Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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土砂降りに飲まれ Ⅱ

 隣のホテル、その上層階に位置するちょっといい雰囲気のレストラン。そこを貸しきって束はいつの間にかスーツに着替えたオッツダルヴァと話をしていた。

 

 

 

「それで、ISの開発者ともあろう方が、こんな時代に置いて行かれた男にどうしていきなり」

 

「亡国機業に付いて調べていたらなぜかアーマードコアに行き着いてね。さくちんがその道のプロに頼むべきだ。って」

 

「なるほどな、これをマリア……紫苑は知っているのか?」

 

「伝えてないから知らないはずだよ。失礼だけど、ママさんの経歴は調べてある。彼女が 最後の鴉LAST RAVENだっていうこともね。でも、この事態を知ったら……」

 

「彼女は自身の行いを悔やむかもしれんな。それも、"彼"が原因の一つとなってスコール派の行動があったとなればな」

 

「結構知ってたりするのかな?」

 

「もちろん、生き残るためには情報収集は大切なことだ。今だ謎多き亡国機業。その内部にアナトリアの残党が混じっていたとすると……。企業連も狙われかねん」

 

「かつてアーマードコアとともに存在し、アーマードコアとともに滅んだ機関、コロニーアナトリア。私が潰したも同然なのかな……」

 

「いや、アナトリアを潰したのは、我々オーメルだ」

 

 君は、その後の時代の流れを築いたに過ぎない。と言ってオッツダルヴァはことの成り行きをおおまかに語った。

 

 かつてネクストに必須だったIRS/FRS技術で最先端を行っていたアナトリア、そこで成功の立役者とも言えるイェルネフェルト教授が死に、彼に反感を持っていた技術者達が相次いでアスピナ機関に移籍した。たちまちその勢力を衰退させたアナトリアは教授の娘、フィオナが保護していたレイヴンを傭兵として雇い入れ、ネクストに乗せた。アナトリアの復興を賭けて。

 そして、企業同士の戦争に加担。当時の最大勢力であったレイレナードの崩壊の最中、フィオナの友人であり、アスピナ機関の誇るリンクスであったジョシュア・オブライエンがアナトリアを襲った。その際に傭兵と激突、ジョシュアは撃墜される。だが、その戦いで消耗した傭兵も、オーメルからの差し金として送られたリンクスによって撃墜。ここに、アナトリアの崩壊と、アスピナ機関のオーメルへの組入で『リンクス戦争』と呼ばれた争いは終結した。

 

 嘘か真か、分からないが、オッツダルヴァは饒舌に語り「すこし長かったな。すまない。簡単には終わらなかった」と言って締めた

 

 

「要は大切なお友達と戦争において重要な駒だった傭兵。その両方を失って行く宛がなくなったわけだ。だから亡国機業に入った、そしたらISが登場し、ACNEXTを駆逐するとその流れに乗った。と」

 

「まぁ、そうだろうな。私も詳しくは分からないが、彼女なりの復讐劇だろう。オーメルを育て、企業連の再編を成した私や、現在進行形で企業連の指揮を取り、IS産業を意のままにする紫苑。そして、アーマードコアを亡き者にしたISを開発した篠ノ之束。すべてが彼女にとっては敵だったんだ」

 

 ワインを一口煽り、ふぅ、と一息つくオッツダルヴァはもう歴戦のリンクスというより、格式高い家の主人と言える風貌になっていた。

 最初期のリンクスも過半数が死んでしまい、最初の40人の内、連絡を取り合えるのは片手で足りるほどとなってしまった

 

 過去を振り返り、すこし思いに耽ったオッツダルヴァが束の後ろに着飾った人影を見つけると

 

 

「今日の主役たちがおかえりだ」

 

 そう言ってまたワインを煽った

 

 

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 血塗れの楯無はもとより、かなり動いた4人は前もってシャワーを浴び、少し洒落た服に着替えると束とオッツダルヴァの待つレストランに向かった。

 

 ウェイターが重そうな扉を開け、4人が少し暗めのエントランスを抜けると、束の気の抜けた声が聞こえる。

 

 

「お疲れちゃ~ん。派手にやったねぇ」

 

「ご丁寧に人払いしてくれてたお陰でけが人は居ないっぽいね。スコールは人体量子化の実験台になってもらって、しっかり成功。オータムも同様に治療室に転送済」

 

「治療室? どうして?」

 

「変なパワードスーツを着ててね。ISだと思っておもいっきり行ったら、その」

 

「そっか。誰がやったの?」

 

「私が……」

 

 小さく楯無が手を上げた。

 それを見た束は少し申し訳無さそうに言った

 

 

「そう、ごめんね。巻き込んだ上にこんなことまでさせちゃって」

 

「いえ、これも仕事の内ですから」

 

 束は申し訳無さそうにぎこちない笑顔を向けると視線を戻した。

 

 

「謎のパワードスーツもクレイドルに送ってあるから。帰ったら解析を」

 

「だね。それで、見事に助っ人さんの読みが当たったわけだけど、さくちんはまだ裏はあると思う?」

 

 櫻を見る束だが、その櫻はオッツダルヴァに目を向けていた。

 

 

「私に聞くのか? まずはお前がどう思うかだ」

 

「まだ裏は、あると思う。スコールは駒の一つにすぎない。裏にはもっと大きな、それこそ国家レベルで動いてるものがあると思う」

 

「だろうな。奴らは我々が犯した過ちを繰り返そうとしている。ネクストがISに置き換わっただけだ。これからまた国家同士の争いの火種をあちこちに振り蒔き、芽吹かせる。世界は再び解体されかねん」

 

 

 ポラリスの見解をまとめると

 

『亡国機業は複数の非企業連企業をバックに置いて、ISによって狂った世界のパワーバランスを正そうとしている。そのためにISを世界から消し去ろうとしている。おそらく、最初の足がかりはIS学園』

 

 と予想した。何はともあれ、何処が後ろに付いているのか。この後どう動いてくるのか、不安要素は大きいが、スコールが少しは喋ってくれれば状況は少しは好転するだろう

 

 

「まぁ、辛気臭い話もそこそこにして、腹ごしらえと行こうじゃないか。こんな美人達に囲まれて食事をすることなどこれから何度あるか」

 

 オッツダルヴァの口から予想外の言葉が出たが、それに苦笑いで返す櫻と、少し照れ気味の3人の元にオードブルが運ばれてきた。

 

 

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「ここは……」

 

 目を覚ましたのは見慣れぬ部屋、テーブルが一つと、椅子が2脚。それから、今自分が寝ているベッドとベッド脇の小さなライトスタンド。壁際にタンスと冷蔵庫が置いてある。

 窓は無く、『Bathroom』の札が下がったドアと、もう一つ外に出られるであろうドアがグレーの壁に浮いていた

 

 自分の状況を整理しよう。

 今は何も身につけていない。首元に手を当てても触れたのは自分の肌だけだ

 

 ベッドから起き上がり、すこし広めの部屋をうろついてみる。タンスを開けると衣類がぎっしりと詰まっていた。

 

 

「居心地のいい独房ね」

 

 タンスに入っていた服に着替え、さてどうしたものかとかんがえる。看守が来るのを待つか、脱出の手立てを考えるか。

 とりあえずバスルーム、と書かれたドアを開けるとトイレとシステムバス。まるで一人暮らしの若者の部屋だ。

 

 再び部屋に戻り、ベッドに腰掛けると自分の記憶を遡る。

 

 篠ノ之束を呼び出し、食事をしたところ、その篠ノ之束はオッツダルヴァだった。

 逆上し、殺そうとしたが更識に邪魔立てを受けた。そして、キルシュ・テルミドールとM―織斑マドカに襲われた。

 最後に目の前にオータムが居たのを最後に、記憶は途絶えている。

 

 

「やってくれたわね、篠ノ之束……」

 

 

 

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 ――んだぁ? ここはぁ

 

 目を開けてまず見えたのは真っ白い天井と自分に繋がれたいくつかのチューブ。手元に視線を向けると手首は固定され、そのまま足を見れば足首と腰も金属のリングで繋がれていた。

 

 

「チッ。しくったか……」

 

 ポラリスのIS3機に襲われたオータムを助けるべく、パワードスーツで助けに向かったが、案の定敵わなかったようだ。死ななかっただけマシ、ともとれるし、今の状況を鑑みるに最悪、だったとも取れる。

 

 

 ――にしても、妙に調子がいいな

 

 

 自分でも気味の悪いほどに身体はきれいな状態だった。傷もなければ血もついていない。過去に受けた傷すら消えている。

 

 

「捕まっちまった。ってことだな。スコールも無事だといいが……」

 

 自虐を含んだ声は、誰に届くでもなく、真っ白い部屋に消えた




オッツダルヴァの話がすべて伝聞形なのはAC4に彼が絡んでいないから。それと作者の記憶が曖昧だから……(お恥ずかしい限り

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