魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
お久しぶりでございます。
ではではよろしくお願いします。
「よくも……よくも我の大事な……」
「王様落ち着いて!? ダメだよ! いつもは僕の方が止められる側なのに、王様冷静になって」
「くっ……だ、ダメだ。すまぬレヴィ……これだけは理屈じゃないのだ! 我はユーリをあんなにしたあやつを許せん!! 許せんのだぁぁああ!! はぁぁぁあああああああああああ!!! 」
「王様!? 」
ディアーチェにとって、ユーリの存在はかけがえのない1人の家族。4年間培い、絆を結んだ大切な存在の1人だった。だからそんな彼女の惨状を目にして、ディアーチェが冷静な状態でいられる方が不思議だった。激昂し、レヴィの制止を振り切りながら策もなしに豹変したウメへ突進する。
彼女の扱う全ての力を行使し、己の全ての魔力を注ぎ込み、彼女はウメへ攻撃を仕掛けた。
「高まれ我が魔力!!! 」
「…………」
「っ!? ヴィヴィオ、下がって!? 巻き込まれるわよ!? 」
「あっ、え? ギ、ギンガさん!? 」
「消え失せろ塵芥ぁぁああああ!! アロンダイト!!! 」
常人より遥かに強大でその膨大な魔力を集中させると不適に睨むウメへ無数の魔力スフィアを叩きつける。それはまるでバレットの嵐のごとく、ウメのいる場所を後からもなく吹き飛ばし始めた。
瓦礫による埃が舞い、やがてその場所を包み込むとウメの姿は完全に見えなくなる。凄まじい攻撃だったため、これでウメが無傷などと考えられなかった。しかしこの時誰1人として理解していない。ウメの今の状態は彼女であって彼女ではない。
元のウメが本来穏やかで誰にでも優しいのに対し、黒く染まった髪のウメはより残忍で攻撃的。そして何より……通常のウメとは比べ物にならない程強い。
他を寄せ付けない圧倒的才能があるが故……彼女はキャロと陸飛の娘であるが故……彼女は現状この時代において
「はぁ……はぁ……思い知ったか塵芥め……っ!? 」
最強と呼んで差し支えない。
「えっへへ、よわ〜い! 」
「なっ、かっ!? (そんな……馬鹿な……傷どころか埃一つとして……)」
「ぁ……うわぁぁああああああ!? 王様ぁぁああああああ!? 」
埃が消えるより先に。ディアーチェがウメを認識するより先に。ディアーチェのみぞにはウメの掌底がめり込んでいた。自分が負けていると認識するよりも、痛みを認識するよりも、何より先にディアーチェの心を折る。
「うぷっ!? 」
「はふふ、もろ〜い。愛殺・気竜流し……逆流血・語り愛」
「はぼっぶっ!? いうっ……ぁ……いづっ!? い、いぎゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? 」
初撃を受け、重力に従うように落ち始めるディアーチェの首を掴み、くるりと彼女の体を自分の方へ向けるとそのまま真下へ叩きつけるように彼女の胸の中心へ掌底を放った。しかも、彼女の体が地面に接触し、その衝撃が逃げないように彼女の胸から最後まで自分の手を離さない。
ここにいる誰もが、レヴィですら聞いたことのないディアーチェの断末魔。全身の血流を逆流させられ、体がバラバラにされるような痛みを彼女は感じていることだろう。しかしそれでもウメが攻撃を緩めることはなかった。地面に横たわり、痙攣しながらグッタリしているディアーチェにウメはその拳を叩き込む。
「ぁ……ぁぁ…………」
「は〜い、死んだ! ……っ!? ……んもうっ! 邪魔しないでよ〜ギンママ〜? 」
「そこまでよ。そこまでにしておきなさい……彼女を殺したら……もう私は絶対に貴方を生かしておかない! 」
「えへへ〜、なにそれ〜? 超笑っちゃう。できるの? ギンママに? 」
ディアーチェを殺そうとしたウメの拳はギンガによって後ろから押さえ込まれた。静かに怒りを燃やしているギンガに比べ、ウメは無邪気な笑みと余裕をギンガへ向ける。
そして次の瞬間、ギンガの手を振り外し、真後ろのギンガのお腹に肘を滑りこますように突き入れた。さっきまでとは比べ物にならないスピード、パワー……何より動きの規則性の無さ。それ故、ギンガはこの一撃を避ける事が出来なかった。
「がはっ!? 」
「ギンママの体硬い〜? あへへ、殴り甲斐あるぅ〜! なっ!? ……うかっ!? ぁ……へ? 」
「愛・殺・拳……《愛殺情砕拳》!!! 」
「うっ!? ……あ、あれ? ギンママ……どうしてなんともないの? どう、うぷっ!? お゛え゛っ!? ……う゛っ、オ゛ろ゛ろ゛ろ゛っ!? 」
ウメの一撃を避けられなかったギンガだが、受けた攻撃でギンガが沈むかは別問題だ。確かにダメージは大きいかもしれないが、ギンガはそれに耐えながら同時に相手のお腹にその拳を突き入れていた。
ここで勘違いしないで貰いたいのはギンガの拳を普通の人間が受けた場合、どんなに鍛えている者だろうとその瞬間膝をつく。胃の中身は全て押し出され、胃液が出なくなるまで嘔吐は止まらない。だからその状態で意識を保っていられるウメは、常人を超えているといっていいだろう。ただ、そんなウメであってもタダでは済まないのがギンガの拳。それだけ考えてみてもギンガの拳の威力がどれだけ常識を超えているか、分かる事だろう。
「うくっ……も、もう諦めて降参しなさい? そしたらもう手荒なことはしない。貴方の事情もちゃんと聞いてあげるから」
「ごほっ!? ごほっ!? ……ふふ、あふふ! はぁ〜あ。ほんっと、ギンママの拳は重いな〜? 内臓飛び出るかと思った。けど〜それは聞けないかな? だって……みんな『あの子』の事泣かせすぎ。私のたった1人の友達を泣かせといて……はいそうですかって……聞けるわけないじゃん。それに……悪いけど、簡単にはギンママといえど勝てないよ? ふふ、お母さんと『あちし』は〜仮にも『同じ同門同士』なんだから〜……フン!! 」
「? ……うっ!? かっ、はっ……そんっ、うぷっ!? 」
「愛・殺・拳……《愛殺情砕拳》……ふふ、あっははははは! 改めて? 初めましててぇ? あちしの名前はラシュ。ラシュ・ナカジマです! あちしの本当のお母さん? 」
「ごほっ!? ごほっ!? ……くっ……な、ナカ……ジマ? 貴方……は、陸さんとキャロの娘なんじゃ」
「それはウメ姉の方でしょ? けどあちしは違う。あちしは、お母さんから産まれる筈だった存在。正真正銘……貴方とお父さん。ギンガ・ナカジマと鈴木陸飛の娘。それでぇ〜? ウメ姉とフィスティ姉のい・も・う・と! えっへへへ、『身体はない』けど……ね? 」
ギンガとウメの中にいたラシュとの戦いが激しさを増す中、学園に侵入したフィスティーナとなのは達はシュテルを倒し、魔力の大きい方へ向かいながらヴィヴィオ達のいる場所へと近づいていた。
本来であればフィスティーナとなのは達がヴィヴィオ達と何事もなく合流し、ヴィヴィオ達が圧倒的に有利になる筈だった。しかしこの場に渦巻く因果はキャロ……なのは達……ギンガ達を完全に敵視し、その運命はウメに味方していた。
何故なら現状ここには介入してはいけない人物が1人、フィスティーナと共にこの時代へとやってきてしまっていたからだ。出会ってはいけない過去と未来の人間。同じ者同士が顔を合わせるなど決してありえない事だが、起こってしまう。何より、焦っていたフィスティーナの不注意が原因でそれが起こってしまった。
災害、天災、この世の全ての害悪。この時代において誰もが信じられない存在。それはウメやラシュなんかより悪意があり、手のつけられない正真正銘の化け物。
『レイジングハ〜トぉ? 見て見て? どうしようもない、愚かな……『私』がいるよぉ? にゃはは。……ディバイン……レイ! 』
「……っ!? 2人とも、下がってくださ、あぐっぅぅ!? きゃっ!? 」
「フィスティーナちゃん!? 」
「フィスティーナ!? 」
フィスティーナ達の真上から黒みがかったピンク色の極細の砲撃がなのはめがけて発射され、それに気づいたフィスティーナが間に割って入るが、防ぎきれずに後ろへと吹っ飛ばされた。
「だ、誰!? ……え…………」
「嘘……何、一体どういう事? ……なの……は? 」
「ウッフフ! レイジングハート、ダークネスモード」
【マスター……かしこまりました】
攻撃の方向をみたなのはとフェイトは言葉を失い。上からゆっくり降りてくる白いバリアジャケットを着た女性は下に降り立つと同時にその純白のジャケットを黒に染め上げる。
そして……不敵に……満面な笑みを浮かべ、狂気と言わんばかりに2人を見る。これが果たして同じ人間なのかと疑いたくなるほど2人はその笑みが気持ち悪かった。
「こんにちは私? はじめまして私? フフフ」
「だ、誰なの!? 私? 違う!? 違う違う!? 私ここにいる! そうでしょフェイトちゃん! 」
「うん! なのはは、ここにいるなのはだ! お前は誰だ! どうしてなのはと同じ姿で!? 」
「にゃはは! わからない? わからないかな? 私は私。貴方も貴方。何もおかしなことはないの。だって……私は、未来から来た貴方なんだよ? 愚かな私? 」
「未来の……私? 嘘……そんなの嘘だよ!? 信じられるわけない!? 」
不敵に笑う未来のなのはは、現在のなのはをゴミでも見るような眼差しで睨みつける。嘲笑い、見下し、その存在を否定する。現在のなのはにとって、彼女の存在は不気味な他なかった。自分と全く同じ存在が目の前にいる。まるで鏡を見ているように……なのははいつまでも信じることができない。
「そんな事あるわけない!? お前は、偽物だ!!! 」
「フェイトちゃん!? 」
「はぁぁああああああっ、なっ!? ……な……そ、そそそ……そんな……馬鹿な……」
【サー!? 離れてください!? サー!? 】
「にゃはは。フェイトちゃんせっかちだなぁ〜。ほんっと……変わらないなぁ〜? あっははははは! 」
「ぐっ!? うぐぅっ!? や、やぁぁああああああ!!! っ!? ……う、うご……かない…………」
フェイトはザンバーフォーム状態のバルディッシュを振りかぶり、黒いなのはへと斬りかかる。しかしその刀身は黒いなのはの左手の人差し指と中指に吸い込まれるように受け止められ、そこから1ミリたりとも動かなくなった。フェイトは空中で必死に押したり引いたりするが、バルディッシュはピクリとも動かない。
「もう終わり? フェイトちゃん? 」
「ぁ……くっそぉぉおおおおおおおおっ!!! 」
「もう〜つまんないなぁ〜? にゃは……えいっ! 」
「なっ!? ……バル……ディッシュ……」
黒いなのはは足掻こうとするフェイトのバルディッシュの刀身を2本の指だけで粉々にし、不敵な笑みを浮かべながら左手をフェイトの顔の前に突き出す。彼女の顔を黒みがかったピンク色の光が照らしはじめるが、フェイトは驚きと無力感で全くこれに反応できていない。
「フェイトちゃん下がって! 」
「っ!? なのは……」
「ハイペリオン、スマッシャぁぁあああああああああ!! 」
なのはの声に我に返ったフェイトはすぐに下がる。そしてその後即座に黒いなのはに向けて砲撃を放った。普通であればこの距離と攻撃した速さで避けることはできる筈はない。かといって代わりの砲撃を準備するには遅すぎるタイミングだ。
だが……
「んふふ。若い。若いわ私! 」
「うぐっ!? ……え……」
「じゅるり……ハイペリオンブラスト」
「なっ!? ……あぐっ!? うっ!? う゛っ!? い゛……ううっ、うっ、そ、そん……な……ぐう、や、やぁぁああああああああああ!!! ……っ!? ……き、きゃぁぁあああああああああああああああ!? 」
黒いなのはは、なのはの砲撃が直撃する寸前で突き出していた左手からそのまま砲撃を発射し、一瞬なのはの砲撃を受け止める。さらにはゆっくりとなのはの砲撃を押し返しはじめ、なのはが踏ん張った直後に出力を上げると一瞬でなのはの砲撃を呑み込み、彼女をも呑み込む。
直後なのはのいたところは爆発と埃が立ち、その姿は見えない。
「なのは!? 」
フェイトは急いでなのはの元へと走る。
やがて埃の晴れたその場所にはボロボロのなのはが倒れていた。それはたった一撃を喰らったとは思えないダメージで、フェイトは黒いなのはの魔法の威力に異常さを感じながらもなのはを抱え起こした。
そして……
「なのは!? しっかりして!? 」
「ふぇ、フェイト……ちゃん」
「ふふ、にゃはは! 弱い。弱すぎるわ私? だから貴方は愚かなのよ? やっぱり……来て正解だった。たっぷり教えてあげる。男なんかにうつつを抜かし、無駄な人生を浪費した結果がどんな末路を辿るのかをね? ええそう! 愚かで馬鹿でどうしようもない……わ・た・し? た〜ぷり、た〜ぷりと……教えてあげるの! 」
なのはとフェイトが今まで見たことない程の憎悪と悪意に染まった未来のなのは瞳。
その瞳に……なのはは完全に捉えられたのだった。
残念ですが、今回もコロナ先生の出番はありませぬ。
申し訳ないです。
もう少し進まないと、次ぐらいは出せるかなぁ〜多分。
次回もよろしくお願いします。