ナノハなの!   作:すどうりな

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『7』


No.10 不運と不運

 

 

 キツネの仮面がクルクルと回って地面に落ちる。

 紙一重で直撃するのを防げた巨大な木の根を攻撃魔法で弾きつつ防御魔法を発動させた。

 咄嗟に展開した防御魔法(プロテクション)は私()を覆うように広範囲に展開されていて続く第二波を危なげながら受け流す。

 

 不意を突く形で押し寄せた津波の様な根に即席の防御魔法に罅が入る。 質量が大き過ぎるのだ、とてもではないが今の防御では不十分。

 

 無理矢理魔力の出力を上げて罅を修復する、爆発的に上がった魔力の放出量に気持ち悪くなってしまう。

 

 貫かれる訳にはいかない.......私の後ろには彼女達がいるのだ。

 

 一人は私の姉であるアリサ・バニングス。

 

 そしてもう一人は―――

 

 「なのは.......ちゃん?」

 

 ―――月村すずか、今日出来た新しい友達だった。

 

 

 

 

 

 

 ......もうそろそろ限界かもしれない。

 

 私が朝食の時に考えたのはそんな事だった。

 

 ナノハが私の妹になって暫く経ったが、もう何時バレても可笑しくない状況に陥ってしまっている。

 理由は私もナノハも隠し通すには余りにも迂闊過ぎたからだ。 

 

 いくら調子が悪かったとは言えナノハの名前を学校で出してしまった私に魔法という便利な物があるが街中を動き回っているナノハ。 おまけにナノハがよく遭遇しているらしい魔導士は恐らく.......。

 

 隠している秘密は簡単に言えば、私の妹は私の親友である高町なのはと瓜二つの容姿をしているという事だ。

 

 私の妹『ナノハ・バニングス』は『高町なのは』のレプリカであるという真実はバレないだろう、しかし同じ顔同じ声を持つ者が二人いるというのは少なからず周囲に混乱を招く。

 

 混乱を招いてしまえば悲しむのはナノハだ、あの子はきっと責任を感じてしまうだろうに違いない。

 私のせいで.......なんて言いながら部屋の隅で踞って泣いてそうだ。

 ナノハも何時かはバラすつもりなのだろうが、今の所バラすよりもバレる方が遥かに早そうだった。

 

 どうすれば良いのか.......私はナノハの意見も聞こうと下ばかり見ていた視線を上に向ける。

 

 

 「あむ.......あむあむ」

 

 今ナノハは目の前で眠たそうにカクンカクンと頭を揺らしながら朝食を食べていた。 目は開ききっておらずそのまま横に寝かせればきっとスヤスヤと眠りはじめてしまうだろう。

 

 色々とあんまりな光景にクスリと小さく笑ってしまう.......難しく考え過ぎたのかも知れない。

 

 バレない事は非常に難しいがバレた時の混乱を小さくする事は簡単だろう。

 

 「ねぇ、ナノハ。 今日って予定空いてる?」

 

 思い立ったが吉日、私は目の前でうつらうつらとしている妹を親友達に紹介するために行動を開始し始めた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 「そういえばナノハちゃん最近この辺に引っ越してきたんだよね? アリサちゃんの妹って聞いたんだけど........」

 

 「う、うん。 えっと.......物心ついた時からその.......あー」

 

 「私が今よりもっと小さかった頃にお父さんとお母さんが施設から引き取ったのよ。 つい最近まではお母さんと一緒に外国にいたんだけど仕事が忙しくなってきちゃったみたいで此方に来ることになったの」

 

 「そう.......なんだ、ごめんなさい。 変なこと聞いちゃって.......」

 

 「大丈夫よ、ナノハはそう言う事を気にする子じゃないもの。 それに血は繋がってないけどナノハは正真正銘私の妹だもの.......ね? ナノハ」

 

 「えっ!? あ.......うん! .......あはははは」

 

 

 .......どうしてこうなった?

 

 朝、微睡む思考の中でアリサちゃんが何かを話していたのは覚えている。

 何を言っていたのかは解らないがアリサちゃんが私のために何かをしようとしてくれているのは何となく感じ取れたので安心しきっていたのだ。

 

 今、私はアリサちゃんを間に挟み問題の彼女と一緒に町中を歩いていた。

 

 『月村すずか』........すずかちゃんもアリサちゃんと同じオリジナル(なのは)の親友だ。 私の正体が一番バレやすい人物の一人でもあり、私は緊張しっぱなしだった。

 

 更に言えば此処はオリジナルの記憶でも見たことのある場所、彼女と鉢合わせしなくても彼女の知り合いと会う可能性も高くて........私の頭の中はいっぱいいっぱいなのだ。

 

 「あ、アリサちゃん? 今から行く所ってどんな場所なの? 私あんまり話を聞いてなくて........」

 

 「そうねぇ........甘いスイーツが食べれる喫茶店かしら? 有名な」

 

 「きっ!? 喫茶店!?」

 

 喫茶店、そして有名な。 この二つのキーワードが一致するお店を想像して身体が震えた。

 

 『翠屋』かもしれない。

 

 そこそこ有名で、甘いスイーツを売っている喫茶店........そして高町家(なのはの家族)が経営している喫茶店だ。

 

 思わず後ろに下がり........下がれない! 自分の腕を見ればアリサちゃんが良い笑顔で私の手首(・・)を握っていた。 

 

 ――――『翠屋』だ、間違いなく!

 

 私の行動を見て心配に思ったのか、すずかちゃんが喫茶店は嫌だった?と私の顔色を伺う様に聞いてくる。

 アソコに行かれては堪らない、別の場所にして貰えないかと私が口を開く前にアリサちゃんが最もらしい言い訳を言ってしまい結局行き先は変わらなかったのだった。

 

 

 ........まぁ、冷静に考えればそんな事は無いと解る筈なんだけど。

 

 「ね? 有名な喫茶店でしょ?」

 

 私の反応がそんなに面白かったのかクスクス笑いながらそう言ったアリサちゃんを見てお面の下の顔が真っ赤になる。 

 確かに有名な喫茶店らしい。 アリサちゃんが予約してくれなかったら座れなかったと思える位にはお客さんも沢山いる。 

 

 からかわれたと解り、若干納得のいかない顔でアリサちゃんを見つめているが面越しのせいか効果はないようだ。

 すずかちゃんはそんな私達を見て不思議そうに首を傾げていたが、私に笑いながら謝るアリサちゃんの様子を見て安心したのか微笑んでいた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 「アリサちゃん酷いんだよ? 嫌がる私を無視して色んな服を着せようとしてくるんだもん」 

 

 「それはナノハちゃんの事を大事に思ってる証拠だと思うな。 だってナノハちゃんと一緒にいると本当に楽しそうにしてるよアリサちゃん」

 

 「それは........解ってるんだけど........恥ずかしいかなぁって」

 

 ニコニコと微笑みながら私の話を聞いてくれるすずかちゃんに何時の間にかすずかちゃんと話していた私。

 これが女の子のコミュニケーション能力なのかな? 自分でもびっくりする位会話が弾んでいた。

 

 「学校でも一回大変だった事があってね? 私達の通ってる学校になのはちゃんって言うナノハちゃんと同じ名前の子がいるんだけど........」

 

 「ストップ! 人が席を外している間に何言ってるのかしら、すずか?」

 

 「ナノハちゃんの知らないアリサちゃんの学校生活........かな?」

 

 「言わなくて良いの、そんな事は。 ナノハの中の私のイメージが崩れたらどうしてくれるのよ」

 

 「私はちょっと聞いてみたかったなぁ........なんて」

 

 ムッとした顔になったアリサちゃんだったけど冗談みたいなモノだったようですぐに機嫌を直してくれる。

 

 ........それにしても。

 

 

 「なんて言うか........奇抜なお店だね」 

 

 内装の事じゃない。 寧ろ内装は綺麗だ、少々可愛らしいぬいぐるみが多く少女趣味かなぁ........なんて思ってはいるが喫茶店なんてそんなモノなのだろう。

 

 ........問題は働いている店員さん達だ。

 

 「ヒャッハー! ご注文はどうなさいますかぁ!? オススメはこの『ふわふわプリンちゃんのロールケーキ』になりますぜぇ!」

 

 「オウ! 今日もお婆ちゃんのお見舞いかい!? 泣かせるじゃねぇか! このロールケーキはサービスだぁ! お婆ちゃんと一緒に食べてくるんだぜぇ!?」

 

 「お手ては消毒だぁ~! 厨房に雑菌一匹持ち込むんじゃねぇぞぉ!!」

 

 ........何と言うか、核爆弾が落ちても平気そうな人達だった。

 

 注文を聞いて回るサングラスモヒカン、厨房で一斉に手を洗い出す厳ついヒラヒラエプロン姿のスキンヘッド........思わず注文を取りに来た店員を二度見した私は悪くない筈だ。

 

 「アリサちゃん........ここ本当に大丈夫なお店?」

 

 「ええ、大丈夫よ。 すずかも何度か来てるし........何たってうちが経営してるお店だもの」

 

 「え?」

 

 この辺りで有名なお店って此処と翠屋くらいしかないものね........と出された紅茶を飲みながら言うアリサちゃんに激しくツッコミをいれたいが再び注文を取りに来たモヒカンさんに防がれる。

 

 「アネキ! ご注文は決まりましたかい!?」

 

 「ええ、『ふわふわプリンちゃんのロールケーキ』三つ頂戴」

 

 「わかりましたぇい!! プリンちゃん三つ入りましたぁ!!」

 

 素早く、それでいて小さな子供に当たらないように去って行ったモヒカンさんを私は苦笑いしながら見ていた。

 

 ........バニングス家って何の仕事をしてるんだろう?

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 「やっぱり美味しかったね、あそこのロールケーキ」

 

 「ふふん、味は翠屋のシュークリームにだって負けないわよ。 ........それよりもナノハ?」

 

 「ふぇ?」

 

 お土産に買ったロールケーキの可愛らしい箱を見ながら店員さんとのギャップが激しいなぁ........と考えていた時に声を掛けられた。

 失礼な事を考えていたのがばれてしまったのか? 笑って誤魔化そうとしてみたがアリサちゃんの顔はムスッとしたままだ。

 

 「何か食べる時位お面を外しなさい」

 

 「え? ........だって、すずかちゃん見てるよ?」

 

 「朝........家を出る前にも話したと思うんだけど本当に聞いて無かった訳ね........」

 

 頭に手を当てて大きくため息をつくアリサちゃん。

 朝........アリサちゃんが何か言っていたかと思い出そうとするがまるで思い出せない。

 私が今日意識がはっきりとしたのはすずかちゃんと合流した時の衝撃で、なのだから。 

 

 「秘密にしておくよりも今から少しずつ話して言った方が混乱されずに済むでしょう? ........車の中でやけに取り乱さないと思ったら、端から頭に入って無かったってことかしら」

 

 「アリサちゃん........? ナノハちゃんがそんなに嫌がるんだったら私別に今日じゃなくても........」

 

 「大丈夫よ、何時かはバレる事なんだから........すずかきっと驚くわよ?」

 

 覚悟を決めるしかないんだろうなぁ........。 既にアリサちゃんの手は私のお面に触れられていて、すずかちゃんは今日じゃなくても良いと言ってはいてくれたが好奇心には勝てないのか興味津々と言った様子で私を見ている。

 

 

 

 せめてもの抵抗と両目を瞑りその時を待っていて――――

 

 

 ――――私は、自らが感じた悪寒を信じアリサちゃんを思い切り突き飛ばした。

 

 ≪マスター!!≫

 

 背後を見れば凄まじい勢いで此方に迫りくる壁としか思えない様な何か。 食事中、すずかちゃんにも突っ込まれた楽器を入れるケースから即座にレイジングハートを取り出した。

 

 「防御魔法(プロテクション)!!」

 

 私の額をかすった何かを押し返す様に、私達を囲むように防御魔法を展開させる。 お面が跳んで行ってしまったが気にする余裕は私には無かった。

 

 暫くしてソレは、津波の様だった根の侵食は止まった。 私は大きく肩で息をしながら根の大元、即ち大樹を睨み付ける。

 

 「アリサちゃん、すずかちゃんをお願い」

 

 「........ええ」

 

 すずかちゃんは今起きた事、私の顔を見てしまった事で軽いパニックに陥ってしまっている様だったが此処はアリサちゃんに任せて私は飛んだ。

 

 ≪........マスター、冷静に≫

 

 「解ってるよ、レイジングハート」

 

 そう、解っている。

 そんな事、言われなくても解っている。

 

 ジュエルシードが発動してしまったのは恐らくただの偶然で、私達が巻き込まれたのも多分偶然。

 誰も悪く無かった、強いて言えば運が悪かった........ううん、違う。

 

 この辺りをしっかり探索してなかった私達が悪かったのだ。

 

 非殺傷設定はちゃんと発動させる、結界だって、封印だってちゃんとする。

 

 だから........だからレイジングハート。

 

 ほんのちょびっとだけ、八つ当たりさせて。

 

 「砲撃魔法、最大出力(ディバインバスター・フルパワー)

 

 目の前で急激に膨れ上がった桜色の光が、根を、幹を、枝を........大樹をまるごと包み込んで、吹き飛ばした。

 

 ≪ジュエルシードNo.10.......封印........≫

 

 

 ........気分は全く晴れない。 

 

 ジュエルシードを発動させた人間は無事だ。 非殺傷設定はちゃんと発動しているし、レイジングハートにも調べてもらった。

 

 大樹と一緒に吹き飛ばした町も大丈夫だ。 結界を解けば町は元に戻るしアリサちゃんもあっちの方向にはいない。

 

 それでも、気分を晴らそうと八つ当たりをしたのに逆に言い様のない罪悪感となって私にのしかかってきた。

 

 近くの屋上に降りたって結界を解く。

 結界を解いても大樹が残した爪痕は無くならない、当然だ、結界を張る前に行った事なんだから。

 

 落ち込みながらレイジングハートに頼んでアリサちゃんの元に帰るための転移魔法を構築する。 

 

 どうやら誰かが言っていたように、嫌なことって続くらしい。

 

 

 「やっと........みつけた」

 

 

 私の背後から聞こえた(なのは)の声に、私はゆっくりと振り返った。

 

 




『No.10』

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