Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
天翔ける桜
IS学園の1室。ICUじみた設備のクリーンルームで横たわる櫻の横には紫苑、束、千冬、クロエの4人がいた。
「本当にいいんだね? ママさん」
「櫻の、意志だから」
「クロエ、行くよ」
「はい。束様」
「では、私は後始末をしないとな。あいつらには肺機能の低下が深刻だった。それによる心臓突然死で死んだと伝えよう。それに、マドカのこともな」
「お願い。あと、転入も。ね」
「キルシュ・マクシミリアン・テルミドール。織斑マドカ。2人共お前らが世界に認められた時には受け入れられるように準備をしておこう」
「私達の期待を込めて。束ちゃん、櫻。時々は帰ってきてくれるのよね?」
「どうだろうなぁ。これからの成り行き次第になりそうだよ」
「そう。万が一、あなた達が世界の敵になっても。私は手を出さないから。どうにか、企業連の一角だけでも抑えてみせるから」
「ありがと、ママさん」
そうして、クロエがISを展開。カプセルをベッドの横に出現させると、千冬と束が櫻をその中に移した。そして、ベッドには、"櫻と瓜二つななにか"が寝かせられ、そのバイタルサインを絶えさせた。
「私達は行くよ。ちーちゃんも、ママさんも、元気でね」
「うまくいくことを願ってるわ。そのためのお膳立てはしておくから」
「死ぬなよ、束。また会おうな」
「うん。絶対だよ」
そうしてアリーナのにんじんに2人と櫻が収まると、どこかへと飛び去っていった。
残された2人は、それぞれの仕事のために互いの目を見て頷くと、自分たちのいるべき場所へと戻っていった。
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にんじんが行き着いた先、それは成層圏上層を飛行する
完全自給自足が可能で、太陽光でエネルギーをまかない、クレイドル自体はもちろん、数百機のISを同時運用可能なほどの莫大なエネルギーを生み出す。
もちろん、機内には 無人機ゴーレムが大量に配備され、様々な作業に従事している。
ISによるオートメーション化。高度な作業が効率的に行えるスペックを持つ故に、戦闘以外にも使い道があるのだと自らが示すためにクレイドルでは様々なことにISコアが使われている。
まだ試験機とは言え、100人程度を収容し、一生暮らすことのできるだけの設備を整えた。
その中の一つ、治療室に櫻は入れられ、医療用ナノマシンを投与、骨と肺の再生、神経系の強化を行っていた
そして、また別の部屋には織斑マドカがほぼ監禁と言っていい状態で部屋に閉じ込められていた
「ねぇねぇ、なにかお話しようよー」
「…………」
「別に尋問とかってわけじゃないんだよ? ただ、束さんは君とお話がしたいだけなんだけどなぁ」
「…………」
「何も言わないと黙って君をぶっ殺してちーちゃんに見せびらかすよ」
「やれるものならやってみろ」
「やっと喋ってくれたねー。で、これからどうしたい? またあそこに戻る? それともちーちゃんと一緒に暮らす? 私達についてくるってのもアリだけど」
「お前らの目的なんて私にはどうでもいい。私はただ、織斑一夏を殺し、姉さんを……」
「なんでそこまでいっくんを殺すことに執着するのかな? 別に家族3人仲良く暮らせばいいじゃん?」
「お前には関係のないことだ。ただ、私はわたしのためだけに動く」
「そっか~、そこまで言われるとどうしようもないなぁ。ここから出たい?」
「そんなにあっさり開放していいのか?」
「今の君にはISもなにもないからね。怖くないよ」
「フン、なら早く開放しろ」
「おっけー。ついてきて」
そして束は一切窓を見せないルートでまっすぐに格納庫へ向かった。そして、ボタンを押すと……
「嘘だろ……」
ゆっくりと口を開くハッチに吸い込まれそうになるのをギリギリで耐える。
夜空よりも明るく、夕焼けのような色合いのない、平たい藍色がハッチの隙間から見える。そして、ちらりと見えたのはおそらく地球。
息が苦しくなり、力が抜けそうになる。もし、吹き飛んでしまえば地表まで数十kmのフリーフォールだ。
普通にその場に立ち、顔色一つ変えない束は警告のつもりか、扉を一定の開度で止めると再び言った
「ここから出たい?」
「どう……やら、無理、みたい、だな……」
「おりこうさんはすきだよ」
そう言ってまたボタンを押してハッチを閉めるとまた手でついて来い、と示して歩き出した。
ふらふらと歩くマドカに酸素の缶を投げる
今度は機体の外側に沿って歩いたために、自分たちが今どの辺りにいるのかがはっきりと分かる。
窓から見えるのは地球の縁、そして限りなく広がる宇宙。
さっきハッチの隙間からみた世界よりももっと大きく、広いものが視界に広がる
「ここは、何処なんだ?」
「ここはクレイドル。高度45kmを跳ぶ私達の家であり、アジトだよ」
「こんなところに居られれば、見つかるはずもない、な」
「でしょ? こんなところにいたら太陽光を反射して衛星からは見えないし、暗い時はただのノイズにしかならない。なんて素敵な場所だろうね」
「そんな簡単に言ってよかったのか? 私が亡国機業に伝えるとも限らないというのに」
「それはない、と思ったからね。だって、君。あそこに望んで居たわけじゃないでしょ?」
「くっくっ。さすがだな。なんでもお見通しか? 確かに私はあんなところに自ら望んで居たわけじゃない。そうせざるを得なかったからだ」
「今なら、話してくれる?」
「いいだろう。もう私に帰る場所など無いしな」
そう言って2人は櫻の待つ、治療室に入っていった
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「コイツ……。天草櫻か……?」
部屋に入ったマドカの第一声はコレである。
ベッドに座るその姿は確かに櫻に似ている。
だが、美しく長かった銀髪は色が抜け、毛先に向けて桜色に染まり、その目は赤い光を宿している。
「お久しぶりですね。織斑マドカさん。ようこそ、私達の揺りかごへ」
「生きていたのか」
「ええ、幸いにも弾は心臓には当たりませんでしたし。まぁ、身体は1/4ほどナノマシンに頼ることになりましたが」
「君が撃ったからさくちんはこうなった。責任、取ってくれるよね?」
「束お姉ちゃん、さすがにソレは脅しじみてるよ。ねぇ、織斑さん。私達の手伝いを。世界をあるべき方向に向ける手伝いをしてくれないかな?」
「どちらにせよ私は従わざるをえないんだろう? いいだろう、乗ってやる」
「性格までちーちゃん似だよ。ヤダなぁ」
「そうなのか? 私はあまり姉さんと一緒に居なかったからな……」
「で、織斑さん。今から君は亡国機業のMではなく、織斑マドカとして生きてもらうよ。まずは世界に向けて私達の存在をアピールしないとね」
「篠ノ之束が、表舞台に戻るのか?」
「端的に言うならそのとおりだよ。私達はISを創った者の責任として、ISをあるべき方向に戻すんだ。君にはそのお手伝い。そうだなぁ、主に邪魔者の排除と、治安維持をお願いしようかな。要は実働部隊だよ」
「世界が私達を拒絶した時は、一緒に世界を捨ててもらう覚悟も必要だけどね」
「極端だな。世界が認めれば、更に高みへと導く救世主。ソレを拒めば、破滅への使者か」
「ま、全てはISを作った私達と、変な方向へ進化させた人類の責任だよ。究極の2択なんて言わせない。当然の選択さ」
「面白い。どうせ姉さんも噛んでいるんだろう?」
「もちろん。世界が認めれば、そしてIS学園が認めればさくちんとまどっちにはIS学園に入ってもらってポラリスの窓口を務めてもらう。ちーちゃんにはその時はお願い。って言ってあるんだよ」
「コレで、一夏が殺せる……」
「なんてことが出来ないようにまたナノマシンぶち込まれたい? どうして一夏くんと仲良く出来ないかねぇ、姉弟だろうに」
「だからこそだ! 奴が居なければ私は姉さんと共にあれたんだ!」
「まさかと思うけどさ、親殺したり、してないよね?」
「何を今更、あいつらを殺したのは私だ。姉さんと一夏を捨て、私を連れて世界を飛び回り、あらぬ研究に手を出した。ドイツのアドバンスドなど、最たる例だ」
「お姉ちゃん、知ってた?」
「いいや、全く」
「ソレもそうだ。私が親を殺したのは10年ほど前だからな。世界にISが登場して間もない頃だ」
「じゃあ、その研究の本来の目的は……」
「万能兵士製造計画だ。だが、途中でISが出てきたためにそれを最大限に活かせるよう調整がなされた。それだけだ」
衝撃の告白の連続に驚く2人だが、冷静になって考えると
――マドカって、ただのシスコンじゃ……
「それで、つまるところ、千冬さんと一緒に居たかったのに、親が無理やり引き剥がしました。ムカついたので殺してボッチになったところを亡国機業に拾われ、千冬さんにずっと過保護に育てられた一夏に嫉妬しながら今に至ると。」
「それではまるで私がシスコンみたいではないか!」
「「いや、実際そうだろ!」」
「ぐぬぬ……」
「ま、まぁ、一夏くんは殺させないよ。それだけは約束してもらう。私じゃなく、千冬さんにね」
「いっくんを殺したくなるほどにちーちゃんが好きなんだねぇ……」
「やかましいですよ。束さま、櫻さま。それに、マドカさまも」
「コイツもアドバンスド、だな?」
「ええ、いかにも。マドカさまの専用機が開発終了しました。それと、夕食も」
「クーちゃんお疲れ様! さてさて、今夜はなにかな~?」
マドカはまだ知らなかった。クロエの料理の腕前は絶望的であることを。
マドカは見ることが出来なかった、櫻のこの世の終わりを見るような顔を。