ラーの鏡を手に入れたレック達。
定期船はレイドックでの事件のため避けて、商船でサンマリーノに到着した。
「占めて、400ってところだな」
「足元見やがって…けど、助かったぜ」
1人50ゴールドの定期船のチケット。
高い買い物になったが、無事にサンマリーノに到着することができた。
「ラーの鏡が手に入ったけど、問題はどうやって上の世界へ行くかだな…」
「ああ。俺たちはあの穴から落ちたからなぁ…」
「どうやって上へ戻れば…」
「大丈夫。おばあちゃんなら、必ずいい考えを出してくれるわ」
「うわあ…すっごく活気がいいねー!」
初めて見る港町とあふれる活気にバーバラのテンションが上がっていく。
「バーバラ、そろそろ出発するよー」
「えー!せっかくここに来たんだし、おいしいものを探しに…」
「それはまた戻ってきたときでいいわ。それよりも…」
「うう…はーい…」
しょんぼりしながら、バーバラが3人についていく。
大通りを歩いているものの、レック達を見て反応を見せる人物はいない。
「良かった、ここにはまだレイドックでのことが伝わってないみたいだ」
「それ以上の問題が起こっているから…かしら…?」
ミレーユの目線は港へ歩を進める人々に向けられる。
いずれも体つきが良く、武器を所持している。
体に刻まれている傷跡から、彼らが只の冒険者ではないことがうかがえる。
「あいつら…傭兵だぜ」
「何かあるの?お祭り??」
塔の中にいて、世情に疎いバーバラには何が何だかわからない。
壁には傭兵募集のビラが貼られている。
「国の防衛のために傭兵を募集するのか…」
「それほどムドーの力が強くなっているってことね」
「ムドー??ねえ、ムドーって誰なの?」
「移動しながら説明するよ。ムドーは…」
「なあ、ミレーユ。その鞭でいいのかよ?」
「ええ。あくまでも魔法使いや僧侶にとって武器は補助のようなものよ」
レックが説明している間、ハッサンはミレーユに武器屋で購入した蛇皮の鞭を渡す。
そして、自身は新たに購入した鋼鉄のアームガードを装備する。
「ふーん、そのムドーのせいでみんな大変な思いをしてるってことね?」
「うん。だから、王様はラーの鏡を求めているんだ。けど…」
「問題はここからどのようにして上のレイドックへ戻るかじゃな?」
「はい…って!!?」
聞き覚えのある、その場にいるはずのない人物の言葉にびっくりしながら、レックは後ろを向く。
そこにはグランマーズの姿があった。
「えーーーー!?」
「ん?誰??」
「お、おばあちゃん!?」
「ホッホッホ、その娘が新しく仲間になったバーバラじゃね?儂はグランマーズ、夢占い師じゃ」
「すっごーい…なんであたしの名前を??」
「秘密じゃよ。レック、ラーの鏡が手に入ったようじゃの」
「はい。これです」
袋からラーの鏡を取り出し、グランマーズに見せる。
「それで…鏡で空をうつしてみたことはあるかね?」
「空を…?」
「そろそろこの世界について教えたほうがいいじゃろう…。さあ、鏡を見るんじゃ」
グランマーズの言うとおり、4人は鏡に映る光景を見る。
それを見て、ミレーユ以外の全員が絶句する。
映っているのは空ではなく、大陸と海、そして町や城、村だったからだ。
「驚くのも無理はないじゃろうな…。さあて、別の場所で話すとするかのぉ…」
数時間後、レック達はダーマ神殿廃墟の前に移動していた。
グランマーズとミレーユが周囲に聖水をまき、魔物を寄せ付けないようにする。
準備を整えると、グランマーズが再び話し始める。
「さあて…さっきお主らが鏡で見たもの…それが夢の世界。お主らがいた世界じゃ」
「夢の…世界??」
「なんだよ、夢の世界って??」
「夢の世界は人々の強い願いや想い、希望が具現化した世界。そして、今立っているこの場所こそが現実の世界じゃ…」
グランマーズの言葉にレック達がショックを受ける。
無理もない、自分たちがいた世界が現実の世界ではないと言われればだれでもそうなるだろう。
「で、でもよ!?夢の世界つったって…」
「普通に生活が営まれているというのじゃろう?そのとおりじゃ、その世界であっても生き死には存在し、自然の摂理も存在する。ただ、人の想いが生んだというだけの違いしかない世界じゃ」
「なんだかロマンチックな世界…」
「本当ならばもっと教えたいところじゃが、今ここで教えている時間はないのぉ。少し待つが良い…」
グランマーズが鏡に手を当てると、静かに瞑想をする。
すると鏡の表面に数多くの七色の魔法陣が生まれ、数秒経つと強い光を放ち始めた。
「な、何々!?何が起こってるの??」
「グランマーズさん…一体何を!?」
「鏡に魔力を与えたのじゃ。これでお主らはこの世界と夢の世界の接点で鏡に祈ると、別の世界へ行き来することができる…。1つ目の接点は…このダーマ神殿じゃ!」
「せ、接点…!?」
「2つの世界がつながる場所じゃ。さあ、夢の世界でやるべきことをやるのじゃ!!」
光がさらに増していき、レック達の視界が真っ白になっていく。
光が消えると、そこは夜の森の中だった。
「ここは…?」
「うわぁー…もう夜だよ。私達、ダーマ神殿の前にいたはずじゃ…」
「なあ、レック!!この穴を見ろよ!!」
ハッサンが大穴を指さす。
「この大穴って…俺たちが落ちた…」
「ってことは、やっぱりこの穴は元々ダーマ神殿だった場所だな…」
大穴から見えるのは落ちたときと同じ光景。
そして、落ちて到着したのは既に廃墟となったダーマ神殿。
更にはこことダーマ神殿が2つの世界の接点。
大穴にこれほどの奇妙なつながりがあるとは…。
「おーい、レックー、ハッサーン!早く行こーよー!ここからレイドックまでどこへいけばいーのかあたしたちには分からないよー!」
出発の準備を終えたバーバラが穴を見つめる2人に声をかける。
ラーの鏡はミレーユがすでに袋に入れている。
「考えてもしょうがねえか…行こうぜ、レック」
「…。ああ、今は穴よりもラーの鏡だ」
2人は穴に背を向けると、バーバラとミレーユに合流する。
ラーの鏡がレイドック王の手に渡るとき、4人にもたらされる新たな冒険とは…?