Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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櫻ちゃん育成計画がスタートします。

ちょっとばかし書き方変えてみました。


鴉と猫の決意

「それでな、ここのブースターと、そこのブースターを同時に点火するとだな―」

「ドーンってなってバビューンなんだね!」

「そうだ、よくわかってるじゃないか櫻ちゃん!さすが天使の娘だ」

「だって拓郎おじさんとか他のお兄さんにいっぱい教えてもらってるもん!」

「だからまだおじさんって歳じゃないって……」

「それでね、おじさん! ここと、あれをね―」

 

 

 

 ドックの中で主任に遊んでもらっている櫻を見ながら、紫苑はため息をついた。

 

 ―あの子に、辛い現実を教えねばならない時が来る。

 

 レオハルトの話とはきっとリンクスの寿命のことなのだろう。それが紫苑にはわかっていた、彼を一番理解し、そばに居たから故に。

 

 

 

 昼間の明るい空でもはっきりわかる緑の閃光。

 彼を蝕む、その光はやがて消え、轟音が迫り来る。

 

 

「お、天使様のお帰りだ、いくぞ、櫻ちゃん、パパのお迎えだ」

「うん!」

 

 ドックの扉に向かう2人に続くようにぞろぞろとスタッフたちが集まってきた。

 

 

 

 滑るようにドックに入った機体を眺め、紫苑は少し笑みをこぼす。

 

 ―今日も無傷、よかった。

 

 

「ファーティ!」

「おお、サクラ、ただいまぁ!」

 

 そう言って娘を抱きかかえる彼からは、先の悩みなど微塵も感じられなかった、紫苑以外には。

 

 

「ではいつもどおり、機体の整備と補給、たのんだぞ」

「ええ、おまかせを」

 

 かかれ、野郎ども!と黒森峰の号令とともにドックの中が慌ただしくなる。

 

 

「ただいま、シオン」

「おかえりなさい。お疲れ様」

 

 レオハルトもまた、無傷だ。見た目は。

 

「ではさっさとデブリーフィングを終わらせて、ご飯にしましょう」

「ああ」

 

 

 そうしてホログラムディスプレイを複数出し、デブリーフィングを始めた。

 

 そうして数分、コントロールルームから出た2人を待ち構えるは娘。

 

 

「ご飯まだー?」

「これからよ、いきましょ」

「いぇっさーっ!」

「それは男の人に使うんだ」

「そーなのかー」

 

 

 そうして笑い合う3人、これだけ見ていればどこにでも居るありふれた家族だと思う。

 だが、彼の言葉があったから、こんなありふれた日常こそが愛おしい。朧気な幻のようにも思えてしまうのだ。

 

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

「んじゃ、また拓郎おじさんのとこ行ってくる!」

「いま忙しいんだ、あまり迷惑かけるなよ」

「わかってるー」

 

 そうして駆け出す娘を見送り、

 

 

「さっきの話だが……」

「寿命のことでしょ」

「わかってたのか」

「女の勘、みたいなものね」

「ははっ、そうか。なら、私の考えてることもわかってるんじゃないのか? シオン」

「そうね、あなたは自分の技術を娘に与えるつもりでしょ?」

「さすがだな、止めるか?」

 

 向き合う彼は何時になく真剣な瞳を向けていた。

 最愛の娘に、何を残せるのか、彼なりに葛藤があるに違いない。

 

 

「いいえ、止めないわ。止めてもこっそりやるでしょ、それにあの子のことだから」

「私が自分の持てる全てを教えてやる、といえば必ずついてくるだろうからな」

「でしょうね、本当、誰に似たのかしら」

「さあな」

 

 真面目な話の中でも笑みが溢れる、

 

「私は長く生きられないだろう、だが、世界には私の敵が多くいる。自分のまいた種なんだ、自分で落とし前を付けたい。だが、私はそれができん。だから……」

「せめて自分を守るだけの力をつけて欲しい、と」

「ああ、本当に済まない。私がこんな身の上だから。それでも君を愛してしまったから……」

「何を言ってるの? 身分が何よ、敵の数が何よ、そんなもの私がすべてぶっ飛ばしてやるわ。あなたの愛が本物だってわかってるから。だからお願い、謝らないで、自分を否定しないで。あなたは、あなたなんだから。レオハルト・フュルステンベルクなんだから……」

 

 そう言いながら、レオハルトも、紫苑も涙を流していた。大切なモノを失う恐怖が、目前まで迫っているのだ。そして、それを避けられない未熟さを、悔いている者がいるのだ。

 今までさんざん命のやり取りをしてきた2人も、目の前で最愛の人が消えてしまう恐怖からは逃れられず、立ち向かうにもその一歩は、拳は、小さすぎた。

 

「あなたが死んでも、私が責任持ってあなたを継ぐ、櫻を守る。家を守る。私が、あなたの妻、紫苑・天草・フュルステンベルクである限り」

「済まない、シオン。本当に――」

「そういう時は、違う言葉を言うべきじゃないの?」

「そうだな、ああ。ありがとう。シオン」

「ええ、母は強いんだから。それくらいやってやるわ。たとえ世界が敵になろうとね」

 

 レオハルトは強く決心した、この思いを、ムダにしないと、この幸せを、決して忘れはしないと。

 

 

「ああ、私は最高の妻をもったよ。シオン」

「私も、最高の夫をもったわ。レオハルト」

 


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