―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
真っ白い空間だ、真っ白い空間に映像が浮いている。
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
壊れたテレビの砂嵐のような映像が流れ、断続的に違う映像を映し出す。
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
―――あなたは■ですか?
それは文章だった。 それは疑問だった。
しかし、何を聞かれているのかは解らなかった。
まるで制限されているかのように都合良く隠された疑問文。
永遠と下に流れ続けていた文章はまるで映画のエンドロールのようにも見えた。
目を.......開ける。
視界には知らない筈の天井が映り込んだ。
私が知らない筈の天井、見たことも無い筈の天井は記憶にある天井で見たこと無い天井だった。
駄目だ、頭が混乱している。
知らない筈で知っている天井を見ている。 .......そうだ、これで良い。 こちらの方が解りやすい。
「つぅ.......」
身体がダルい、まるで高い熱が出ている時のように身体が重い。
ゆっくりとした動きで辺りを見回す。
ここは.......アリサちゃんの部屋だ。
記憶が知っていた。
私は記憶を探りどうしてこうなってしまったのかを思い出す。
確か.......私は.......。
思い出した、雨の中ずぶ濡れで泣いていた所を助けてくれたんだ。 お礼を言わなきゃ。
アリサちゃんにお礼を言わなきゃ。
ゆっくりと毛布を退かし床に立つ、毛布を退けた事で気づけたが服も貸してもらっているらしい。
家に帰ったら洗濯して返さないといけないなと眠気の抜けきれない頭で考えて.......私の思考は停止した。
「い.......え.......?」
歯車が抜け落ちた。 代わりに入れられたのは錆びだらけの鉄塊。 錆びだらけの鉄塊は無理矢理回転し周囲の歯車を傷付け破壊する。 そしてまた新たに錆びだらけの鉄塊が嵌められ、また周りの綺麗な歯車を破壊する。
思い出す。 私が泣いていた理由を。
思い出す。 私がなんなのかを。
「急いで出なきゃ.......」
アリサちゃんに迷惑がかかってしまう、私の事を友人と間違えて助けてくれた彼女に迷惑をかけてしまう。
書き置きでも残して置こうかと思ったがやめた、彼女を余計に混乱させてしまうだけだと思ったから。
それに、紙やらペンやら探している最中に見つかってしまっては元もこもない。
アリサちゃんにはかわいそうかも知れないけど狐に化かされたと思って貰おう。
「杖が無い.......!?」
喋る機械的なあの杖が消えていた。 前に道路に叩きつけてしまったから拗ねて何処かに行ってしまったのだろうか?
否、アリサちゃんがちゃんと保管してくれているのだろう。 あの時は混乱してつい当たってしまったがアレは今や私の唯一の所有物だ、無くして良い物じゃない。
それにアレがないと■■が使えない。
とりあえず部屋をよく見回してみたが此処には無いようだ。 プライバシーを侵害する気は無いのでクローゼットの中は確認していないがまぁ大丈夫だろう。
部屋を出て杖と出口を探す。
1、2、3、4、5.......。
無い無い無い無い何処にも無い。
ここまで探しても無いと言うことは、杖は後日返して貰うしかない。 暫くの間は此処に置かせて貰おう。
杖はアリサちゃんがいない昼間、学校の時間を狙えば良い。 .......この容姿だ、彼女さえいなければどうとでもなる。
探す対象が杖から玄関、出口に切り替わる。
.......みつけた!
玄関は比較的早く見つかった。 そして杖も。
杖は玄関の壁に立て掛けてあった、私が何時起きても良いように解りやすい位置に置いていてくれたのだろうか? 私は急いで杖に駆け寄りその手にとる。
取ろうと.......した。
「おはよう、なのは。 .......こんな真夜中に何処に行く気なのかしら?」
手に取ろうとした時に響いた声、振り向けば彼女の不機嫌そうな顔を隠そうともせずに此方を見ていた。
「アリサ.......ちゃん」
彼女は固まって動けない私を後ろからゆっくりとした足取りで追い抜き、杖を手にとる。
右手で取った杖を左手に当てわざと音を鳴らし始めた。
「そ、その.......ありがとう。 えっと.......」
思い出したかのようにお礼を言うが言葉に詰まりすぐに何も言えなくなってしまった。
「お礼は良いわよ、それより私の質問に答えて。 何処に行く気だったの?」
「家に帰ろうと......」
「嘘ね」
ドキリとした。 言い当てられた事に、なんのためらいも無く確信を持った声で。
「嘘じゃ.......」
「それも嘘。 いや、嘘じゃないのかも知れないわね。 少なくとも貴女にとっては」
彼女が何を言っているのか解らなかった、それ以上考える事を頭が拒絶していた。
バレている.......バレているバレているバレているバレている。
バレテイル。
「っ!」
「鮫島!!」
気付けば玄関の扉を開けた所で捕まっていた。
開けた記憶すらない扉、身体が反射的に動いていたのだろう。 鮫島さんに後ろから捕まり身動きが全くとれない。
「ゆっくり、お話聞かせてもらえるわよね?
なのはに似た誰かさん?」
◆◆◆
なのはに似た誰かは今、目の前で項垂れていた。
その様子は死刑を待つ罪人のようにも見える。
目は虚ろで何処を見ているのか解らない。
「.......それは本当の事、なのよね?」
コクリと頷く彼女.......嘘を言っているようには見えなかった。
彼女の話は正直言って信じられる内容では無かった。
彼女の話を纏めれば
目の前にいる私の友達に似た容姿をもつ彼女は本当は男の人で。
此処とは別の場所に住んでいて。
いつの間にか『高町なのは』の容姿と記憶を持っている。
.......何の冗談だ。
記憶云々に関してはやや穴だらけの記憶だったが、間違い無く私と彼女だけ(正確にはあと一人)しか知らない事を知っていた。
彼女.......この場合は彼と言った方が良いのだろうか? 彼の住んでいた住所だが、鮫島に調べてもらった結果存在すらしてない。
最後に、目の前の彼女がなのは本人である可能性は先程すずかの電話に出てしまった事で私自身が否定してしまっていた。
嘘をついているにしろついていないにしろ、彼女は間違いなくなのはの容姿を持ちなのはの記憶を知っている。 そのことだけは間違い無い事実だ。
「信じられる信じられない以前に事実は事実.......でも有り得る筈無いでしょう.......」
「.......」
彼女は沈黙していた。 此方の言葉を聞いているのかも怪しい。 .......もっとも彼女に起こった体験が事実なら仕方の無い事だろうが。
≪残念な事ですが、全て事実です。 マスターは『高町なのは』の完全なレプリカ、疑うようでしたらDNA鑑定をして下さっても構いません≫
「疑ってるのは貴女のマスターじゃなくてこれが夢か現実か、という所なんだけど喋るステッキさん」
現実か夢か、私が一番疑っているのは其処だ。
なのはが二人いるというだけで現実味の薄い夢のような出来事だと言うのに今喋ったコイツが更に現実味を薄くさせる要因になっていた。
彼女の説明足らずな言葉を補足するために話始めたらしいがかえって現実味が薄れる結果になったのは皮肉な話だ。
確かに彼女の置かれている状況は正確に理解出来たが、まさか今度は自分の正気を疑う事になろうとは正しく夢にも思わなかった。
≪正確には『デバイス』です。 『魔力』を現象として現せる『魔法』、それを行使しようとする持ち主の補助を.......≫
「あー! わかってるから! 大丈夫、何回も言わなくてもバッチリだから!」
先ほどからこれである。 『魔法』だの『魔力』だの言われても解らないし余計に混乱するだけだ。
まぁ、全部魔法とやらのせいにすれば納得は出来るかも知れないが。
彼女はこれ以上話そうとはせず、私もどうしたら良いのか解らない。
部屋には静寂が満ちていた。
「あの.......私やっぱり出ていきます......。 これ以上迷惑をかける訳には.......」
静寂を破ったのは彼女だ。
席を立った彼女はそのままフラフラと玄関の方へ向かって歩いていく。
立った瞬間に見えた彼女の申し訳なさそうな、今にも泣きそうな顔。
それが、なんだか無性に気に食わなかった。
「待ちなさいよ、出ていって何処に行く気?」
「それは.......」
その表情が行動が無性に気に食わない。
ただ、何故気に食わないかは解らなかった。
「行く宛なんて無いんでしょ、それとも何? 存在すらしてない自分の家にでも行く気?」
彼女の目の前に立ち、じっと顔を見つめる。
それで、納得した。
そっくりなんだ。 顔だけじゃない、その表情が。 何かを抱え込んで、一人で悩んでいる時の
「これ以上.......迷惑を.......」
そして、誰にも頼ろうとしない所までそっくりだ。
「ああもう! めんどくさいわね! 迷惑?出ていかれた方が遥かに迷惑なの! それで明日のニュースにでも出てこられたら後味悪すぎるのよ!」
「で、でも.......」
「でもも何もない!」
私の中でもう決意は決まっていた。
この娘は普通じゃない、この娘は知り合いですらなかった、おまけにこの娘はなのはじゃない。
それがどうしたというのか。
「私の家にいなさい! 戸籍?住む場所? なによそれくらい、私がなんとかしてあげるわよ!」
何て自分勝手なんだと私も思う。 人の事を勝手に縛り付けて、上から目線でものを言って。
でも、それでも。
この娘を放っておく何て選択肢は私には初めから存在していなかった。
「だからアンタは大船に乗ったつもりでいなさい! 良いわね! ナノハ!」
それから一瞬の間があり、『ナノハ』は泣き出してしまう。
泣いている理由も解らず、鮫島に聞こうとしても彼も何故か涙ぐんでいて私は暫くどうしたら良いか解らなくなってしまった。
.......私の顔ってそんなに恐いのかしら。
『No.0』
※10月8日16時5分修正