Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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練習あるのみだよ、青年!

「今日の実技では、キャノンボールファストに向け高速機動の訓練を行う。4名ずつ一周だ。始めるぞ」

 

 

キャノンボールファストを控えて実技では決戦の場、第6アリーナを使った高速機動練習の割合が増えてきた。

専用機持ちも各自高機動パッケージを用意し、慣らしに入っている

 

 

 

「では、まずは天草からオルコットまで。行け」

 

黒、白、灰、青。それぞれの機体が並ぶ。白式以外はほぼキャノンボールファスト専用と言っていい高機動パッケージがインストールされ、ブースターやスラスターが増えて迫力が増していた

 

櫻のソブレロは紙っぺらだが。

 

 

『幾ら練習とはいえ、手は抜きませんわよ?』

 

『もちろんだ。俺もお前らを見て盗めるものは盗まないとな』

 

『一夏もやる気だね。じゃ、櫻。僕達も本気で行かないと……ってその機体ふざけてるの?』

 

「真面目も真面目、大真面目よ。武装も装甲も取っ払ってスペックだけなら白式以上だよ?」

 

『それでもほとんど生身に翼が生えてるようなもんだろ? 防御力なんて無いに等しいんじゃないか?』

 

『ま、まぁ。櫻さんのことですから、なにか作戦があるのでしょうね』

 

「もちこーす。それは当日のお楽しみ」

 

『お前ら、おしゃべりもそこら辺にしておけ。カウント、始めるぞ』

 

織斑先生の声で気を引き締めなおし、視界の片隅のカウントを見守る

だんだん減る数字。1……0!

 

ドン! と衝撃音とともにスタートを切った4機はまっすぐ塔の中に飛び込んでいく

 

 

『そういえば、コレは実践形式でいいのかな?』

 

『どうでしょう? 単純に機動練習ならば攻撃は出来ませんわね』

 

『まぁ、俺は攻撃手段が1つしかねぇからあんまり関係無いな』

 

「一夏くんもなかなか尖ったセッティングにしたねぇ」

 

『そんなにドンパチがしたいなら、次のカーブを曲がってから交戦を許可する。それまでお預けだ』

 

織斑先生のありがたいお言葉にセシリアの目が輝いた(ような気がした)

 

 

『これでより実戦に近い訓練が出来ますわ! 見ていてくださいね。私の華麗なるチャールダーシュを!』

 

「それって遅いところもあるよね……」

 

『突っ込んだら負けなんだよ。きっと』

 

先頭を突っ走るセシリアを一夏とシャルロットが並んで追いかけ、少し遅れて櫻が続く。

火蓋が切られるカーブまで3秒、2、1。Engage!

 

真っ先に火を放ったのはシャルロット、セシリアに向けてアサルトライフルをばらまく。

次に一夏は隣のシャルロットを蹴落とそうと横薙ぎの一閃

 

――そのままごちゃごちゃになって自滅しろ~!

 

櫻は漁夫の利狙いだ

 

 

『っく! なかなか面倒な真似をしてくれますわ!』

 

『勝負なら負けたくないのが男の性でね!』

 

『でも、単調な攻撃は避けられるだけじゃないよっ!』

 

雪片を振りぬいた一夏にシャルロットが数発見舞うとバランスを崩して壁に突っ込んでいった。櫻はそれを難なく避けて3位へ。一夏は脱落と見ていいだろう

 

 

『ってぇ……。こりゃ追いつけねぇな』

 

「チャンネル396で私の直視映像(ダイレクトビュー)が見れるから、それを見てなよ」

 

『悪ぃな、助かる』

 

前でビームやら実弾やらが飛び交い、時々流れてくるのをよけつつ、櫻は淡々とチャンスを見計らう。

自身の武器は両手のマシンガン(MOTORCOBRA)のみ。決定打を与えるには足りないが、隙を作るには十分だ。

 

 

『なかなかやりますわね、シャルロットさん!』

 

『セシリアこそ、嫌なところに撃ってくるね!』

 

「ナガレダマコワイナー」

 

『『 櫻さん! 少しは真面目にやってよ(くださいまし)!』』

 

ガチで撃ち合いを始めた2人に追いついている時点で結構真面目なのだが、本人たちは不服らしい。

紙装甲であの中に突貫するのは愚者の所業だとわかりきっている以上は2人同時に動きを止めなければならない

 

――しゃーないね。なら、ちょっと動きますか

 

視点操作でブルーティアーズとアンビエントをロックオン。これで2人は櫻から攻撃を受ける可能性を考えねばならなくなる

同時に少しばら撒く。もちろん2人同時に回避機動を取ってから後方に牽制射を放つ

 

 

『やっとエンジンが掛かったみたいだね』

 

「こちとら紙っぺらなもんで、撃ち合いのどまんなかに突っ込むのは無理そうなので」

 

『だからって後ろでコソコソ動くのもフェアじゃありませんわ』

 

「んじゃ、仕方ないね」

 

マガジンの中身を撃ち切るとリロードして、視線操作で一つのボタンを押す。

そこには「Overd Boost」の文字。

 

そう、ソブレロに取り付けられたブースターは4機だけじゃない。

青白い光を収縮させながらカーブに差し掛かるとまた2人に鉛弾の雨を見舞う

 

 

『ああっ! ちまちまと!』

 

シールドエネルギーは大した値が削られないが、機体がブレるマシンガンでの攻撃。

2人からの攻撃を紙一重で躱すと、ストレートで勝負に出た

 

 

「っけぇ! オーバードブースト!」

 

黒い機体に正反対の青白い翼が生まれ、ハイパーセンサーでも視界がブレるレベルの超加速。

スピードは瞬間的にマッハ4を超える

 

『なっ!?』

 

『なんですのっ!?』

 

一瞬で駆け抜けた閃光に驚く2人。櫻はすでに視界から消えている。

カーブ一つ一つでサイドブースターを噴かして無理やり曲げ、直線で再びOB、とんでもない勢いでエネルギーが減っていくが、1週だけなら問題なく回れる

 

 

そして、2人をぶっちぎり、過去最高タイムでゴールラインを切った

 

数十秒遅れてセシリア、シャルロットと続く。2人は戦意喪失といった様子でゴールするとすぐにISを量子化しへたり込んだ

 

 

「なにあれ、チートだよ……」

 

「私には漆黒の天使が見えましたわ……」

 

「真面目にやれ、って言ったのは2人だよ?」

 

「ですが、あんな変態的なアイテムがあるなんて聞いてませんわ!」

 

「君らが過去の遺産だって言って切り捨てたオーバードブースト。それをちょちょっといじってIS向けに転向しただけさ。なんの問題もないね」

 

「その発想はなかったなぁ。今度お母さんにお願いしてみようかな」

 

「エネルギーバカ食いするからおすすめはしないけどね。半周OB使っただけでガス欠寸前だし」

 

「なんてピーキーな代物ですの……」

 

そこにやってきたのは一夏。どこか顔色が良くないように見える

 

 

「お、おつかれさん」

 

「一夏さん、顔色がよろしくありませんが、先ほどのクラッシュで?」

 

「いや、櫻の視点で見てたら、な……」

 

当人はてへぺろっ☆と舌を出してウインクした

 

 

「これで予習もバッチリ! あとは練習あるのみだよ!」

 

「あんなのなんの参考にもならんわ!」

 

一夏がツッコミを入れるほどにその映像は強烈だった。景色が流れるなんてレベルではなく、何を見ているのかがわからない。距離感もつかめず、速度感が希薄になる。

コレを櫻が操れるのは単に、距離センサーとコーストレーサーを用意して次を予測していたからだが、それでも一瞬で迫るカーブに対応する反射神経も並大抵のものではない。

 

 

「天草さん! コースレコードですよ! すごいですね!」

 

声をかけてきたのは山田先生。ISスーツだとやっぱり胸が……

 

 

「あれでも"本気"ではありませんからね。キャノンボールファスト当日が楽しみです」

 

「あ、あはは、そ、そうですか……。気をつけてくださいね。幾ら絶対保護があるとはいえ、あの速度で突っ込んだら一大事ですから」

 

「当日はもう少し使いドコロを選ぶので」

 

もちろんです。エネルギー分配を考えるのも仕事の内ですから。と言い残して山田先生は訓練機組を見に行った

 

 

「さ、櫻……」

 

シャルロットは先程の櫻視点を見たようだ

 

 

「なにあれ。気持ち悪い……」

 

「慣れだよ、慣れ」

 

ネクストシミュレーターでの経験がこんなところで役に立つとは、櫻も思っていなかった。

 

 

 

次の篠ノ之、ボーデヴィッヒ、鈴音の3人はラウラがほかを撃墜して終わらせ、鈴が悔しそうな顔でラウラを見ていたのが印象的だった。

箒は未だに機体に乗られている感があるが、少しずつリミッターは外れているようだ。速度だけなら専用機の平均レベルに達している

 

 

その後は簪の機体を調整したり、整備科で先生をしたりとまた忙しい日々を過ごし、キャノンボールファストまでの時間はどんどん減っていった


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