Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
束の宣言からきっちり7日。
世界は究極の選択の答えを導き出そうとしていた
「それでは、採択を取ります。篠ノ之束の声明及び、付随する条件を受諾、博士の地位を確立するものとする。賛成は挙手を願います」
百数十人の手が上がる。
反対票を投ずる国はないも同然だ
「賛成多数と認めます。よって、委員会は篠ノ之束へ要件を受諾する旨を伝えることとします」
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「あー、いい感じになりそうだね~」
「だね。これで私達も安心して活動できるよ」
腕につけた端末がポップアップを出し、本音からの着信を告げる。
「ちょっと出る」
リビングルームのような部屋から会議を覗き見ていた束と櫻だったが、櫻が消え、一人残った束はすこし顔を歪めて
「これもまだ始まりに過ぎないよ。私達のゴールは……」
携帯を取り出すと、どこかにダイヤルし「話だけなら聞くよ、時間はそっちに合わせてあげるからね」と短く告げて誰もいないソファに投げた
「まずはゴーストハントから、かな」
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「どうしたの? 何か問題が?」
『ちょっとね。ポラリスが表に出たことで暗部もそれを嗅ぎつけたんだ。だからその条件の一つにあった2人の事をおじょうさまが必死で洗ってる。こっちでもカウンター仕掛けてできるだけ邪魔はしてるけど、早めにニセの経歴でっち上げておいてね。とくにまどまどは……』
「厄介だからね。私は今までどおり、櫻として過ごせばいいけど、彼女は自分の人生を作りなおさなきゃいけない。でも、コレばかりは私達じゃなくて千冬さんにお願いしたいかな」
『ふぇ? あ~。織斑先生の妹だもんね~。一つ上だっけ?』
「いや、4月生まれで同い年だよ。ホント、昔の千冬さんそっくりだから驚くよ。って本音は知らないか」
『へぇ、楽しみだなぁ。って先生に聞かれたら殺されそうだけど……』
「ま、週末に委員会と共同で声明を出すから、今月の半ばにはそっちに行くよ。その時はキルシュ・テルミドールとしてね」
『ねぇ、なんであの時櫻を殺したの?』
「櫻は有名になりすぎたんだよ。それに社会的立場があった。あの場面で堂々と篠ノ之束と手を組んだと発表すれば世間からの反発は計り知れないからね。だから、世間に縛られない私が必要になったんだ」
『だからって……』
「ごめんね。そっちに行けば、私はわたしでいられるから。もう少しの辛抱だよ」
『うん。まだ部屋は空いてるから。荷物も……』
「なんかそれだけ聞くとクラスのみんなは本音が私の死を受け入れてないように思われてそうで心配だよ……」
『なぎなぎとかゆっこは気にかけてくれてるけど、他の子はもう本音は病んでしまったとか思ってるんじゃないかな~。確かにさくさくが居なくて寂しいけど、生きてるから、また会えるからそこまで凹んでないよ』
「そっか、安心したよ。ちゃんとおみやげも用意していくからね」
『うん、待ってるよ。これで私も、ポラリスの一人だね』
「期待してるよ、布仏くん」
『えへへ~。じゃ、次は学園で会おうね!』
「そうだね。じゃ」
壁に寄りかかると、カレンダーを開いて今まで流れた時間を確認する。
すでに櫻が死んで2週間、委員会に声明を出して1週間。私の身体が完全に治るまで、あと3日。
あと5時間、あと5時間でひとつポラリスの活動に区切りがつく。今までは地下でひっそりと準備を進めてきた、でも、明後日、それが一気に天空へと駆けのぼる。成層圏に浮かぶこの揺りかごで、私達の未来が始まる。
「To nobles welcome to the stratosphere……」
すでに決めてある台本の最後を諳んじる。
「高貴なる者達よ、成層圏へようこそ」
今までISという翼を持ちながら、天空へと登ることのなかった愚かな人類への、皮肉を込めた歓迎の句。
北極星が昔の旅人を導いたように、今度は自分たちが世界を導く。
頭の片隅に残る雑念に不快感を覚えながらリビングへ足を向けた
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束の声明から1週間。そしてその日の15時20分。委員会の面々は以前と同じ部屋で以前と同じように並び、束からのコンタクトを待った。
そしてつながる、世界と、天災が
「時間だよ。答えを聞きに来た」
「Dr,篠ノ之。結論だけ言います。我々はあなたの声明を受諾、付随する案件についてもすべてを受け入れることを決定しました」
「なるほど、受け入れてくれるんだね。ありがとう。
なら改めて自己紹介といこうかな。私達ポラリスの概要を1時間後に文面で発表するよ。いまは正規メンバーが5人、そして外部協力者が数人いるよ。外部協力者に関しては彼らの社会的立場を守るために名前と役職の発表は控えさせてもらうよ。
代表はこの私、篠ノ之束とキルシュ・マクシミリアン・テルミドール。広報官はクロエ・クロニクル。彼女は出自が特殊でね、コレもまた、追々公表しようかな。技術部門にはIS学園より、布仏本音。実働部隊と私達との窓口になってくれるのはテルミドールと織斑マドカの2人。この5人が私達ポラリスだよ」
織斑マドカという名前にはどよめきが起きたが、以前のような失態は犯すまいと一瞬で静寂が戻った
「Dr,篠ノ之。では、先日のあなたの要求に基づいてキルシュ・テルミドールと織斑マドカ両名のIS学園入学を推薦致します。我々の権限では推薦しかできません。あそこは不可侵の領域ですから。そこはご承知いただきたい」
「うん、それくらいはわかってるよ。条件を飲む心があっただけマシだね。日取りはまたそちらから送ってきてね。
君たちが聡明でよかったと思う。私達はこの選択を後悔させないために全力を尽くそう。そして、君たちが選んだ道は今までのISを否定しかねないということも、理解してくれていると私達は思っているからね。がっかりさせないでほしいな」
また一方的に切られたて終わると、委員は糸が切れたように肩を落とした。そして、束から最後に短くメッセージが送られて場は閉まった。
――To nobles welcome to the stratosphere
委員長を務める女性が立ち上がって言った
「高貴なる者達よ、成層圏へようこそ。ですか、なかなか嬉しい言葉ですね。私達が博士に裏切られないためにも、それぞれが正しい選択をすることを期待します」
委員会は拍手に包まれて閉会、世界は篠ノ之束率いる、ポラリスに照らされて新しい進化の方向へ歩むことになる