「らっしゃいらっしゃい!!ただ今限定商品があと1品!!100ゴールドでどうだい!?」
「そこのお客さん!ただ今皮の鎧お安くなっておりますよ!なんと、30ゴールド引きで200ゴールド!!さあ、買わないと損するよーー!!」
「今年のバザーにはレイドック王が来なかったのお…なにかあったんじゃろうか…?」
「わあ…これじゃ、完全におのぼりさんだ…」
エネルギーあふれるバザーにレックは度肝を抜く。
マルシェ、ライフコッドのふもとにある商業都市。
年に1度のバザーには世界各地から人々と商品が集まり、活気に満ち溢れる都市なのだ。
この都市を治めるレイドック王国にとっても、多大な経済効果を上げるこのバザーに注目しており、商人招致運動に補助金を与えるほどだ。
「気をつけろよ、兄貴。田舎者の俺たちはあいつらにとって格好のカモだからな。あと限定商品を100ゴールドで売るやつ見たか?去年、あいつにお鍋の蓋を100ゴールドで買わされたんだ」
ランドの言うとおり、活気であふれる反面こうして客をカモる商人も存在する。
値段設定がかなり適当なのだ。
カモられるほうが間抜けという認識が強いこの町であるため、更に性質が悪い。
「そこのお兄さんたち、ライフコッドの者ですかーーーー!!?」
「うわあ!!」
とんでもない大声にびっくりしながら、レックはその方向に目を向ける。
西側に白いテントの屋台を設置している荒くれ者が声の主のようだ。
「よお、ドガのおっさんじゃないか!」
「ランド!1年ぶりだな!!」
「知ってるのか?」
「当然だろ?去年、あのおっさんに民芸品を買ってもらったんだ。それと…」
ランドはそう言いながら、東側の青いテントに指をさす。
そこにはドガそっくりの荒くれ者が商売をしていた。
「あの人は…?」
「ボガのおっさんだよ。ドガのおっさんの弟。毎年売上を競い合ってるんだ」
「お前さん、ランドのダチか!?おたくの村の民芸品、品質がいいからよぉ、高く買い取るぜ!あのボガの店よりも!!」
「いーや、お客さん!ウチは兄さんの店よりも高く高く買い取りますよー!」
「レック…始まるぜ…」
「…何だかそんな気がしてきた…」
ドガとボガの両者が火花を散らしあう。
バトル開始!!
「300!!」
「330!」
「360!!」
「390!」
「420!!」
「450!」
「480!!」
「うぐ…」
ボガが黙り込む。
どうやら、480ゴールド以上出せないようだ。
「決まりだな。じゃあ、ドガのおっさんに売ろうぜ」
「すごい…300ゴールドから480ゴールドに値上がりした…」
これでいいのかと思うが、480もあれば冠を買ってもかなりお釣りが出る。
そのお釣りでいろいろ購入すれば村のみんなが喜ぶ。
そういう考えで自分を納得させ、レックはドガに民芸品を売却した。
「よし、じゃあ次は武器屋へ行こうぜ。銅の剣を買わねえと」
「あ…ああ…」
ドガが喜び、ボガが落ち込んだのもつかの間、旅人が来ると今度は自分たちの店の商品のセールス合戦を開始した。
都会というものを実感したレックはランドについていく。
「なあ…本当に良かったのか…?」
「何度も言わせるなよ。これでレックもヒノキの棒から卒業、万々歳じゃねえか!」
「でも、ランドの小遣いが…」
「見えてきたぜ、あそこが冠職人のビルデ爺さんの家だ」
町はずれにある小さな家に指をさす。
家の前には栗色の髪とドレスの若い女性がいた。
「あの人は爺さんの娘さんだ…。スージーさん!久しぶりだな!!」
「あ…ランドさん。お隣の方は…?」
「レック。俺のダチだ!!」
「初めまして、今日は…」
「お父さんに御用事があるのですね?でもごめんなさい。3日前に木材を取りに行って、まだ戻ってないんです。造花は完成したんですが…」
「木材を…?」
「ビルデ爺さんは冠を作るときは決まって西の森の木を使うからな。きっと、西へ行ったんだ。けど、この町より西へ俺は行ったことないぞ」
ここまでの魔物にはリップスと悪魔の顔を模した巨大な盾を持った緑色の小人であるシールド小僧を除けば苦も無く対処することができた。
しかし、今まで行ったことのないその西の森ではそれ以上に強い魔物が出ない保証はない。
「あの程度の魔物に爺さんが後れを取るわけがねえけど、心配だな…」
「なら、早く森へ行こう。ビルデさんがいないと村祭りができなくなる」
「だな。じゃ、行こうぜ。兄貴!」
意を決した2人は西の森へ向かう。
西の森は人の手が加えられていない良質な木であふれている。
しかし、道は険しく迷いやすいためある程度土地勘のある人以外が奥地に入ることは勧められていない。
「はあ…はあ…レック…今どこらへんだ?」
「もうすぐってところだな…」
「なるほどな…なら、今日中になんとかなりそうだな…」
倒したシールドこぞうやリップス、ファーラットが青い粒子となって消滅していく。
スージーから地図をもらっているとはいえ、どこからともなく魔物が襲ってくる。
方向感覚を誤らないようにするため、2人は近くの木の年輪を確認し、更に木に印をつけながら進む。
もう夕暮れになっている。
うまくいけば、明日の昼にはライフコッドに戻れる。
「キキーーー!!」
「チュバー!!」
「ゲゲ!?こんな時に…」
シールドこぞうとリップス、そして悪魔の魂が宿った玉ねぎであるオニオーン達が奥地方向から出てくる。
しかし、レック達に目をくれることなく逃げていく。
「ありゃ…?なんで俺たちを襲わないんだ?」
「グオオーーーーーン!!」
同じ方面から力強い魔物の叫び声が聞こえる。
「な…なあ、レック…もしかして…」
「もしかするかもな…」
冷や汗をかきながら、互いに目を向けあう。
両者は同時に頷くと、奥地に向けて走る。
「う…嘘だろ…!?」
「お…大きい…!」
巨大な2本の角と金色の髪を持つ巨大な2本足の羊。
羊と称したが、羊を見慣れているレックでもよく見ないとそう見えないくらいに特徴がそれと大きくかけ離れている。
あの魔物は沈黙の羊、この地域ではあまり見かけない巨大な魔物で下級兵士では3、4人が協力することでやっと倒せるくらいの強さで、当然民間人がそれを見つけたときはすぐに逃げるよう呼びかけられている。
「どうすんだよ!?俺、沈黙の羊と戦ったことないぞ!!」
「ランド!人が倒れている!!」
沈黙の羊のそばでは、レックよりも身長が10センチ近く低い、バイキングがつける2本角のメットのようなものをつけた老人が気を失っている。
その魔物に襲われたようだが、もしあのメットが無ければどうなっていたことだろう。
「ビルデのじいさん!!なるほどな…あいつのせいで…」
「やるしかないな…」
銅の剣と折れそうになっているヒノキの棒を構える。
「グオオオオオンンンンン!!!」
レックとランドの姿を見た沈黙の羊が角を前にだし、突進し始める。
「くっそお!!避けろ、レック!!」
「うわああ!!」
辛くも両者は左右に飛び、攻撃を避ける。
「この野郎!!!」
跳躍した際に落ちた矢を拾い、沈黙の羊に向けて放つ。
矢は魔物の左腕に刺さったが、ランドの腕力の問題か、それとも魔物の皮膚の厚さによるものか、深くは刺さらなかった。
「ゴワアアア!!」
矢を受けた沈黙の羊はランドに目を向けると、足元にある岩をランドに向けて投げつける。
「うわああ!!」
「ラ…ランドォ!!」
岩石を利き腕である右腕に受け、骨が折れたランドが痛みで叫びを上げながら地面を転げまわる。
沈黙の羊はとどめを刺すため、ゆっくりとランドに近づいていく。
「やめろーーー!!」
ランドを守るため、レックは銅の剣とヒノキの棒で背後から攻撃する。
しかし、切断武器というよりも打撃武器といえる2つの粗悪な武器では致命傷を与えることができない。
この状況では沈黙の羊の注意を引けるだけでも救いと言えよう。
「グワオオオオン!!」
沈黙の羊が自らの右拳をレックに向ける。
拳は彼の腹部に深々と突き刺さる。
「ガ…アア…!!」
攻撃を受けたレックが吹き飛ばされていく。
「ハア…ハア…」
巨大な穴がある開けた場所まで吹き飛ばされたレックは口にたまった血を吐きだす。
そして、左手に持っているヒノキの棒が砕けていることを確認した。
「ランド…ビルデおじいさん…」
動きたいが、腹部の激痛から立ち上がることができない。
肋骨が何本もおれているようだ。
立ち上がれない彼の元へ大きな足音が近づいてくる。
(まさか…沈黙の羊…?)
木が倒れる音がする。
その音と共に沈黙の羊がレックの前に現れる。
魔物はとどめを刺そうと近づいてきている。
(そんな…俺、ここで死ぬ…?)
彼の目から涙があふれる。
ランドとビルデが今どうなっているのかわからない。
生きているとしたら、早く助けなければならない。
動けず、こうして死を待っている今の自分が恨めしい。
(ターニア…父さん…母さん…ごめん…)
「オオオオオ!!!」
沈黙の羊が急に顔をゆがめ、体勢を崩す。
「な…なんで…?」
涙をふき、倒れた魔物をじっと見る。
頭部には何本も矢が刺さっていた。
「ま…まさか、ランドが…??」
「撃てぇ!!」
中年男性の低く太い声が聞こえる。
それと同時に、何本も矢が放たれ、沈黙の羊の体の各所に刺さる。
「ランドじゃ…ない…?」
「大丈夫か?もう、大丈夫だ」
金髪で貫録のある少し長めの髭とわずかにしわがある男性が近寄る。
男の鎧には剣を咥えた竜の頭部を模したエンブレムがついている。
「レイ…ドック…?」
「私はレイドックのソルディ兵士長だ。偶然、ここの近くで偵察を行っていたのだ」
すぐにソルディは懐から痛み止めの薬をだし、レックに飲ませる。
「うう…苦い…!!」
「我慢しろ。これで、一時的に痛みだけはどうにかなるはずだ」
すさまじい、何倍にも苦みが増したわさびを直接飲んでいるような感覚だが、確かにあれほどまでに感じた痛みが消えていく。
「君の友人とビルデさんは無事だ。それよりも早くマルシェへ戻り、手当をする!!」
「ソ…ソルディ兵士長!!!」
「何!?」
多くの矢を受け、左目がつぶれた沈黙の羊が憤怒の表情を浮かべる。
そして、レックにとどめをさすために突撃する。
「く…まずい!!」
背後は大穴、更にソルディは今、レックを抱えている。
このままでは突撃を受けて、穴の中へ落ちてしまう。
「うおおおおお!!」
「何!?」
急にソルディがレックに突き飛ばされる。
そして、彼がレックが沈黙の羊の突撃を受ける光景を見ることになった。
「あ…ああ…」
「ゴオオ…オ…」
沈黙の羊が胸から血をふきだしながら、あおむけに倒れる。
突撃を受ける寸前にレックは跳躍し、沈黙の羊の心臓を銅の剣で力任せに貫いたのだ。
絶命した沈黙の羊は青い粒子となって消滅する。
しかし、魔物がいた場所には銅の剣しかない。
「あの少年は…!?」
ソルディは周囲を見渡す。
そして、大穴のそばでうつぶせに倒れているレックを見つけた。
「おい!!大丈夫か!?しっかりするんだ!!」
レックの肩をたたく。
すると、彼はゆっくりと目を覚ました。
「え…!?」
目を開いたレックは信じられないものを見た。
目の前には大穴があり、大穴からは一面の空と大陸、島、そして町のようなものが見えた。
「そ…んな…これは…本当に…穴…??」
大穴についてはうわさでだけ聞いたことがある。
魔王が自分たちの障害になる地域を封じ、そこを大穴にしたというもので、村の人々はあまり信用していなかった。
しかし、穴の中がこのような光景だということは今まで聞いたことがない。
「どういう…こと…??」
「何を言っているんだ?君は…お、おい!!」
ダメージと戦いによる疲労のためか、レックはまた気を失ってしまった。
原作よりも早めにソルディ兵士長が登場です!
それにしても、お鍋の蓋と皮の鎧のぼったくりにはびっくりしました。
そして、2回目プレイの時に知ったドガとボガの民芸品値上げでかなり儲かったことはいい思い出です。
改めてDS版をプレイしてますが、いろんな思い出がある分、懐かしい感じがします。
ちなみにDS版をモチーフとするため、シエーナはマルシェに変更しています。