Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
キャノンボールファスト襲撃の後始末に負われた教師陣の1人として、櫻も日が暮れるまで作業にあたっていた。
そして千冬とともに織斑家へ一夏の誕生日を祝いに帰る途中、学園から出ようとしたところで聞き慣れた声に呼び止められた
「櫻ちゃん」
「なんでしょうか? 楯無先輩」
門に寄りかかりながら櫻を待っていたのは楯無と簪、そして虚。更識の3人が櫻を呼び止める要件は1つしかない。
「わかってるんじゃない? あなた、一体何を考えてるのかしら?」
「なに、って。ただ企業連の先行き、新しい装備の企画、経営状況。整備科の生徒のことも考えてますね。それに、本音のことも」
「天草さん。本音の姉として聞きます。本音と何をしようとしているのですか?」
「私は、ただ、本音にISの正しい姿を取り戻そう。と言っただけですよ。あ、もちろん束お姉ちゃんも噛んでますからね。千冬さん」
「なぜそこで私に振るんだ。奴が何をしようと私には関係ないからな」
「最悪、世界が敵に回るんです。私達のやっていることは。世界中の法に触れ、多くの血を流すかもしれません。でも、ISを創った者の過半数の意見として、今の兵器としてのISは願った姿ではない。せっかくですから聞きましょう。千冬さん、あなたはISに何を望みますか?」
ドライな簪ですら目を見開くだけの事をサラリと言ってのける櫻。楯無はなんでもない顔で、虚は後悔の滲む表情でただ、櫻と千冬を見ていた
「何を望む、か。私はただ、翼としてのISを見てきたからな。愛するものを守る翼であり、願いを叶える翼としてのISをな」
「やっぱりそう言いますか。反対もしなければ同意もしない。欲を言えば一緒に来ていただきたかった。さて、ここまで聞いて本音を連れ戻しに掛かりますか? 虚先輩」
「あなたは、あなたは本音に何をさせようとしているのですか? まさかその手を血で染めろ、なんて言ってませんよね!?」
「穢れる人間は少ない方がいい。それが私と篠ノ之束の考えです。彼女には篠ノ之束と同じレベルの技術力を持ってもらう。実際に血塗れになるのは私とその影ですよ」
万が一世界が敵に回っても、ちゃんと存在を変えて生きていけるように、と
純粋だから、大切な友達だから、穢れさせるわけには行かなかった
「そうですか……。今更連れ戻す、なんて言いません。本音の道は、本音が決めるべきですから。私が口を挟む道理はありません」
「さて、お姉さんはしぶしぶながら認めてくださったようですが、主人としてはどうしましょうか? イマイチな顔をしてたと聞いてますよ、楯無先輩」
「計算高い櫻ちゃんのことだから、本音を使って更識とのつながりを維持しようとか考えてるんでしょうね。でも、そんな悪いビジョンが見える中で、そこまでして世界に変革をもたらす必要があるの?」
「こんな事をする必要が生まれたのも、単にあなた方が開発者の言葉を無視して独走したからですよ? 『宇宙開発のためのマルチフォームドスーツ』私達はそう言ったはずです。実際にISに初めて量子化され、装備されたのは採掘用ドリル、掘削用パイルバンカー、ワイヤー射出機など、惑星探索を想定した装備だったんです。その中で、ただの物理刀。ピッケル無いしマーカーとしても使えるようにとしたものでミサイルを叩き斬った。あなた方――先輩たちを攻めるようで気分が悪いですね。世界が勘違いして勝手に兵器としての開発を進めたんです」
――凡人には天才が理解できない
頭の中をよぎったのはラウラの言葉だった。あの時、世界の理解が追いつかなかったから絶対的な力に目が眩んで思わぬ方向へ歩み始めたのかもしれない。
あの時、束が通常兵器なんてゴミだ。なんていい方をしたから兵器として理解されてしまったのかもしれない。
「ねぇ、櫻さん」
ゆっくりと口を開いたのは簪だった。
どこか泣きそうな顔で、たどたどしく言葉を紡ぐ
「何で私達は勘違いしたんだろう。何で私達は篠ノ之博士のいうことを理解できなかったんだろう。何で私達は、こんなにも愚かなんだろう」
「世界が愚かなんじゃないんだよ。いやらしい言い方だけど、私達が世界の理解を超えていただけだと思う。初めて目の当たりにする圧倒的な技術に恐怖したんだよ。世界は」
「じゃあ、何で早いうちに手を打たなかったの? どうして今更になって……!」
「世界がそれを許さなかったから。束お姉さんを人類種の天敵であるかのように見て、追いかけてさ。今となっては自分たちの技術が進んで天敵に少しずつでも追いついているという自信があるから何も言わなくなった。だから、今。私達が動き出すんだ」
「そう。本音も知ってるの?」
「本音には今何をしているか、これからどうするかをまとめたものを渡してある。どうしてこうなったか、は言ってないけどね」
これ以上はまたこんどにしてくださいね。私達のケーキがなくなるんで。と話を切り上げようとすると、あら、おねーさんのところには招待状が来てないわね。と言ってなぜか3人がついてくることになった。可哀想だから本音も呼んで、大所帯でモノレールに乗り込んだ。
さっきの雰囲気は何処へやら、ちょっとやかましいくらいの女子高生達を千冬が一喝して黙らせたり、駅前のコンビニで千冬が先に行っていろ、と言ってコンビニの酒類コーナーをウロウロしていたり、と話題に事欠かなかったが、住宅街に入ったところで最悪の出会いが待っていた
「おう、櫻、楯無先輩たちも。こんばんは」
「久しぶりね~。誕生日って聞いたからついてきたわよ~。ちゃんとおみやげもあるし」
そう言ってこれもまた駅前のケーキ屋の箱を見せる
「おぉ、ありがとうございます! って言っても、家にもあるんですけどね」
「まぁまぁ、予定外の客だし。その分は自分たちでってことよ。それで、パーティーの主役がこんなところでどうしたの?」
「いや、飲み物が切れそうだったんで、ちょっと自販機まで」
「あら、そういうのは専用機持ちの女の子にやってもらえばよかったのに」
「いや、そういう雰囲気じゃなかったんで……」
楯無が手伝いを申し出るも、先輩の手をわずらわせるのも申し訳ない、と櫻が一夏についていくことになった。
4人はちょうどやってきた千冬に付いて行かせればいい
「ひさしぶりだなぁ、このへんも」
「そっか、ウチに来るのも10年ぶりか?」
「だねぇ、あの時は楽しかったなぁ、色々と」
「結局剣道でもISでも櫻には一度も勝ってねぇな。こんど久しぶりに剣道で一本やらないか?」
「いいねぇ、また頭のてっぺんに一本取ってあげるよ」
「10年前から少しは成長したところを見せてやらないとな。っと、ここだ。売り切れは無くてよかったな」
そう言ってお茶やコーラやオレンジジュースや、様々なものを買って手持ちの袋に詰め込む。
櫻はふと人の気配を感じ取って目をやると、ちょうど街灯の光が当たるか当たらないかというところに誰かが立っている
「こんばんは」
櫻が声を掛けるも返事はない。ただ、一歩踏み出し、明るみに出た顔は限りなく千冬に似ていた
「千冬姉? 違うな、誰だ?」
「私はお前だよ、織斑一夏。そして隣にいるのは天草櫻か。この前と言い今日と言い、お前には世話になったな」
「あらあら、そういうあなたはサイレントゼフィルスの搭乗者の織斑さん。直接お会いするのは初めてですかね?」
「何言ってるんだ、お前ら……」
「お前が知る必要はない。私が私であるためには、お前が少し邪魔でな」
――死んでもらおう
そう言って懐から取り出したのは鈍い光を放つ拳銃。そしてホルスターから抜くと同時に一発乾いた音を発した
「さ、櫻……。お前……!」
「面倒な事を……。次こそ当ててやる。コレで終わりだな」
一夏により掛かるように、櫻は長い銀髪を血で赤く染めていた