ナノハなの!   作:すどうりな

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『7』


No.11 魔法鏡な彼女達

 

 

 「やっと........みつけた」

 

 身体が震える。

 ........何も今じゃなくても良かったじゃないと心のなかで呟いた。

 

 同じ声だ。 同じ身長........同じ顔に同じ様な服、魔法の力だって、多分同じ物。

 

 「えっと........この前、町中と学校で会ったよね? 私の名前は........」

 

 「高町なのは」

 

 目を閉じて俯いたまま、ゆっくりと振り返る。 ゆっくりとしか振り返れない。 なんと言われるのか怖かったのもあるし、私が何を言ってしまうか解らないのも怖かった。

 

 一番怖いのは私と同じ顔を見るのが怖かった。

 

 「高町なのは、9才、小学三年生。 高町家の次女で将来の夢は考え中........一応翠屋を継ごうと曖昧に考えている。 苦手な物は運動........得意な物は理数系........最近魔法も使える様になったんだよね?」

 

 頭の中で冷静な部分が私の行動を不正解だと非難するけど........口が止まらない。

 

 喋っている間は彼女の言葉を聞かずに済む様な気がして、私は振り返ってからも目を開けるまでずっと口を動かした。

 

 「すごいね........私とおんなじだ........」

 

 「わた........し?」

 

 顔を上げ、目を開けた。 

 

 対面にいた彼女の顔は驚きで固まっていた。

 目を見開き、信じられない物を見たような顔をしている。

 

 やっぱり同じだ。 同じ身長に同じ声、同じ顔に........本当に何もかも同じだ。

 

 違いと言えば防護服(バリアジャケット)(レイジングハート)........あっちの方が機械的で格好良くて、何だか『上』の様な気がする。

 

 ........それが何だか、無性にムカついた。

 

 嫉妬だ、解ってる。

 理不尽だ、解ってる。 

 

 (なのは)と同じ顔の癖に私と違う彼女に。

 

 (なのは)と同じ声の癖に私と違う彼女に。

 

 (なのは)と同じ身体の癖に彼女(本物)に成れない私に。

 

 何だか、ムカついた。

 

 

 「なのはが........二人?」

 

 完全に意識の外にいたフェレットが口を開いて喋りだした。 ........というか何時からいたのか。

 

 喋るフェレットなんて言う非現実的な物を見て驚きかけるがギュッと手を握り締めて我慢する。 

 (彼女)の前で弱みを見せたくなかった。

 

 魔法少女物で言うマスコットか何かだろう、きっとアレが(なのは)魔法(よけいなこと)を教えたに違いない。

 

 突然、フェレットが後退りした。 

 

 此方を凝視して怯える様に後退りしたフェレットを見て不思議に思ったが........どうやら私は彼を睨み付けていた様だった。

 

 フェレットから再びなのはに視点を戻す。

 

 「........競争しよう?」

 

 「........え?」

 

 少し警戒するような彼女に今封印したNo.20とレイジングハートから取り出したNo.10を見せる。

 

 「うん、競争。 どっちがジュエルシードを速く、多く集めれるかって競争。 あなたは4つ、私は2つ........絶対追い抜いて見せるから」

 

 競争だ、負けたくない競争。

 

 転移魔法に魔力を注ぎ込む、あとほんの数秒で起動するという所で彼女が口を開いた。

 

 「あのっ........あなたの名前は........?」

 

 何でもない言葉、私も似たような状況だったら言うであろう言葉が何だか私の心を苛つかせて........。

 

 「........あなたが一番、良く知ってるよね?」

 

 本当に、大人気のない事を言ってしまった。

 

 

 

 

 転移魔法を起動させて跳んだのはアリサちゃんの近くだった。

 危なくない様に三人で道の端まで移動して鮫島さんの車を待つ。

 

 どんな風に私の事を説明してくれたのかは解らないけどきっとアリサちゃんなら一番良い説明をしてくれたに違いない。

 家に着くまでの間、会話が全く無かったのだって聞く事が無いくらいしっかりとした説明だったからに違いないのだ。

 

 「明日、すずかともう一度会う事になったから。  ねぇ........何かあった?」

 

 心配そうにこっちを見つめるアリサちゃん。

 

 ジュエルシードを集める競争をすることになったと素直に話す........勿論、相手をボカシてだ。

 

 アリサちゃんはそれだけ聞くと、そう........とだけ呟き目を伏せて何も言わなくなってしまった。 

 

 

 車が家に着くと同時に事情を説明して空へと舞い上がる。 勿論、ジュエルシードを探す為だ。

 

 家の周辺を重点的に........いや、家の近くに絶対にジュエルシードが無いと断言できる位血眼になって探す。

 

 ≪........マスター≫

 

 「........なに?」

 

 大量のサーチャーから送られてくる情報を必死に処理している中でレイジングハートの声が聞こえ、ついついぶっきらぼうに返事を返してしまう。

 

 ≪マスターが今必死になって家の近くを探しているのはアリサに危険が及ばない様にする為ですか? それとも――――

 

 ――――オリジナルに負けたくないからですか?≫

 

 

 「........アリサちゃんの為に決まってるよ」

 

 

 そうですか........とだけ呟いてレイジングハートは沈黙する。

 

 結局、その日にジュエルシードが見付かる事はなく、私の気持ちは晴れないままベッドに入った........。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 「やっと........みつけた」

 

 息を切らせてその建物の屋上に降りた。

 

 屋上にはあの娘がいた。 今までは遠くからしか見てなかったけどやっぱり似ている。 

 私と同じ白を基調としたバリアジャケットに同じくらいの背丈、レイジングハートとそっくりなデバイス........うん、あの娘だ。

 

 私が初めてユーノ君やレイジングハートと会ったあの日、まだ何も解ってなかった私を陰ながらサポートしてくれたあの娘だ。

 

 深夜に発動したジュエルシード、初動が遅れてしまった私達に代わって被害が大きくなる前に封印してくれたあの娘だ。

 

 今だってそう、本当だったら私が防げた筈の被害........私に代わってこの娘が封印してくれたんだ。

 

 会ってお礼を言いたかった。

 

 レイジングハートもユーノ君も注意した方が良い、共通点が有りすぎる何て言うけれどそんなの簡単な答え、きっと同じ学校に通ってる誰かなんだと思う。

 

 何故なら私のバリアジャケットは学校の制服を元に作り出した物だからだ。 似ているバリアジャケットがあったとしても、それはきっとあの娘も同じ制服を元に作り出したからで説明がつく。

 

 同じ学校、同じ学年だったらバリアジャケットも身長も似たような感じになることは珍しく無い筈だ。

 

 レイジングハートと同じ様な姿のデバイスを持ってるのは解らないけど、それだってきっと大した理由じゃない........。

 

「えっと........この前、町中と学校で会ったよね? 私の名前は........」

 

 「高町なのは」

 

 やっぱり同じ学校の人だったんだと安心する。 

 私の知ってる人だと良いな、なんて事を考えながらゆっくりと振り返る彼女を見ていて........思考が止まった。

 

 「高町なのは、9才、小学三年生。 高町家の次女で将来の夢は考え中........一応翠屋を継ごうと曖昧に考えている。 苦手な物は運動........得意な物は理数系........最近魔法も使える様になったんだよね?」

 

 だってその顔は私の本当に........アリサちゃんやすずかちゃんよりも見たことのある本当に本当に誰よりも知っている顔だったんだから。

 

 「すごいね........私とおんなじだ........」

 

 「わた........し?」

 

 私が居た。 比喩じゃない、鏡でもない、私が居た。

 目、眉、鼻、口、輪郭、髪........私と全く同じ(だれか)が居た。 声だって良く聞けば留守電に入った自分の声そっくりで違い何てそう、バリアジャケットとレイジングハートの装飾ぐらいしかない私がいたのだ。

 

 「なのはが........二人?」

 

 ユーノ君がそう言ってしまうのも仕方ない事だと思う。 だって私の目で見てもおんなじなんだから他の人に区別なんてつく筈がない。 共通点が有りすぎるなんてものじゃない........共通点しか無いのだ。

 

 「........競争しよう?」

 

 「........え?」

 

 おんなじ顔のあの娘が口を開いた。

 私は何の事かさっぱり解らなかったけどあの娘が今封印したジュエルシード、そして多分学校のジュエルシード........二つのジュエルシードを私に見せながら言った言葉で漸く解る。

 

 「うん、競争。 どっちがジュエルシードを速く、多く集めれるかって競争。 あなたは4つ、私は2つ........絶対追い抜いて見せるから」

 

 突然、彼女の足元が光を放った。 桜色の........私とおんなじ魔力の光。

 転移魔法、レイジングハートが教えてくれたソレは私がまだ知らない魔法だったけど何が起こるかは名前で解る。

 

 「あのっ........あなたの名前は........?」

 

 急いで口から出た言葉はそんな言葉。 なんでジュエルシードを集めるの? だとか、どうして私とおんなじ顔をしているの? という質問じゃなかった。

 

 後になって考えれば友達になりたかったんだと思う。

 友達になって、教えて欲しかったんだと思う。

 

 

 「........あなたが一番、良く知ってるよね?」

 

 

 どうしてそんなに怒っているようで辛そうな、悲しそうな顔をしているのかって........教えて欲しかったんだと思う。

 

 

 

 「なのはってさ........双子とか、生き別れの姉妹みたいなのっていないよね?」

 

 「うん、いないと思う........居たら一番に話してるよ」

 

 「そうだよね........仮にそうだったとしても説明がつかない」

 

 その日の夜、ユーノ君が深刻そうに今日の事について聞いてきた。 予想通り........でもなく、私の中では帰り道とかお風呂とか、もっと早く聞いてくると考えてたんだけど........その間はずーっとレイジングハートとお話ししてたみたい。

 

 「レイジングハート、間違いないんだよね?」

 

 ≪はい。 今までのデータ、そして今日、何度照らし合わせて見ても結果は同じです........こんな事は有り得ない筈なのですが≫

 

 「僕もそう思う........流石に此処まで同じだと揃って強力な幻覚魔法か何かを掛けられてるって考えたくなるよ」

 

 解らなかった、今日会った彼女の事を話してるんだろう........という事は解る。 でも同じ姿をしているだけでそんなに深刻な話になる様なものなのだろうか?

 

 「........ユーノ君? 確かに私とそっくりな娘だったけど........そこまで深刻になる事なのかな。 世界には同じ顔が三人はいるって言うし、変身魔法みたいなのだってあるんだよね........?」

 

 「違うよなのは。 僕達がしてるのは見た目がそっくりだったって話だけじゃないんだ........勿論見た目がそっくりだった事もあるんだけど」

 

 「........?」

 

 「なのはには魔力光何かの説明がまだだったよね? 魔力は人によって違いがあるんだ、一番解りやすいのは光かな? DNAや指紋、声紋っていう感じに魔力っていうのは人によって違うんだ........違う筈なんだ。 でも、なのはとあの娘の魔力は全くの同一だったんだよ」

 

 ........頭がこんがらがってきた、それはつまり。

 

 「えっと........要するにあの娘と私の魔力が一緒なのは可笑しいって事なんだよね? つまり、私が知らないだけであの娘は私の双子だったって事?」

 

 それは確かに深刻な話だ。

 ........主に私の家庭的な意味で。

 つい最近お父さんも退院してきてやっと落ちついてきたっていうのに........なんだか重い話しになりそう。 

 

 ≪いいえマスター、どんなに遺伝子が同じだろうと其所には絶対にズレが存在する筈なんです。 例え彼女とマスターが一卵性双生児だったとしても有り得ない筈なんです、全く同じ魔力という事は有り得ない事........()()使()()()()()()魔法では、魔法の常識では有り得ない事なんです≫

 

 「ねぇ、なのは........明日なのはの家族や友達に、なのはと親しい人に聞いてみてくれないかな? ジュエルシードの事について」

 

 「それって........」

 

 

 

 「うん........彼女はジュエルシードが誰かの願いを叶えた結果生まれた........」

 

 

 ――――思念体の可能性がある。

 

 思念体........私には今まで封印してきたソレと、あの娘が頭の中ではどうしても重ならなかった........。

 

 

 

 




『No.10』

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