Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
「それで、企業連の内部はどんな感じ?」
治療室のベッドで横になりながら櫻は画面の向こうの紫苑に投げかける
「案の定私がオーメルの社長兼企業連代表。ローゼンタールはハイデマリーが社長就任よ。それ以外に変化なし。計算通りね」
「そうだね。あとは企業連と委員会の会議をセッティングしてもらって、そこに割り込ませてもらおう」
「ええ、わかってる。いまリーネに日程を詰めてもらってるところよ」
「分かった。決まり次第連絡をちょうだい。できれば学園のトーナメントに間に合いたいから来週あたりがいいけど。まぁ、そのくらいになるかな」
「でしょうね。早くて来週から再来週の頭。来月にずれ込むかも」
「社長就任早々問題が起こるとか最悪だね」
「それを引き起こしてくれるのは何処の誰でしょうね」
「アハハハハ……」
「乾いてるわよ……」
「ま、まぁ、下準備よろしくね」
「ええ、任せなさい。櫻も、早く治しなさいね。それに、これ以上人から離れないでね」
「努力はするよ。でも、すでに1/4は機械だしね。夢見草もあるし」
「それはすでに1/4は櫻じゃないって意味でもあるの。わかって。じゃ、気をつけて」
「ムッティも」
ふぅ、と一息つく。
櫻が撃たれ、表向きに"死亡"してから3日が経った。櫻の身体は(想定外の事態もあり)未だに未完成で、まだ心肺機能は5割、神経機能は9割しか再生していない。
これはあまりに強力なものはそれだけの代償があるからであり、櫻はすでに対価として髪の色と瞳の色を捧げている。
未完成故に、館内を歩くだけで息が上がり、ISになんて乗れば酸欠で気を失いかねない。
そんな櫻がいま目指すこと、それは企業連と国際IS委員会の前であらたなる勢力。それも、篠ノ之束の名の下に結成されたものをしらしめることだ。こちらから技術を提供する、彼らは私達の安全を保証するだけ。なんとも"人類"に有利な交渉だろう。
だが、万が一に交渉決裂となった場合に備えて櫻は夢見草を、クロエは黒鍵を。そして、マドカは"白騎士"を手元に準備している。
音もなくドアが開くと、束が入ってきた。
「身体はどう?」
「ナノマシンはいいんだけど、再生が間に合ってないね。会見までには人並みにはなるだろうけど」
「夢見草もいい感じ?」
「そうだね。上手く"体に馴染んでるよ"ナノマシン制御なら楯無先輩よりうまくなったかも」
「それは良かった。初めてだからなぁ、生体同期なんて」
「神経とコアを直結。身体の制御にISを使う。理に適っていると思ったから私自ら実験台になったわけじゃん?」
「確かに、革新的な試みだけど、世界はウンとは言わないだろうね。コレばかりは」
「そりゃね。今の状況でコアの稼働率は68%。生体制御に2割使って実質5割弱しか使えないってのがこれからの課題かな」
「それはさくちんの体内のナノマシンを夢見草で制御してるからでしょ? 身体の再生が終われば70%をフル活用できるようになるんだよ? 正直恐いね」
「飲み込まれそうで?」
「それもある。でも、ずっとさくちんと一緒に居た夢見草だから大丈夫って思うところもあるよ」
「コアはそれぞれ意思を持つ。だからね」
「うん。クーちゃんのコアも空間制御に適した形に伸びてきたし、操縦者がコアとのつながりを得れば、操縦者の願いを叶える後押しをコアがやってくれるんだよ。きっと」
「だね。じっさい夢見草も私がオールラウンダータイプだからまんべんなく出来るいい子になってくれてるし。今も体内のナノマシン制御は丸投げしてるんだよ? バランスが崩れた時はアラート出すし」
「へぇ、初期機体はチートスペックだからなぁ」
「量産機と試作機ってそんなに差があったっけ?」
「無いよ。でも、初期機体の方が明らかにノビが良い。操縦者の願いに敏感、っていうか」
「操縦者とのつながりを貪欲に求めてる、のかな?」
「だと思う。だからいっくんの白式もどんどん進化するでしょ?」
「コアの自立進化の度合いもこれからの研究課題だねぇ。コレばかりは開発者である我々もわからん!」
「ねー。人間と一緒で、どう進化するかなんて解るわけがないんだよ」
「それを言ったらおしまいだけどさ。あ、そろそろ本音から掛かってくる」
時計がちょうど17:00を指したところで櫻の端末が鳴る。
受話ボタンをタップすると、空中にディスプレイが投影された
「さくさく~! ずっと顔を見たかった……よ」
「本音。ごめんね。心配かけて」
「うん、でも、計画書にあったことが早まっただけだから。こんな形になるとは思わなかったけど」
「私も。まさか撃たれることがあるなんて。みんなはどんな感じ?」
「でゅっちーが戻ってきた時からお通夜状態だったなぁ。おりむーが戻ってきた時には盛り上がったけど。結局、この前のHRで織斑先生がさくさくが死んだ。って言った時には泣いちゃう子も居たよ」
「そんなに好かれてたんだ。ちょっと嬉しいかも」
「少しずつ戻ってきてはいるけど、やっぱり何かあるとしらけちゃうこともあるかな」
「楯無先輩や簪ちゃんにはバレてない?」
「そこらへんは抜かりないよ~。おじょうさまもかんちゃんも、お姉ちゃんもさくさくが本当に死んじゃったと思ってるから。お姉ちゃんはさくさくの授業が受けられないって悲しそうに言ってたな~」
「そっか。まだしばらくかかるけど、学園の方は本音と千冬さんに任せたから」
「あい! 任された!」
「頑張って、もうしばらくしたらそっちに行けるから」
「うん、待ってるよ。さくさくも、早く身体治してね」
「頑張る。じゃ、またね」
始めの本音の驚きはおそらく眼の色だろう。母親譲りの黒い瞳は今となっては血液を思わせる、少し黒みを帯びた赤に変わってしまっていたのだから。
髪はプラチナブロンドから色が抜けた白へ変わった為に気づかなかったと思うが、実際に会った時は気づかれてしまうだろう。
「のほほんちゃんには厳しい現実だったかな」
「でも、耐えてくれる。本音は強い子だから」
「のほほんちゃんのIS、作ったよ。
「うん。喜んでくれるかな」
「どうだろう。わかんないや」
心配事が増える中で、時間だけがただ過ぎていった