ナノハなの!   作:すどうりな

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『5』


No.8 ロストロギア

 

 

 「で、何をコソコソやっていたのか説明くらいはしてくれるんでしょうね?」

 

 「.......はい」

 

 鬼がいた。 ゴゴゴッと地響きが聞こえてきそうなくらい迫力のある形相だった。 頭から生えている角は天を貫くように雄々しく、恐ろしい。

 

 .......勿論比喩である。

 

 目の前にいるのは私の姉、アリサ・バニングスである。 まるで天使のような笑顔で私の事を見つめているのだが.......よく見れば顔の筋肉はひきつっていて無理をして作った笑顔だというのが嫌でも解った。

 

 ≪鬼というより爆弾ですね≫

 

 「..............」

 

 爆弾に点火した(レイジングハート)を目の前にいる彼女に献上する。 アリサちゃんは変わらない笑顔で此方を見たままレイジングハートを自身の後ろにあるゴミ箱に投げ入れた。 

 一切後ろを見ていないにも関わらず見事にゴミ箱へレイジングハートが吸い込まれる、カコンと音が響くあたりどうやら空のゴミ箱だったようだ。

 

 「昨日の夜、貴女達は何をしていたのかしら?」

 

 勿論、昨日アリサちゃんが酔いつぶれている間に何処かに行ってたなんて私は一言も言ってない。 それなのにアリサちゃんが私の行動を知っていたのは難しくともなんとも無い、非常にシンプルな理由だ。

 

 道路が破壊されていたという朝のニュース、夕方まで起きなかった私、心配になったアリサちゃんが鮫島さんに聞いた証言.......私を逃がさない為の包囲網は意図も容易く完成してしまったのだった。

 

 「魔法を使ってオr.......他の魔導師の戦闘を支援しました」

 

 ≪まるで必要なかったようにも思えましたけどね≫

 

 「だって.......魔法の使い方なんてあんまり覚えてなかったんだもん」

 

 ゴミ箱の中から聞こえてきたレイジングハートのグサリとくる突っ込みに気分が沈むが、それどころではなかった事を思い出して再度姿勢を正した。

 

 「戦った? 戦ったって.......誰と戦ったの?」

 

 「えっと、うーん.......なにとだろう? よく見えなかったから」

 

 「ナノハ、貴女ねぇ.......」

 

 アリサちゃんが頭を押さえながら呆れるのを見て私も必死に説明しようと頭を働かせるが、如何せん見ていないものは説明のしようがなかった。 

 お互いに次の言葉を探すまでの僅かな沈黙、アリサちゃんが次の言葉を言おうとして口を開きかけた時に別の音が聞こえた。

 

 ≪ジュエルシードです≫

 

 「レイジングハート?」

 

 「何よ、それ」

 

 アリサちゃんはゴミ箱からレイジングハートを取り出して返答を待つ。 知りたいのはアリサちゃんだけじゃなく私もなのでレイジングハートの方へ意識を集中させた。

 

 ≪ジュエルシードは全部で20以上ある青い宝石のような魔法道具であり、『ロストロギア』と呼ばれる現在では如何なる手段を用いても製造する事の出来ない過去の遺物の一つです。 ロストロギアは総じて特殊な力を有している事が多く、使い方しだいでは災厄を起こす危険物の場合が殆どです≫

 

 「そのじゅえるしーどって言うのも危険物.......戦ったなんて言うくらいだから危険物なのは間違いないわよね」

 

 「でも災厄って言うくらい凄そうな感じはしなかったけど.......」

 

 思い返してみるが災厄などと言う程被害は大きくなかったような気がする。 ニュースで知った被害は道路や家の塀が壊されていた程度.......正直に言うと災厄という言葉は大量の魔力を振り撒いていたオリジナルの方がまだしっくりくる感じがする。 

 

 ≪マスター、あれは謂わば拳銃を撃たずにそのまま投げつけるようなものです。 あれがジュエルシードの持つ特殊な力の全てだとすればただの危険物扱いです.......地球で言うならダイナマイトか何かでしょう≫

 

 「じゃあもし、その拳銃を撃ったとしたらどうなるのかしら?」

 

 ≪願いが叶います≫

 

 「「.......え?」」

 

 ≪ですから、願いが叶います≫

 

 「.......ほんとうに?」

 

 ≪はい、何でも≫

 

 

 まさかの龍玉。 確かにあれと同じような物なら災厄なんて容易く起こせるに違いなかった。 それどころか死者の蘇生や私がレプリカじゃなくなる事だって.......。

 

 ≪と、言っても現状では録な叶え方はされませんよ? 勝手な解釈をして勝手に叶えますから≫

 

 できなさそうだった。

 

 レイジングハートが言うにはジュエルシードが叶える願いはかなり歪んで叶ってしまうようで、例えば子猫が早く大きくなりたいなんて可愛らしい願いをすれば子猫を家のように巨大化させたり、好きな子とずっと一緒にいたいなんて願った日には密閉空間に幽閉されたりと兎に角まともに叶わない傍迷惑な代物だった。 おまけに放っておくと勝手に暴走し始めて一個でも地球が吹きとんじゃうくらい危ない物らしい。

 

 「何時から地球は非常識なファンタジーワールドになっちゃったの.......」

 

 「地球を破壊できちゃいそうな爆弾が20個ね、止める方法は無いのかしら? あとナノハ、ブーメランが頭に刺さってるわよ非常識って言うなら貴女も充分非常識の一つだもの」

 

 「私は普通.......じゃないよね、うん」

 

 そんな魔法やファンタジー世界の爆弾と一緒にされては堪らないと反論要素を探すが全く見つからず逆に肯定するような要素ばかりが見つかってしまう。

 レプリカで魔法少女な元男性.......私が普通の定義に当てはまれば世界はきっとドラゴンとか飛んでても普通な世界に違い無い。

 律儀にも私が話を聞く体勢になるのを待っていたレイジングハートに悪い事をしちゃったと思いつつ再度レイジングハートに意識を向ける。

 

 ≪方法は簡単です、完全な暴走状態になる前に魔法で封印してしまえば問題ありません。 魔法が使える人物は今の所二人、マスターと昨日の魔導師です。 どうしますかマスター?≫

 

 「どうするって.......」

 

 勿論私はやる気に満ち溢れていた。 地球にばらまかれた危険物、それをどうにか出来る数少ない人物の一人に私がいて私は家族の住む場所を守れるのだ、動く理由はあっても動かない理由は無い。

 

 それにあの子に負けたくなかった。 

 

 「やって.......みたいけど.......」

 

 チラリとアリサちゃんの顔色を伺う、なんとなく彼女は猛反対しそうな気がした。 

 昨日夜中に外に出ただけであの顔である、反対されるのは目に見えているようなものだ。

 難しそうな顔をして何かを考えていたアリサちゃんは私の視線に気付くと溜め息をついた。

 

 「駄目.......って言ってもどうせ聞かないんでしょ? 言ってもどうせ抜け出すに決まってるんだから」

 

 「......にゃはは」

 

 指で頬を掻いて誤魔化す。 私の行動パターンなんてアリサちゃんには全部お見通しだったらしい。

 ジト目で私の事を見つめていた彼女はレイジングハートを見つめ直して口を開いた。

 

 「二人って言ったわよねレイジングハート。 .......私が三人目になることは出来ないの?」

 

 「アリサちゃん!?」

 

 三人目、それが意味するのは魔法使いになりたいと言うアリサちゃんの意思だった。 私を止める為にというのは自意識過剰だろうが、自分の住む町を守るために彼女は危ない事をしようとしているのだ。

 レイジングハートの情報通りなら死と隣り合わせのあの戦いに。

 

 ≪答えはYES.......ですが貴女が行おうとしている意味で言うならNOです≫

 

 「貴女みたいな不思議な杖が無いから?」

 

 ≪デバイスが無いのも理由の一つです、しかしデバイスが無くとも魔法の発動は出来ますし難しいですが封印魔法を扱う事もできます。 .......貴女に足りないものは魔法の知識そして経験です、戦闘になった時に庇いきれる程マスターは強くありません≫

 

 「ナノハだって魔法を使った経験は多く無い筈よ、今から頑張ればサポート位なら」

 

 ≪アリサ、貴女とマスターは違います≫

 

 ハッキリとレイジングハートは断言した、反論の余地が無いようにハッキリとだ。 アリサちゃんは何かを堪えるように少しだけ顔を歪ませていたが突然何かに気付いた様な顔に変わって私を見詰めた。

 

 「そういう事ね、ナノハは元々魔法を使う下地があったってわけ。 どうりであの時.......」

 

 ≪.......失言だったみたいですね、すみませんマスター≫

 

 「.......ふぇ?」

 

 何かしら納得のいった顔をしたアリサちゃん、珍しく謝罪をしたレイジングハート、話についていけず呆けた声を出した私。

 

 瞬きするくらい短い間、彼女が寂しそうな雰囲気を纏ったように見えたのは私の考えすぎとそう思うようにした。

 

 

 

 その後も私を半ば置き去りにしたレイジングハートとアリサちゃんの話し合いは夜まで続いた。

 

 結局私がレイジングハートの謝罪の意味を知ることはなく結論を言えばアリサちゃんは戦闘に参加しないもののレイジングハートから魔法に関しての授業を受ける事が決まった。

 

 私はと言うとアリサちゃんが学校に行っている昼間ジュエルシードを探すことになったんだけど.......。

 

 

 「レイジングハート.......私、才能無いのかなぁ」

 

 ≪四個中四敗、戦闘に介入出来たのは一回のみで他は不戦敗.......才能云々より運の無さでしょうね≫

 

 「もう四個も集めてるの.......? あっちは学校にも行ってて時間なら私の方がある筈なのに.......」

 

 ≪オリジナルと遭遇しなかった事を喜びましょう、マスターもまだ会いたいとは思ってはいないでしょう?≫

 

 「それでも.......納得いかないよ、私だって探してるのに」

 

 探し初めてもう何日も経っている、それにも関わらず私は0個あの子は4個と言うのはちょっと納得がいかない。 

 今日だってアリサちゃんとデビットさんに無理を言って夜遅くまでパトロールしているのにも関わらず収穫は0だ.......ここまでくると自分が複製だからではないかと、後ろ向きな考えが頭をよぎる。

 

 ジュエルシードが発動しないという事は誰も被害に逢ってないということ、誰も傷付かないという事は良い事ではあるが何時爆発するかも解らない爆弾が見つからないままでも良いかと言うのとでは話が別だ。

 被害は少なく、それでいて私の近くで発動してくれないかなぁ.......なんて不謹慎な事を願うのも許されるのではないかと少し荒んだ心は思ってしまった。

 

 

 だからだろう.......反応に遅れてしまったのは。

 

 

 完全な油断、私はきっと自分自身の相手が如何に危険な物であるかを正しく認識出来ていなかったのだ。

 

 ≪付近に魔力反応! ジュエルシードです!≫

 

 突然、景色が加速した。 

 

 強い力で足を何かに引っ張られる感覚、ゆっくりと空を飛んでいた筈の私の目の前にはもうすでに茶色い地面が広がっている!

 このままぶつかった場合の未来があまりにも鮮明に映し出され思わず目を瞑った。

 

 「ひっ」 

 

 ≪プロテクション≫

 

 恐怖で硬直した体が思いっきり地面に叩きつけられた!

 衝撃は殆どレイジングハートとバリアジャケットが防いでくれたみたいだけど、それでも肺の中の空気が押し出されるような感覚が私を襲う。

 

 しかし休ませてくれる時間を与えてくれる程、相手は優しくはないらしい。 

 

 「にゃあぁぁ!?」

 

 再び加速する世界に私の口からは大きな悲鳴があがる。

 凄まじい勢いで地面を引き摺られる私の体、自らの足を見てみれば大きな縄がガッチリと私の足に結ばれていてとてもではないが今この状況では外せそうにない。 

 

 パリンと何かが割れる音がした。 同時に車が石垣に突っ込んだような大きな音も聞こえた。

 

 「かひゅ.......っ!」

 

 視界が一瞬だけ黒く染まった、先程体を襲った感覚が何倍にもなって帰ってくる。 砂煙で前が見えないが仮に見えたとしても意味はなかったかもしれない。 身体中が砕かれたように痛く、とてもではないが考えていられなかった。 

 

 ≪マスター! マスター!≫

 

 レイジングハートの声に返事をすることすら辛く感じてしまう程に体が痛む。 つい最近教えてもらったばかりの回復魔法で体を治す.......が、痛みで麻痺した思考では完全な治療は無理だったらしく痛みが体に残った。

 

 ≪マスター!≫

 

 「けほ.......大丈夫.......じゃないけど、聞こえてるよ.......レイジングハート」

 

 レイジングハートをしっかりと握り、正しく杖として支えに使い立ち上がる。 レイジングハートは私が回復魔法を使ったのを察してか鎮痛効果のある魔法でも使ってくれたのだろう、痛みが少しずつ引いていくのがわかった。 

 魔法のデタラメな回復力に我が身の事ではあるが恐ろしく思いながら煙の晴れてきた辺りを見渡した。

 

 「下駄箱.......?」

 

 ≪学校でしょうか? 発動したのが深夜で良かった、昼だと目もあてられなかったでしょう≫

 

 「うん.......代わりに私が危うくミンチになるところだったけどね」

 

 足に結ばれていた縄はもう無く、辺りにも目立った箇所は無い。 .......おかしな箇所と言えば私が通過した筈の外に繋がるドアが閉じてしまっていることだろう。

 

 「お約束.......だよね?」

 

 ≪閉じ込められましたね、気分はホラー映画の主人公ですか? マスター≫

 

 「かなり最悪かな.......」

 

 ドアを調べて見るが開く気配もなく、私達は完全に学校に閉じ込められてしまったようだ。 窓も開けようとするが固くしまっておりディバインシューターでもびくともしない。

 

 

 ≪ジュエルシードが取り付いている本体を探さない事にはどうにもなりませんね.......恐らく電波も通じないでしょう≫

 

 「.......アリサちゃん、心配してるだろうなぁ」

 

 ≪はい、ですがマスター≫

 

 「うん、解ってるよレイジングハート」

 

 教室の方向に進んでいた足を止め、下駄箱の置いてある方向に振り返る。

 レイジングハートを固く握りしめ何時でも魔法を使える態勢に入りソレを睨み付けた。

 

 視線の先.......其処には大量の上履きがゆらゆらと宙に浮いていた。

 

 

 




『No.20』

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