっその事普通の学校みたいに選挙やってみる?」
「そもそも2人に生徒会長をやる意思はあるのでしょうか?」
「2人共押せば断りきれずにやってくれそうだけど」
「ソレは押し付け、と言うのでは……」
「じゃ、準備はよろしく! 私はシャルロットちゃんの所に言ってくるわ」
「はぁ……」
手元の書類を適当に机の端に寄せると部屋を飛び出していった
残された束を見ながら虚は大きくため息を付いた
「仕事したくなかったんですね……」
楯無はシャルロットとラウラの部屋の前に来ていた。だが、いつものように部屋に飛び入らないのには訳がある。
「え、コレはナニをしているのかしら……」
ちょっとニュアンスがおかしい気がするが、ソレはそうせざるを得ない状況にあるからであり、その状況とは、部屋の中から少し艶っぽい声が漏れているこの状況を言う
「シャル……ロット……。そ、そこは……」
「ラウラはここが弱いのかな? ふふっ、こうするとラウラもただの女の子だねぇ」
「ひゃうっ。や、止めろっ!」
――きっとくすぐり合いとか、その程度よね。決してそんなことは……。そうだと思わせて結局じゃれあってるだけ、とかそういうオチよね! そうとなれば突入!
意を決し、勢い良く扉を開くとそこには……
一糸まとわぬ姿のシャルロットとラウラがベッドの上に居た。
「し、失礼しましたッ!」
「か、会長! ご、ご、誤解です!!」
「そうだっ! 決してそんな関係ではない!」
慌てて部屋を出ようとした楯無を2人は目にも留まらぬ早さで抑えこむ。
楯無も予想外……ではないが、冗談だと思っていた事態に動転していたのかあっさりと捕まり、ベッドに腰掛けて着替えた2人と向き合っていた
「それで、さっきのアレはどういうことかしら?」
「えっと……そのですねぇ……」
俯いて少し頬を赤く染めるシャルロットとラウラ。だが、シャルロットが顔を上げるとほんのり紅い顔をさらに赤くして言った
「ラウラをお風呂に入れたかったんですッ!」
「はぁ?」
思わず顔文字みたいな顔をしてしまう楯無だったが、シャルロットは続ける
「ラウラがいつもシャワーで済ませるからたまには……と思って」
「だからってまだお風呂に入るには早すぎないかしら……」
「今日は5,6時間目が実技だったので、それで……」
「まぁ、状況は把握したわ。それでラウラちゃんを脱がせてた、と」
「その通りです」
「で、どうしてあんなセリフが出てくるのかしら」
「そ、それは……ちょっと魔が差したというか……」
ラウラを見れば湯気が上がるように顔を赤くして小さくなっている。それ程に衝撃的だったということか
「スキンシップも否定はしないけど程々にね? 人によっては嫌な人もいるし」
「わかってはいるんですけど……。その……ラウラだから……」
「え、シャルロットちゃんてソッチの……」
「ち、ちち、違います!」
手と顔をブンブンと振り回して否定するがソレはある種の肯定ではないのだろうか。
はぁ……、とこの部屋に入って何度目かのため息をつくと少し真面目な顔を作って「それで、今日は用があってきたんだけど、本題に入っていいかしら?」と要件を切り出した
「生徒会長、ですか?」
「うん。この前のトーナメントで私の事墜としたでしょ? だからもう私は"最強"ではなくなっちゃったわけ。だから生徒会長も交代かな? って思ったんだけど」
「それは櫻もそうでしょう? 僕じゃ櫻には勝てないから櫻に任せたらどうでしょうか?」
「でも、櫻ちゃんはやってくれないだろうし……」
「僕もそういう役職はちょっと……。仕事もありますし……って会長さんは国家代表でしたね」
「まぁ、そこまで忙しくないわよ。と言うより忙しさは自分の選んだメンバーで決まると言っても過言じゃないわね」
「僕には荷が重すぎるので遠慮させてもらいます。すみません」
「謝ることじゃないのよ。ただ聞いておかないといけないことだからね。わかったわ。よし、用も済んだし邪魔者はさっさと退散しましょうかね。お幸せに~」
「だ、だから違いますってば!」
復活しかけていたラウラが再び爆発、あたふたするシャルロットを背に楯無は剣道場へ向かった。