ナノハなの!   作:すどうりな

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『6』


No.9 追いかけられる恐怖

 大きく肩で息を吸う。

 

 

 

 魔法の結界で閉じられた学校.......沢山ある教室の一室に私はいた。 

 閉じない扉をラウンドシールドと呼ばれる魔法の盾で無理矢理塞ぎ、元々教室内に置いてあった机やイスは魔力の鎖チェーンバインドで纏めて雁字搦めにして固定してある。 

 

 端から見れば私の頭が可笑しくなっている様にしか見えない状況だが.......可笑しいのは私じゃない、この学校だ。

 

 「はぁ.......っはぁ.......ホラー映画でももう少し休める時間がある筈なんだけど」

 

 ラウンドシールドの向こう側から金属のぶつかり合う音が聞こえレイジングハートを握る力を強くした。

 息を整えてラウンドシールドに注ぐ魔力を調節し、固く強くする。

 

 ≪.......来ます≫

 

 「ディバインシューター.......」

 

 4つの桜色に光る球体を私の回りに出現させ待機させる。 複数の魔法の同時制御.......まだ私には早いと思ってたけど案外やれば出来るものだ。

 私はラウンドシールドの向こう側、教室から外の廊下を睨み付けた。

 

 桜色に光る球体、ディバインスフィアの展開から数瞬の間があり盛大に音を響かせながらソレは来た。

 

 大量のイス、机、ハサミにカッターナイフが私に突撃しようとシールドにぶち当たる!

 

 「アクセル!!」

 

 雪崩の様に押し寄せてくる凶器達はシールドに遮られ一時的に勢いを無くす。 それを確認したと同時にシールドを解除、スフィアに私の周りを高速で移動させ大量の凶器の中をまるでドリルの様に削り進む!

 

 ≪拘束魔法解除、フライアーフィン発動と同時に加速≫

 

 靴から生えた小さな光の羽で走るよりずっと速く、飛んで移動する。 一気に加速したことで文字通り金属の山から飛び出した私は振り返らずにまっすぐ突き進む。

 

 背後から聞こえるガシャガシャという音に心の中で悲鳴をあげながらもタイミングを見計らい次の魔法を発動させた。

 

 「ラウンドシールド再展開!」

 

 再びシールドという壁に遮られた凶器の雪崩は狙った道理に纏まってくれた。 学校の廊下というのもあって綺麗に直線状に並んでいる。

 

 「ディバイン.......バスター!!」

 

 砲撃魔法、沢山の魔力を直接目標に向けて真っ直ぐ放出するというシンプルなものだからこそ非常に威力が高い.......本当に真っ直ぐしか飛ばないが今それを心配する必要はないだろう。

 

 レイジングハートから溢れだした光。

 

 桜色の眩い光が凶器の山を遮っていたシールドごと消し飛ばした。

 

 「.......ふぅ」

 

 塵すら残っていない綺麗さっぱりな廊下を前にしてようやく私は張り詰めていた緊張の糸を緩めた。

 近くの開けっ放しのドアから教室の中を覗きこむがガランとしていた。 机やイスは先程の凶器の山の中に含まれていたらしく一つも無い。

 

 ≪ジュエルシードの反応は変わらず強いままです、恐らくすぐ近くに≫

 

 「さっきも同じ事を聞いた気がするんだけど.......」

 

 ≪はい、先程と同じ事を言っていますから≫

 

 「近くに近くに.......学校の中は全部近くなんて言わないよね.......レイジングハート?」

 

 ≪はい、本当にすぐ近くにはある筈なんですが.......≫

 

 珍しいレイジングハートの戸惑うような言葉に私の疲労感は強くなっていく。 学校内にある全部の道具が凶器となって襲いかかってくる中で、息を整える時間すら録に取れずにずっと私達は戦っていたのだ。

 今のようにたまに挟む小休止の間に聞けるジュエルシードの手掛かりであるレイジングハートのサーチ情報。 それが全く進展なしとあっては疲労感も溜まるというものだ。

 

 「残りは.......」

 

 ≪理科室ですね≫

 

 「うわぁ.......嫌な予感しかしないよレイジングハート」

 

 怪談でもお約束の理科室。 カエルの標本に人体模型、孵る前の卵の中身の標本に何故あるか解らない大量の足をわしゃわしゃと動かしていたであろうカブトガニの死骸.......今考えたくない場所行きたくない場所第一位だ。

 大量にあるであろう薬品も恐いがそれとは別次元の怖さが理科室にはある。

 

 「夜の怪談物の定番中の定番だよ.......行くの?」

 

 ≪思考まで女子に偏りすぎではありませんか? 男なら覚悟を決めるものです≫

 

 「今は女の子だもん.......」

 

 ディバインバスターをそこら中に発射した方が早く済む気さえしてきた私は下手なクリアリングをしながら暗い校舎の中を進んでいた。 

 暫く進むと見えてきたのは廊下の突き当たりにある理科室、何時標本の蛙が襲いかかってきても良いようにディバインスフィアを自身に追従させて備えた。

 

 カッカッカッ.......。

 

 理科室に進むにつれて奇妙な音が聞こえてきた。

 

 ぺちゃ.......ぺちゃ.......。

 

 水を含んだ何かが地面を叩くような音に体が震える。

 

 「れ、レイジングハートぉぉ.......」

 

 ≪所詮動くだけです、吹き飛ばしてやりましょう≫

 

 動くだけ、動くのは確定しているかのような言い方に私は頭の中でイメージを膨らませてしまい体を大きく震わせる。

 怖さのあまりにレイジングハートを抱き締め理科室を覗きこむ私にレイジングハートは呆れたような言葉を発したがもう聞いていなかった。

 

 ひた、ひた、ひた。

 ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ。

 カッ、カッ、カッ。

 

 理科室の中で生きているように内臓を動かす人体模型が、中身をぶちまけたカエルの標本が、卵の殻を被った生まれる前の雛が、此方をじーっと見ていたからだ。

 

 「いっ.......」

 

 悲鳴を堪えてレイジングハートを構えた私を誉めてやりたい.......震える足を必死に押し留めた私を誉めてやりたい。 標準こそ震え定まっていないが砲撃魔法を撃てば一発のはずだと自身に言い聞かせ魔力をレイジングハートに注ぎ込む。

 

 グニャリと人体模型が表情を変えた、それにつられる様にカエルと雛が口を開く。

 

 

 チョウダイチョウダイ、カラダヲチョウダイ、ナカミヲチョウダイ

 

 

 凄まじい速度で私に近づいてきたソレに私の頭は恐怖一色に染まった。

 

 「ひにゃあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ!?」

 

 注ぎ込んだ魔力を全て霧散させ後ろに跳び跳ねる様に全力疾走した! お化け屋敷が白旗を挙げるような恐怖になりふり構わず学校内を全力疾走する!

 

 階段を駆け下り廊下を飛び回り階段を駆け上がる、途中からレイジングハートが何か言っていた様な気もするがパニック状態になった私にはもう聞こえない。

 

 学校中を十周はして何度かうっかり鉢合わせしてしまいまた叫び、そんなことを繰り返しているうちに何時の間にか人体模型達は私を追いかけなくなっていた。

 

 

 「ひっく.......もうやだぁ」

 

 ≪ジュエルシード反応、変わらず.......流石に可笑しいですね≫

 

 「なにがぁ.......?」

 

 一階にある部屋の一角、涙を流しながらもある程度思考が出来る位に落ち着いた(?)私はレイジングハートの言葉に耳を傾ける。 もうこの状況を覆せれば何でも良かった。

 

 ≪マスターは先程まで学校中を隅から隅まで走り回りました、しかしジュエルシードの反応は衰える事も強まる事もなく完全に一定だったんです.......もしや相手は私達にずっとくっついて来ているのかも知れません≫

 

 「っ!?」

 

 急いで立ち上がり自身のバリアジャケットを手で叩き変なものがついていないかを確かめた。 

 .......先程見たアレに加え、もしバリアジャケットに虫か何かが付いていたら私は再びパニックになる奇妙な自信があった。 注意深く確認して虫処か埃すら付いていない事に安心して息を吐く。

 

 ≪マスター、くっついてきているというのはそう言う事ではありません。 私達の後ろをつけられているかもしれないという事です≫

 

 「じゃあ、今は廊下にいるのかな?」

 

 ≪もしくは近くの教室、真上の二階という可能性も.......≫

 

 「二階と近くにある教室の映像だせる? レイジングハート?」

 

 ≪サーチャー散布.......映像出力開始≫

 

 私の瞳に映し出された映像は前よりも粗くはあったがそれでも見れない程じゃない。 人体模型が三階に上がって行くのを見ないふりをしてジュエルシードの思念体を探す。

 

 廊下にいない、教室にいない、二階にいない.......何処にもいない?

 

 これってもしかして.......。

 

 「.......レイジングハート、サーチャーからもジュエルシードの反応って感知出来る?」

 

 ≪安全を確認できた今なら可能ですが.......何ですかコレは.......? ジュエルシードの反応、全てのサーチャーで同じ強さです≫

 

 「やっぱり! レイジングハート、そのままサーチャーの範囲を広げて行って!」

 

 ≪反応.......変わりません! 全ての階にて同量の反応を感知.......これは一体?≫

 

 「簡単な話!」

 

 私は教室から飛行魔法を使って文字通り飛び出して階段を飛び上がる!

 途中すれ違った人体模型を置き去りに上へ上へ登って行く!

 

 「バスター!!」

 

 砲撃魔法で屋上への道を閉ざす扉をぶち抜き空へ舞い上がった!

 後ろから追いかけてきた人体模型や今まで姿が見えなかった縄をバインドで封じ込める。

 

 「簡単な話だよ、レイジングハート.......ジュエルシードが取り憑いていたのは学校の備品じゃなくて.......学校そのもの!」

 

 ≪なるほど.......復唱して下さい! マスター!≫

 

 標準を学校そのものに向け魔力をレイジングハートに注ぎ込む、学校全部が収まる程の大量の魔力を!

 

 ≪リリカル!マジカル!≫

 

 「リリカル!マジカル!」

 

 危険を察知したのか私の詠唱を阻止しようと学校中のありとあらゆる窓が開け放たれ、其処から決壊したダムの様に縄や奇妙な黒い触手が溢れだしてくるがもう手遅れだった。

 

 張り裂けん程に収束された封印魔法を今、撃ち出す!!

 

 

 「≪ジュエルシードNo.20.......封印!!≫」

 

 

 

 

 

 キラキラとした封印魔法の残滓、桜色の粒子が舞う中、私は学校から少しずつ上昇してきた青い宝石を見ていた.......。

 

 ≪これがジュエルシードです、マスター≫

 

 「きれいだね.......レイジングハート」

 

 うっすらと光を放つジュエルシードは私の周りをクルリと回るとレイジングハートに納まっていく。

 身体が震えた、私が封印した、ジュエルシードを封印したという実感が身体中を駆け巡る。

 

 「~~~っ! やった! やった! やったよ! レイジングハート!」

 

 ≪おめでとうございます、マスター≫

 

 グラウンドに降り立ちぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ、レイジングハートからの祝いの言葉が心地いい。

 

 「レイジングハート! ありがとう! やったよ私!」

 

 ≪マスターお喜びのところすみませんが、後ろを振り向かない様に.......結界の外にオリジナルがいます.......転移魔法を発動して引き離しますが良いですか?≫

 

 「うん! お願いレイジングハート」

 

 オリジナルの事なんて今はどうでも良かった。

 

 体から魔力を抜かれる感覚と共に景色が移り変わる。 家の近くの上空に転移したようで、向こう側に私の家が見えた。 

 きっと私はだらしない顔をしているに違いない、初めての封印だ。 顔がにやけてしまって戻らないのも仕方ない事だろう。

 

 「えへ.......えへへ.......」

 

 ≪マスター.......いえ、何でもありません≫

 

 「ん~? どうしたのレイジングハート?」

 

 ≪水を差すようで悪いのですが.......アリサが≫

 

 「うん! きっと喜んでくれるよね、アリサちゃんも!」

 

 ≪.......あ、これは駄目ですね≫

 

 よく解らない事を言うレイジングハートをほうって置いて私は家の方向へ加速する。 

 ゆっくりと登ってきた太陽がまるで私の事を祝ってくれている様だった。 

 

 家に向かう最中に念話でアリサちゃんに言おうかとも思ったが止めた、こう言うのはきっと本人の前で言った方が良いに違いないからだ。

 

 最高の気分のまま玄関に降り立ちドアを開ける。

 一番に視界に映ったのは金色の綺麗な長い髪の持ち主.......アリサちゃんだった。

 待っていてくれたのだろう、その事にまた嬉しくなってアリサちゃんに今日の出来事を報告する。

 

 「アリサちゃん見てみて! 私、ちゃんと封印できたよ! すごいでしょアリサちゃん!」

 

 ジュエルシードをレイジングハートから取り出してアリサちゃんに見せる。 

 危ないから触っちゃ駄目だよ、とも言ってアリサちゃんにちゃんと見えるように私から近づいた。

 

 アリサちゃんも嬉しいのか肩を震わせていた、感極まって涙を流してくれているのかも知れない。 私はバリアジャケットを解除して家に上がる。

 

 「.......鮫島」

 

 「はい.......がんばって下さい、ナノハお嬢様」

 

 「ふぇ?」

 

 何時の間にか私の後ろに待機していた鮫島さんが玄関を閉め、そのまま扉の前に立った。 

 私は何か嫌な予感を感じて恐る恐るアリサちゃんの顔色を伺う。

 

 笑顔だった、これ以上に無いくらい笑顔だった。

 

 目の下にうっすらと隈を作って微笑む彼女に何故か恐怖を感じた私は何か怒らせる様なことをしたかと少しの間考える。

 直ぐに思い浮かんだのは幸運か不運か、先程の朝日が頭に浮かびハッとした。

 最後に連絡をとったのは何時だったか.......すくなくても何時間も前の事だった気がする。

 

 アリサちゃんから少しずつ距離を離した時にそれは大爆発を起こして私に向かって走り出した。

 

 

 

 「今何時だと思ってるのよ!! バカナノハぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」

 

 「ごめんなさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 

 

 .......当分、夜のパトロールは出来ないかも知れない。

 

 

 

 

 




『No.20』

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