Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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進化と退化

 午後の2時間を使って行われる実技の授業。

 夏休み明けてからかなり進んだらしく、今回は飛行応用に入るという。

 

 

「よし、専用機持ちも増えたし、コレで班分けが簡単に……」

 

「織斑先生」

 

 と、やっと楽ができる……とか考えていたところをセシリアに呼びかけられた

 

 

「どうした、オルコット」

 

「授業の前に、織斑さんとの模擬戦をさせていただけないでしょうか?」

 

「今は授業だ、そっちに集中しろ。それに放課後にでも……と、お前らを呼び出したのは私だったな。仕方ない5分だ。マドカには言ってあるのか?」

 

「いいえ、ですが彼女なら乗ってくれると信じております……わ……?」

 

 最後が疑問形になったのは多数の視線を向けられて地面に体育座りでガクガクと震えるマドカを櫻がなだめていたからだ。

 コレにはセシリアも拍子抜けしたようで、ズカズカと歩み寄ると

 

 

「織斑マドカさん、あなたと決着を付けさせていただきたいのですが」

 

「せ、セシリアオルコット……。すまん、い、今は……恐いよぉ。櫻ぁ……!」

 

「ごめんね、朝のアレがトラウマになったみたいで……」

 

「ええっと……、先生?」

 

 セシリアが戸惑いの目を向けるとトラウマを植えつけた張本人は知らぬ存ぜぬといった様子で「では、今までどおり、班に分かれて訓練機を取ってこい!」と普通に授業を進めようとしていた

 

 

「先日の借りは何時か返させていただきますわ!」

 

「す、すまん……」

 

 サイレントゼフィルスに乗っていたのと本当に同じ人間かと思うような変わり様に戸惑いを隠せないが、櫻の班に混じってISを展開させた途端にセシリアの評価がまた一変することになる

 

 

「最後はどいつだ?」

 

「え、えっと。か、神田琴乃ですっ」

 

「まずはISに身を預けろ。そこからPICでその場で浮游だ。それくらいはできるな」

 

 まず声のトーンが千冬そのものである。そして先ほど視線に耐えられずに震えていたとは思えないほどの強大なオーラ。っていうかコレもまた千冬にそっくりな見た目&白騎士という組み合わせからだろう。

 

 櫻が不安げに見届けるなか、琴乃は打鉄に身を預け、起動、浮游まで危なげなくやってのけた。

 顔をこちらに向けてピースをするくらいには余裕があるようだ

 

 

「よし、なら次はブースターを使ってアリーナを一周だ。一周したら急上昇、高度3000ftまで達したところでPICを切って自由落下。地上10cmで止まれ」

 

「それは無茶すぎ! 琴乃、課題通りにね。アリーナ一周したら上昇と降下。PIC使っていいから」

 

「う、うん」

 

 最悪の事態墜落に備えて櫻も夢見草を展開。琴乃を見守る

 

 

「さくはやっぱりこっちゃんが心配?」

 

「まぁ、初めての時を思い出しちゃってね。ずっと同じ班だったからうまくなってるのは解るんだけど」

 

「さくの心配性も相変わらずだね。こっちゃんも変わったよ。初めての実習であんな怖い目にあったのに、授業だけじゃ足りない! とか言って行ける時は毎日のように放課後のアリーナに行ってたしね」

 

 気がつけば打鉄を纏った琴乃は空高く舞い上がり、地面に背を向けると一瞬時が止まったように静止、そして。頭を向けて落下した

 

 

「琴乃!」

 

 あの挙動は間違いなくPICをカットオフしての自由落下だ

 落下地点に櫻が向かうとそこには

 

 

「櫻さん、うまくなったでしょ?」

 

 地面から15cmの高さに立つ琴乃が居た。

 

 

「なかなかいい腕だ。磨けば光るぞ」

 

 ずっと見ていたマドカが偉そうに言った。

 

 スパァン! という音と共に「何偉そうなことを言っている」と織斑先生の出席簿アタックが炸裂。見ればシールドエネルギーを削っている。あの出席簿は何で出来ているんだろう

 

 

「だいぶうまくなったな、神田。だが、指示通りに動かないのは関心しないな」

 

「すみません……」

 

「天草……テルミドールが戻ったからといって浮かれるなよ。また初めての実習のようにはなりたくないだろう?」

 

「そうならないように頑張ってきたんですよ。先生」

 

「みたいだな。次は無いからな。それと、織斑妹。その性格は何とかならんのか?」

 

「が、頑張ります。姉……織斑先生」

 

 琴乃がISから降りるのを確認すると櫻とマドカもISを量子化した。

 

 

「ひぃ……」

 

「ほら、大丈夫だよ。怖くないよ~」

 

 よしよし、と櫻になだめられてる様はやはり残念な子だ……

 

 

「櫻さん、織斑さん。すこしよろしくて?」

 

「ひっ……」

 

「模擬戦ならまた今度ね。って要件でもなさそうだね」

 

「ええ。その、織斑さんはコンバットハイ、といいますか、ISに乗ると性格が変わるのでしょうか?」

 

「えっと、その。ISに乗ると自信がわくと言うか。誰にも負ける気がしなくなるというか……」

 

「ってわけで素に戻るんだよねぇ。普段のコレは千冬さんになんとかしてもらわないと」

 

「そうでしたの……。以前とは変わっていて驚きましたわ――残念な方に」

 

「ごめんね。慣れれば戻ると思うから」

 

「ええ。その時にまた再戦を申し出ますわ」

 

「すまん、オルコット……」

 

 

 残念な子になってしまったマドカに落胆したり感嘆したりと激しいセシリアの後ろでは束が本音に怪しいことをしていた。

 

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「さぁさぁ、コレがのほほんちゃんへのおみやげ『白鍵』だよ!」

 

 昼休みに束が本音に手渡したのは白いユリをモチーフにしたペンダント。

 それを手に取り、不思議そうに眺めていると

 

「さぁ、のほほんちゃん。願うんだ。君の翼を」

 

「わかった。来て、白鍵!」

 

 願いを届けるようにペンダントを握りしめ、一つつぶやく。

 すると本音の身体は光りに包まれた後、少しピンク掛かった銀色の機体を纏ってその場にたった。

 

 

『聞こえるかい?』

 

「バッチリだよ~」

 

『うんうん、よろしい! それがのほほんちゃんへのおみやげ、前にさくちんと話した専用機だ。でも、戦うため、と言うより、救いを差し伸べる側のセッティングになってるよ。まぁ、しばらく飛んでみようか』

 

『布仏! 今すぐ機体を量子化して降りろ!』

 

「あうあう~。織斑先生に怒られちゃったよ……」

 

『いいじゃん! もう課題を終わらせてるんだから暇させるより稼働時間を確保したほうが効率的だよ!』

 

『まだ未承認の機体をこんなところで晒すな! 馬鹿者!』

 

「ど、どうすれば?」

 

『のほほんちゃんはそのまま飛んでな。迷っちゃ駄目だよ。コアは影響を受けるからね。ただひたすらに自分の願う翼を思うんだ。ファーストシフトまではこの時間でできるはずだから。――いいじゃん! この学園は生徒の自主性すら縛るの!?』

 

『それとこれとは話が別だ! 幾らお前が作った機体とは言え、学園で承認されていない機体を授業中に使わせるわけには行かん!』

 

 オープンチャンネルで喧嘩を始めた束と千冬を他所に、本音は新しい翼を自分になじませるべく空を舞った。

 

 ――さくさくに手を貸すと誓った。私は戦わない。ただ、みんなに私の 力技術を貸すだけ。それが私の戦い方。前には出ない。私は暗部。表には出ない。

 

 機体の限界を試すように普段のまったりした本音とは思えないマニューバを行い、時に落ち、時に登り。銀色の光は生徒の羨望の眼差しを一心に受けていた

 

 6限目の半分も過ぎた頃、本音が駆る白鍵はファーストシフトの光りに包まれた。

 ピンクシルバーの機体はなぜかフルスキンに。マントのように広がるスラスター群が特徴的だ。

 

 

『っしゃぁ! 私の勝ちだね、ちーちゃん!』

 

『はぁ……。布仏、放課後に山田先生に専用機所持に関する書類をもらいに行くように』

 

「は~い。ありがと、さくさく、束さん!」

 

 そしてアリーナの真ん中に降り立ち、量子化する。その手の中にはさっきよりも輝きをましたユリの花があった。

 

 

「どうだった? 本音の翼は」

 

「最高だよ。何故かフルスキンになっちゃったけど」

 

「それは多分本音がどこかで目立たないように。って願ったからじゃないかな? プリセットもどちらかと言うと援護とか救難向けのものが多いと思う」

 

「なるほど~。それで、さくさく、後ろでいろんな人が睨んでるんだけど……」

 

 振り向くとシャルロット、ラウラ、セシリア、箒、鈴が櫻を睨んでいた。

 

 

「櫻、君の専用機の事、聞きたいな」

 

 シャルロットの笑みは天使のそれだったが、背後に潜むはその対をなす存在であった。ような気がした


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