ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第22話 ムドーの島その1

湖へ出た神の船に黄色い光の帆が発生する。

この光の帆はわずかな風であっても航行することを可能にする。

チャクラヴァの話によると古代に生み出されたものらしく、現在はロストテクノロジーとなっている。

湖から川を下り、海に到着するまでに4時間かかった。

「ここから東へ向かいます。皆さん、周囲の警戒をお願いします」

チャモロの指示に従うかのように、ミレーユは船の後ろ、レックは右側、ハッサンは左側の警戒をする。

「レック、バーバラはどうしたんだ?」

「海に出てから、気分が悪くなったって言って、船室で寝てる」

「気分が悪い?おかしいな…あいつ、前に船に乗った時は船酔いなんてなかったぜ?」

変だな、と言いながらハッサンは再び警戒を厳にする。

(…ターニア、みんな…)

短剣を抜き、その刀身をじっと見ながら故郷を思う。

結局、夢の大地のレイドックへ戻った際にライフコッドに立ち寄ることができなかったことを悔やんでいるのだ。

少し顔を見せるだけでも、ターニア達を安心させることができたかもしれないし、精霊の鎧のことのお礼を言うことができたかもしれない。

だが、今考えるべきはムドーとの決戦だ。

レックは乾燥したパンを口にし、咀嚼しながら海を見た。

 

「んん…ここは…??」

うっすらと目を開けるバーバラ。

そこは船室ではなく、真っ暗な空間で足元からは水のような冷たさが感じられる。

(バーバラ…バーバラ…)

「え…??」

自分を呼ぶ、聞いたことのない声に動揺しながら後ろに振り返る。

そこには真っ白な人型の光が立っている。

その形は自分そっくりだ。

「え…あたし…??」

(バーバラ、あなたはレック達と共にムドーと戦ってはなりません)

「戦っちゃいけない…?どういうこと!?あたしじゃ、足手まといになっちゃうってこと!?」

確かに地底魔城でのムドーとの戦いではあまり役に立つことができなかった。

しかし、ゲントの村へ向かう道中に自分なりに特訓をし、新しい呪文も使えるようになれるように契約もした。

それなのにどうしてと思いバーバラの背後へその白い光は瞬間移動する。

(あなたには…あなたにしかできない役割があります。それを成し遂げるためにも、この船に残ってください)

「あたしにしかできない役割?」

段々話し声が自分と同じようになっていくその光の正体を見ようと振り返る。

それと同時にその光はバーバラを飲み込んでいく。

何が何だかわからず、呆然とするバーバラ。

すると、自分の着用しているものが消えていく。

それと同時に自分の姿が黄金の鱗を持つ翼竜へ変わっていく。

「キャアアアアア!!!」

悲鳴を上げつつ、バーバラは起き上がる。

そこは先ほど眠っていた船室のベッドだった。

「服…着てる…」

自分の着ている服を手で触って確かめる。

触れた個所は汗でぬれていた。

コンコン…。

布団から出ると同時に扉をノックする音が聞こえる。

「ん…?誰?」

「バーバラ、俺だ。その…大丈夫?」

「レック。ムドーの島についたの?」

「ああ、ついさっき。みんなデッキで待ってるよ」

「分かった。先に行ってて」

「ああ…そんなに急がなくていいからな」

そう言い残すと同時に足音が聞こえる。

その足音が徐々に小さくなると、バーバラはタンスの中に入っているタオルをだし、首や顔、髪、そして服の中を拭きはじめる。

先程は手の汗に集中していたせいで分からなかったのか、今になって全身が汗でぬれているのがわかった。

(あの声…誰だったんだろう?なんだか、懐かしいなって思っちゃった…)

拭き終わると、タオルを洗濯物を入れる籠に入れ、船室から出た。

 

陸地ギリギリまで山が迫り、海岸沿いには難破した船の残骸が存在する。

上空は黒い雷雲に包まれており、今が昼なのか夜なのか全くわからない。

ムドーの島、ムドーがこの世界に現れたのと同時に生まれた島。

サンマリーノとレイドックの間に広がる巨大な海、アルテ洋の中央に位置し、まるで自らの島がこれからの世界の中心であることを示しているかのようだ。

「みんな、おはよー…」

レックが出てきてから3,4分経ってからバーバラがデッキに出てくる。

「遅せえぞ、バーバラ。にしても、暗えな…」

ハッサンは空を見上げ、何とか雲と雲の間を見つけようとする。

しかし、この雷雲があまりにも熱い雲であり、ミルフィーユのように何重にも重なっているためか見つけることができない。

「うわぁーーー、真っ暗!」

「2時間程度前からずっとこのような状態です。ゲントの神の御加護でこうして上陸の準備ができたのですが…」

チャモロは難破した船の残骸に対して念仏を唱える。

大型の船はおそらくムドーの島に攻撃を仕掛けた連合水軍の物だろう。

だが、民間の小型漁船や商船の姿もある。

なんらかが原因でここまで漂流したのだろう。

そして、その船に乗っていた人々は…。

「行きましょう…この船の主たちの無念を晴らすためにも」

「なあ、この船とファルシオンはどうすんだよ。このままここに放置って訳にもいかねえだろ?」

船内にある厩にはファルシオンと馬車がある。

しかし、ムドーの島は見た限りではぬかるみや急な坂が多く、馬が歩くにはきつい環境。

逆に馬車で移動する方が危険が大きいと判断せざるを得ない。

となると、ハッサンの言うとおりファルシオンは船で待機させるのが正解だ。

「ええ。誰か1人がここに残って船を守るのがいいけど…」

チャモロが新たに仲間となったため、シェーラを別にすると戦力は増えたと言ってもいい。

しかし、ムドーはそれでもレックのある謎の呪文が無ければ退けることすらできなかった強敵。

更にはここから先には地底魔城以上の規模の魔物が待っていると思われる。

「あの…あたしが、残って…いい?」

「バ、バーバラ…!?」

名乗り出たバーバラにレックが目を向ける。

こういう場合に待機命令を出したら頬を膨らませて抗議し、強引についていくような彼女であるため、レックが受ける驚きは大きい。

「おいおい、まさかここまで来てムドーにビビっちまったのか?」

「そ、そんなわけないもん!!そりゃあ、ムドーを倒して早くスカッとしたいっていうのはあるけど…けど、行けない…」

うまく理由を説明することができず、思い悩むバーバラ。

夢のお告げ、そしてその中で自分が黄金の竜になっていたなんてことを言っても、信じてもらえないと思ったからだろう。

だんまりとするバーバラにミレーユが助け舟を出す。

「構わないわよ、バーバラ。あなたに…神の船とファルシオンはお願いするわ」

そっと彼女の肩に手を置き、優しく語る。

ミレーユに目を向け、バーバラは静かに、そして申し訳なさそうにうなずく。

「じゃあ、行こうぜ。ムドーを倒して、この島から離れたいしよ」

ランタンに火を入れたハッサンが先頭に立ち、ミレーユ、チャモロ、レックの順番に船から出ていく。

「じゃあ、行くよ。船とファルシオンは頼むな」

「レック…その、ごめんね?あたし…」

ムドーと恐れるはずにレックに励ましの言葉を与えるつもりが、どうしても謝罪や言い訳じみた言葉しか頭に浮かばない。

普段はおしゃべりのはずの自分がなぜ急にこうなってしまったのかわからず、苦悩する。

そんなバーバラの頭をレックがそっと撫でる。

「レック…?」

「大丈夫、俺たちは負けない」

それだけ言うと、レックは少し先まで行っていたハッサン達に走って追いつく。

真っ暗なため、ランタンの火が船からでも見え、レック達の居場所を知ることができる。

しかし、すぐ近くにある洞窟に入るともう無事を祈ることしかできない。

やがてレック達が洞窟に入っていく。

「レックーーー!!みんなーーーー!!がんばれーーーーー!!!!」

洞窟に向け、バーバラは大声で叫んだ。

 

「ぐぅぅ…暑ちぃー…」

「暑い暑いと言っていると、更に暑くなりますよ?」

「そんなこと言ってもよー…ミレーユー、ヒャドで冷やしてくれよー…」

「こんな高温で湿度の低いここだとヒャドは使えないわ。我慢して」

洞窟の中にはマグマが流れており、そのせいか中の温度は外と比較すると急激に高くなっている。

おそらく、ムドーがこの島をつくる際に海底火山を強引に噴火させるなどをしてたのだろうと思われる。

「そういえば、チャモロは平気なのか?」

後方を警戒しながら、レックはチャモロに目を向ける。

汗でびしょ濡れになっているハッサン程ではないが、レックとミレーユも汗でぬれている。

しかし、チャモロに関しては確かに汗は出ているが全く暑そうな表情を見せていない。

「ええ、これも修行の賜物っといったものでしょう」

「マジかよ…ゲント族の僧侶ってすげぇな」

「ムドーを倒した後、よろしければみなさんも村で修行をしてみませんか?きっと、良い経験になると思いますよ」

「いや…別にいいぜ…」

水筒の水を飲みながら丁重に断る。

そうしていると、魔物の足音が聞こえてくる。

「来るわ…みんな備えて!!」

ミレーユの声に反応するかのように、レック達は武器を手にとり警戒する。

すると、岩の影や曲がり角、更に背後などから魔物が出てきて、レック達に襲い掛かる。

数多くの宝石が詰まった袋に命の石が入ることで生まれた踊る宝石のギラやルカナン、メダパニ、そして魔封呪文マホトーンがレック達の連戦による消耗を避けようとする動きをあざ笑うかのように襲い掛かる。

その呪文に援護をするかのように、かつてレック達が戦ったブラディーポと同じ姿だが、体の色が赤く染まっているレッサーデーモンが体から放つ不気味な紫色の光によってレック達の呪文に対する耐性を弱め、ルカナンで守備力を弱めていく。

また、魔力を得たことで肉体が紫色に変色したねずこうもり、バットマジックがラリホーやベホイミによって傷ついた魔物たちの傷を癒す。

また、溶岩の中やエビルポッドが生み出すヒートギズモや腐った死体、ストーンビースト、ダークホビットといった以前に戦った経験のある魔物たちもこれでもかというくらいあふれ出てくる。

「さすがは…魔王の拠点!相手の防御はかなり分厚いみたいですね…!」

今のミレーユのヒャドでは威力は発揮できない。

バーバラのメラやギラであればこれまで通り使え、特にメラはこの環境であればメラミと同じ程度の力を発揮できるかもしれないが、ヒートギズモのせいでそれを吸収され、更に強大化してしまう可能性がある。

「これからムドーの下までどの程度かかるかわからない今、呪文をできれば使いたくありませんが…仕方ありませんね!」

チャモロは印を切り、力を込めてバギを放つ。

竜巻は火の息やギラと熱を吸収し、熱を得て、本来は大したダメージを与えることのできないエビルポッドの鋼鉄を溶かし、切断していく。

竜巻が収まると、ヒートギズモやバットマジック、ダークホビットが消滅し、傷ついた踊る宝石やレッサーデーモン、ストーンビーストなどが残る。

「すげぇ威力のバギだな!となったら、マホトーンをかけられる前に!!」

ハッサンは即座に踊る宝石を拳で攻撃する。

拳は確かに袋の中にある命の石を砕き、踊る宝石を元の宝石袋に戻す。

「ハァァ!」

レッサーデーモンの鋭い尾が槍のようにレックを貫こうとするが、楯でその攻撃をそらし、そのまま回転して右手の剣で尾を切断する。

尾を斬られたレッサーデーモンは苦悶の表情を見せながらのた打ち回り、そのままマグマの中へ消えてしまった。

一方、攻撃呪文が使える状況ではないミレーユは鞭で空中にいる残ったバットマジックの羽を負傷させて地面に落とす。

そして、比較的質量の小さいエビルポッドを鞭で強引にマグマの中へ落とす。

「みなさん、さすがですね…!」

「あったりまえだぜ!伊達に旅をしてきたわけじゃ…」

「ハッサン!!」

チャモロを見て、正面を油断したハッサンをストーンビーストのベギラマが襲う。

「うわぁ!!しくじ…ったぜ…!」

ベギラマが直撃し、体のいたるところに火傷を負ったハッサンが片膝をつく。

「よくも!!」

幸いチャモロのバギのおかげで傷を負ったそのストーンビーストの命の石は露出している。

レックは盾で命の石をたたき壊し、ストーンビーストをただの石像に戻した。

「ハッサン、待ってて。すぐに手当てを!!」

ミレーユが回復呪文を唱えようとするが、チャモロが左手を彼女の前に出して静止させる。

そして、右手に握っているゲントの杖を天に掲げる。

すると、杖についている鏡から光が放たれ、ハッサンをやさしく照らす。

「すごい…!!」

光によって、ハッサンの火傷が徐々に消えていくのを見たミレーユは驚きを隠せずにいる。

ゲントの杖の光はミレーユのベホイミの勝るとも劣らない回復力を持っていた。

「これはゲントの僧侶たちに配られる杖です。ただ、この杖を作るためには樹齢1000年以上の木が必要となりますし、鏡を作るための素材が貴重であるため、鉄の杖程多く作ることができませんが…」

説明している間に火傷が癒えたハッサンは立ち上がる。

「良かった、ハッサン…」

最期の1対である腐った死体を切り捨てたレックはハッサンに駆け寄る。

「おう!心配かけて、悪かったな。それじゃぁ…」

「…待って、ハッサン。何か物音が聞こえるわ…」

「ん?物音??」

カシャリ、カシャリ、カシャリ…。

今まで聞いたことのない奇妙な音が何度も鳴り、更にこちらに近づいてきている。

「一体、何が来ると…?」

 

「ふふふ…夢の世界の我は倒れたか…」

島の中央に位置する、茶色と赤のレンガで作られたいくつもある建物によって構成された城の中。

その中央にある一番高い塔の最上階の中にムドーがいる。

夢の世界のムドーと異なる点はマントの色が黒く染まっている程度。

部屋の形を含めて、それ以外の点は変化がない。

ワインを口にしつつ、水晶が見せるレック達の緊張した表情を見る。

「将来、我らの新たな兵器となるであろうキラーマシンの先行生産機…アーリーキラーマシン。実戦データを得るいい機会だ」

 

カシャリカシャリカシャリ!!

「おいおいおい、なんだよこのモンスターは!!」

レック達の前に現れた2体のモンスター。

青い金属製の装甲と赤いモノアイ、そして皿と細いパイプでできたような4本の足。

1体目の右手には市販されている鋼の剣の倍の長さとなっている太刀が装備され、左手には先端に槍が内臓され、4枚の刃が十字に配置されたメイスが握られている。

2体目の場合は、右腕にボウガンが装着され、左手は火炎放射器となっている。

「機械の…モンスター!?」

驚くレックにあいさつするかのように、2体目のアーリーキラーマシンが火炎放射を放った。


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