Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
休日の駅前はやはり人が多い。
そんな雑踏の中で櫻と本音は簪を待っていた。
「簪ちゃん遅いねぇ」
「かんちゃんに限って寝坊は無いだろうし~。どうしたんだろ~?」
辺りをキョロキョロと見回すと見慣れたシルエットを見つけた。それも、男数人に絡まれているようだ。本音に「面白そうなものみっけ」と告げてそっと近づく
「ねぇ、いいじゃん。俺らと一緒に遊ぼうぜ。そこに駐めてる車、俺のだしさ。イタ車。かっこいいよ? ね、行こうぜ」
イタリア、という言葉にカチンと来たらしく、すこし引きつり気味の笑顔で「へぇ、あのスピード狂の何処がいいんでしょうね? 見栄っ張りにはぴったりじゃないですか?」とガッツリ皮肉った。
「でゅっちーが恐いよ……」
「やっぱフランスとイタリアって仲悪いんだね……」
その後も(邪悪な)笑顔を振りまいていた所、何かを勘違いしたらしく、男が「いいじゃん、な」と言って腕をつかむ。
するとそのまま一回転。男の腕を捻り上げた。
「おぉ、さすがロッテ。やることがえげつない」
「ちょっとおまわりさん呼んでくるよ~」
「だね、お願い」
相方のピンチに飛び出すチャラ男。さすがに腕を固定した姿勢からもう一人は辛いと判断し、櫻が飛び出しスマートフォンを手にぶつかる
「So,sorry. Are you okay?」
あくまでも自然を装ってよろけた男を相方から引き離すと「ちょっと良いかね?」と渋い声が聞こえた。
もちろん声の主は制服に身を包んだ警官が2人。男たちの抵抗が止む
「先程、女性に対する迷惑行為があったって通報を受けてね。ちょっと交番まで来てくれるかい?」
一人が「大丈夫? 怪我はないかい?」とシャルロットに声を掛け、もう一人が男たちを連れて行く
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
「いや、仕事だからね。最近の女の子は強いんだな。でも、自衛もやり過ぎないようにね」
「はい。気をつけます」
そうしてもう一人の方、ぶつかったのは外国の女性だろうが彼女はどうしたのかと辺りを見回すと、この雑踏でも目立つ長身とプラチナの髪が見えた。ふふっ、と小さく笑って「また助けられたね」と一つ呟くとシャルロットはちょうど来た待ち人に声をかけた
「遅いよ、ラウラ!」
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「いやぁ、我ながらいい仕事したっ!」
「観光に来た外人さんなかんじかな?」
「そそ、スマホみてれば違和感ないしね。それにちょっと気合入れてタックルした」
「うわぁ、さらっとやることが酷いね~」
「お友達のピンチに颯爽と現れる、ヒーローの鉄板だね!」
「でも気づかれてないよ?」
「ま、そんな影のヒーローもかっこいいんだよ」
すると櫻の携帯が震えた
「お、簪ちゃんからだ。駅なう、だって」
「やっとか~。とりあえずそこのカフェでお茶しながら待とうよ~」
「だね。ここも久しぶりかな」
年度の初め、簪と本音と初めて駅前に来た時に朝食を取ったカフェに陣取り、また櫻はコーヒーを、本音はオレンジジュースを飲みながら簪の到着を待った
さすがに駅にいただけあって数分で簪は到着。軽く息が上がる簪にアイスティーを出すと遅刻の理由を尋ねた
「簪ちゃんが遅れて来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「いや、朝から、アニメが溜まってて。はぁ」
「あいかわらずだね~かんちゃんも」
「それで、今日はPCパーツを求めて、だよね」
「うん、この際新規にタワーを組む。今までのだとスペック不足だったから」
「簪ちゃんはゲームでもするの?」
「そうだよ。ボーナスも入ったし、グラボ2枚積みとかやってみたかった」
「ゲーミングPCってヤツ?」
「そう。騒音も消費電力も重量もヘビー級」
「ガチだね……」
「櫻さんは?」
「私も新規で組み直しだよ。マザボが逝っちゃったみたいでさ」
「さくさくもゲームするの?」
「う~ん。タブレットとかでパズルしたりはするけど、オンラインゲームはあんまりやらないかな。時間もないし」
「櫻さんはISの設計だとかシミュレーターを動かすからそれこそゲーミングPC顔負けのグラフィックスが求められるはずだけど」
「そだよ。だから液冷のヤツを5年位前から使ってたけど、ついに寿命らしいね」
「さくさくが使いすぎ……、なんでもないよ~」
「まぁ、それもあるかな」
3人はそれぞれドリンクを飲み干すと席を立った
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「うぅむ、この際だから私も簪ちゃんと同じようなガチスペックで組むか……」
ガラスケースに並ぶパーツ類を前に腕を組み悩む櫻。簪は予め買うものを決めていたようで、サクサクとカゴに突っ込んでいた。
ウロウロする櫻に思わず声を掛ける
「構成で迷ってるの?」
「そうなんだよ~。CPUは別にそこそこでいいんだけど、そうすると最大メモリ数が足りないし、かと言っていいものは発熱も多いから冷却系で箱が大きくなるんだよねぇ」
「どれだけのメモリを積みたいの?」
「最低32。いま16だけど、これからもっと食うようになるからさ」
「16を2枚だね。それで、シミュレーターとかを動かすならGPUもそこそこのスペックが必要でしょ、サウンドはどうでもいいから――」
結局簪がその場で構成を考え、グラフィックスだけはハイスペック、それ以外を切り捨てたまさに設計専用のPCを編み出した
2人が、超ハイスペックなサーバーを1台組んで、それを共用すればいいとひらめくのはもう少し後の話。
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両手に大量の荷物を持った2人を他所に、本音は軽い足取りで「デラックスパフェが待っている~」などと歌っている
「本音、ちょっと。まずはお昼」
「えぇ、あそこでまとめて取っちゃおうよ」
「この際面倒だから本音の言う通りにあの店で昼食も取ろう。そのほうが楽だから」
「あそこってスイーツ系ばっかりで色々と……」
「仕方ないよ。諦めて」
そうして本音に連れられて入ったのは高級スイーツ店。パンケーキが1200円もする驚きのお店だ。
だが、値段に見合った美味しさで、客は絶えない
「じゃ、ここはさくさくのおごりで~」
「はいはい、わかっとりますよ」
櫻はバニラアイスの乗ったハニートースト。簪はパンケーキのジェラート添え。そして、本音はデラックスパフェを頼んだ。
デラックスパフェ、それは名前の通り、デラックスなパフェ。
イギリスから取り寄せたジャムを底に敷き、北海道産の牛乳を使ったソフトクリームとコーンフレークを3層に重ね、てっぺんには最高級の果実をふんだんに盛りつけたこの店の誇る最高のパフェだ。おねだんも驚きの4200円。かなりの量があるので、普通は数人で1つ頼んで割り勘するものだが、本音はコレを一人でぺろりだ。
さすがの簪も若干引いていたが、幸せそうな笑顔でアイスを頬張る本音に何処かほっこりしてしまった。
隣の櫻も同様で、本音の方をみてだらしない笑顔を浮かべている
胃も心も満足した3人は来るキャノンボールファストへ向けて気持ちを切り替える。
残された時間は2週間。それまでに機体のセットアップを済ませてエントリーを済ませなければならない。
櫻は簪の機体と自身の機体、両方を見つつ、専用機を持たない生徒達の面倒も見なければならないのだから大忙しだ。
各国の視察はもちろん、企業からもヘッドハンティングに来る。櫻もその目的を持ち合わせているが、本文は参加者として企業連の名に恥じぬ成績を残すこと。そして、ついでに2年や3年から素質のある子をピックアップだ。
「はぁ……」
「さくさく、どうかしたの?」
「いやぁ、やることが多いなぁ、ってね」
「大変だったら、私の機体は本音に任せてもいいんだよ?」
「もともとそうするつもりだけど、ファイナルは私も見なきゃ駄目でしょ? ウチのパーツだし、責任者としてさ」
「まぁ、それもそうだけど。無理はしないでね?」
「無理しないと仕事が片付かないんだよぉ~」
色々と忙しい社長殿は、また千冬が飲みに誘ってくれることを何処か期待しながら、甘いアイスを口に含んだ