Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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おねーさんちょっとイラッとしちゃうかなぁ

 ポラリスが世界に認知されて2週間ちょっとが経ったある日のこと。

 

 

「そういえば、明後日タッグトーナメントやるんだけど、櫻ちゃんとマドカちゃんは特別枠で強制参加ね」という生徒会長様のありがたいお言葉でエントリーがとっくに締め切られたトーナメントに参加が決まった2人。とりあえず機体の調整も兼ねて放課後のアリーナに来ていた。

 

 

「なぁ、櫻」

 

「どしたの?」

 

「明後日のトーナメント、どうする?」

 

「どうする? ってどういう意味?」

 

「いや、これ普通にやったら勝っちゃうだろ? だからさ」

 

「あぁ、そういう意味ね。どうしようか」

 

「あら~、2人共手を抜く事を考えるなんて余裕ねぇ」

 

 甘ったるい声につられて振り向けば、そこにはミステリアスレイディを纏った楯無と紅椿を纏った箒が居た。箒は心なしかいつもの覇気がないように見える。

 

 

「それだけの余裕があるんですよ。私達には」

 

「その言葉ちょっとイラッとしちゃうかな~」

 

「ISの搭乗時間」

 

 櫻がこの世の中の誰にも負けない要素の一つ、それがISの搭乗時間だ。ISの開発段階から乗り続けてきた櫻に敵うのはそれこそ千冬位なものだ。

 

 

「うぐっ……。それだけは……。でも、時間が強さに比例しないことだってあるのよ?」

 

「その気になれば世の中のコアを全部止められることもお忘れなく」

 

「それはチートよ!」

 

「諦めたらどうですか? 楯無先輩」

 

「ぐぬぬ……、櫻ちゃん、この場で一戦しましょう! もうお姉さん我慢の限界よ!」

 

「めんどくさいので明後日でイイじゃないですか~」

 

「手を抜く気満々だったじゃない!」

 

「てへぺろっ」

 

「ホント腹立つ! 箒ちゃんはマドカちゃんをやりなさい。行くわよ!」

 

「えっ? は、はいっ!」

 

「ッチ、雑魚が」

 

 本当に面倒くさそうなマドカは箒をさっさと斬り伏せることだろう。問題は楯無だ。実際かなりの腕前を誇る上に、こっちの手札を明かしたくない。

――できるだけ切るカードを減らして黙らせなければ。

 

 訓練機で練習する生徒の合間を超高速で駆け抜けながら斬り合う2人を他所に、櫻と楯無はアリーナの中央に向かい合っていた。

 

 

『櫻ちゃん、その機体、銀の福音事件の時に目撃情報があるのだけど、何かしらないかしら?』

 

「さぁ、偶然通りかかった機体が似てただけじゃないですか?」

 

『世の中に好き好んでピンクのフルスキンを組む人間が何人いるのやら』

 

「少なくとも私はその一人ですねっ!」

 

 展開装甲をすべて推進力にまわしての瞬時加速。そこから月光を一薙。

 桜色の光が一瞬光ったと思えばミステリアス・レイディの腹部をかすって後ろに抜けていった。

 

 

『かすっただけでどんだけ削るのよ! それに早すぎでしょ!』

 

「それでも反応して避ける先輩もなかなかおかしいですよね」

 

『よしっ! お姉さんもちょっと本気出しちゃおうかな!』

 

 

 水のベールを自在に操る楯無、だが所詮ナノマシン制御に過ぎないことは学園祭で明らかだ。ならば

 

 

「ごめんなさい、先輩」

 

 ナノマシンの制御を奪い取ればいい。

 

 

『何? ナノマシン制御不能!?』

 

 水のベールを楯無から奪うと、その水で槍を作り上げる。

 

 

『ホント、苛つかせてくれるわね』

 

「先輩とはこういう小細工なしでやってみたかったんですよねぇ」

 

 お互いに構える武器は"同じ"。ただし、片方は銀、片方はクリアの蒼流旋。

 

 

『小細工無しっていいつつ、そっちは突撃準備万端じゃない』

 

「そうですか? ただ、機体についてるブースターをアイドルから少し上げてるだけですよ」

 

 ブースターとなっている腕部、肩部、腰部、脚部の展開装甲は桜色の光を放っている。

 実際、威嚇のつもりで少し出力を上げてるだけで、もちろん別の策を練っている。

 

 

『世代差って理不尽ね。でも、燃えるじゃない!』

 

 先に手を出したのは楯無、ブースターを使ってまっすぐ突撃、と見せかけて櫻の目の前で横方向にスライド、真横から刺突を繰り出す。

 

「ッ!」

 

 ギリギリで楯無の刺突をそらし空いた手をブースターの推力を乗せて叩きつける。

 

 

『さすがの反応ね。自分でいうだけあるわ』

 

「そういう先輩も、音速超えのパンチ避けるってどういう目してるんですか?」

 

『勘よ、勘。経験の差ね』

 

 そう、櫻は稼働時間が長くても対人戦闘の経験はそこら辺の代表候補生よりも少ない。ISでやることといえば拠点の破壊や要人の救出などばかりで、蹂躙することしかしてこなかったのだ。。

 

 

「さぁ、仕切り直しですよ。そろそろ撃ってきてもいいんじゃないですか?」

 

『アレは高周波振動する水を纏わせてこそなんだけどなぁ……』

 

「こっちはただのコピーなので撃てませんし、先輩の勝機はそれの使い方では?」

 

『ま、正論ね。だけどこっちはまだ一撃も当ててないのよねぇ』

 

「当たらないように避けてますからね。さすがにさっきのはヒヤッとしましたが」

 

『普通の人なら反応できないもの。実際私だって見えてないのよ?』

 

「なにしてるんですか……」

 

 ハイパーセンサーで追いつけないレベルの機動とか頭おかしいんじゃないだろうか、真面目に。

 

 

『さ、次行くわよ、避けてみなさい!』

 

 次はジグザグに接近しながらガトリングを乱射、こちらの退路を塞いでそこを突く戦法だろう。

 真上に上昇し、それについてくるミステリアスレイディに槍を投げつける

 

 

『あら、武器を捨てちゃってよかったの?』

 

「まだ、ありますから」

 

 そう言って呼び出したのは投げたはずのコピー。空中で水に戻して手元に再構成すればいいだけの話だ

 

 そこからは近距離での突き合い、互いに実力は互角。正確に言えば武器に慣れている楯無に利があるが、反応速度で優る櫻がそれを防ぎ続けている。

 

 水を突く音のない戦いにアリーナに居た他の生徒達はいつの間にか見惚れ、2人が舞う空をみあげていた

 

 

『いい加減、当たりなさいよっ!』

 

「先輩こそ、そろそろお疲れじゃないですか? 休んでいいんですよ?」

 

『ここで後輩に負けたら生徒会長の名折れだから、ねっ!』

 

 ここ一番の早さで繰り出された突き、それもガトリングのおまけ付き。先端の細い蒼流旋ではこの距離の砲撃までは防ぎ切れない

 

 至近距離での砲撃をもろに受け、少しながらシールドエネルギーを削られた夢見草。だが、櫻の方はこれでギアが上がったと言わんばかりに水の槍を楯無に投げて言った。

 

 

「お返しします。では、お互いに全力で行きましょうか。世代差をはっきりと見せつけてあげます」

 

『あら、目的変わったのね。いいわ。櫻ちゃんの本気をお姉さんに見せてみなさい!』

 

 シールドエネルギーはミステリアスレイディが残り6割、夢見草は8割といった所、お互いの武装が解禁された今、どうなるかはわからない。

 

 

 

「ダメージが残るのは嫌なのでお互い残り3割まで削ったら勝ちでいいですね?」

 

『そうね。これで本選に影響が出たら嫌だし、それでいいわ』

 

 いつの間にか辺りに居た生徒はアリーナの端に逃げ、箒をあっさりと叩きのめしたマドカもその中に加わっていた

 

 

「さ、いざ尋常に――」

 

『勝負っ!』

 

 

 再びぶつかる桜と青。相変わらず夢見草は月光のみだが、学園最強を相手にかなりの立ち回りだ

 

 学年別トーナメントでも見られないような大勝負が放課後のアリーナで行われていた

 

 

 機動性に物を言わせてヒットアンドアウェイでジリジリとミステリアスレイディのシールドエネルギーを削る櫻に対し、ベールでダメージを最小限に抑えた上で時折槍を掠らせる楯無。

 最初の一撃で月光の特性を読んだのか、楯無は剣尖を見きった上で、ベールを一点特化してダメージを抑えていた。

 

 

「さすが学園最強は伊達じゃないってことですか?」

 

『さすが最新機を操るベテランじゃない?』

 

「お互い結構辛いですし、そろそろお開きにしたいですね」

 

『そうね。でも、やっぱり一撃入れたいじゃない』

 

「楯無先輩は結構負けず嫌いですか?」

 

『どうでしょうね。でも、今は負けたくないわ』

 

 お互いのシールドエネルギーは5割から6割、若干夢見草リードだが、手札が限られている以上はこの先が辛いことは間違いない

 

 

「仕方ないですね。さっさとケリを付けてシャワーでも浴びましょうか」

 

 櫻はバススロットから空中に4つのミサイルコンテナを呼び出し、一斉に発射。総勢1000発の小型ミサイルがミステリアスレイディを襲った。

 

 

『なにこれっ!』

 

 言葉通り四方八方から襲いかかると一斉に爆発。圧倒的な熱量は 水では防ぎきれないだろう蒸発すると踏んでの物量作戦。どうやら上手くいったようで、煙の中から現れたミステリアスレイディはただでさえ少ない装甲が痛み、楯無の顔は煤だらけだった。

 

 

『今日は私の負けみたいね。もう、どうしてくれるのよ! この顔! 機体だってボロボロだし、ダメージが残ったらどうするの!?』

 

「私が手札を3つも切ったんですから、少しは誇ってくださいよ。それにちゃんと中身にはダメージが行かない程度にしてますし」

 

『そんな1対多でしか使えないようなものを一人に使うのがどうかしてるわ! それにしても、ナノマシンが乗っ取られたのは痛かったわね』

 

「次は制御コードを変えておかないとまた乗っ取られちゃいますね」

 

『ホント。いつの間にナノマシンの扱いがうまくなったのよ』

 

「身体の中にナノマシン飼ってみますか? 嫌でもうまくなりますよ?」

 

『あ……、遠慮しておくわ。ま、次は負けない。と言いたいけど、まだ隠し球もあるんでしょ?』

 

「もちろん。最新の宇宙工学を駆使した省エネルギーハイパワーな物を多数取り揃えてますよ」

 

『なによ、その通販みたいなの。物騒すぎて買う気も起きないわ……』

 

「すべて束印のオーバードウエポン! 今なら1兆ユーロでどうですか?」

 

『1兆ユーロ……。国家予算ね……』

 

「ま、冗談ですけどね。お相手ありがとうございました。明後日は先輩に当たるまでは勝つことにしますよ。途中敗退とか許しませんからね」

 

『どうだか。あなた達には楽しませてもらいたいから』

 

「どうでしょう? 途中からマジになっちゃったので、データ取られてたらそれ以上の機動をしないといけなくなるんですけど……」

 

『手を抜く次は瞬殺宣言? もっと楽しみなさいよ』

 

「一応立場的に負けるとマズいので……」

 

 

 苦笑いする櫻に視線を向け、詳細を見ると夢見草の残存エネルギーは約5%。第4世代機ということですべてを単一のエネルギーでまかなっているために他所から回すことも出来なくは無いらしいが、もう少し時間を稼いでいればガス欠で楯無の勝利に終わっていた、ということだ。

 

 

『おしいところまで行ってたのね。もうちょっと稼げればなぁ』

 

「ガス欠で負けてましたね。まぁ、そうならないように他所からエネルギー回しますけど」

 

 櫻がISを量子化してアリーナに降り立つ。楯無もそれに続いた。

 

 

「第4世代はいいわねぇ、多目的動力(マルチブル・エネルギー)だっけ? なんにでも使えるんでしょ?」

 

「基本的にはそうですね。第3世代まではエネルギーを供給、と言っても例えるなら動かすためのエネルギー、守るためのエネルギー、攻撃するためのエネルギー、と用途別にIS側で分配していたんです。それをひとまとめにして自由にコントロール出来るようになったのも第4世代の特徴の一つですから」

 

「だから私みたいな特殊な機体だと防御と攻撃をひとまとめにして機動にはあまり振らない。みたいに決めたらそれしか出来ないのがその場で自由に設定できるんだから羨ましい限りだわ」

 

「楯無先輩のミステリアスレイディが第4世代化したらそれこそ世界最強(ブリュンヒルデ)も狙えますよ」

 

「今でも負ける気はしないわよ? じゃ、先にシャワー浴びてくるわ。どこかの誰かに煤だらけにされちゃったから」

 

「灰パックですよ、灰パック」

 

 顔をはたきながら更衣室に向かった楯無を見送りつつ、周囲に目を向ければ同級生は恍惚の表情を浮かべ、上級生は畏怖の念を櫻に向けていた。

 

 

「またやっちゃった……。どうしてこうも上級生にばかり疎まれるんだろうねぇ……」

 

「強者の宿命だろうな。力あるものは力無き者から恐れられるか、依存されるかの2択だ」

 

 そうやって声をかけてきたのは案の定マドカ、周りの視線をまるでないもののように振舞っている。

 

 

「そうなのかなぁ?」

 

「事実だろう? 奥の専用機を持つ先輩はお前のことを睨んでるが、それ以外の生徒はお前を憧れか畏怖の目で見てる」

 

「まぁ、確かに。居心地悪いね」

 

「くくっ、そうだろうな。ほら、行くぞ」

 

 殺伐とした場に慣れているのか、午前中に見せていたうさぎのような姿は何処へやら、圧倒的オーラを振りまいて歩くマドカの背中を追う櫻だった。


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