Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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橙色の襲撃者

更衣室にて白式が緊急起動され、楯無が真っ先に現場に向かった。櫻は周辺警戒を、クロエは空中警戒を行っていた。

もちろんこの情報は教職員はもちろん、櫻を通じて紫苑と束の元にも届いている。

 

 

「楯無先輩、状況の報告を」

 

『敵は1、アメリカから盗られたアラクネで間違いないわ。8本足で気持ち悪いわね。操縦者の腕もかなりのものよ』

 

「とりあえず教員のIS部隊が待機していますが、おそらく歯がたたないでしょうね。いざとなれば私が突っ込むのでおねがいしますね」

 

『それはありえないってのっ!』

 

楯無の声が少し力んだ、おそらく交戦に入った。レーダーも2つの点がせわしなく動いていることを示している

 

おかしい、白式が起動しているのに動かない。それに"生体反応とコアの位置がずれている"どういうことか。ISを量子化せずに放置したわけでもあるまいし、恐らくは白式も盗まれかけているとかんがえることが妥当だろう。

 

――剥離剤(リムーバー)か、面妖なものを……

 

 

「先輩、相手はリムーバーを持っている可能性があります!」

 

『ええ、一夏君が白式に乗ってなかったから! っく!』

 

「大丈夫ですか?」

 

『ええ。今から決めるわ』

 

そして始まる 霧纏の淑女ミステリアス・レイディのステージが。急激な不快指数の上昇とともに

わざとオープンチャンネルで発せられる甘ったるい声で、

 

 

『ねぇ、この部屋暑くない?』

 

『櫻さま、敵機を補足しました。距離3万。コアナンバーからサイレントゼフィルスで間違いありません』

 

「了解。そのまま待機、動きがアレば随時報告」

 

『了解』

 

『不快指数ってね、湿度と温度に依存するの。ねぇ、"この部屋蒸し暑くない?"』

 

――あぁ、決まった。

 

ミステリアスレイディの誇る高火力技。閉所だからこそ威力も倍増しているであろう 清き熱情クリアパッション。豪快な爆発音とともに『一夏君、今っ!』と聞こえた。レーダーでも白式がアラクネと交差したのが見て取れる。

 

だが、次に聞こえたのはまた爆発音。それも、火薬の類の

 

 

「敵上空に離脱、クロエ! 捕縛!」

 

『とっくに! サイレントゼフィルス、距離詰めてきます、残り1.5!』

 

近距離戦闘パッケージ『LAHIRE』を身にまとう今、正確な狙撃は不可能。だから、今最善の選択を

 

 

「クロエ! カノーニア展開! 女をこっちに!」

 

『投げます!』

 

さらっとえげつないことを言うが櫻のノブレスオブリージュとクロエの黒鍵が交差する瞬間、オータムの身は宙を舞った。どうやら意識は刈り取られて居るようだ

 

直後、光が砲身を形作り、両肩に荷電粒子砲自由への咆哮(ゲプルール・デ・フライハイト)を呼び出し放つ。

 

 

『命中せず。ですが時間稼ぎは出来たようです』

 

「ええ。そのまま砲撃を継続。専用機持ちが上がってくるよ!」

 

『Ja!』

 

『櫻ちゃん、無事?』

 

「もちろん。ですがお客さんがもう一人居るようです。こちらから牽制をかけて時間は稼ぎましたので手下その1を餌に海上へ惹きつけます」

 

『わかったわ。情報を得られないのは困るけど、学園への被害も出される方が悲惨だから』

 

オータムの持っていたコアをそっと抜き取り、代わりにその辺の石ころを突っ込んで一度アリーナの裏の藪にコアをぶん投げる。

そして束にその場所をプライベートで送信。

櫻はオータムを抱えたまま海上へ離脱する

 

 

「お姉ちゃん。その場所にコアを一つ落としたから回収をお願い」

 

『あいよ~。コレでコアを新造する手間がちょっと省けたね』

 

「あぁ……でも、そのコアはお友達にプレゼントしようかなぁって」

 

『う~。誰にあげるつもり?』

 

「本音に……ね」

 

『あぁ、のほほんちゃんかぁ! なら大賛成だよ!』

 

「じゃ、回収はしっかりね。くれぐれも千冬さんにはバレないように」

 

『わーってるよ。じゃ、さくちんも、死なないでね』

 

「うん、行ってくる」

 

櫻はノブレスオブリージュにパッケージを換装すると天使砲を真正面に向けた

そして、光の渦が放たれ、遠く先で砕けた

 

お返しとばかりに放たれる閃光。それをひらりと避けるとオープンチャンネルで言い放つ

 

 

「あらあら、そんなにぶっ放しちゃうとそちらのお友達はバラバラになっちゃうよ?」

 

『…………』

 

「だんまりですか。このおばさんは返してあげるからさっさと帰ってくれないかなぁ」

 

『私は、与えられた任務をこなすまで。迎えに来たぞ、オータム』

 

「残念ながらお友達は夢の中なのよねぇ。そっちにぶん投げたら怒る?」

 

『構わん。私はそいつを連れて帰るだけだからな』

 

「じゃ、行くよ。取ってこ~い!」

 

体がバラバラにならない程度に加減をしてオータムを放り投げると天使砲でサイレントゼフィルスをロック、そして放った。さらに後ろからは赤い閃光。

 

 

『なっ!?』

 

「これがシールドビットねぇ。めんどくせぇ装備をつくってくれたなぁ。セシリア、ラウラ、私の指揮下に、クロエは空間統制を」

 

『『わかった(りましたわ)』』

 

『Ja』

 

そして始まる1対4の蹂躙戦。それも相手は手負いの見方を担いでの戦闘。そろそろ気づいても遅くはないができるだけ削っておきたいところだ

 

ラウラがレールガンを放てば櫻がレーザーキャノンで退路を塞ぐ、そしてセシリアが隙間を縫うような狙撃で確実に相手のシールドエネルギーを削っている。幾らシールドビットがあるとはいえ、同時に多方向から攻撃を受ければ防ぎきれない

 

 

『雑兵共が、小癪な真似をッ!』

 

6機のビットがサイレントゼフィルスの周りを周回、そしてレーザーを放つ。

だが、直線的な攻撃をよけきれないほど彼女らは下手ではない。

 

 

『この程度なら私でもッ! ああぁっ!』

 

『セシリア、どうした!?』

 

「フレキシブル。BTの最大稼働率でしか出来ない変態テクニック。どうしてあんたが、なんて聞かないよ。さっさと叩き潰す!」

 

『私には貴様らと遊んでいる時間などない』

 

そうして形勢が逆転しつつある。相手がフレキシブル使いとなれば何処から攻撃されるかわかったものではない。

 

櫻やラウラも弾幕を形成し、足を止めるが、後ろからレーザーで削られる

 

 

『被害レベル上昇につき、撤退を提言します』

 

『だがっ、相手はまだ!』

 

「そうだね。惜しいけど下がろう。帰れば、また来れるから」

 

『っく。上官の命令には逆らえん。ボーデヴィッヒ、戦線離脱を宣言。損害報告は省略する』

 

『セシリア・オルコット、戦線を離脱。損害は背部ブースターとビットが2機ですわ」

 

「2人はそのままアリーナへ。私達も少ししてから戻るから」

 

『了解』

 

「クロエ、もうちょっとお遊びをしてから行くよ。高速戦闘用意!」

 

白と黒が並び、ブースターが輝くとそのまま弧を描きつつサイレントゼフィルスの周りを飛び回る

 

弧を描く赤、直線的な橙、目に見えぬ青。上空で繰り広げられる戦闘に楯無は焦りを隠さずにはいられなかった。

 

――あんなレベルの高い操縦者との戦いを自分のペースに持ち込むなんて…… 国家代表なんて目じゃないわよ、あの娘!

 

 

実際に、適当に撹乱しつつ、学園との距離を確実に離していた。そして頃合いとばかりに隙の大きな有澤グレネードをぶっぱなして櫻とクロエは尻尾を巻いて逃げた。追ってこないのがわかってるとは言え、敵を目の前に背を向けて全力で逃げるのはなかなか悔しい物だった

 

 

校舎の裏に降り立ち、ISを解除してからアリーナに入った2人は楯無から現状報告を受け、学園に更衣室以外の損害がなく、けが人も騒ぎでの軽傷者こそいたものの、戦闘による被害者が出なかった事を聞いた。

 

もちろん、織斑先生からの説教こそ待っていたものの、最後には被害を最小限に抑えたことを褒められたから良しとしたい。

 

 

 

 

一夏? 彼なら立派な民意により、生徒会の所属となり、各部活動に輪k……回されることになった。その時の絶望的な表情は見ものだったと楯無と櫻は語る。

 

 

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「さくちん、今回も派手にやらかしたね~」

 

「しかたないじゃん、第3世代のフレキシブル使い相手にこんなポンコツでさぁ」

 

「さくちんが夢見草で本気出したら第3世代機10機相手にしてもワンパン余裕だから駄目だよ。それこそチートだもん。それに、クーちゃんの黒鍵もね。ワールドパージなんて使ったら世界を敵に回しても余裕の勝利だよ」

 

「んにしても、あのサイレントゼフィルスの操縦者、どこかで聞いたことのある声なんだよねぇ」

 

「そう? あとで音声解析してみようか?」

 

「うん、お願い。それで、コアは?」

 

「ちゃんと拾っておいたよ。元はアメリカに配分されたものだねぇ。ま、リセットしたら解んなくなっちゃうけど」

 

「本音へのプレゼントはISであってISじゃないものにしよう。ISのためのISを、ね」

 

「彼女整備科志望って言ってたもんね~。それに結構センスあるし、いいかもね。じゃ、気合入れて作りますか!」

 

「私がやる!」

 

「いや、いくらさくちんの頼みでものほほんちゃんのは束さんが本気出しちゃうもん!」

 

「ねぇねぇ、呼んだ~?」

 

「「ふぇっ!?」」

 

2人きりになれる場所を選んだはずが、気がつけば真後ろに本音。

本当に神出鬼没だ

 

 

「なんの話してたの~?」

 

「ウチの会社でコアが余ったから本音に専用機でも~って」

 

「えっ!? 本当!?」

 

「うん。まぁ、楯無先輩や虚先輩の許可が下りれば、ね。正式に本音には私のところに来てもらうよ」

 

「(よく抜け抜けと嘘がつけるね)」

 

「(いずれにせよ、このコアは何処のものでもない。だから"私達"のものだよ)」

 

「(うわぁ、せっこいねぇ)」

 

「じゃ、じゃぁ! 今すぐお姉ちゃんのところに行ってくる!」

 

「本音そんなに走ったら転ぶよ……って言わんこっちゃない……」

 

目の前で盛大に靴紐を踏んで転んだ本音を起こすと

 

 

「本音、先に行っておくけど、本音の所属先は企業連じゃない。私だよ?」

 

「え? どういうこと?」

 

「言葉通り。オーメルでも、ローゼンタールでも、GAでもなく、本音は私のものになる。私達と一緒にISの正しい姿を取り戻すんだ」

 

「そっか……」

 

「嫌なら嫌だと言ってくれていい。選ぶのは、本音だから」

 

「ちょっと考えるよ。専用機って言われて舞い上がっちゃったみたいだから」

 

「そうして。じっくり考えて。"私"に従く事のメリットとデメリットを」

 

「うん、邪魔してごめんね。さくさく、束さん」

 

「いいのいいの! のほほんちゃんだからね。良い返事を待ってるよ」

 

「それはわかんないかな~。でもまた一緒に遊ぼうね!」

 

「うん!」

 

これだけ見ると子どもの約束だが、まるで重みが違う。櫻に従く、それが意味することとは……

 

 

「で、お姉ちゃん。いまどのくらいまで進んでる?」

 

「そうだなぁ、フェイズ1は8割。今月中には終わるよ。そしたら拠点を向こうに移そう」

 

「だね。本当はみんなで行きたかったなぁ」

 

「仕方ないよ。私達には味方なんて居ない。もしかしたら千冬さんすら敵に回るかも。その時は3人で。ね」

 

「ママさんはやっぱりわかってくれなかったか」

 

「やり過ぎだって。だからムッティも置いて行こう。私達は5年掛けた、それでやっと1歩目が踏み出されようとしてる。長くなりそうだね」

 

「だね。そのための揺りかごだ。やっと無限の成層圏(Infinite:Stratos)に手を掛けたね」


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