Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
「君たちは貴重な戦力であるISを2機も奪われ、あまつさえ操縦者すら奪われてしまった。もう失敗は許されないぞ、ミューゼル」
「もちろん、わかってるわ。だからこの機会をセッティングしたのよ」
薄暗い部屋で大きなデスクに肘をついた男が苛立たしげに言葉を叩きつけていた。
「篠ノ之束さえ抑えれば、もうこの世界を手にしたも同然だ。テルミドールと言ったか。共同代表もただのISが乗れるガキだろう。いいか、なんとしても篠ノ之束を生かして連れて来い。他の人間はどうなっても構わん。あの駒もな」
「わかってる。当たり前のことをいわなくてもいいわ。あなたも諄いわね」
「そこまでの事をしでかしたのはお前だ。コレもまた失敗したら、お前なら解るだろう」
「そうね。相応の償いをしましょうか」
女の背後がキラリと光ると、今まで口うるさく叩いていた男の額には、一つ穴が開いていた。
「コレが私の償い。世界を、元通りにすることが」
「良かったのか、コレで」
「もちろん。力に溺れた哀れな男にはおとなしく死んでもらったほうがマシよ」
「最近おかしくないか?」
「突然どうしたのよ」
「いや、最近のスコールを見てると不安でな。どこか無茶して消えちまいそうで……」
「あなたを残して消えるなんてありえないわ。オータム」
いつの間に扉に身体を預けていたオータムの頬にキスをすると「さ、仕事よ。篠ノ之束を消して、企業連を潰してやるわ」とそっとつぶやいた
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タッグトーナメントを翌日に控えた10月17日。
東京都心のホテル、そこにいるのは少し着飾った束。
『助っ人さんが中に。さくちんとまどっちは外でステルスモードで待機ね。見える位置についていて。それで、のほほんちゃんは更識との連絡役と上空での情報官制を。クーちゃんとたっちゃんは中で何かあった時の制圧を』
「「「「了解」」」」
そして、4機のISが飛び立ち、それぞれの持場につくと、束とクロエはホテルに入っていった
『おじょうさま。予定通りお願いしま~す』
『位置についたぞ。やはりな、スコール……』
「マドカ、落ち着いて。私も位置についた。いつでも行けるよ」
『中から連絡、縛られた従業員を発見。レストラン内は全員亡国機業とみてよし。だって』
「おーけー。マドカ、レーザーライフルを威力絞って。狙うのは……、クロエはどこ?」
束がレストランに入ったのを目視し、作戦が始まる。
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「来て頂いて光栄だわ。篠ノ之博士」
「呼びつけたのはそっちだろ? 目的はなにかな」
「私達に新しくISを作っていただけないかと」
「私が普通に頷くと思ってるのかい?」
「いいえ。ですからまずは親睦を深めることから、と思いましてこのような場を」
「そうかい。まぁ、出されたものは頂こうかな。その隠し味が入ったスープ以外は美味しそうだ」
そう言って普通にサラダを口に運び始めた
「あら、バレてしまいましたか。まぁ、仕方ありませんね。メインディッシュと行きましょうか」
「今度は脅迫かい? ちーちゃんでも連れてこない限り私は……」
スコールが外に向かって指をさす。すると、窓の外に何かがぶら下がっている。
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ハイパーセンサーで窓の外にぶら下がった"何か"を視認した2人は思わずグリップに添えた手を開いた。
「嘘っ……!」
『スコール! テメェ!』
慌てて射撃体勢に移ったマドカを櫻が慌てて制止する。
「マドカ今撃ったら!」
『あぁっ! クソっ!』
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「いかがでしょうか、博士。私達にISを、と言うより、コアの製造方法を、いただけませんか?」
「クククッ……」
スコールが訝しげな顔をするが、なお束は笑い続ける
「ふふっ、クククッ。なかなかおもしろいことをしてくれるじゃないか」
「そうですか? あなたはこんな他人、どうでもいいんじゃないかしら。篠ノ之束」
「そうでも無いらしいぞ、フィオナ・イェルネフェルト」
そう言って束は"自分の顔を剥いだ"
「あなた……オッツダルヴァ!」
「やはりか、アナトリア没落の原因がこんなところに身をおいていたとはな」
「なぜ、なぜあなたが!」
「なに、ちょっとした知り合いに頼まれてな。どうせ先短い命だ。将来を担う者達のために使うのもありだと思ってな」
「またあなたは私に、世界に立ちはだかるのですね!」
「おい、さっきまでの口調はどうした。年取って変わったかと思えば、そうでもないんだな」
「あなたにはわからないでしょう! ISが生まれたことで起こった世界の変化が! 企業連が世界に台頭したことの意味が! そのせいでアナトリアは、私達は!」
そう言って足のホルスターから銃を抜くとオッツダルヴァに突きつけた
窓の外の何かはすでに消えている。要はホログラムだったらしい。
「ジョシュアも、"彼"も失った今、私には何も残らなかったの! だから、だからこんな薄汚い世界に入り、ISという力を手にした! 私はあるべき世界を取り戻す!」
――まずはあなたが、"彼"を殺したあなたが、死になさい
「貴様らには水底が似合いだ……」
「ッ!?」
突然スコールが真横、入り口の方に身体を向けると金色の繭に包まれた。そこに銃弾の雨が降り注ぐ。
「ここからは私が!」
「任せた!」
そのまま"ドレスとハイヒール"で楯無操るミステリアスレイディの後ろを駆け抜けていくオッツダルヴァ。
口惜しげにそれを睨み続けるスコールだったが、楯無の攻撃の前に追いかけることは出来なかった
「ここで決着よ、
「あなたに私は貫けない。わかっているでしょう?」
「そうね、"私には"貫けないわ」
スコールが真後ろを向いた時にはすでに2つの光が見えていた。
スコールが後ろに意識を向けた瞬間に楯無はバックステップで距離を取った。
金色の繭を襲うのは3条の光。
一つ、夢見草に搭載された大型レールガン『桜花』。そして、白騎士のレーザーライフル『白閃』と肩に装備された荷電粒子砲『雷電』
物理的にも、化学的にもISを2機3機余裕で貫けるだけのエネルギーを持った光の矢が一瞬にして襲いかかる
「ッ――――!!!」
声にならない叫びを上げながら吹き飛ばされたスコールは、ビルをひとつ貫いて向こうに落ちていった。
『私が先に! フォローを!』
楯無がまっさきに向かうのを2人も追う。
だが、それは美味しいところだけを持っていく仲間の声で遮られた
『櫻さま、スコール・ミューゼルとそのISを確保しました』
「はぁ、了解。お姉ちゃんは?」
『束さまなら隣のホテルでオッツダルヴァさまと夕食を』
『束……なんでアイツは……』
「まるで千冬さんみたい……」
『すべて終わったらみんなで来いと言いつけを。もちろん、楯無さまも』
『あら、いいの? 嬉しいわ』
「じゃ、そいつをさっさと"量子化"してクレイドルへ、ISは私が」
『りょうか――キャッ!』
「クロエ!」
『オータムです!』
「先輩!」
『ええ! とらえた!』
「マドカ!」
『応!』
都心部でこれ以上騒ぎを大きくしたくないが、それ以上にスコールの身柄を押さえられないのは辛い。櫻とマドカは現場に急行し、声を失った
「楯無先輩、これは……」
そこには血に塗れ、地面に寝るオータムと、クロエに抱きかかえられたスコールの姿があった。それをただ見ているのは彼女もまた血まみれの楯無。
何があったのかはひと目で理解できる。やってしまった。
『ISだと思った何かは、ISじゃ無かった……。絶対防御が発動しなかった……』
「そうですか、すみません、先輩。スコールは?」
楯無は小さく頷いて再びオータムに目を向けた。
『2人共生きてます。このまま回収して治療を』
「そうして。急いでね」
頷いたクロエを見てから櫻はスコールの首から下がるネックレスを手に取ると、それを"光に分解"し、手元には黒い何かが残った。
クロエもスコールとオータムを回収用カプセルに入れると、それを量子化。自身もISを解除した。
「クレイドルでの量子受け取りに成功。再構成……成功。ミッションコンプリート」
「はい、お疲れ様。とくに先輩はいいタイミングで突っ込んでくれましたね。最後のは先輩のミスではありません。大丈夫です。」
「ええ、ありがと。やっぱり人を傷つけるのはいい気がしないわ」
「すみません。オータムが来るとは」
「いいのよ、寮殺しの櫻ちゃん」
「またそれを蒸し返しますか……」
「もうやることは終わったんだ、束も待ってるから早く行こう」
「その前に後始末。血痕とかは全部掃除して、パワードスーツのパーツだけは回収していこうか」
「了解です。私は機械を、櫻さまは血痕をお願いします」
「はいはい。あぁ、結構派手に行ったね。これでよく生きてるよ」
そそくさとその場を去った楯無とマドカに若干の恨みの念を送りつつ、オータムをクレイドルに量子転送、パーツ類も回収ポットに突っ込んでクレイドルへ飛ばした。
彼、の正体はリンクスの皆さんなら察していただけるかと。