Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

105 / 173
閑話: 先生の世間話

『何事にも必要なのは3つのC。冷静(Calmness)その場での機転(Clever)そして全てを統合して判断、結論付ける(Conclusion)こと。特に一夏は武器がないんだからいつでも周りを冷静に見通して、自身の機転を利かせてその場、自身の特性に見合った行動を判断しないと勝ち目はないよ。機体スペックで頭ひとつ出てるだけじゃ勝てない』

 

 キャノンボールファストを前日に控えて一夏はアリーナの使用時間ぎりぎりまで白式で飛び続けた。せめてコースだけでも頭に叩きこまねば。そうすれば自身の得意なセクション、不得意なセクションが明らかになる。仕掛けやすい場所、仕掛けにくい場所、すべてを頭に入れてあらゆる可能性を考慮しなければ勝てない。櫻やラウラ、楯無にも散々言われたことだ。

 

 

「時間か、仕方ない。今日は上がるか」

 

 誰にでも無く口から出た言葉はコントロールルームにいる櫻にははっきり見て取れた。

 ――頑張ってるね。よろしい!

 と言わんばかりにうんうん、と頷いている

 

 

「天草先生」

 

 呼びかけられて振り返ると同じく整備科の教員、川嶋先生がいた。少し長めのポニーテールが揺れる

 

 

「お疲れ様です。川嶋先生」

 

「施錠の確認を終わりました、あとは整備室と更衣室です。織斑君、今日も頑張ってるみたいですね」

 

「ですね。初めて一周した時と比べたら圧倒的な進歩ですね。友人としても教師としても嬉しいものです」

 

「大変ですね、天草さんも」

 

「そうですね。自分の機体のこともありますし、教員としての準備もありますしね。それに明日は企業連代表としてもよさ気な子を見つけないと」

 

「3足のわらじですか。足が足りませんね」

 

「ふふっ、確かにそうですね。織斑先生も気を利かせて仕事を振ってくれてはいるんですけど、やっぱり無しというわけには行かないので」

 

「才能ありすぎるんだから先生してください。っていうのもスゴイことですけどね。本当に何でわざわざウチに来たんですか?」

 

「世界の最先端機を自分の目で確かめられるって言うのが魅力的すぎるんですよ。技術者として当然でしょう?」

 

「そうですね。私も国家ごとに特色ある機体を見るのはワクワクしますから」

 

「中身まで見れないのが悔しいところですけどね」

 

「確かに見たいですけど、それこそ国家の技術の粋を集めたものですからねぇ」

 

「それが原因で企業連は国家代表の専用機に選ばれにくいんですよねぇ……」

 

「量産機を作る上ではグローバル企業であることは強みになっても、特定の国に仕えるとなると、それが仇になっちゃうんですね。難しいんですね、経営って」

 

「その通りなんですよねぇ、HOGIREモデルは世界シェアトップなんていう肩書を持ってるおかげで黙ってても売れますけど、第二回モンド・グロッソのトルコ国家代表専用機、LAHIREもカタログに載せてもちっとも売れませんし」

 

「エリジェ先生の専用機だった機体ですね。アレは……」

 

 恐らくは両者棄権という最悪の結果となった事を思い出してしまったのだろうが、櫻や本人たちはもう意識していないからあまり気にすることもない。と言うと少し安堵した顔で「そうだったんですか。確かにエリジェ先生と織斑先生は仲いいですからね」と調子を戻した

 

 

「キャノンボールファスト、天草さんの機体、楽しみにしてますよ。あのアスピナ機関のISですからね」

 

「先生もアクアビットやトーラスが好きなんですか?」

 

「う~ん。どちらかと言えばレイレナードとか、尖った何かを持つ企業が好きですね。機体もかっこいいですし。だからACの方のLAHIREとか私は好きですよ?」

 

 ここは川嶋先生の性格も現れているかもしれない。

 彼女は少しクセのあるセッティングを得意とする先生で、生徒の短所を埋めるのではなく、長所を伸ばすことを勧めるタイプの先生だ

 

 

「あれはレイレナードの影響が濃いACでしたからね。それもモチーフにしたら近接戦寄りになってしまって……」

 

「企業連のISってACから名前を取ってますけど、ACとISって近いものがあるんですか?」

 

「そうですね。ACの兵器はエネルギー系統をIS向けに改修すればとりあえず使えるくらいの近似性はあります。結構応用が効くのでLAHIREのエネルギーブレードなんかはACのものをかなり参考にしてますね」

 

「企業連の技術力はACに裏打ちされたものだったんですね。HOGIREなんかを見てるとACの方の影響がはっきり見て取れますからね」

 

「アレはローゼンタールの技術者たちが本気を出して作った代物ですからね。我々の代表作にして傑作ですよ」

 

「ウチでも導入すればいいのに、と思うことがありますよ」

 

「まさか第2世代最後発のラファールにコンペで負けるなんて思ってませんでしたからね。恐らくは政治的な何かも絡んでるんでしょうね」

 

「天草先生が言ったら宣言するようなものじゃないですか。あっ、結構長く喋ってましたね。アリーナとタワーの確認はお願いします。私は地上設備の確認に行くので」

 

 壁に掛かった時計はすでに8時半を指している。

 アリーナの点検や明日の準備等まだやることは山積み、これから教員や生徒会で準備を始めるのだ

 

 

「了解です。そろそろ他の先生方もいらっしゃる頃でしょうしね」

 

「ええ。早く済ませないと織斑先生に……」

 

「そうですね、急ぎます」

 

 そう言って2人の女教師は2手に分かれて廊下を早足で歩いた


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。