Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
櫻達がこのクレイドルに篭って早くも1週間が経とうとしている。
その間に櫻は身体機能をだいぶ回復、マドカも新しい自らの機体に慣れつつある。さらに言えば、大気圏の突入&再突入のテストも彼女が繰り返している。
束がマドカに手渡したIS、白騎士はその名の通り、IS最初の2機の一つ、白騎士のコンセプトを最新技術で再現したものだ。顔の半分を覆うハイパーセンサー。背中には羽のようなブースター兼エネルギー砲。そして、フレアスカートのようなメイン&サイドブースター。
全てに第4世代の技術である展開装甲を採用し、超高機動から中距離砲撃までをカバーする。
マドカは持ち前の操縦技術を持って白騎士を意のままに操り、自分のものにした。それこそ、初めて空を飛んだ時の千冬のように。
「マドカさま、テスト終了です。帰還してください」
『ふむ……』
「どうかされましたか?」
『いや、最近機体がついてこないというか、感覚にズレがあるような気がしてな』
「そうですか……。確かに、入力と出力にズレが出てますね。ですが……」
『ああ。多分これは私が早過ぎるんじゃないかと思うんだ』
「ええ、そのとおりです。稼働率は98%出てますし、それ以上は機体の組み換えか、機体の進化に任せるしか……」
『だよなぁ。コレばかりは仕方ない。帰るよ』
「はい、お待ちしています」
そして、クロエから白騎士のデータを見せられた束と櫻は唸りながら同じことを考えていた
――これってちーちゃん(千冬さん)と全く同じパターンだ……
そう、初めて空を飛んでしばらくした後、千冬も同じことを言い出したのだ。機体が私についてこない。と。慌てて2人がデータを洗うと千冬の言葉通りに、機体が操縦者についていけてなかった。
だからあの後にブースターとスラスターを増設、期待の反応速度上昇などを盛り込んだアップデートを掛けたのだ。
だが、今回はあの時とはわけが違う。すでに束と櫻の技術で出来る範囲を目一杯使ったISなのだ。残された手段はコアのリミッターを緩めるしかない。
「束お姉ちゃん……?」
「さくちんも同じこと考えてる? 白騎士のコア」
「うん。いま30%でしょ? それを40、いや、45まで上げてみたらどうかな?」
「まどっちはそれに耐えられるかな?」
「千冬さんの妹だよ? 大丈夫でしょ」
「行き着く結論はやっぱりそこだよねぇ」
「じゃ、やりますか。これでまどっちは世界の半数を相手に出来るよ」
「あの時の千冬さんの7割くらいだからね。でも、技術の進化を考えるとトントン?」
「笑えないね」
そう言いながらメッセージを送りマドカを開発室に呼び出す。
数分でやって来たマドカに2人は揃ってこう、声を掛けた
「「千冬さん(ちーちゃん)に並んでみたくはないかい?」」
するとマドカは口角を上げると「もちろんだ」と答えた
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『コレはいい! 最高だ! サイレントゼフィルスなんてゴミも同然だったな!』
「うわぁ……」
「なんだろうこの 既視感デジャヴュ……」
「現在稼働率95% 正直恐いです……」
『束! 櫻! 本当にいい仕事をしてくれたな! 白騎士が私の思うがままについてくる! 最高だ!』
「えーっと、マドカさん? そろそろ戻ってきてもらえませんか?」
『もう少し飛んでいたいがなぁ……。仕方ない』
――こんな反応まで千冬さんと同じだ……
コアの持つ力を更に開放した白騎士は束と櫻の想像以上の親和性を見せ、マドカもそれについていくどころか、まるで自分の体であるかのように扱った。
あの時、白騎士事件の時の千冬の如く……
「いやぁ、最高の出来だな。今まで乗ったどんなISよりも自分に合っている、と実感できる。この感覚がたまらないな」
「お気に召したようで……」
「どうしたんだ? 3人共」
「マドカさま。正直に申しますと、初回テストで稼働率95%は異常です。まぁ、これで4人目ですけど……」
「そんなに出てたのか……。道理で」
「まどっちと白騎士に足りないのは戦闘経験値だけだね。宇宙空間での活動データもよく取れてるし。大気圏なんて空気も同然ってのも実証できた。あとはこれを世界に叩きつけるだけだよ」
「ついに始まるね」
「ええ、現地時間の3時からです」
「私達の運命が決まるのか」
「だね。私達『ポラリス』が、世界を導くのか。それとも……」
「その時は……」
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ニューヨークの国連本部、その大会議室には国際IS委員会の面々が揃い、企業連の新代表との会談に臨んでいた。
5分前になると秘書を務めるリーネが会場に入り、今か今かと待ち望む代表たちを一瞥すると、
「ただいま天草新代表が到着されました。会談は定刻通りに始めさせていただきます」
と、いうだけ言ってその場を去っていく。
――こういう場面は苦手です。あの品定めをするような目つき……
そして紫苑が会場に入り、席につくと司会進行を務めるリーネが口を開いた
「それでは、本日は企業連新代表就任のご挨拶と、今後のISの展望を我が社の天草より、皆様に」
紫苑が席を立ち、ゆっくりと一礼すると、
「皆様。この度オーメル・サイエンス・テクノロジー、及び企業連代表に就任いたしました、天草紫苑と申します。就任会見をご覧になった方はすでにご存知かと思います。現在、私達企業連はIS産業をリードする者として、あらゆる分野に可能性を見出し、検討しています。これは先代のフュルステンベルクからの意向です。このスタンスに変化はありません。
ですが、現状維持だけではアーマードコアと同じように技術の頭打ちがやってくる、現に、世界シェア1位を誇る、ローゼンタールのオーギルモデルはアップデートプログラムの開発に行き詰っています。これ以上の改善点が見つからないのです。第2世代が頭打ちになっている現状を考えるに、第3世代、イメージインターフェースを用いた新世代のISの実用化は急務。さらには、夏に篠ノ之博士より発表された第4世代。展開装甲を用いた
我々企業連としてのこれからの展望は主に3つのステップに分かれています。
1, 第3世代機の実用化。
これに関しては現在ローゼンタールが主導でIS学園にて第3世代機の実動テストを行っています。
イメージインターフェースを用いた装備の稼働率も良好、機体全体の稼働率は常に8割後半をマークしています。
イメージインターフェースをオーギルに装備したモデルを試作し、稼動テストを現在行っています。こちらの結果も良好です。
2, 第4世代機の開発。
こちらは企業連全体の共同プロジェクトという形で各社から技術者をオーメルに集め、研究を進めていますが、現在存在する第4世代機が篠ノ之博士の妹、篠ノ之箒さんの紅椿1機のみであることから、データ収拾が難航し、開発も思うように進んでいません。
3, ISを用いた宇宙開発。
私達最後の目標。それはIS開発者、篠ノ之博士の願いであり、先代代表、フュルステンベルクの願いでもあったISの宇宙進出です。今もなおオーメルの宇宙開発部で研究が進み、高効率のブースターの開発に成功しています。戦闘向きで無いため、瞬間出力は大きくありませんが、消費エネルギーをオーギル標準構成機から80%削減することに成功しています。
シミュレーションにおいても大気圏離脱が可能であることを証明し、後は実際に機体製作、飛行実験に移るのみです。
以上が我々が提案するこれからのビジョンです」
各国の代表はメモを取り、その後ろでは報道陣が黙々とキーボードを打ち込んでいる
予定ではあと数十秒で彼女らが割り込んでくるはずだ。
「では、これから私達。企業連以外にも、世界のISに携わる者達がすべきことはなにか、それは――」
「あーあー、てすてす。見える~?」
会場がざわめく。
大型のディスプレイに映しだされたのは篠ノ之束、その人。両隣にはそれぞれかなりのインパクトを持つ見た目の少女が立っている。
「んんっ! ハロー、委員会、それと企業連の新代表さん。お久しぶりですかね。篠ノ之束です」
突然の乱入者に騒がしくなる報道陣。
束の顔はすこし不満気で、隣の背の高い少女になだめられている
「真面目な雰囲気で話そうかとも思ったけど、聞く気がないならさっさと世界滅ぼすよ?」
「ソレはマズいって! 聞くことも聞いてくれないよ!」
「それだけは駄目です! ただの脅しになってしまいます!」
束の口から出た衝撃の一言に会場が静まり返ると、顔を明るくして「やっと聞く気になった?」と聞いた。
委員の一人、すこしふくよかな体型の女性が引きつり気味の顔で声を上げた
「Dr,篠ノ之。ここは国連、国際IS委員会の本会議であるとわかっての行動ですか?」
「ええ、もちろん。私達はみなさんと話がしたかったからこのような行動を取っただけです。まともにアポイントメントをとっても相手にしてくれないでしょう?」
指名手配されている人間がまともなアプローチを仕掛けたらソレはソレで問題が起きてしまう。ならば多少強引にでも話を聞かせるほうが手っ取り早いのだ
「それで、Dr,篠ノ之ともあろうかたが我々に一体何を」
「今日は世界に、私達のこれからやろうとすることを聞いて、納得して、受け入れてもらいたくてお話に来たんだ。聞いてくれるかい?」
委員達が慌てて何かを話しあうと、「ええ、お聞きしましょう」と答えた
「ありがとう。私はISを作った人間として、現在の世界を認めることは出来ない。私は宇宙進出のためのマルチフォームドスーツといったはずだったのに、気がついたら兵器として扱われて当然のようになっている。もう、我慢の限界だよ。だから提案だ。私は君たちが欲する技術をあげよう、もちろん、IS本来の用途に関するものだけね。このビーム強くしたい! とか聞いてきたら消し飛ばすからね。それと、ISのために世の中の理に背いた奴らもゆるさないよ。幾つか粛清させてもらったけど、未だあるよね。心当たりがあるなら早急に謝っておきなよ?」
ドイツ代表に目線だけ向けていたので、なにもしらないドイツ代表の女性は肩身狭そうにしていた。
束の話はまだ終わらない。
「故に、ここで私は宣言する。ISの進化と、ISによる世界の平和、そして、宇宙開発の促進を目的とした私設組織、『ポラリス』の結成を。私達には自衛のため、そして世界を救うために振るう力がある。それは君たち世界に配った467個のコアも同じだよ。戦うためでなく、飛び立つための翼だったのにね。
私達の目標をまとめよう。
一つ、ISとそれに関わる技術水準の向上。
一つ、国際宇宙ステーションに代わる新しい施設の整備。
一つ、世界からISに関わる争いを消す。
たった3つ、されど3つ。
これを多いと取るか、たったこれだけ、と取るかは君たち次第だよ。
それと、コレはお願いだ。もしも、私達を受け入れてくれるなら、私達の窓口であり、使者をIS学園に送りたい。なにせ『ポラリス』の本部は地上には無いからね」
「今何処におられるのでしょうか、と聞くのは野暮ですね。博士」
そう、現在の居場所を聞いたのはだれでもなく、紫苑で、その目には口から出る他人行儀な言葉とは真逆の娘を心配する母のそれがあった。
「ええ、教えるのはみなさんの返事次第ですから。天草新代表。では、また来週、この時間に返事を伺いましょう。この回線を使ってまたここにこちらからつなぎます。では、良いお返事をお待ちしています」
一方的に繋がれ、一方的に切られた数分間の会話。だが、その短い時間に篠ノ之束は世界に再び大きな爆弾を落として行った。
その後は委員会の面々がこの提案に乗るのか乗らないのかを巡って荒れに荒れた議論を見せ、紫苑はただ、変わった娘の姿を思い出し、感傷的になっていた。
「社長、大丈夫ですか?」
「ええ、まぁ。うん……」
「あの映像の右に写ってた紅目の女の子、櫻さんでしたね……」
「解るの?」
「何年間彼女の秘書をしてきたと思ってるんですか? ああいった場でのクセくらい覚えてますよ。それに、声は変えられませんしね。紫苑さん、一体どこまで知ってるんですか?」
「この件に関しては私が主導したわ。会談の時間を彼女たちに流して割り込ませた。でも、それだけね」
「だから最後に、何処にいるの。と……」
「ええ。大切な娘達だから……」
「達?」
「あっ、うん。娘達、ね」
その後も世界中で議論が行われ、委員会の手に負えずに理事会まで案件が飛んだり、世界中で是非が問われたり、大きな波乱を呼んだが、時間は待ってはくれなかった