貧乏くじの引き方【本編完結、外伝連載中】   作:秋月紘

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その他
端書『艦娘(かんむす)及び深海棲艦(しんかいせいかん)の調査資料及び噂。』


「艦娘及び深海棲艦」に関しての調査資料。

 

 以下の資料は、筆者が独自に集収した、生体兵器「艦娘」についてのものである。

一般に公開されている資料も少なく、伝聞や噂、匿名の情報によって構成される部分も存在するため、話半分、として目を通していただきたい。

 

 しかし、我々が深海棲艦という脅威にさらされていることは紛れもない事実であり、それの対抗策として「艦娘」と呼ばれる何かが存在することも、また紛れも無い事実といえるだろう。情報が入り次第、適宜更新していくとしよう。

 

 

 

「艦娘」について。

 

艦娘とは:ある時期を境に、日本を始めとした各国近海に出現した正体不明の勢力(同国では「深海棲艦」と呼称されている為、以下「深海棲艦」として統一)、それに対抗するために生まれた生体兵器を「艦娘」と呼ぶ。

出自その他は民間に公開されておらず、第一号艦娘「三笠」が何故生まれたのか、何故「三笠」だったのか等は一切不明である。

 また、今現在でも海軍省及び陸軍省は艦娘の成り手を公募しており、志願者は少なくないとされている。

 

名称:彼女らは大日本帝国海軍所属の艦艇を称し、その装備(以下「艤装」と表記)の元となったとされる艦艇の名前、記憶を語るが、過去数百年(国名を日本と改めたのは早くとも三百年程前と考えられている)の資料を確認した所、帝国海軍と名乗っていた時期の艦艇に艦種と艦名、経歴が全て一致する艦艇は存在せず、その出自が疑われている。

 ただ、彼女らの言う「艦の記憶」を原因としているのかは不明だが、戦死者に特定の艤装を持つ艦娘が偏る、特定の艦娘の負傷率が高いといった事例が報告されているらしく、記録として存在していない艦が居るのではないかといった説から、異世界の船の記憶ではないかといった言説も一部では存在する。

 

艤装:彼女らはそれぞれ、軍艦の武装や艦体を模した装甲などを装備し、生身で戦場へと赴く。出現した当初はプロパガンダの一種であろうとの論が多数を占めていたが、実戦投入が明言された時期を機に制海権が回復しつつある為、少なくとも深海棲艦への対抗策そのものは見つかったのであろうと言われている。

 

 筆者個人としては「艦娘」という非人道的な兵器が利用されているとは考えたくないが、ひょっとしたら、という一念は捨てることができていない。

 

 

 

※※※以下、極秘資料により持ち出し厳禁※※※

 

カテゴリ:艦娘にはその製造過程により幾つかの区分がなされているらしい。以下にその概要を示す。

 

【オリジナル】「もともと」艦娘であった者を指す。報告によると戦闘海域で意識を失い漂流している個体に遭遇することがある、とされている。匿名の情報によれば、「深海棲艦の亡骸、心臓部に当たるコアを建造資材とし、そこから建造する」「深海棲艦を殺傷し、その身体から引き摺り出す」といった話もあるのだが、甚だ信憑性に欠けるため、突飛な噂程度としてとどめておく。

 

【クローン】呼称通り、オリジナルと呼ばれる艦娘の細胞を元にクローン培養された者を指す。どういう訳か、一号艦娘「三笠」の登場前後よりクローン技術の急速な発展が起こり、それによる艦娘の複製、陸路での各戦線への輸送が可能となった。自身がクローンであることを認識しているらしく、オリジナルの複製直前までの記憶を保持している。

 また、クローンとオリジナルの艦娘が接近すると共鳴が起こると言われているが、今のところハッキリとした報告は受けておらず、それによりどういった現象が引き起こされるのかは不明である。噂では後述のシグ、オリジナル等と通信障害等を一切無視した意志の疎通が可能とも言われている。

 

【シグ(Cyg)】人間が適性検査を受け、調整を行われた結果艦娘となった者を指す。上記の公募と関係があると思われる。

 調整の際には艤装の仮装着、記憶の植え付けといった工程を経て、それに適応した者のみが艤装を扱うことが出来る。「艦娘である間」、彼女らは一部の自我を残して「艦艇」そのものであるため、自他を艦名で呼ぶ。艦娘、という名前の指す通り、男性は艤装の装着そのものが不可能とされ、仮に装備した所で神経接続が出来ず、重石同然となるとの調査結果もある。

 また、解体によって戦闘能力を失った者は監視の元で一般人に戻ると言われ、調整に失敗した者も、監視下に置かれはするものの民間に帰属する事が可能とされている。

 事実、我々は適正がなかったとされた者への接触にも成功している。

 

※呼称に関して。初期はサイボーグとされていたが、一部団体の大きな反発によりひと目でそれと分かりにくいように、更に省略したものとなっている。

また、この呼称の変化の裏には調整失敗に依る事故があったという噂もあるが、それらしい記録も存在せず、聞き取りでの成果もないため、此方の噂は信憑性に欠ける。

 

 

 

「艤装」について。

 

艤装:艦娘が身に纏う、艦艇の兵装や装甲を模した構造体。身体側に装着する「アダプター」に基部を接続し、神経接続及び脳波によって制御を行う。艦艇そのものの積載可能重量が基本的な閾値となっているが、艦種次第では閾値を超える兵装を装備することも可能と言われている。

搭載武装そのものは人類の技術でも複製可能なものであり、人間でもメンテナンスを行うことは可能である。

 逆に基部はブラックボックスとなっている部分も多く、特に艦艇の記憶に関係する領域は人間には手が出せない為、艤装そのものの総数はオリジナルの回収、または建造でなければ増やすことが出来ない。そのため、クローン技術の発展にも関わらず、艦娘の数は右肩上がりといかないのが現状であるらしい。

 実験として、記憶を司っていると思しき領域をカットし、戦闘能力だけを備えた艤装の開発も行っていたが、そのどれもが起動する事すら出来ず、計画は打ち切られている。

 

 

 

「深海棲艦」について。

 

深海棲艦:我ら人類の敵という事以外、現在のところ全く不明である。民間よりの再三の情報公開要求にもかかわらず、公開されたのは艦娘が撮影した(とされる)姿と、旧来の兵器が通用しない、ということのみである。その姿は多岐に渡り、ヒトとの差異がほとんど見受けられないものもあれば、不気味な化物としか形容出来ないものもある。

 上で兵器が通用しない、と形容したが厳密には誤りであり、実際の所は「当たれば殺せる」ということらしい。というのも、当の深海棲艦が非常に小型であることから既存の艦の兵装では接近時に射界に入れられないという事と、速度が現存の艦艇同様数十ノットを軽く超えるため、兵装の射界に入る距離ではとてもじゃないが直撃させられない、という事である。

そのほぼ全ては、「コア」と呼ばれる心臓部の破壊により殺害する事が出来、障壁を撃ちぬく為に、艦隊戦の際は徹甲弾を用いることが多い。

 そして、奴らの攻撃手段に関しても幾らか情報は入っており、基本的には艦艇と同じように砲撃、雷撃等を行うそうだ。ただ、近接戦闘能力も有しているらしく、小型の深海棲艦に艦体を食い千切られそうになったという報告も掴んでいる。証言によれば攻撃の直前、一瞬で巨大化したという。

今のところ大きな個体にしても、本体部分は人間より一回り大きい程度、と聞いているため、艦船を食い千切ることが出来るほど大型化する、と言われても怪しいものだと言わざるを得ない。

 

 

 

【追記】「船酔い」について

 

 艦娘やそれと共に戦場に立つ者の間で流れる噂に「船酔い」というものがあると聞いた。どうやら、艤装の元である艦艇の記憶に精神を蝕まれることを指し、軽症時は頭痛や不快感、吐き気等に苛まれる事からそう呼ばれるという。

 また、重症化する事を溺れると形容し、最悪の場合、多くは記憶を辿る形で命を落とすとの噂もある。前述の「戦死者が特定の艤装適合者に偏る」という噂と、なにか関係があるのかもしれない。

 

 

 

 以上が、これまでの調査によって得た情報の全てである。この正誤が明らかになるとすれば、それは筆者自身が軍の監視下に置かれるようになった時か、もしくはこの化物との戦いが終わった後のことだろう。それまでは、このまま噂は噂として遊ばせておこうではないか。


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