Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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第2回戦

 講習会の傍ら、第1回戦の両試合結果を受け取った櫻は少し苦い笑みを浮かべると休憩時間とした

 

 

「第1回戦は楯無先輩と箒ちゃん。シャルロットとラウラが抜けたみたいだよ。まぁ、予想通りかな」

 

「でゅっちーもらうらうもえげつない戦い方してたみたいだよ? AICでりんりんを止めてらうらうがリンチ、セッシーはでゅっちーがフルボッコだって~」

 

「あぁ、さっき試合映像を見たぞ。AICは厄介だな」

 

 ポラリスの3人はフィールド上にぺたん、と腰を下ろして終わったばかりの試合についての考察を深めていた

 ラウラがAICを使ってくるのはわかりきったことだし、予想外の作戦ではないが、やはり決定力が高い作戦故に当たった時の為に策を練らねばならない。

 

 だが、第1試合、更識姉妹の対決を見る限りは特殊な何かも無く、操縦者の技量と機体性能で圧倒できると踏んだ。

 

 

「ま、イージスに負ける可能性もあるけど、あの人達は分断させてしまえば単体での脅威度はそこまで高くないからいかに相手を崩すか、だね」

 

「だな。そろそろ機体を組み替えて慣らさないと。本音、頼む」

 

 そう言ってマドカが立ち上がり、白騎士を展開。ふわりと浮き上がる

 本音は白鍵を両腕と頭に部分展開。コネクター類を白騎士に繋げ始めた

 

 

「本音もすっかり白鍵に慣れたみたいだね」

 

「うん。なんか身体に馴染む感じっていうのかな~? 自分の思ったとおりに動いてくれる感じだから変に意識せずに済むんだ~」

 

 口はいつもどおりにまったりと動くが、その手と目線は絶えず別の仕事をしている。このへんの技術は簪に仕込んでもらったらしい

 

 

「はい、セットアップしゅ~りょ~。エネルギー砲の砲門を1組減らしてその分威力を上げたよ~」

 

「こっちでも確認した。あとは動きながらやる」

 

「うん。じゃ、次はさくさくだね~。本当にやるの?」

 

「もちろん。今のところ一番の脅威は楯無先輩だからね。目には目を歯には歯を、ナノマシンにはナノマシンを。ってね」

 

「だからって丸パクリはおじょうさまもキレるよ~」

 

 そう言いながらも白鍵のバススロットからナノマシン制御補助システム『セイレーンの涙(Tear of Siren)』を夢見草のバススロットに送り込むとナノマシン配合の大量の水もセットでバススロットに放り込んだ

 それとセットで3組のランスをバススロットに入れると接続を解除。櫻はその場で水のヴェールを作ってみせた

 

 

「うむ、いい感じ。この前先輩からナノマシン水を無理やり奪った時よりずっとコントロールし易いや」

 

「だからっていきなり『コレ作って』っていわれる身にもなって欲しいかな~? まぁ、いい練習になったけど」

 

 ランスを展開しては"ぶっ放す"櫻をジト目で睨みつつぼやいた

 

 

「まぁまぁ、コレも仕事のうちだよ? ナノマシン制御も結構難しいはずだしさ」

 

 ぶぅ~、とふくれる本音にデラックスパフェ、とささやいてなだめると「じゃ、再開しましょ!」と声をかけた

 

 

 

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 第2回戦。更識楯無、篠ノ之箒ペア対、シャルロット・ウォルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒペア。

 1回戦で相手を瞬殺で終わらせたシャルロット、ラウラ組と起死回生の1撃で一気に2人を撃墜した楯無と箒のペア。それぞれやり方は違えどかなり目を引く試合展開であったことに変わりは無く、この試合もアリーナを満員にする程度の人気を集めていた

 

 試合3分前の企業連組ピット。相手は学園最強だけあって気は抜けないらしく、しっかりと作戦建てていたようだ

 

 

「多分さっきと同じ手は使えないよ。だから正々堂々とまずは会長を落とす」

 

「そうだな。箒は取るに足らん。あの女、おそらくまだ多くの手札を残しているはずだから気をつけよう」

 

「うん。それもあるけど、会長のトレーニングで箒が僕達が思っていた以上に進化してると厄介だね」

 

「ああ。その際は展開して時間を稼いでくれればいい。私が箒を瞬殺してやるさ」

 

「今回は2人で前を持つよ。じゃ、気を引き締めて行こう」

 

 パン、と拳をぶつけあうとISを展開してピットから飛び出した

 

 

 それに対する楯無と箒は1年といえど油断ならない相手だけに楯無が箒に試合への心構えを説いていた

 

 

「いい、箒ちゃん。相手はAIC有するラウラちゃんとマルチイクイップメントのシャルロットちゃん。どちらも油断できない相手よ。機体の性能は勝敗にはつながらない。自分の持つ剣では勝敗は決まらないわ。それを振るう者次第よ。いいわね」

 

「はい」

 

「返事だけじゃないことを期待してるわ。さっきみたいな結果にならないようにね」

 

「ええ。少し苦手なタイプですが、善処します」

 

「それって間接的なお断り、よね……」

 

 

 なんとも言えない顔の楯無と厳しい顔をした箒、ともにピットから飛び出すと、客席は満員。耳を割るような歓声に包まれた

 

 

 

『おまたせ~』

 

『いえ、いま来たばかりですから』

 

『まるでデートだな……』

 

『あら、シャルロットちゃんにエスコートしてもらえるのかしら?』

 

『僕はどうせエスコートする側ですよ……』

 

 試合開始前からシャルロットの機嫌がマイナス方向に振れる中で舐めるように楯無と箒を見てから自分をみたラウラ。こちらも苦い顔をしていた

 

 

『さっきみたいな勝利宣言は無いのかしら?』

 

『絶対に勝てる、といえる相手ではありませんからね』

 

『そうよね。1年生にそんなコトされたら私の威厳なんてなくなっちゃうし』

 

『学園最強を奪えたら御の字ですよ。僕ら2人がかりで行けるかどうか、ですから』

 

『あら、箒ちゃんは戦力外? かわいそうに』

 

『同じクラスですから、きちんと戦力分析はできてるつもりですよ』

 

 間接的に無能といわれ、少しカチンと来た箒だったが、楯無にプライベートで落ち着きなさい、焦ったらダメよ。と宥められて少し眉をひきつらせる程度に抑えた。

 もちろん、シャルロットもコレは計算内。怒らせれば力任せになる箒の性格を理解した上でのものいいだ。まぁ、機嫌が悪いのも原因の一つではあるが

 

 

『世間話もココらへんにしておこう。あと1分だ』

 

 ラウラの冷たい声で3人は改めて気持ちを切り替えた。

 楯無から"おねーさん"の雰囲気が消え、最強の威厳を露わにする

 カウントが30を切ると会場内は第1回線のごとく静寂に包まれた。だが、その緊張感は先程とは比べ物にならない

 

 10カウントで箒は抜刀

 

 5カウントでラウラは手を箒に向けた

 

 3カウントで楯無は気味の悪い笑みを浮かべ

 

 1カウントでシャルロットは銃を呼び出すイメージを固めた

 

 

 カウントダウンが0になると同時に楯無のみが飛び出し、ラウラを攻める

 楯無はまだ知らなかった。AICが多数の目標にも使えることを。

 箒はまだ知らなかった。ラウラは何の気なしにAICを使えるまでに自分を鍛えていたことを。

 

 

『掛かったな』

 

 楯無をも目線だけでAICの網にかけるとそこからはシャルロットの独壇場となった

 両手に2連パイルバンカーを持ち、楯無に迫ると両側から言葉通りのタコ殴り。

 とっさに水を重ねて威力を軽減させるも一撃で数%が確実に減っていくのは見るに耐えなかった

 

 箒はラウラが遠距離から先ほどのごとくレールガンで一方的に攻撃し、もう数十秒もすればまた沈黙すると言う状況だった。その中で箒は考える。そう、冷静に、今できることを見つけるのだ。

 

――なにか、なにか策は……!

 

 

 停止結界と呼ばれるだけあって逃げようにも空中でじたばたしているようにしか見えない。

 

 

――ん? 足は動く?

 

 そう、ジタバタできる。足は動いているのだ。

 

 

――一か八か、掛けるしかないな!

 

 

 そう言うと脚部の展開装甲を相手に飛ばすイメージを形作り、放った。

 箒の目論見は成功、脚部から放たれたレーザーはとっさの回避を行ったラウラの腰付近を掠めて言った

 

 だが、ラウラの集中力が乱れたことに変わりはなく、一瞬ではあるが箒は停止結界から逃れることが出来た。

 

 真上に上昇、すると今度は足を掴まれたかのような感覚が襲う。

 

 

――上半身は動く、ならば!

 

 

 両手の2刀を振るうとエネルギー刃とレーザーを放っていく。

 

 

 

『シャルロット、済まないが箒が逃げた。気をつけてくれ』

 

『わかったよ。会長が止まってるだけで十分』

 

 時折エネルギーの波がシャルロットをおそうが飛んで回避、地面をえぐらせる

 そして、楯無が再び爆ぜた。

 

 

『――っ!?』

 

 声にならない叫びを上げるシャルロット。見ればその体は空中に吹き飛ばされている

 

 

『さんざん甚振ってくれたじゃない。お陰でボロボロよ』

 

『水蒸気爆発、ですか』

 

『ええ、シャルロットちゃんがそれを見落としていたとは驚きね』

 

 動けないながらも不吉な笑いを浮かべる楯無にシャルロットは引きつった笑いで答えた

 水のヴェールが減った今なら実弾兵器で飽和攻撃すれば、などと考えるが手痛い反撃を受けた今はどんな手を使うかが全く予想できなかった

 

 

『さ、箒ちゃん、反撃よ』

 

 いつもと変わらない調子の中にほのかに覇気を含ませながら楯無は宣言した

 

 そして、何故か動き出す2人。ラウラを見ると水で縛られていた

 

 

『いやぁ、櫻ちゃんったら大ヒントをくれちゃったからおねーさん、大助かりよ』

 

 そう、楯無の言う大ヒントとは先日の放課後に櫻と一戦交えた時のある行動。

 

 

『ナノマシンの水って遠距離でも展開できるのね。驚いたわ』

 

 そう、櫻が楯無から奪った水で組み上げた槍を投げて量子化、手元に再展開した一連の流れだ。ならば目標に向かって展開出来るのではないか? と考えたら上手く行った。お陰でラウラはいま箒に逆リンチに合っている

 

 

『お友達を助けに行きたいでしょうが、今までの借りを返さないとね』

 

 そこからは防戦一方のシャルロットを楯無が蛇腹剣と槍で突き続けるという展開に変わった。ラウラは縛られたまま墜ちてしまったようだ。

 

 時折飛んでくるエネルギー刀が腹立たしい

 

 

 無言で攻め続ける楯無とエネルギー刀で逃げ場を上手く無くしてくる箒。楯無の扱きが効いたのか箒の攻めはシャルロットが考えた以上に高度なものになっていた

 

 

『すまない。シャルロット……』

 

 意気消沈の様子の相棒の声も耳に入らず、逃げ続けるシャルロット。

 隙あらば反撃、と行きたいが1対2、それも相手が実力者であれば隙など無いに等しい

 

 

『うあぁぁぁぁあああ!!!!』

 

 

 最後に、普段の彼女からは想像もできない雄叫びとともに青い煌めきを放つ刃を握って一回転するとエネルギー刀に撃たれてシールドエネルギーを全損させた。

 

 

『あ~ぁ、最後の最後で、ねぇ……』

 

 楯無がそんなことを呟いたのは、最後の"月光"での2薙が直撃、こちらも墜ちてしまったからだった。

 

 

「試合終了。勝者、更識楯無、篠ノ之箒ペア!」

 

 アナウンスの声がやけに遠く聞こえるなか、シャルロットは小柄な相棒にお姫様抱っこされフィールドを後にした。

 

 

「楯無さん、大丈夫ですか?」

 

「ええ、問題ないわ。シャルロットちゃんが刀を振るってくるとは思わなかったから。これも油断故ね」

 

「ですが、あの攻めから防御に転ずるのは……」

 

「ま、それもそうね。箒ちゃん、よくやってくれたわ」

 

 照れる後輩の肩を少し乱暴に叩くと「次は少し楽になるかもね。あの2人とは違う意味で厄介だけど」と言ってから出口にむかって歩いて行った

 

 

 

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「第2回戦は楯無先輩と箒ちゃんが抜けたみたいだね。あ、でも楯無先輩に撃墜判定が出てるよ」

 

「どれ、本当だ。意外だな」

 

「これでおじょうさまの無敗伝説もおわりかな~?」

 

「どっちが落としたんだろ。これで生徒会長が変わったりしたらお仕事減るかも! あの2人ならどちらにせよ真面目だし」

 

「おぉ~、それは魅力的ですな~」

 

「生徒会長が変わったら役員も再編だからお前らが生徒会にならないって可能性の方が高いだろ」

 

「それはそれで魅力的だよ~。放課後お菓子食べ放題!」

 

「はぁ……」

 

 どこまでも本音は本音だった。呆れるマドカを他所に、櫻は2組目のレッスンの続きを始めていた


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