「うおおおお!!」
レックの怒りに反応したのか、破邪の剣の刀身が燃え上がる。
その刃をジャミラスに向けて振ると、その炎が閃光のように、一直線に敵を襲う。
「馬鹿め!その程度の炎など効かぬわ!!」
右腕の炎が円盤状の盾の形になって、破邪の剣の炎を受け止める。
そして、反撃と言わんばかりにレックにむけて燃え盛る火炎を吐き出した。
「させませんよ!!」
アモスがアモスエッジを大きく振り回し、鎌鼬を発生させる。
鎌鼬で炎が切り裂かれ、それがジャミラスの右腕の赤い魔石に命中する。
しかし、かなり頑丈な構造となっているためか、傷一つなかった。
「ジャミラス様をお助けしろーーー!!」
「奴らを殺して、褒美をもらうんだーーー!!」
「女は殺すなよ?こいつらはいい宣伝係になる!!」
ジャミラスの演説を聞いていた魔物たちが一斉に飛び出し、レック達を襲う。
「くっそぉ、邪魔すんじゃねえ!!」
レックの援護へ向かおうとしていたハッサンをバットマジックの集団が襲う。
ハッサンに向けてラリホーを放っており、近距離でしか戦えないハッサンは回避に徹することしかできなかった。
おまけにジャミラスの近くまで来た妖術師は主君である彼に対してバイキルトを放ち、肉体を強化していく。
「うわーーー!!わらわら出てきて、これじゃあジャミラスを狙えな…キャア!!」
三つの目を持つ緑色のカメレオンみたいな姿をしたモンスターであるおおイグアナがバーバラの体をその長い舌で拘束する。
かなり気に入ったのか、バーバラの体を服の上から舐めており、そのまま自分のそばまで引きずり込もうとしている。
おおイグアナの体内には生物をマヒさせる神経毒を生み出す器官があり、その毒で獲物の身動きを封じてからエサとして捕食する。
おまけに雑食であり、生息する場所も多い。
縛られているせいで、両手に持っているナイフを使うこともできない。
「バーバラから離れなさい!!ヒャド!!」
ミレーユは自分が持っている蛇皮の鞭にヒャドを放ち、氷の刃を付着させる。
それをバーバラを拘束しているおおイグアナの舌に向けて振り、氷の刃でそれを切断した。
舌を斬られたおおイグアナはパニックを起こし、その場でのたうち回る。
しかし、再び襲った氷の刃付きの蛇皮の鞭で切り刻まれて、肉片と化した。
「ううう、お気に入りのドレスなのにー…」
おおイグアナの舌がほどけ、唾液でベトベトになった皮のドレスを見たバーバラは涙目になる。
幸い、下着までは濡れていないが、かなり粘りがあって不快感がある。
「災難だったな、お嬢ちゃん」
バーバラを背後から襲おうとしていたデビルアーマーをクリムが装甲の隙間に向けてボルトを発射して始末する。
更に、オレンジ色のボルトに火をつけて魔物の集団に向けて発射する。
着弾すると同時にイオラレベルの大爆発が発生し、その集団がバラバラに吹き飛んだ。
そして、ジャミラスと妖術師の集団と交戦しているレックを見る。
(これは…まずいかもしれないなぁ。呼吸が乱れている)
「うわああ!!」
妖術師たちが一斉に放ったメラミを受けたレックが吹き飛ばされる。
精霊の鎧の力によって、体へのダメージは少ないものの、それでも一斉に受けたことで体が焼けるように熱い。
「な…!?!?みなさん、上を!!」
アモスが天井に出現した魔法陣に指をさす。
その魔法陣から魔物たちが召喚されており、それらがレック達に向けて襲い掛かっている。
「となると…どうにかしてあの魔法陣を破壊しなければ…!!」
チャモロはゲントの杖を構え、静かに呪文を唱え始め、アモスがバックアップに入る。
マホトーンで彼の呪文を封じ込めようとする踊る宝石の軍団をアモスエッジで叩ききっていく。
「いまだ…バギマ!!」
チャモロの呪文で発生した大きな竜巻が魔法陣に向けてゆっくりと進んでいく。
上空にいた魔物たちを巻き込みながら進んだその竜巻だが、魔法陣から突然発生した紫色の障壁に阻まれてしまう。
「何!?」
「フフフフ…増援を防ぐために魔法陣を狙うまではよかったが、そこまでだ」
バギマが収まると、魔法陣から召喚された魔物たちが障壁から抜け出し、再び襲い始める。
「あれも禁呪法…。あの赤い魔石で代償を代用して使っているか…!?」
戦いの中で、クリムはジャミラスの右腕に埋め込まれている魔石がバリアを生み出すときに一瞬紫色に光ったことを見逃していなかった。
あの魔石を破壊するという手があるが、そのためには先ほどのアモスの鎌鼬以上の破壊力が少なくとも求められる。
しかし、それを破壊するために待っているのは妖術師の軍団とバイキルトで肉体強化されたジャミラスと彼が放つ炎。
この3つの関門を突破しなければならない。
(仮にあの少年が選ばれた素質を持った男であれば…)
「はあ、はあ、はあ…」
城に入り、ジャミラスと戦い始めてから1時間が経過し、レック達には疲れが見え始める。
「ハアハア…ごめんなさい。これで、私の魔力は…」
「構わねえ。助かったぜ、ミレーユ!」
ミレーユが残りの魔力をハッサンの傷の治療にすべて消費する。
これで、彼女は鞭での攻撃しかできなくなった。
チャモロは空中の敵をバギやバギマで対応するのに精いっぱいで、バーバラが持つ2本のダガーナイフには既に刃こぼれが生じ、ベギラマを放つ力もない。
「くそぉ…はあ、はあ…」
レックも魔物を倒すことができてはいるが、ジャミラスの周囲にいる妖術師を1人も倒すことができておらず、左目は額から流れる血で赤く染まっている。
何より致命的なのはレック自身、ジャミラスに怒りを見せてから闘気の力を発揮できていないことだ。
怒りで呼吸のコントロールそのものを忘れてしまっている。
「くそ…レックの野郎、せっかくの特訓を無駄にしやがって!!」
回復し、闘気の呼吸で右拳の力を高め、デビルアーマー3体を一発殴っただけで撃破に成功した。
アモスもハッサンほどではないが、闘気の力をアモスエッジに宿すことでストーンビーストを撃破した。
しかし、レックは闘気を生み出すことができておらず、破邪の剣の宿っている炎の力に依存している。
「ハハハハ!!ムドーを倒した男と聞いて、少しは骨のあるやつかと思ったが、まさかこの程度とはなぁ!」
攻撃が来るのを感じたレックは後ろに飛びのくが、襲い掛かってきた鉤爪はレックの腹部をかすり、肉をそぐ。
バイキルトのせいで精霊の鎧の耐久度を上回る攻撃が可能となっており、そのせいで守りを突破された。
いつもであれば、魔法の盾を上からたたきつけるなどして回避するという手段をとることができたかもしれないが、頭に血が上ったレックには不可能なことだった。
腹部の激痛と共に、急に疲れを自覚し始めてその場で膝をついてしまう。
左手を使ってホイミを唱え、腹部の傷をいやしているが、炎の爪の力のせいかや火傷までしているようで、治療には時間がかかる。
「もういい…死ぬがいい!!」
妖術師たちがレックに向けて一斉にメラミを放つ。
痛みと疲れで体の動かないレックには避けることができない。
「レックーーー!!」
「レックさん!!」
バーバラとアモス、ミレーユは上空から召喚される魔物の対処、そしてチャモロは3人のフォローで動くことができない。
「こんの、馬鹿野郎がぁ!!」
ハッサンがレックの前に立ち、仁王立ちの構えを見せる。
「ハッサン…!?」
「ぐおおおおおお!!!」
メラミが次々とハッサンに着弾し、彼の体を炎が包み込んでいく。
レックの鼻孔に彼の肉体の焼ける匂いが伝わってくる。
「ハッサン!!」
「ぐうう…レック…!武闘家ってのは、どうも体が強えだけじゃあダメみてえだな…。ダーマの書で改めて修行して、思い知ったぜ…!!」
メラミの嵐が収まり、イリアの鎧が高熱によってボロボロになっている。
ハッサンの体も全身に大やけどができている。
闘気の力で肉体を強化することができるが、呪文を防ぐことは基本的には不可能だ。
「ふん…木偶の棒が盾になったか。なら、その木偶の棒ごと焼いてやれ」
再び妖術師たちがメラミを放つために印を結び始める。
だが、ハッサンは匂い立ちの体勢を維持し、レックから離れない。
「逃げろ、ハッサン!!このまま受け続けたら…!!」
「明鏡止水…お前も、戦士の修行してんだから、言葉ぐれえわかるだろ…?」
再びメラミの嵐がハッサンを襲う。
イリアの鎧が砕け散り、肉体そのものに直撃する。
体の一部が炭化し、大の大人でも泣き出すくらいの激痛を負っているにもかかわらず、それでもハッサンは耐え続けている。
「明鏡止水…邪念をなくし、心を研ぎ澄ます。憎しみと悲しみを超え、目の前の敵と今の己のすべてを感じる…。レック、お前は怒りっぱなしだ…。怒ることは悪いことじゃねえが、そればっかだと…」
「しぶとい木偶の棒め…いい加減死ぬがいい!!」
再び妖術師たちがメラミを発射する。
鎧もなく、身を守るものが何一つないハッサンを容赦なく炎が襲う。
「ハッサン!!」
「そればっかだと…戦う相手も、自分の今の力も…わからなくなる…ぜ…」
ついに力の限界に達したのか、ボロボロになったハッサンがうつぶせに倒れる。
「ハッサン…」
「死んだ…死んだか。木偶の棒」
「くっ…うおおおおおおお!!!!」
レックが叫ぶとともに、彼の体が青い闘気に包まれていく。
青い闘気を見た妖術師たちは動揺し、ジャミラスも身構える。
「その闘気は…!!」
「ふっ…怒りの中で己の力を見出したか…」
レックの青い闘気を見たクリムは笑みを浮かべ、やがてその闘気がミレーユ、チャモロ、アモス、バーバラにも伝わってくる。
「何…この力!?」
「嘘…闘気って戦士と武闘家だけの力じゃなかったのぉ!?」
青い闘気を宿したミレーユとバーバラは驚きを感じ、更に魔力がわずかながら回復しているのも感じた。
「ただ、感じたままのことを認識しろ。それこそがお前たちの真実だ」
「今なら…いける!!バギマぁぁぁ!!」
青い闘気に包まれたチャモロが回復した魔力と今残っている魔力のすべてを使ってバギマを放つ。
今までのバギマを上回る暴力的な竜巻の嵐が発生し、召喚された魔物たちを切り刻んでいく。
しかし、それでもデビルアーマーやストーンビーストなどの頑丈な体を盛った魔物は生き延びていて、その呪文を放つチャモロを襲う。
「そうはさせないわ…イオ!!」
ミレーユが唱えたイオもまた、青い闘気のおかげで破壊力が増しており、普段であれば破壊できないはずのデビルアーマーの鎧とストーンビーストの体を粉々に吹き飛ばした。
「…バーバラ!!」
「え、う、うん!!」
突然、レックに呼ばれたバーバラは彼のもとへ走っていき、同時に2人の闘気が共鳴したかのように増幅する。
(わかる…こうすれば!!」
飛び出したレックの破邪の剣に向けて、バーバラはベギラマを放つ。
破邪の剣の炎とバーバラのベギラマが混ざり合い、巨大な灼熱の刃が生まれる。
「ちいい…妖術師ども!バイキルトを!!」
自らの手で討ち取ると言わんばかりに妖術師たちに命令を出す。
しかし、妖術師たちはいくら印を切ってもバイキルトが発動しない。
「ま、まさか…!?」
ハッサンに3回もメラミの嵐を浴びせたことで、妖術師たちの魔力が切れてしまっていた。
「いっけええ、レックーーー!!」
「灼熱火炎斬!!!」
紅蓮の刃が妖術師もろともジャミラスを赤い魔石ごと切り裂いていく。
「ば、馬鹿な…!?冀望王の名を与えられし、この私が…あんな小僧の一撃なぞにーーーー!!」
赤い魔石が砕け、同時に天井の魔法陣が消滅する。
妖術師たちは灼熱化演算で消滅し、ジャミラスも片腕と片足を切り取られたうえに胸部には深々と切り傷ができていた。
青い血が滝のように流れ、彼の周りを染めていく。
「はあ、はあ、はあ…」
この一撃で限界だったのか、レックの体から青い闘気が消え、同時に3人からもそれが消える。
ミレーユとチャモロはハッサンの元へ向かい、ベホイミとゲントの杖で回復を行う中、レックはじっとジャミラスを見ている。
「ふっ…この私を倒したところでどうなる…?幸せの国が幻想だったことを知った奴らは再び絶望に沈む…。希望を見出したものほど、それが奪われたことでより絶望が深くなる…。カルカドへ戻ったとしても、絶望の中で死ぬしかない。そして、その絶望ことが…われらの力になる…」
ジャミラスの言う通りで、幸せの国には深い絶望に落ちた人々がかすかな希望を求めて集まってきた。
そして、レックの目の前で殺された人のように、そこで裏切られて無残な死を遂げるか、ジャミラスの操り人形となり、絶望の淵に沈んだ。
だが、今生き延びた人々はこれからどうするのか。
幸せの国などないという現実とどう向き合い、どう生きていくのか?
「それでも…それでも、人はいつか幸せになれると信じて、自分にできることをするだけだ…」
「ふっ…勇者とは、人々に希望を与える存在。もしそうだとしたら、私は彼らにとっての勇者で、貴様は彼らから希望を奪った存在。果たして、どちらが正しいのかな…?」
ジャミラスが青い粒子となって消滅する。
(どちらが正しいかなんて…)
勇者、という言葉が気にかかったが、ジャミラスの言い残した言葉がレックの心に突き刺さる。
ジャミラスを倒したとしても、彼らの根本的な問題が解決されるわけではない。
そして、何よりも彼らによって奪われた命が戻ってくることはない。
「レック…」
レックの後姿を見たバーバラは静かに彼を案じていた。
今回はドラクエ11で登場するアレを再現してみました。
ドラクエ11とは違い、主人公が起点にならなければならないという制限がありますが…。