Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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第1回戦

 第1回戦は第1アリーナで更識に姉妹対決、第4アリーナでは1年の組み合わせで試合が行われる。

 午前中に第2試合までを消化し、午後に入って決勝、ボス戦という流れでタイムテーブルが組み立てられていた

 

 

「さぁ、1回戦第1試合、注目の姉妹対決です!」

 

 

 放送部員の気合の入った実況と共に主役の4人がフィールドに入る。

 

 

「トトカルチョで人気ナンバーワンの更識楯無、篠ノ之箒ペアと、その妹、1年の更識簪、織斑一夏ペアの対決です。1年生3人はどこか緊張が見え隠れしているようにも見えますが、生徒会長、更識楯無。上級生の余裕を見せつけていますね」

 

 

 試合開始30秒前のコールと共にアリーナスタンドは熱気を含みながらも徐々にヒートダウン。

 10秒前になるとアリーナは静寂に包まれ、緊張感の高まりをひしひしと伝えてくる。

 

 5秒からゆっくりと数字を減らしていき、0になると青がぶつかり、紅白は飛び上がった

 

 

 ぶつかった青の2機は互いにリーチのある槍と薙刀を振りかざし、火花を散らしていた

 機体性能に分がある簪が楯無の周囲を飛び回っては刃を振るが、楯無は太刀筋を読み切り、受け流してはカウンターを見舞っていた。

 

 

『家で習ったことが私に通用すると思ってたの?』

 

『私にはそれしか無いからっ!』

 

 いつもの引っ込み思案は何処へやら、積極的に攻めの姿勢をとる簪。口では余裕の言葉を叩く楯無だが、内心は普段と違う妹の姿に感動と畏怖の両方を抱いていた。

 

 いきなりブースターの逆噴射で距離を取ると、両肩に装備された荷電粒子砲を放って再び楯無の懐に飛び込んで行く。

 

 

 

 空中では一夏と箒の斬り合いになっていた。こちらもこちらで剣道の同門対決と相成り、互いに一進一退の攻防を見せていた。

 

 2本の刀を構え、一夏を射殺すような目を向ける箒。それに対し、雪片を中段に構えてこちらも殺気を放つ一夏。

 先程から互いに懐に飛び込み2~3打ちあっては離れるということを繰り返し、シールドエネルギーをジリジリと削っていた。もとより短期決戦向けの2機だけに長期戦となると互いに自分の首を締めることになることはわかっていた。

 

 

『ふむ、腕を上げたな。一夏』

 

『おう。ちゃんと夏休みの間に稽古をつけてもらったからな』

 

『だが、まだ甘いッ!』

 

 展開装甲をフル活用し、白式と遜色ない速度で距離を詰めて一閃。だが一夏も伊達に半年ISに乗ることはしていない。流れてきた2本の刃に雪片と雪羅をあてがって受け流すとその背中に一太刀見舞った。

 零落白夜を発動していないとはいえ、高出力のエネルギー刃を喰らえばそれなりのダメージを受ける。

 

 

『それくらい見切ってるぜ、箒。お前は神楽舞の形をとるとまっすぐ突っ込んでくるからな』

 

『くっ、よく見ているな。だが、まだ終わった訳じゃないぞ!』

 

『応!』

 

 再び一足一刀の間合いから高速で繰り出される斬撃。お互いがそれを見切り、往なし、弾くことで戦況は更に泥沼化していく。

 

 

 

 再び地上に戻れば簪が押され気味だ。攻防自在の楯無に対し、近接攻撃の手段を夢現(薙刀)しか持たない簪が不利になるのはしかたのないこととはいえ、距離を置こうにもしっかりと張り付いて離れないのだ。

 

 互いに無言で攻撃を繰り出しては防ぎ、防いでは繰り出す。だが時折鈍い音と火花が散ると打鉄弐式のシールドエネルギーが減っていく。

 

 簪も反撃して入るものの、全てが水のヴェールに阻まれて無に帰していた。

 

 

『簪、行けるか?』

 

 上で箒の相手をしている一夏から声が聞こえる。

 

 

『アレだね。タイミングは任せた』

 

『ああ』

 

 すると上で打ちあっていた2機が心なしか高度を下げてきた。

 一夏と簪の起死回生の一手は、打鉄弐式の多連装ミサイルポッド(山嵐)でまとめて片付けること。削りきれずとも少しでも隙ができれば一夏が零落白夜を見舞うだろう。

 

 楯無も箒がだんだんと降りてきたことはレーダーでわかっていた。

 コレではあまり広くはないフィールドに4機が混ざり、乱戦の様相を呈しかねない。

 

 

『箒ちゃん、高度が下がってるわ、気をつけて』

 

『は、はいっ』

 

 返事だけはいいが気がつけばもう高さは数十mまで近づいていた。

 

 

『私のとっておき、お姉ちゃんに見せてあげるっ!』

 

 唐突にミサイルポッドを呼び出すと一気に48発をばらまく。

 

 

『一夏、上に逃げて!』

 

『応っ!』

 

 

 白式は一気に高度を取ると空中で体を捻り、そのまま簪の上に陣取った

 

 対して楯無、箒サイドはミサイルの処理に追われていた。

 楯無はヴェールを一点強化しダメージを抑え、箒は空裂を一薙して一掃していく。だが、爆炎による視界不良は否めず、それはつまり、白式が目の前に迫っていてもセンサーに頼らざるをえないということを意味していた。

 

 

『もらったぜ』

 

 青く輝く刃を赤い機体になぞると紅椿はあっさりとシールドエネルギーを全損。残された楯無も残り半分と一気に形成を逆転させた。

 

 

『なかなか考えたみたいね。でも、先に箒ちゃんを落としたのはミスね』

 

 白式に残されたエネルギーは零落白夜が2回使えるか使えないか。シールドエネルギーは4割弱。打鉄弐式の方も半分あるないといったところだった。

 

 

『もうあの手は通じないわよ? 一夏くん、簪ちゃん』

 

『なら、別手で行くまで。一夏』

 

『了解だ』

 

 そのまま2機は二手にわかれると力技で挟撃を仕掛けた。楯無は動かずにその場で目をつぶり、両手を広げると

 

 

『バーン』

 

 

 楯無に刃が当たる前に、2機が吹き飛んだ

 

 

 

『なんだっ!?』

 

『水蒸気爆発……』

 

『さすが簪ちゃん。ご名答。こんな開けた空間でも、少し空間に圧力をかけてその中に水蒸気を閉じ込めればお手軽に起こせるのよ』

 

 両手で空気を抑えるようなジェスチャーをすると、その手をぱっと開いた。

 

 

『終わりましたか、楯無さん』

 

『ええ。後で反省会ね』

 

『はい……』

 

 箒の質問は先輩の威厳ある声であっさりと消し飛ばされたようだ。なんともあっけない終わり方だったが、一夏は簪に聞いた。

 

 

『まぁ、何だ。俺は結構満足してるぞ。簪はどうだ?』

 

『私も、満足。だってお姉ちゃんに全力で答えてもらった。それで十分』

 

 

 察しの通り、試合は最後の最後でどんでん返し。楯無が一気に2人を叩き落として終わった。

 結果だけ見れば国家代表が代表候補生を叩き落とすという至極当然とも取れるものだが、内容は短時間ながら密度の濃いものだった。

 

 剣道のごとく気迫ある戦いを見せた箒と一夏。

 清らなる水のごとく静かに。だが、しっかりとした存在感を見せた更識姉妹。

 

 実力差があるとわかっている中で全力を尽くし、一矢報いたことは評価できる点だと一夏も簪も思っていた。

 それが、2人のささやかなプライドになる

 

 

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 ところかわてって第4アリーナ。ここでは1年ペア同士の戦いが始まろうとしていた

 

 

『じゃ、作戦通りラウラが前で僕は後ろに。昨日決めた感じでね』

 

『ああ。頼りにしてるぞ』

 

『頑張るよ。じゃ、クープレリンク、スタンバイ』

 

『レディ』

 

『おっけ。繋がったね。これが少しは役に立つといいんだけど』

 

『見ている暇があるかどうか、だな。まぁ、ないよりマシだろう』

 

 企業連のISに最近搭載された新システム、 カップル・リンクCouple Linkは今までの視覚情報共有やレーダーリンクなどを総合的にまとめてハイパーセンサーに表示する戦闘補助システムだ。

 カップル、と名はあるものの、実際は上限なくリンクさせることが可能で、それぞれの機体の敵味方識別データを元に、距離、方向、機種などが見えるようになる。

 

 

『よし、時間だ』

 

『うん。櫻のところまで、と言いたいけどコレに勝っちゃうと次の相手は生徒会長なんだよね……』

 

『あの女、どうも好きになれない……』

 

 ラウラのつぶやきを他所に、シャルロットが先行してピットを飛び出した。

 

 

 

 

『では、練習通りにおねがいしますわ』

 

『なんだかんだで私達いい感じじゃない? 役割分担がしっかりできてるから?』

 

『だと思いますわ。鈴さんには前衛を食い止めて頂いて、その隙にわたくしが後ろを』

 

『それに、今のセシリアには――』

 

『ええ、フレキシブルも練習しましたし、大丈夫ですわ。いつもどおりに行きましょう』

 

『よっし、気合入れて行くわよ!』

 

『はい!』

 

 鈴とセシリアはこの短い期間で仲を深めたようで、連携も何時ぞやの如く空中衝突なんてこともなく、しっかりと役割分担の元に作戦を練り、練習を重ねてきた。

 セシリアの空間把握能力と鈴の即応性。それらが掛け合わさるとどんな反応を起こすのか。とても楽しみだ

 

 

 

「第1回戦、第2試合は1年生同士のぶつかり合い。凰、オルコットペアと、ウォルコット、ボーデヴィッヒペアです。名前がごっちゃになりそうですね」

 

 

 フィールドに立つ4人には普段のゆるい雰囲気などかけらもなく、企業連としてのプライドと代表候補生としてのプライドがぶつかり合う一触即発という言葉がピッタリの空気を放っていた。

 

 

『鈴とセシリアには悪いけど、ここは僕達が勝たせてもらうよ』

 

『シャルロットがそんなこと言うなんて珍しい。なにかあるよ。コレは』

 

『ふふっ、どうだろうね』

 

 いつものように笑うシャルロットだったが、その背後には歴戦の兵士(リリウム)を彷彿とさせる何かがあった。

 

 

 試合後にラウラは語った。

 

「あの時のシャルロットは普段の3倍は怖かった。どこか、キレた時の櫻に近いものがあった」と

 

 

 この時のシャルロットを突き動かしたのはただひとつの信念

 

――櫻を一言怒鳴りつけないと我慢できないよ。というなんとも言えないものだった

 

 

 10カウント。

 

 4人が武器を展開し構えた

 

 

 5カウント

 

 ラウラは眼帯を外し、シャルロットから笑みが消えた

 

 

 1カウント

 

 セシリアがスコープを覗き込み、鈴が双天牙月を握る手に力を込めた

 

 

 そして、カウントが0になった瞬間、圧倒的な量の弾丸が一歩も動けない鈴を襲った。

 

 

『んなぁっ!!』

 

 鈴がみっともない叫び声を上げてズタボロにされる。

 開幕と同時にAICで甲龍を固定。そこに漆黒の霧から放たれた鉛球が襲いかかった。

 

 ラウラがえげつない方法で鈴を甚振るなか、シャルロットはフィールドの端と端でセシリアと遠距離狙撃戦を繰り広げていた。

 

 アリーナの壁に背中をピッタリと付け、空中に浮かぶ"6丁"のスナイパーライフルの引き金を引き続ける。

 時折高度をとってはレーザーを避け、情け容赦なく鉛弾の雨を降らせた

 

 

『セシリア! ラウラを!』

 

『わかってますわ!』

 

 やられる側は大パニック。鈴は動きたくても動けず、AICから開放するためにラウラを狙おうにもシャルロットがそれをさせない。コンビを組む時間の差か、機体性能の差か。

 セシリアは思わず唇を噛むが、シャルロットの砲撃とも言える銃弾の嵐は止む気配がない。

 

 時折響くレールガンの破裂音と鳴り止まない銃声。そして一方的に嫐られる鈴の姿がセシリアの集中力を削ぐ。

 

――軌道が、曲がらない!

 

 

 ついにセシリアの限界が来てしまった。曲がらないレーザーなど容易く避けられる。そう言わんばかりにシャルロットは静止し、鉛弾を浴びせてくる

 

 

 甲龍のシールドエネルギーが尽きたのはそれから数秒後の事だった

 

 

 その後はAICに捕まらないように必死で逃げるセシリアをラウラがマシンガンで撃ち落とし、試合終了となった。

 終始一方的な展開で代表候補生2人に勝利した企業代表は来賓席に向かって手を振るとそのまま何もいわずにピットに戻っていった

 

 

『ごめんなさい。鈴さん』

 

『いいの。こういうことだってあるわ』

 

『次こそは、と言いたいところですが、次はあるのでしょうか』

 

『ま、ラウラとシャルロットならちょっと付き合って、て言えば相手してくれるわよ』

 

『そうですわね。鈴さん、これからもよろしくお願いしますわ』

 

『こっちこそ。マジで悔しいんだから……』

 

『一夏さんはどうなったのでしょうか、まだ試合中でしょうね』

 

『生徒会長がラウラばりのえげつなさで一方的に蹂躙して終わり、とかなってなければいいけど』

 

『あとでラウラさんに怒られてしまいますわ……』

 

『負け惜しみくらいさせなさいよ』

 

 

 なんだかんだ、この2人は相性がいいのかもしれない。ボケと突っ込み的な意味で。

 

 

 

 

「お前ら! こんな簡単な機動すらできんのか!」

 

 と、第6アリーナで上級生に向かって怒鳴りつけるマドカが見れたのもこの時間。それをみて呆れた櫻と本音だった。


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