Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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一点輝く

 放課後に呼び出された数人はもう馴染み深い応接室に詰め込まれ、前に立つポラリスの面々に視線を向けていた。

 

 

「さて、まずはマドカのことか」

 

 一つ息を吸って千冬は話し始めた

 

 

「マドカは私の妹だ。誕生日で考えればお前の姉になるのか。今まで黙ってて済まなかったな。一夏」

 

「黙ってたことは気にしてない。でも、俺はそいつが櫻を撃ったところを見ちまった。いまこの場にいるお前が、櫻を撃ったのを……」

 

「それについては櫻が後で教えてくれるだろう。マドカ、"まともな"自己紹介をしろ」

 

 一瞬びくっ、と身体をすくませたが、千冬が「今までのお前を語ればいい」と耳打ちすると口を開いた。

 

 

「私は、物心ついたころから亡国機業(ファントムタスク)のMとして様々な任務についていた。IS学園の襲撃はもちろん、サイレントゼフィルスの強奪もだ。だがお前、織斑一夏を殺そうとしたのは私の意思だ。まぁ、どこかの誰かが邪魔をしてくれたおかげで私はお前を殺すことも叶わず、亡国機業の鎖から解き放たれ、今は北極星(ポラリス)の一員だ。これもすべて櫻と篠ノ之束が手を回したからだな。確かに、私は櫻を撃った。お前らを襲った。だから敵対心を持たれても仕方ないと思う。

 だが、今の私は櫻に忠誠を誓い、首輪も付いた。今までのようなことはしないと約束しよう」

 

 最後にポラリスのメンバーに入る上で誓わされた事を口添え、もう亡国機業に囚われていないと明言したマドカはどこか晴れやかな顔をしていた。

 決して謝ることはなかったが

 

 

「と、言っているが納得はできんだろうな。だが、ここではお前らは等しく生徒であり、ライバルだ。今までのゴタゴタがきになるなら正当な手続きのもと、まっとうな手段で決着をつけろ。オルコットなんかはさっきの授業の冒頭に模擬戦をさせろと言いに来たからな。腑に落ちないなら自分でどうにかしろ。先生として私から言えるのはそれだけだ。ただ、姉弟喧嘩ならどうなるか知らんが……」

 

 間接的に一夏なら肉弾戦オッケーの言葉に一夏とマドカが身体をすくませる。

 一夏が睨みつけるも、マドカはいつぞやのような気味の悪い笑顔で迎える。これは今後荒れそうだ

 

 

「で、次は櫻か。お前が死んでからの話をしろ」

 

「死んでから、って。なんか嫌な響きですね……。まぁいいでしょう。私が一夏くんの目の前でマドカに撃たれて、学園で治療を受けました。ここまではいいね。

 普通に治る怪我だったんだけど、"普通"に直しちゃうとそれこそ心肺機能は人並み以下、神経系も駄目になるかもしれない状況だったの。だからいっその事櫻を殺して、キルシュ()として生まれ変わろう。ってね。それに、社会的立場が邪魔だったし。

  私櫻が死んでからはクレイドルに移ってナノマシンによる再生と強化を受けた。心肺機能を元通りに、神経系は歪んだところを構成しなおした。だから今の私は半分人間やめてるって言っていいかも。ISと"一緒に"生きてるんだ。ナノマシンが動かなくなると私は5歩歩いて休む事を繰り返すくらいになるかもしれない。それくらいダメージはあった。でも、ISのさらなる可能性を私が実証することも出来た。プラマイゼロ、って言っていいかもね。怒られそうだけど。それで、この前、束お姉ちゃんといっしょにポラリスを設立した。ってことでいいですか?」

 

「ああ」

 

 シャルロットが涙目になっているのが見えたが、今は情に流される場面ではない。

 ラウラは自身に起こったことと同じ目にあったのか、と考えたようで、複雑な表情をしていた

 

 次、今日の目玉。束がビジョンを学園に語る。

 

 

「さて、やっと束さんの番だね~。私達がやることを教えてあげればいいんだよね?」

 

「そうだ」

 

「じゃ、手短に話そう、面倒だし。私達のゴールはISが人間と共生する社会を作ること。これだけだよ。委員会で言ったことはそれまでのステップに過ぎない」

 

「博士、現在でもISは人類の技術的進歩に大いに役立っているのでは……?」

 

 疎い発言をするのはもちろんセシリアだ。

 

 

「相変わらず君も頭良さそうなの馬鹿だね。私はISを宇宙開発に使えるものとして作ったんだよ? そう習わなかったかい? その通りに使えないアホな人類を再教育するのが当面の目標かな」

 

 束の隣で櫻はまたか。と言った顔をしていた。どうでもいいやつには本当にこき下ろす束の物言いにあきれているようだ。

 

 補足するように櫻が口を開く。

 

 

「あ、企業連では宇宙開発向け装備もちゃんと開発してるよ。それに、ポラリス独自でマドカに大気圏突入テストも繰り返してもらって結果は上々。そのうちまとめて委員会に提出予定だよ」

 

 束のやることは地上の人類の2歩3歩先を行っていることを改めて認識させられ、特に簪は興味深げな顔をしていた。

 

 

「私はISを作った時に言ったはずだよ。ISには意志がある。ってね。操縦者とISが心を通わせて初めてその真価を発揮するんだ。操縦者が願えばISはそれを叶えてくれる。ただし、ISを道具として見る限りはそんなの不可能だけどね。

 さっきも言ったとおり、心通わすパートナー、相棒としてISをちゃんと認識することが今の人類、もとよりISを操る者には必須なんだ。この話を聞いたからには君たちには期待してるよ。人とISの繋がりが深まればさくちんみたいに命を預ける事もできる。まぁ、まずはお互いを理解し合うことだね」

 

「キャノンボールファストの時に櫻が言ってたのはそういうことだったのか……」

 

「一夏、今更……?」

 

「よし、話はひとまず終わりでいいか?」

 

「いえ、最後に一つ」

 

 そう言って櫻に目を向けたのはシャルロット。

 

 

「銀の福音事件の時、現場空域に居たピンクのフルスキン。櫻だよね」

 

「いまさら言い逃れは出来ないよねぇ…… その通り、福音を撃墜寸前まで追い込んだのは私とクロエ。みんなの相手をしたのはクロエだね。それだけ?」

 

「ってことは……。櫻は一人でコアを2つ持っていたの?」

 

「そだよ。今はちゃんとオーメルにコアを返却済だから夢見草だけだけどね」

 

「櫻さんの機体はまさか……」

 

「もちろん第4世代相当。全身のありとあらゆる場所に展開装甲を使ってるよ。ま、後は実際に見て研究してよ。スペックも公開してるしさ」

 

「あんなのが当てにならないから聞いてるんだよ。でも、まぁ、ひとまず納得した。櫻はずっと前から今の下積みをしてたんだね」

 

「そうだね。ラウラ、ローゼンタールのアレ、どうなった?」

 

「ん? 紫苑さんの手によって解散された。まさか」

 

「そ、今まで私達がしてたことはすべてポラリスが請け負います。ってこと」

 

「外部協力者というのに紫苑さんが含まれていたのか」

 

「もちろん。千冬さんもその一人だよ。でなければこんなにすんなり編入なんて出来なかったしね」

 

「色々と情報が多すぎてパンクしそうだ……」

 

 

 うんうんと額に手を当てて天を仰ぐラウラをちらりと見てから「もう何もないな、では解散」という千冬の声でお開きになったポラリスの面々によるプレゼンもどきは幕を閉じた。

 最も、言うべきが多かったポラリスの3人、主に櫻は未だに足りないと言う顔を見せた気がしなくもなかったが……

 

 

「おい」

 

 部屋をでる直前、一夏はマドカを呼び止めた

 

 

「なんだ、織斑一夏。早速喧嘩のお誘いか?」

 

「そんなんじゃねえよ。ただ、俺はまだお前を認められねぇ、だけど、何時かお前と千冬姉と3人で笑って過ごせる日が来ると良いと思ってる。それだけだ」

 

「矛盾しているな。お前は私を認められない。これまでも、これからも」

 

「やってみなきゃ分かんねぇだろ。ずっと離れていたって俺らは家族だ。何時か、そんな時が来る」

 

「どうだろうな。私には姉さんさえいればいい。お前は要らない」

 

 

 この姉弟が解り合う日は来るのだろうか。千冬はやりとりを背中で聞きながら将来は安泰か、と安堵した

 

「喧嘩するほど仲がいい、と言うしな。あいつらは似ているから大丈夫だろう」

 

 

 すこし口角を上げると、その顔は織斑先生のそれよりも、千冬姉としての顔に近いような気がした。

 

 

 

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 応接室で演説会が行われてるさなか、本音は書類の束と格闘していた。それもただ、束と櫻のお土産(白鍵)のコア登録と学園内での専用機登録、その他もろもろの大量の事務手続きだ。

 

 

「せんせ~、これまだあるんですか~?」

 

「あと10枚位だから、がんばろ、ね?」

 

「ふぇぇ~」

 

 

 更に、その後手渡された分厚い本にさらにやる気を削がれることとなる。


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