魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

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これは一つのある未来の話。起こりようもなく、だが決してゼロでない確率の元で起きた事。必然的に連鎖し、誰に救いを求めることもできずに壊れてしまった管理局の白き魔導師。彼女が黒く染まったのは数奇な巡り合わせ。偶然と呼ばれる一つの事象だ。
かつてエースオブエースと呼ばれ、その名を馳せていた彼女は今尚問う。

問う、問う、問う。

下劣で見る目のないクソッタレな男共はどうしてこの世に存在しているのかと。リア充は死すべし。彼女の中でそれは何かを失うキッカケの言葉。恋などと言う感情は邪魔なだけ。人を想う心など友人と娘だけでいい。

彼女は吐きつける。男へ唾と殺意を。

彼女は恋に対して純粋。それ故、未来においてやっとできた男1人に裏切られ絶望した。

愛される。そんなフリをされ、彼女は名も消えた男に深く傷つけられた。それは埋まりようもなく大きな傷。娘や親友ですら全く手のつけようがない深く深く抉られてしまった心。
幸せを感じる感性は壊れ、嫉妬と憎しみが今の彼女を支える強さ。


だからこそ彼女は誰よりも強い。誰よりも不屈だった。


「ほらぁ〜新人君どうしたの? 訓練はまだ終わってないよ? 男のぶんざいでも私の教導が受けられるんだよ? 嬉しいでしょ? だから這いつくばってないで立ちなよ。次は……私の砲撃全部防いで見せて? ……え? どうして無理そうな顔してるの? できないの? どうして? 男でしょ? 男は拒否権なんてないんだよ? だって男なんてクズしかいなんだから。ほらぁ〜立たないと。はぁ〜……そっか、無理なんだ。屑でゴミで虫けらでミジンコで……生きる資格もない男の癖に。私の期待に応えられないんだ? もういいよ。やる気ないなら邪魔だから消えて? ……スターダスト……ヘル」

彼女の心は満たされない。昔は予約が何年先も入っていた教導。今ではこの青年1人。だがそんな青年も、今彼女の無慈悲な魔法が呑み込もうとしていた。無数に星屑と言っていい数の魔力弾が彼の周りを包囲し、足にきている彼を捉える。

その様はまさに星屑地獄。

しかしそもそもこの教導は入りたての新人が耐えられるような物ではない。散々砲撃やスフィアの嵐を当てられ、半ば彼女の八つ当たりの字矛先にされてしまっていた新人には耐えるすべはない。


が……ここにいる青年は違った。

彼女より10は若い青年。にも関わらず、彼は普通の新人ではなかった。言うなれば10年に1人はいるであろう大型新人。
けどここで勘違いしないでもらいたいのは技術や魔力量での話ではない。彼が突出して最も他の新人より秀でている者は決して諦めない心。


かつて彼女が持ち合わせていた絶対無二の不屈。


「はぁ……はい。お終いお終い! 全く、無駄な時間とらせないでよ」
「待って……ください」

「はい? ……へぇ〜立っちゃうんだ? あれ受けて立っちゃうんだ? まだ終わらないで立っちゃうんだ? 諦めないで立っちゃうんだ? えっへへ〜、にゃっハハハハハ! レイジングハートぉ〜! エクシードモード!! 」

【マ、マスター何を!? ……いえ、かしこまりました】

自らの愛機ですら呆れる行為。これが教導であることを忘れ、彼女は自分の前に立つ男へ全力で襲いかかり始めた。満面な笑み。心からではない笑み。意地悪な笑み。そんな顔をしながら彼女は青年を完膚なきまでに叩き伏せた。どうやっても自分に勝てない人間を相手に全力で、ましてや青年が倒れてしまって尚も彼女は攻撃を加える。そんな彼女の姿はとてもエースオブエースと呼ばれた人間のそれではない。

「ディバインバスター! 」
「かはっ!? 」

「もう一つおまけにディバインバスター! 」
「あぶっ!? 」

「仕上げのスターライトブレイカーぁぁああああああああああ!!! 」

青年は次の瞬間ピンク色の閃光に呑まれた。何一つ抵抗できぬまま、いいように蹂躙され、彼女の足元に光なき瞳で転がる。だがそんな彼に対して彼女はデバイスである杖で彼のみぞを突き刺した。突然の痛みに青年が声にならない声をあげ、息もできずに地面をのたうちまわる。しかしそれすらも彼女はみぞに杖を突き刺したまま押さえつけ許さない。

「にゃっはは、無様。今の君は無様だよ。なぁ〜に立っちゃってるの? 諦めたなら立っちゃダメ。面倒くさいから。ね? わかったかな? ゴミ虫君? ……っ!? 」

「もっと……俺に教導を……貴方の知りうる戦技の全てを俺に教えてください!! 」

青年は力尽きながらも彼女のバリアジャケット、そのスカートを掴んだ。光の消えぬ目で必死に諦めることなく喰らいつく。そんな青年の様子に多少なりと嬉しさを感じてしまった彼女はハッと我に帰ると頬を膨らませ青年から顔をそむ向け始める。

「あ……ふ、ふん! な、なんなのかな!? そんなに頑張ったってお、男になんか優しくしてあげないもん! 」

「優しく教えてくれとは……言いません。です……か……ら」

「……はぁ〜……頑張ったのに……結局気絶しちゃったね。やっぱりガッカリだよ。でも……にゃはは……何十年ぶりに……教導魂揺さぶられちゃった。最悪だなぁ〜男なんかに…………」

彼女は青年の顔を覗き込みながら苦笑いを浮かべる。その顔は何を想い、何を考えているのか見て容易に想像できる。それは後悔とやりきれない自分自身への怒りに他ならない。

「ま、一応教導官だしね。教え子を医務室に……あれ? あれって……フィスティーナちゃん? 訓練場の隅で何をやって……っ!? 」
「アルファス起動、時間跳躍! 座標位置は……ウメのいるところへ!! 」

「…………にゃはは、なぁ〜に面白そうな事やっちゃってるのかなぁ〜フィスティーナちゃん。う〜ん……ちょっとくらい……遊んできても、いいよね? にゃふふ。久々にゾクゾクできちゃうかも」

運命の歯車は他者の関わりで大きく動き出す。フィスティーナがたまたま選んだ時を超える時間跳躍の場所。それは運命力が働く要因に他ならない。そこに残された、過去へと繋がる空間が僅かな時間開きっぱなしになった事さえ。

そして例えその人が限りなく善な存在であったとしても、ほんの小さな出来心で悪に変わる。

理不尽な悪とは時にこうして生まれるのだ。




































ども〜では!

本編よろしくお願いします!








第73話《動き出す抵抗者達》

私はフェイトちゃんとフィスティーナちゃんの3人で結界内に侵入してしばらく走り続けていた。目的の首謀者。フィスティーナちゃんの妹を探し、ヴィヴィオの学校を探し回る。

数々の教室を周り、見ていても、そこにあるのは気絶してピクリとも動かない生徒や先生たちだった。惨状から見ればとてもいい光景じゃない。フィスティーナちゃんもこれを重ねて見るたびに顔を曇らせていく。

 

するとそんな時だった。

 

突然フィスティーナちゃんが私達に制止するよう手で合図を出したのだ。何かと思い、目の前を改めて確認する。

 

「シュテル? え、こんな所で…」

「なのはさんさがってください!? あぐっ!? 」

 

「なのは!? フィスティーナ!? 」

 

不意打ちのごとく私の言葉を掻き消す廊下の奥から放たれた砲撃。私とフィスティーナちゃんはうかつにもそれに呑まれてしまった。しかし呑まれたからといって終わるというわけではない。その理由は私を庇うように私の前に立ったフィスティーナちゃんだ。

 

初撃。下から上に突き上げるように放ったフィスティーナちゃんの拳はシュテルの砲撃をいとも容易く消し飛ばしてしまったのだ。それだけ見ても、彼女のやった事の異常性が見て取れる。物理が魔法に真っ向から勝つようになるにはとてもじゃないが物理法則に反しなければならない。まして魔法のないただの拳ではなおさら。

 

「フィスティーナちゃん大丈」

「あの方シュテルと言いましたかなのはさん? 」

 

「え? う、うん」

 

「おかしい……何故こんな所に……いや、ありえない。ここに……この時代に『存在している』事なんてあるわけないのに」

 

「フィスティーナそれって」

 

「おしゃべりは終わりましたか? 邪魔をする者はどんな事があっても排除します。大人しく消えてください。アクセル……」

 

私とフェイトちゃんをよそに、シュテルはスフィアを大量の生成し始め、それを連続でマシンガンのようの放ち始めた。私はそれを防ごうフィスティーナちゃんの前に出ようとするが、フィスティーナちゃんはそれを許してくれない。前に出ようとした私を後ろへ押し戻し、再び荒れ狂うマシンガンの雨の方へ向き直った。

 

「ふぬっ! ぐぬぬぬぬぅぅ……超……愛殺拳! 」

 

フィスティーナちゃんは拳を握り、力をためるようなそぶりを見せる。ただ、それでどうこうできるほど、シュテルの砲撃は優しいものではない。一度でも戦ってそれが分かっている私だから言える事だ。シュテルは強い。例え戦いから離れていたとしても。

 

「無駄ですたかが拳如きで……なっ!? 」

 

「《夫殺しは愛の裏拳 》」

「「もう技名がいちいち血みどろ過ぎる!? 」」

 

「え……いや……ここまでですか…………」

 

拳一閃。一撃。拳と言っていいのか。フィスティーナちゃんはクルリと回転し、裏拳を撃ち込む形で何かを放った。それは人知を超えた何か。ハタから見れば、魔法による衝撃波にしか見えないが、おそらくそれも大きな間違いだろう。何故ならそれに蹂躙されたシュテルの魔法は消えて無くなり、シュテルはその瞬間何を悟ったのか諦め、目を閉じながら上げていた手を下ろした。

そんな事で止まる攻撃ではないとわかっていながら、シュテルはそれを無謀にもその体で受ける。

 

その後に残っていたのは抉られた壁や下の階まで消えてしまっている床。バリアジャケットを粉々にされ、あられもない姿で横たわるシュテルだった。

彼女は完全に気を失い、この戦闘からリタイヤなのは間違いない。

 

レベル……いや、次元が違う。

 

フィスティーナちゃんから抱いたのはそんな印象だ。強い弱いの話ではない。根本的に何かが違う。時代を先取りしていると言ったほうがいいのか。私たちが知って可能にする技術を遥かに凌駕している。だからもしフィスティーナちゃんの妹が犯人なのだとすれば、私達は手を出せるのだろうか。そう思ってしまった。

 

おそらく、私では私より年下であろうこの子には勝てない。勿論フェイトちゃんも同じだろう。経験でわかるこの感覚は間違いなく私の中の危険信号に他ならない。弱者が強者に抱く逃げろという本能。彼女からはそれを感じ取っている。

世の中は広い。私より強い人間などゴロゴロいるだろう。ただこんなにも早くこれだけレベルが違うと思わされるのは初めての事だ。

 

「フィスティーナちゃん貴方は」

「先を急ぎましょう。心苦しいですが彼女に構っていられるほど、時間は待ってくれません」

 

「え、う、うん」

「なのは」

 

不意に囁くように私に声をかけたのはフェイトちゃん。フェイトちゃんが言いたい事は分かっているのだ。今起きている事はおそらく普通の事件ではない。何かが壊れ、常識としてなければならない事が完全に欠如してしまっている。

 

言うなら、私達の魔法が日常であるならば、これは非日常。

 

一般人から見れば夢のそれと変わらない。現実としてタガの外れた世界。それが私達が体験している今だ。

だからそれをどうこう考えるのは無意味である。そう……フェイトちゃんは言いたい筈だ。当然私も同意見だ。

 

しかしこの時私は知らなかったのだ。知りようもないだろう。この事件の決着には、絶対に受け入れなければならない、私自身の未来という現実があるという事を。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「レヴィ、シュテルがやられた! 我はあやつを助けに行く、だからお主はユーリと……レヴィ? どうしたのだ? お、おい」

 

「王様……いない…………」

 

それは当然起きた最初の綻び。今日に騒がしくなったこの学校で、侵入者の撃退に向かったシュテルとの連絡が途切れた。我の予感が正しいのならば、シュテルは負けた。しかし家族である以上見捨てる事はしない。

陸を監禁している部屋まで行き、レヴィにユーリ達を守るよう言ったが、部屋の中を見た瞬間、レヴィの様子がおかしくなった。

 

最初は何を言っているのかわからなかったが、自分の目で部屋を確認した瞬間、その意味を理解する。いやでも理解してしまった。

 

ユーリが消えている。代わりに陸の拘束が解かれ、陸は床で伸びていた。

 

「ユーリはどこへ行ったのだ……」

 

場所の検討がまるでつかない。行くあてがわからない。四年ユーリと過ごしてきたが、ここまで行動が分からないと思ったのは初めてだった。2人して陸を眺めながら立ち尽くす。だがこのまま立っているわけにもいかない。我は陸の横で腰を下ろし、陸の顔を掴んで無理やり自分の方へ向けながら問いただした。

 

「ユーリはどこへ行った!? ここで何があったのだ!? 答えろ!! 鈴木陸飛!!! 」

 

「王様……やめ、て……り、陸苦しそうだから」

 

「早く答えろ!? 答えぬか!! 答えろぉぉおおおおお!!! 」

「やめてよ王様ぁあ!! 」

 

「ハッ!? レ、レヴィ……くっ」

 

我は冷静を欠いていた。レヴィに止められるなど滅多にない。でも動揺しない理由がどこにあるのか。ユーリは家族だ。かけがいのない家族だ。いなければ心配になるし、取り乱しもする。しかしそれよりも問題な事は我の中に渦巻いているこの罪悪感だ。

 

「王様……僕もう嫌だよ。最近思ってるんだ。僕達なんでこんなに……」

「言うな……」

 

「僕達さ! 」

「言うな! 」

 

「でも!? 」

「言うなと言っておろう!!! 」

 

我の怒鳴り声にレヴィはビクっとし、それ以上何も言わなかった。気づかなかった。それはただの言い訳だ。気づかないわけはない。知らないわけはない。そんな言葉や理由で許されるわけない。我らは間違っていた。

レヴィは馬鹿だ。馬鹿故に何も気がつかないで我らに協力したに過ぎない。シュテルは薄々気づいていただろう。全部我が悪い。我が涙を見せた事で、弱音を吐いた事で、我の為にこの話に乗った。だが我は違う。心の底から望んでしまった。あのウメの言葉にそそのかされ、それを間に受けてしまった愚か者だ。

 

「レヴィ……すまなかった……全部我が」

「王様」

 

「へうっ!? お主何を!? 」

 

我はレヴィに謝罪しながら俯く。悪いのは自分で、責任を負うべきは我1人でいい。そう言いたかった。でもレヴィの奴はそれを言わしてはくれなかった。こやつは我の顔を見て我を抱きしめはじめた。何のつもりだと思ったが、レヴィの言葉は今の我には響いた。

 

「僕達家族だよ? いいじゃん……みんなで背負おうよ。シュテるんと王様とユーリと僕と……陸が戻ってこなくても……僕は3人がいればいい。だからみんなで……いよう? 王様」

 

「レヴィ……お主という奴はぁ」

「かはっ!? 」

 

「り、陸……? 」

 

「陸……ど、どうしたのだ? 衰弱しているとは言え、何故そんなに苦しそうに」

「がっ!? ……ぐくぅぅ……な、なん……だ? 胸がぁ……熱い……うっ!? あ゛あ゛っ!? あがっ!? う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ、ぁぁぁぁぁああああああああああ!? 」

 

 

「「陸!? 」」

 

我らは間違った。何から何まで道を違え。やっと道を正した。しかし今までの行いが、許されないかのように。何かの罰であるかのように我らの目の前で陸は胸を押さえながらのたうちまわる。その尋常ではない様子に、驚きの声しか上げる事のできない我はただただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

「陸!? 陸しっかり、死んじゃ嫌だ!? ……っ!? え…………王様……これって!? ええっ!? 」

 

「な、ななな……こ、こんな馬鹿な事……何なのだこれは!? 」

 

我らはこの時見ていなかった。知らなかったのだ。陸が苦しみだす前、ユーリの身に何が起こっていたのかを…………

 

そしてこの状況がユーリの一途な想いが生んだ奇跡だという事も。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「なぁ〜んか騒がしくなってきたね? んふふ、ヴィヴィオお姉様? ごめんなさい。なんか余計な虫が入り込んだみたいだから行ってくるね。だからぁ〜おとなしく。おとなしくだよ? それじゃ〜ね」

「あんまりナメないでよ。私だって捕まってるだけじゃ……ない!! 」

 

バインドが砕ける独特の音。ウメちゃんが私に背を向けた瞬間、私はチャンスを逃さずギンガさんから教わった魔力の連環術。それを使ってバインドを砕いた。つまり、ギンガさんの技である愛殺拳の基礎とも呼べる力の動かし方をバインド破壊に応用したのだ。

 

「え……ふふふ。びっくり。お姉様……そんなに腕力ないはずだよね? 何したの? 」

 

「それは教えない。ウメちゃん強いから、こっちの手の内バラせないよ」

 

「やっぱり……ヴィヴィオお姉様は立ち塞がるんだ? まぁ〜分かってたんだけど。嫌だなぁ〜……ヴィヴィオお姉様は傷つけたくないのに……」

 

「クリス! いくよ! 」

 

「あはは、本当だ。少しナメすぎたかな? せめてデバイスは取り上げとくんだったね」

 

「セイクリッドハート! セットアップ! 」

 

誰かが学校内で暴れ始めている。勿論誰かはわからない。けど間違いなく私の知っている人間で、この事実を知る人間だ。ならば私のできることは一つしかない。今暴れてる人達がもっと動けるように、ウメちゃんを足止めしておく事。

 

勝てるなんて思わない。でも逃げる選択肢はない。私は大人モードになりウメちゃんに構えを取る。だがウメちゃん笑いながらもその目は笑っていない。それは恐怖以外の何ものでもなかった。今目の前の相手が怖い。キャロさんやお兄さんをあんなにも簡単に倒したウメちゃんが。

 

「どうしたの? 震えてるよお姉様? 私が怖い? ふふ、でもそれは仕方ないよ。ヴィヴィオお姉様じゃ私には勝てない。わかってるでしょ? 」

 

「わ、わかってるよ。でも……ここで逃げたら、何も守れないから! お兄さんも! コロナも! 学校のみんなも! そして……ウメちゃんも! 」

 

「私も? ふふ、はは……あっはははは!! 何言ってるのヴィヴィオお姉様? 怖くて頭おかしくなったの? 敵の私を守る? 何甘い事」

「甘いかもしれない。でも、それでもウメちゃんが泣いてるから」

 

私の一言はウメちゃんの機嫌を損ねる原因になった。さっきの作り笑いは消え。戦闘本能と私への怒りを剥き出しにした鋭い目と噛みしめるような口元。けどそれは私にとっては好都合だ。私から興味をなくさせない。私に構わせる。逃げない。戦い。誰も失う事のないように。

 

きっとなのはママならそうする筈だから。だから私は最後まで抗うのだ。

 

 

「何も知らないのに……ふざけた事ぬかすな……例えヴィヴィオお姉様だとしても私の知るヴィヴィオお姉様じゃない。だって……私よりまだお前は生きてない!!! 」

 

「っ!? くっ、セイっ! 」

「遅いよ……」

 

私が得意とするカウンター。当然戦う術がそれなのだからそれを行うのは仕方のない事。私だって勝てるなんて思ってない以上通用するとも思っていない。思っていないが、ここまでとは思わなかった。

 

カウンターをカウンターで押さえ込まれる理不尽な行動をされるとは。

 

私がウメちゃんの攻撃をかわし、そこへ入れるカウンター。しかしウメちゃんはそのカウンターを完全に見透かしていた。それどころかそのカウンター攻撃に対して突き出した私の腕を膝で下から突き上げ自らの肘と膝で挟み込む形で私の右腕を完全に砕いた。

 

「あがっ!? いぎゃぁぁぁあああああああああああ!? 」

 

「ごめんヴィヴィオお姉様……右肘壊しちゃったね」

 

「あ゛あ゛っ!? い゛っづ……い゛だぁ……」

 

圧倒的な力の差。少しでも時間稼ぎができると思い込んだ自分の甘さを呪いたい。もはや、この痛みでは戦えない。ならどうすればいいのかもこの痛みでは考えられない。あるのはこの痛みを刻みつけらえたという恐怖。

 

だがそれでも私は…………

 

「もうやめといた方がいいよ。今のお姉様に対して私は自分の技を使う必要すらない。もう2度と格闘技できなくなっちゃうよ? 私はそんなの嫌だから今やめてくれるとありがたいなぁ〜」

 

「ぐっくぅ……いや……」

 

「は? 」

 

「いつっ!? どかない! 絶対に私は逃げないし諦めない!! 例えもう動けなくなったって、私はウメちゃんがらっ……づっ、逃げない!!! 」

 

ぷらぷらと糸の切れたように動かずダラシなく垂れ下がる右腕を押さえながら、私はウメちゃんを力強く見つめた。涙は出ているかもしれない。怖くて膝は笑っているかもしれない。けど、それでも逃げられない。ここから先の私が知りえない、ウメちゃんが絶望した未来を変えるために。

 

「はぁ……わかった。わかったよヴィヴィオお姉様。今のうちに謝っておくね。ごめんなさい。ヴィヴィオお姉様の格闘人生……今日で貰うから。もう2度と邪魔できないように……その両足……砕かせて貰うよ!! 」

 

「っ!? うっ!? …………あれ? 」

「うぐっ!? 」

 

やられる。そう思い、思わず目を閉じた私だが、それ以上私に衝撃は来なかった。代わりに聞こえてきたにはウメちゃんの間の抜けた悲鳴。私は恐る恐る目を開ける。するとそこには見た事もない格好をし、私が知っている彼女からは想像できないほど冷たい目をしたユーリさんがいた。

 

「ちっ、誰だと思ったらユーリお姉様じゃないですか? というかその格好なんですか? 一体どういうつもりで」

 

「……申し訳ありませんが、貴方と協力するのはここまでです。いえ、初めから私は貴方に協力したつもりはありません。ただみんなについてきていただけ」

 

「はは……あは。じゃ〜いまは何しにきたの? ふふ、実のところ貴方達の事は私は知らない。未来でも貴方達はいないもの。パパ達と仲がいいのに私はその存在を知らない。だから気に食わなかった。というよりもその存在の意味がわからなかった。でも……やっぱり想像通りだった。ユーリお姉様? 貴方は私の邪魔をした。なんとなくわかってた。ユーリお姉様は……私なんか信用してない。でもね? 私もユーリお姉様……信用してなかったから、お互い様だよね? 」

 

「ユーリさん逃げてください!? ウメちゃんの強さは異常でっづ!? ……え……ユーリ……さん? 」

 

何が起こっているのかは私にはわからない。何故ならユーリさんについては私は全くと言っていいほどその素性を知らない。優しくていい人としか印象を持っていない。

 

だが…………

 

 

この膨大な魔力とそれによって支配するこの空間を掌握するかのような殺気は……私の知るユーリさんではない。

 

「お、驚いた……普通じゃない普通じゃないとは思ってたけど……まさかそんな力隠し持ってたなんて。……で? 『魔力がデカイだけ』で私に勝てると思ってるのかなぁ? ユーリお姉様は? んっふふふ、笑わせるなよ? 」

 

「魄翼展開……それはやってみなきゃわからないですよ? でもまぁ……そうですね。私じゃ勝てないですね」

 

「ふふ」

「だから……」

 

「ん? 」

 

『私と一緒に死ね』

 

その瞬間ユーリさんの髪はなんとなく黒みがかり、瞳は緑色に変色。さらにはその服を真っ赤に染め上げるとユーリさんとは思えない口調と共に、ただでさえ大きかった魔力はさらに跳ね上がった。

 




短編・絶望のコロナちゃん劇場


第4話《溢れ出る絶望》


「え……何? 今なんて…………」

コロナはキャロに甘え続けていた。だが周りが騒がしくなり始めた事で、キャロは動き始める。自らのできることをする為に。

しかしコロナにとってそれは絶望以外の何物でもない事だ。

「これ外してくれないかな? これじゃコロナの事抱きしめられないよ。だから……ね? 」

「い、いや……でもそれは……」
「私の事愛してくれるんだよね? だから私もコロナの気持ちにこたえたい。貴方のこと抱きしめたいの。私もコロナの事愛してるから」

「キャロお姉様……はい! 喜んで! 」

愛は盲目とはよく言ったものだ。コロナは完全にそれに溺れている。だからキャロが今どんな顔をしていても彼女には美しい笑顔にしか見えていない。例えキャロが今までにないほど悪い笑みを浮かべていたとしても。

「これでいいですか? キャロお姉様」

「うん……ありがとうコロナ」
「キャロ……お姉様? 」

「ごめんねコロナ。今から貴方にとっても……酷いことする。許してなんて言わないから。強く生きて! 」
「キャロお姉さっ!? まっ……うっ!? ゴホッ!? かはっ、かはっ!? 」

キャロは油断したコロナのお腹に自分に技を叩き込むとコロナを完全に無力化した。息がまともにできず、その場に這いつくばるコロナ。けどコロナを襲う絶望はこんな事ではない。

「コロナ? 一つ……コロナが気づいてない事、教えてあげる。コロナ……本当は誰が好きなの? 」

「う゛え? 誰が? 」

「本当に好きなのは……私じゃないでしょ? コロナは本当はわかってるはず。いい加減……自分の心と向き合ったほうがいいよ」

「っ!? え……私……お姉様の事……お姉様の事……こと……違う……違う」

それはトリガー。きっかけ。コロナがそれに気づく引き金と言うべき言葉。自らの心から逃げ、それを否定してきたが故に起きてしまった絶望。

「キャロ……おね……ヴィ……ヴィ……オ? え……あれ……あ゛! い゛あ゛っ、いやぁぁぁぁあああああああああああああ!? う゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああ!? 」

「ごめんねコロナ。それって辛いよね。でも……それがコロナの為だよ」

コロナは絶望する。本当に愛していた者へした行為。その罪の意識とこれ以上報われないという現実に。

友情を切ってしまったが故に……彼女は絶望した。






to be continued…………








次回もよろしくおねがいします。

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