Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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誕生日の光と影 Ⅲ

 アリーナに降りてきたた束のラボにマドカを担ぎ込むと、台にマドカを寝かせ、クロエが機械類の準備を整えて束が戻ってくるのを待っていた

 

 数分経つと、見慣れたエプロンドレスにウサミミの格好の束がラボに入ってきた

 

 

「さぁさぁ、始めるよ。ナノマシンが入ってるんだっけ?」

 

「その可能性が否定出来ない。今は死んでるはずだが、蘇生させた時にそれで殺されては寝覚めが悪い」

 

「ふ~ん。で、この娘は本当にちーちゃんの妹なの? 確かにそっくりだけど、"似すぎてない?"」

 

「わからん。一夏が生まれるのと同じ頃からずっと一緒に居たからな。ただ、あの日以降消えてしまったが」

 

「ちーちゃんの両親と一緒に、ねぇ」

 

 ま、どうでもいいけど。と一蹴して束はレントゲンのような機械で全身をスキャニングした。

 一糸纏わぬ姿は高校時代の千冬とほぼ同じと言っていいほど似ている。

 

 

「ISを作った頃のちーちゃんにそっくりだね」

 

「そうか? 私はこんなに目つきは悪くないぞ」

 

「ん~、もうちょっと胸はあったね、昔から」

 

 ガッ、と一発鉄拳が入り、頭をさすりながら束はディスプレイに向かった

 

 

「あー、やっぱりありますねー。コイツを殺しちゃえばいいんだね?」

 

「ああ。出来るな?」

 

「モチのロンだよ。クーちゃん、アレ出して」

 

「はい」

 

 そうしてクロエがコンソールを操作すると天井から何かプロジェクターのようなものが降りてきた。

 

 

「電磁パルスで機械を吹き飛ばしまーす」

 

「いいのか? 体内だぞ?」

 

「ナノ単位の機械が使う電流なんて生体電流よりちょっと強いかな? 位だから死んでる今なら問題ないよ」

 

「準備出来ました」

 

「おーけー。では、照射っ!」

 

 目では見えない何か起こり、マドカの体内のナノマシンはショートし、自滅した。

 自己複製するタイプではないのでこれで蘇生しても亡国機業の連中が遠隔操作で殺すことはない

 

 

「いっちょ上がり~。携帯とか時計とか壊れてないよね」

 

 千冬が折りたたみ式のガラケーを開くと、画面が顔を照らす。

 

 

「うん、よろしい。じゃ、次は蘇生だね。薬は持ってるんでしょ?」

 

「ああ。コレだ」

 

 胸ポケットから名刺ケースほどの大きさの箱を取り出してクロエに渡すと、なんのためらいもなく首筋に打ち込んだ

 

 

「数十分もすれば目が覚めるだろう。どこかに隔離したいな」

 

「ここでいいんじゃない? アッチ側は電波暗室だし、空調効かせて縛っておけば?」

 

「そうか。まぁ、むやみに学園の施設を使うよりはいいか。頼む」

 

 再びクロエがテーブルの足に両腕を固定。機器類を片付けると同時に誰かがドアをノックした

 

 

「ママさんかな?」

 

 モニターに映される顔は案の定紫苑のもので、ロックを解除し、迎え入れる

 

 

「櫻は一夏君とラウラちゃんに任せてきたわ。こっちは?」

 

「さっきナノマシンを殺したよ。あと数十分で生き返るってさ」

 

「そう。この娘がマドカちゃんね。本当に千冬ちゃんそっくり」

 

「紫苑さん、マドカのことはどこまで掴んでいたんですか?」

 

「亡国機業に所属している織斑の血縁者、ってところまでね。どうしてあそこに居たのかはわからなかったわ。でも、一つ怪しい情報もある」

 

「まさかとは思いますが……」

 

「ええ、彼女は千冬ちゃんのクローンかもしれない。せっかくだから今はっきりさせましょ。ここの設備なら解るでしょ

 

「行けるよ。それに麻酔弾か何かで撃たれた痕もあったし、ソレに血も付いてるんじゃない?」

 

「お前にはすべてお見通しか……」

 

 千冬はポケットから小さい注射器のようなものを取り出すと束に渡した。

 先端にはしっかりと血が付いている

 

 

「その可能性があることも考えたが、大切な妹だから。そんなことを考えたくなかったんだ……」

 

「ごめんね」

 

 束は溶液に血を溶かすと検査機に掛けた。

 

 静寂の中で検査機だけが無機質な音を立てるなか、気を紛らすように千冬が口を開いた

 

 

「紫苑さん、櫻は……」

 

「さっきも言ったけど一夏君とラウラちゃんに任せてきたわ。もしものことがあったら、耐えられる気がしないもの……」

 

「その時は束さんがさくちんの脳をスキャンして複製でもなんでもするよ。たとえ世界の禁忌に触れてもね」

 

 束の冷たい声は本気だった。その目に一瞬だけハイライトが消える

 

 

「でも、さくちんだから生きてるさ。臓器の一つや2つなら医療の名のもとに再生できるしね」

 

「そうね。束ちゃん、櫻のDNAって、持ってるの?」

 

「うん。脳内の記憶領域もデータ化して持ってる。使えるかどうかは知らないけど」

 

「万が一にも櫻が死んでも、そんなことは絶対にしないでね。作られた櫻は、櫻じゃないから」

 

「……そうだね」

 

 

 ピピッ、と電子音とともに結果がディスプレイに表示される。

 そして、束が千冬のDNAと比較させると……

 

 

「98%マッチ……」

 

「完全に一致してないから、あの娘はクローンではない。ね」

 

「そうだね。2%のズレは元をコピーするんだからありえない。彼女はちーちゃんの妹だ」

 

「これで安心して妹を抱ける……」

 

「ちーちゃん……」

 

 そのまま静かに泣きだした千冬を、紫苑が静かに抱き寄せた。

 紫苑の胸で、千冬は今まで溜め込んだ涙を、ゆっくりゆっくり流し続けた

 

 

 

 いい雰囲気をぶち壊すような味気ないノックの音で、全員が一斉に扉の方を向く。

 クロエが「一夏様です」と言うと一瞬高まった緊張がほぐれた

「奥にいるわ」と言って紫苑が千冬を連れてにんじんの奥に消えた

 

 

「はいはーい、今開けるよ~」

 

 その間にクロエは調光ガラスのスイッチを入れて白く染めた

 

 

「あれ、千冬姉は?」

 

「さっきまた何処か行っちゃったよ。いろいろ忙しいんじゃないかな?」

 

「そうですか? 櫻の手術が終わっていろんな書類渡されちゃって」

 

「いっくん。先にそっちを言うべきじゃないかな?」

 

「あっ……」

 

 クロエとラウラにも睨まれ、一回り小さくなった気がする一夏は「櫻は一命は取り留めたみたいです。でも、油断はできないと」とありのままを伝えた

 

 

「そう…… ママさんにも言っておかないと……」

 

「お願いします。俺は千冬姉を探してくるんで」

 

「あぁ、それならまたここに戻ってくるだろうから書類だけ預かるよ」

 

「そうですか? ありがとうございます」

 

「パーティーの主役は早く戻りな。あとは大人たちが何とかするから」

 

「どうして…… すみません」

 

「一件の家に最新型が6機、それにいっくんとラウラが戻ったら8機も。戦争起こせるね」

 

「冗談じゃないですよ……。でも、少し気分変わったかも」

 

「うんうん、辛気臭い顔してると、さくちんに怒られるよ」

 

「ですね。じゃ、千冬姉に先に帰ると言っておいてください。携帯置いてきちゃって……」

 

「りょーかい。ラウラにもよろしくね。さっきはほとんど話してないし」

 

「まぁ、ラウラもソレどころじゃなかったところはありますけど。じゃ、帰ります」

 

「うん、気をつけてね」

 

 一夏がドアを締めたのを確認すると、奥から2人が戻ってきた。

 

 

「よかった……」

 

 心の底から出た、紫苑の一言にすべてが凝縮されていた。

 幾ら覚悟ができているとはいえ、心配でならないのが母親というもの。命さえあれば、時間と技術でなんとでもなる現代だ、ここから束のターンだろう

 

 

「それで、書類というのは?」

 

「ぱっと見はただの保健室を使ったときのアレだね。オペの内容とかも全部入り」

 

「弾丸は無事摘出、肋骨を貫通か。さらに肺も……。ISに乗れないかもな……」

 

「そこはさくちんに医療用ナノマシンを大量投入して骨を再生させるから大丈夫。ただ……」

 

「これで、櫻は壊れてしまうかもしれないわね」

 

「…………?」

 

「ママさん、さくちんと私は、ただ、ISをあるべき姿に戻すだけだよ」

 

「櫻はおそらく、いや。絶対に強行するでしょうね。これからどうしましょう……」

 

「ごめんなさい」

 

「あなた達の考えることも解る。ずっと見てきたから。でも、今となっては世界の改革に近いのよ。それだけ敵が増える、最悪、世界全部を敵に回しかねない。私じゃ、あなた達を守れないの……」

 

「ママさん…… もう、私も子どもじゃない。お酒も飲めるし、世間の常識もお勉強したよ。すべて承知の上でさくちんと、一緒に」

 

「せめて、学園を出てからじゃだめなの?」

 

「すでに遅すぎるくらいなんだ。あと2年半も待ってたら私達の手に負えない。最悪のパターンで、自分たちの"まともな"戦力はたったの3人しかいないから。今なら私の力でカバーできるけど、この先追いつかれたらどうしようもない」

 

「ちょっと待て、3人って。櫻と、クロエと、誰だ?」

 

「私だよ、ちーちゃん」

 

「束……お前……」

 

「私はわたし自身が一番前に出て方向性を示す。私がさくちんを、クーちゃんを守るんだ。それが私の責任」

 

「私は歳を取り過ぎたの。だから進む方向がすでに決まってる。あなた達についていくことも出来ないし、その先にあるものが不確定だから行ってほしくない。大人として、母親としてね。でも、ずっと見てきたからこそ、今のISが束ちゃんの望まざる方向に向かっているのも解る。私はわたしが決められない」

 

「ママさん。もう、やるしかないんだよ。ISを使って人を傷つけるなんて許さない。ISを使って間接戦争をしようなんて許さない。不条理には不条理で、違法には違法な手段で、技術には技術で、そのままぶつけ返してやるんだ」

 

「櫻を、お願いね。またこんなことになったら怒るから」

 

「さっきも言ったとおり。私がさくちんを、みんなを守るんだ。今度は私の番だよ。ママさん」

 

「束。これから何をするのか、ちゃんと説明してくれ」

 

「いいよ。これから私達は――」

 

 束がことのあらすじを話すと、千冬は不敵に笑って

 

 

「ふん、最初から素直にそういえばいいものを。いいだろう、乗ってやる」


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